2021.07.13.tue

STREAMER COFFEE COMPANYの次なる一手

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すべては最高の一杯のために

「美味しい」はとても曖昧で繊細な所感だ。誰と食べるか、どこで食べるか、自分がどんな状態なのか、素材や味付けだけでは定まらない様々な要素が絡み合い一期一会の美味しいに辿り着く。

すべては最高の一杯のために――カップ一杯の至高のコーヒーを追究する二人の同志が今、新たなフィールドへの挑戦を始動した。STREAMER COFFEE COMPANY (ストリーマーコーヒーカンパニー) 創業者の山路 輝高 (ヤマジ テルタカ) 氏とスタイリストの近藤 昌 (コンドウ マサル) 氏だ。

山路氏は、2010年、当時アメリカ西海岸でブームとなっていたサードウェーブコーヒーを日本に持ち込んだ先駆者であり、他方、近藤氏は「スタイリスト近藤昌氏のビジネス力の秘密」でも紹介したように、日本初のセレクトショップSHIPSの立ち上げを行うなど、日本カルチャーを牽引するスタイリスト兼ファッションディレクターである。

STREAMER COFFEE COMPANYといえば、多くのコーヒーチェーンが台頭する中、独立系コーヒーストアとして一線を画す存在である。コーヒーの淹れ方から接客まで決まったマニュアルが一切なく、最高の一杯はすべてバリスタの手腕に一任されるのだ。

「近藤さんだからって容赦はできないですし、やるからには練習してもらわなきゃならない。でも、近藤さんがストリーマーのコーヒーを淹れたら“やばい”ことになると思いました」。そう山路氏を唸らせた近藤氏のコーヒーへの想いとは何か。彼らが想い描くニューウェーブコーヒーストアのカタチを取材した。

[取材対象者]
山路輝高氏:STREAMER COFFEE COMPANY (ストリーマーコーヒーカンパニー) FOUNDER. アメリカのコーヒーカルチャーにインスピレーションを受け、2010年、STREAMER 1号店を渋谷に立ち上げる。その後も都内を中心に次々と拠点を広げ、STREAMERという独立系コーヒーストアとしてのブランドを確立する。

近藤昌氏:企画制作会社TOOLS (ツゥールズ) 代表。スタイリングの仕事を中心に、日本を代表するトップアスリート、ミュージシャン、アーティスト、俳優のファッションディレクションを手掛け、衣食住に関わる幅広いショッププロデュース、イベント企画やブランディングを行う。

コーヒーのための新たなフィールド

今回の新店舗について教えてください

− 近藤氏:STREAMER FIELDPOST <以下:フィールドポスト> という名前で2021年8月、千葉の一宮に店舗を構えます。「FIELD」というのは私の好きな単語で、自分の育った場所や興味のある領域、戦う現場など、様々な解釈を持つ言葉です。今回は、自分にとって“コーヒー”という新しいこと、新しいフィールドに挑戦するという意味を含め、店名にこの単語を使用したいと申し出ました。

− 山路氏:「POST」というのは「OUTPOST」という軍事用語から取っていて、前哨地のように領域を広げていくための準備の場所という意味があります。フィールドポストに立ち寄る人が、この場所でコーヒーを飲んで、何かしらのヒントを得たり準備をしたりできる場所であってほしいと願います。

それから、従来のSTREAMER COFFEE COMPANYをイメージして行くと「あれ?」となると思いますね。フィールドポスト では渋谷ではできないことをやってみようと思っていて、オープンしてからのお楽しみですが、ストリーマーにとっても新しい挑戦の場になっています。

きっかけは何だったのでしょう?

− 近藤氏:私からのアクションです。山路さんとは以前から付き合いはありましたが、長いこと会っていなくて、15年ぶりに道でバッタリ会ったんです。その時に彼からストリーマーのことや“最高の一杯”へのこだわりを聞いて、「コーヒーいいな」と思ったんですよ。

聞けば、コーヒーを淹れることに対してのルールやマニュアルなんてものは一切ないって言うんです。その日の気温や湿度、そして豆の状態をバリスタが細かく観察し、その日のその瞬間、目の前のお客様のためだけに調整して最高の一杯を提供する。彼のそのこだわりに、すごく感銘を受けました。

− 山路氏:ストリーマーでは、バリスタを名乗りコーヒーを淹れられるようになるまでに、何百杯、何千杯と練習を重ねます。これは、並大抵の意思でなれるようなものではありません。近藤さんに「コーヒーのためにコーヒーをやりたい」と言われて、純粋に「彼の想い描く景色を見たい」と思ったんですよね。

− 近藤氏:私は今、都内と一宮に生活の拠点があって、平日は都内でスタイリスト・ディレクターとして活動し、週末は一宮で畑を耕したり花を育てたり、都会と田舎との2拠点生活を行っています。

ストリーマーのコーヒーは都内で飲める数少ない最高のコーヒーだと思っているのですが、「一宮のあの場所で、あの最高なコーヒーが飲みたい」と思わずにはいられませんでした。

一ノ宮の拠点

− 山路氏:ストリーマーは、ただただバリスタの腕を鍛えるだけではなく、“最高の一杯”を作り上げるための雰囲気作りにも徹底したこだわりがあります。

それは、“最高”を生み出すのはコーヒーそのもののクオリティだけではない、外的要因も大きく関わるからです。ストリーマーには、いつも温かくて雑多な雰囲気があり、老若男女、関係なしに談笑しています。その瞬間その場にいた全員が、それぞれにとっての“最高”を確かに感じられる要素、それは味や雰囲気、そこにいる仲間、何かしらがストリーマーにはあるんです。そこで飲む一杯が人々の琴線に触れる、そんなコーヒーを提供しています。

デザインやソファのレイアウトも考え抜かれたもの

− 山路氏:僕は近藤さんのこれまでのキャリアを知っているし、今近藤さんが自身のキャリアのどういう場所に立っているかも分かる。これだけたくさんのことを形にしてきた人が、これまで都市部にしかなかったストリーマーを一宮のあの場所に広げていく。どんなコーヒーを淹れるんだろう、最高の一杯のためにどんな環境を作り上げるんだろうって、ワクワクしましたね。

もちろんNOと言うこともできましたが、近藤さんの人生の岐路ともいえるその場面を一緒に見たい、その一心で話を進めることにしました。

背伸びをしない場所

今回の取り組みでのこだわりを教えてください

− 山路氏:これは実際にあの場所に行って感じてほしいのですが、とにかく削ぎ取りました。今って、どの企業も個人も、多くのものを積みすぎてしまっていると思うんです。そろそろ、その重たい荷物を一つひとつ削ぎ落としていく時なんじゃないかって、フィールドポストはそんな現代へのメッセージを表している場と考えています。

− 近藤氏:昔はスタイリストとしてファッションを追求するあまり、背伸びをしてとんがってきたけれど、今はそれが本当に格好良いのか分からない時代になってきました。“格好良いことの向こう側”って何があるんだろうと考え始めるようになってきたんです。

玄人らしく・業界人らしくあるとか、自分のプライドを貫いて振る舞うとか、そういうことではなく、無知な領域に挑戦したり、失敗したり、そういう姿を見られることも、格好悪いとか恥ずかしいとかではなく、人間らしくて格好良いんじゃないかって、ふと、そう思えたんです。

フィールドポストは、そんな背伸びや無理をしない場所でありたいし、訪れる人に最高のコーヒーとともにそういった気付きを与える場所でありたい。これから先の新しい考え方をサンプルとして示すことができれば嬉しいですね。

− 山路氏:ストリーマーとしては、これまで11年間で築いてきた“ブランド”という確固たる基盤があるからこそ、今回のような挑戦ができます。一宮という場所だからできるストリーマーフィールドポストという新しいブランドを近藤さんと共に作り上げていきたいと思っています。

持続可能なカタチ

飲食業界の現状についてどうお考えでしょうか

− 山路氏:食べ物って死ぬまで食べるんですよね。当たり前だけど、だから軽視してほしくはないです。食品の大量廃棄について、今は消費者の方が知ろうとしているし、勉強しています。日本のフードビジネスは、いかに並べて、いかに捨てているのか、消費者はとっくに気付いているんですよ。みんな震災の時に思い知ったはずなのに、企業はまた同じことを繰り返そうとしている。考えを改めないといけないと思っています。

− 近藤氏:ストリーマーでは、オーダーが入ってから作るのが絶対ですよね。大量廃棄は飲食もアパレルも同様に大きな問題です。フィールドポストでもそこは意識していて、環境に配慮した取り組みや自然との共存を感じられる運営を予定しています。そういった時流がある中で、自然を大いに感じられる一宮まで足を運んで来てみると気付くことが多いはずです。

− 山路氏:今までのカフェとは確実に違う空間が出来上がります。近藤さんは、コーヒー一杯のためにコーヒーのことをすごく考えられるし、実際に行動も起こせます。「人にとって大切なことをコーヒーで感じられる」そんな一杯を提供できると確信を持っているので、ぜひ最高の一杯を飲みに来てもらいたいですね。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

“最高”の作り方

「東京という箱の中に自分の想い描く海外をどう表現するか」――11年前に描かれた山路氏のイメージはSTREAMER COFFEE COMPANYというカタチになり今日も多くの人々に最高の一杯を提供している。

次々と人が入っては出て、コーヒー片手に隣も向かいも関係なしに着席しては、談笑して笑顔で去っていく、そんな風景が繰り広げられている。この心地よさも、内装やレイアウトの緻密な計算で作り上げられた空間だというから驚きだ。この「商品を高める雰囲気作り」こそ、ネット社会が当たり前となった今でもまだ、WEBで再現できない大きな付加価値なのではないか。実店舗を持つ企業はぜひ参考にしてほしい。

すべては最高の一杯のために――カップ一杯の至高のコーヒーを追究する二人の同志の次なる一手、STREAMER FIELDPOST。彼らが千葉県一宮という場所で表現するカタチとはどんなものなのか。次回はそのカタチを取材する。

ブランド・会社紹介

STREAMER COFFEE COMPANY (ストリーマーコーヒーカンパニー)

2010年創業。都内を中心に全国に11店舗を構えるコーヒーストア。世界を跨いで一つの特別な味わいを、豆から最高の一杯として伝える。

公式ホームページはこちら
http://www.streamer.coffee/


有限会社ツゥールズ

近藤昌氏率いる企画制作会社。ファッションのディレクションとスタイリングを中心に、衣食住に関するあらゆるクリエイティブな物事を請け負う。

公式ホームページはこちら
http://www.toolsjapan.com/

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