Contents

作り手のこだわりで彩られた売場との邂逅

リアルショップならではの見どころの一つに「売場」が挙げられる。商品を実際に目にして、手に取って、使用イメージを膨らませることができる売場を作れるのは、リアルショップならではの強みではある。しかし同時に売場づくりは、リアルショップが抱える大きな課題の一つにもなり得る。

MMD TIMESでは過去に他店との差別化や顧客満足度向上のため、売場づくりに趣向を凝らすセレクトショップへ取材を行ってきた。商品1点1点に焦点が当たるギャラリーのように展示をする「Nicetime Mountain Galleryが広げる新しいアウトドアショップのカタチ」や、あえて違和感を覚えてもらえるように商品を並べることで興味を引くように展示する「ニコアンドトーキョーの演出的VMD」など、 “他には無い”売場を作り上げるための工夫がなされている。

このように独自性が高く消費者の目に留まりやすい売場であれば集客の要となるが、「NANO universeが再構築するセレクトショップ」でも述べられているように、VMDにおいてそれぞれのセレクトショップの個性が表現しきれず、差別化が図れていないという課題もある。

それを打破する一つの鍵として、売場構成における商品選定段階での差別化があるだろう。そこでファッション、インテリア、雑貨といったライフスタイルにまつわるさまざまなブランドが集う合同展示会「MaG. (マグ)」に着目をした。

展示会MaG.とオンライン展示会MaG.+」で紹介したように、同展示会の出展ブランドは「自分たちのモノづくりを通じてエンドユーザーに発信したい“何か”があるコト」が決め手となっている。

「こだわりのアイテム、その価値をバイヤーにしっかりと伝えたい」というコンセプトで運営されるMaG.には、「トレンドに左右されたくない」「ブランドストーリーや想いを大切にしたい」「こだわりを込めてモノを作りたい」、そして「それらを理解した上で発信できるショップと出会いたい」などというように考えるブランドが集う。そうしたブランドの作ったモノを扱うことで、売場も魅力や深みを増すだろう。

今回はMaG.で出会った売場を彩ることのできる、こだわりの詰まったモノづくりを行うブランドを紹介していく。

MaG. vol.20
開催期間:2022年8月23日(火)~8月25日(木)
会場:SPIRAL HALL
https://mag-preview.com/
※MaG. vol.20の会期は既に終了しています

カルチャーを提案するADASTRA

アイテムにとらわれず、カルチャーを提案するのが「ADASTRA (アダストラ)」だ。ロサンゼルス・アートディストリクトを発祥の地とする「ADASTRA Los Angels (アダストラ ロサンゼルス)」は、ファッション、モーターサイクル、レストランなど幅広い分野で活動するクリエイターたちからなるコミュニティである。多岐にわたる表現の一つとしてクロージングラインのADASTRAをスタートさせた。

カルチャーを売るという言葉通りに、音楽や料理あるいは美術などの文化を商品に落とし込み、ライフスタイルを提案したいという同ラインが、従来のライフスタイルブランドと大きく異なるのは、そのブランディングとモノづくりにある。

テーマやコンセプトを先に掲げ、それを基に商品展開を行う従来のモノづくりではない。カフェやセレクトショップをハコとして、そこに集うアーティストとその空間のなかで生まれた空気感や繋がり、すなわち“カルチャー”そのものを、クリエイター目線でライフスタイルのなかで使えるモノに落とし込んで作っている。

Anthony Dettori (アンソニー・デットリ) 氏デザインのイラストを用いたトップス

2022年SSから本格的に日本上陸をしたADASTRAが最初に展開したのは、アーティストのAnthony Dettori (アンソニー・デットリ) 氏がイラストを手掛けたアイテムだ。ADASTRAが誕生したストーリーでもある“Bakery”をテーマにグラフィックを描き下ろしたというデザインは、80年代などアメリカンクラシックを彷彿させるタッチが特長で、こうしたアーティストが持つ個性を表現することで、消費者の目を引きつけていることがわかる。

「ADASTRAが作る世界観」を形にした商品を、それに共感するショップが扱っていくのではなく、ショップとそれを取り巻く世界観がアーティストによって商品となるのだ。どのような商品が生まれるのか、それを扱うショップの強みによって変わるのが他には無い特徴だろう。

機能性や素材、製法へのこだわりを購入の決め手としてもらうのではなく、モノを見た瞬間の「これ、格好いい!」を引き出すことこそが同ラインの狙いだ。「これを使ってこんな暮らしをしたい」「この服を着てこう過ごしたい」、思わずそんなイメージを浮かばせるような見栄えであることがADASTRAの強みといえる。

日々の生活のなかで使えるものを扱うため、マグカップやエプロン、Tシャツなどアイテム自体は手にとりやすいものが中心となる。しかし、それを彩るデザインはADASTRAしか作り出せない独自のラインナップとなる。ただ単にアイテムを売るのではなく、同ラインだけが持つ魅力を手にとってもらえるのである。その世界観に共感する顧客の獲得に繋がりやすくなるだろう。

旅の楽しさから作られるPAPERSKY WEAR

一風変わった目線から生まれたアパレルラインとして、「PAPERSKY WEAR (ペーパースカイウェア)」も紹介したい。

同ラインは「地上で読む機内誌」をコンセプトに、世界各地の自然や文化、暮らしのなかから生まれるストーリーを、ちょっと違った視点から紹介するトラベル・ライフスタイル誌「PAPERSKY (ペーパースカイ)」から誕生した。世界各地のさまざまな国や都市を訪れ、そこで出会った自然や人、文化を独自の視点で感じたままに記事にするPAPERSKYならではの、旅人の視点から生まれたトラベル&デイリーウェアを展開する。

「軽量でコンパクト、シンプルなデザインでインスピレーションを与えるもの」というコンセプトの通り、PAPERSKY WEARの日常着は素材や機能性にこだわっており、そのどれもが旅先でのアクティビティを楽しむのに最適な作りとなっている。

吸水速乾性に優れた「HIKE&BIKE CAVE BIG HALF SHIRTS (ハイク&バイク ケイブビッグハーフシャツ)」

例えば「HIKE&BIKE CAVE BIG HALF SHIRTS (ハイク&バイク ケイブビッグハーフシャツ)」は、シャツ背面のベンチレーションが風通しを良くし、活動中の衣服内の温度調整に優れていたり、鍵や小物が落ちないように止めることのできるループが腰ポケット内に付いていたりと、着用時の快適さが特長だ。

機能性だけでなく素材にもこだわっていて、通常は球形である紡糸と異なり、用途に合わせてユニークな断面に加工された異形断面のCAVE糸を使用している。糸の表面積を広げ素早く水を吸い取り拡散させることで、洗っても脱水機に入れて干せばすぐ乾かすことができるという。

その他、小さく折りたたんでコンパクトに収納できるため、持ち運び時にも荷物を少なくできるなど、なるべく身軽に旅やアクティビティを満喫したいという要望に応えるための工夫が凝らされている。

依然としてコロナ禍の終息は見えないなか、旅行日程は短く少人数と制限を設けつつも、消費者の国内旅行への意欲は高い傾向にあるという。

単なるファッションアイテムの一つとしてではなく、旅行にも持っていきやすく、旅先で自然やアクティビティを満喫できるアイテムとしてレジャーカテゴリと関連づけた売場作りや、商品など幅広い提案を行えるだろう。消費者の興味を引くポイントを複数作るのにもってこいといえる。

自由に変化し続けるTHE PX

本格派クライミングブランドの「WILD THINGS (ワイルドシングス)」を母体に、現代のライフスタイルに寄り添い変化していく日用品を扱うレーベルとして、2022年SSにスタートしたのが「THE PX WILD THINGS (ザ ピーエックス ワイルドシングス)」だ。基地や駐屯地にある居住者のための日用品店「Post Exchange (ポストエクスチェンジ)」の略称を冠とするその名の通り、WILD THINGSよりも身近で日常生活に取り入れやすいアイテムを提案する。

あくまでもタウンユースなデザインを前提としながら、レジャーやアクティビティも楽しめる機能性を兼ね備えたアイテムを展開するなか、2023年SSに誕生したのが「BASIC POLO SHIRTS (ベーシックポロシャツ)」をはじめとするゴルフウェアだ。BtoBの繋がりで他カテゴリとコラボレーションして作られたこのラインナップは、「拡張型実験レーベル」と位置付けるからこそ生まれたものだという。

日常の中でファッションアイテムとして楽しめる一方、従来のゴルフウェアを踏襲し吸水速乾やストレッチのきいた作りとなっている。屋外で密になりにくいことからコロナ禍にゴルフへの関心を寄せる若年層が増加傾向にある。その流れを受けた今、格式高い本格的なものではなく、普段使いもしやすいアイテムは気軽に楽しめる入門アイテムとして使いやすいものになるだろう。

「WAFFLE HIGH-NECK SHIRTS (ワッフルハイネックシャツ)」

作り手と作り手同士がお互いの世界観を尊重し、相手の声に耳を傾けることで新たなアイデアが生まれていく。WILD THINGSが扱ってきたアウトドアやミリタリーの機能性を、ファッションやライフスタイル雑貨のデザインに落とし込むノウハウと、他メーカーの持つ機能性やデザイン性といった強みとを掛け合わせることで、これまでには無かったアイテムを作り出すのがTHE PXの魅力といえる。

THE PXは今後もカテゴリに縛られず、実験的なモノづくりを続けていくそう。作り手同士だけではなく、作り手と売り手も同様に柔軟な姿勢でいることが、より良い売場づくりに繋がっていくのではないだろうか。

こだわりを込めた売場作り

展示会で掲げられるコンセプトは、その時代を象徴したものが多く、そこに集うメーカーが言ってみれば、トレンドに合った旬のモノやコトを提供しているのも間違いないだろう。売場づくりをする上でトレンドをおさえるのはもちろん有効な手法であるため、来場者である売り手にとっても見逃せないものではある。

しかし、トレンドばかりを追いかけては結局画一的な売場になりがちだ。MaG.のように「トレンドよりも重視したいものがあるブランド」が集う場だからこそ、他には無い売場を作り出すための彩りとなるモノを見つけられるであろう。

2023年SSのバイイングを行う今、改めて商品選定をする際の目線を変えてみてほしい。来店する消費者の客層はショップによって変わるだろう。必ずしもそのトレンドが、ショップが抱えるファン層に合致するとも限らない。

それぞれのショップが持つ強みとこだわりを持って作られたモノとの出会いが、新たな化学反応を起こす可能性を秘めているのではないだろうか。

掲載ブランド紹介

ADASTRA Los Angels (アダストラ ロサンゼルス)

ロサンゼルス、アートディストリクトを中心とする、ファッション、モーターサイクル、レストラン、さまざまな分野で活動するクリエイターたちのコミュニティ。コレクションごとにさまざまなアーティストがグラフィックアートを制作し、ADASTRAを表現している。

取り扱いアイテム:アパレル、ファッション雑貨、食器

公式ホームページはこちら
https://adastra-la.jp/


PAPERSKY WEAR (ペーパースカイウェア)

良質な素材と機能性を追求し、地球で生きる感覚を融合させたブランド。軽量でコンパクト、シンプルなデザインでインスピレーションを与えるものなど、自由でバランス感覚がよく、あらゆる自然やカルチャーをリスペクトする、旅人の視点から生まれたトラベル&デイリーウェアを展開する。

取り扱いアイテム:シャツ、ジャケット、ボトム、ファッション雑貨など

公式ホームページはこちら
https://shop.paperskywear.com/


THE PX WILD THINGS (ザ ピーエックス ワイルドシングス)

本格クライミングブランドであり、ミリタリー方面でも信頼されるWILD THINGSから誕生したニューライン。ライフスタイルに寄り添い、ファミリーやキャンパーなどのニーズに対応したアウトドアギアを提案する。

取り扱いアイテム:トップス、ボトムス、ファッション雑貨、ライフスタイル雑貨

公式ホームページはこちら
https://www.wildthings.jp/c/px

Recommend