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フードロスを削減するアップサイクルフード

「アップサイクルフード (アップサイクル食品)」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。2020年、ハーバード大学ロースクールや米ドレクセル大学、世界自然保護基金 (WWF)、自然資源防衛協議会 (NRDC) などの専門家チームは、アップサイクル・フード協会の調整のもと、それらの定義を発表した。

「アップサイクルフードとは、本来であれば人間の消費にまわらない原材料を使い、検証可能なサプライチェーンにおいて調達し生産された、環境に良い影響を与えるもの」である。

これは社会問題である食品廃棄物、いわゆる“フードロス”削減に貢献する取り組みの一つであり、SDGsのターゲットにも食品廃棄物を半減させることが掲げられ、アップサイクルフード産業は現在、世界的に急成長し注目されている市場なのだ。

資料提供:オイシックス・ラ・大地株式会社

当然国内でもこのフードロス削減の取り組みは推進されており、政府は2030年度までにフードロス量を2000年比で半減の489万tまで減少する目標を掲げ、2020年度時点で522万t、6年連続で前年より減少の結果を残している。

それでもこの522万tという数字は、国連世界食糧計画 (WFP) が世界各国に食糧援助する420万tより100万tも多く、まだまだ課題が山積みだ。

こと衣食住に纏わるモノを取り扱うライフスタイル業界としても、この課題は他人事ではなく実際に食品を扱うセレクトショップも多い。食品のセレクト基準は、味のクオリティ、デザイン性の高さや手土産としての華やかさなど、さまざまではあるが、そこに一つ、アップサイクルフードという観点を取り入れてみてはいかがだろう。

今回MMD TIMESは3つのアップサイクルフードを紹介する。各メーカーの商品に込めた想いや生産ストーリーから、セレクトショップが食品を取り扱うことの意義を考えてみたい。

子どもに向けた食育にもなる商品

フードロスのなかには、事業から出るものと家庭から出るものの大きく2つ分類がある。食品の製造現場では、見た目や食感、味付けなどの観点から破棄されてしまう非可食部があり、これらももちろん事業系フードロスとして算定されている。

食品のサブスクリプションサービスを提供するオイシックス・ラ・大地株式会社は、アップサイクルフードのみを販売するフードロス解決サービス「Upcycle by Oisix」を展開。そのなかの商品の一つが「ここも食べられるチップス」シリーズ。それまで未活用であったブロッコリーの茎やだいこんの皮をココナッツオイルで揚げ、野菜の甘みと食感を引き立てた商品などがある。

「ここも食べられるチップス ブロッコリーの茎」は、2021年7月8日の発売開始後1週間で計画の3倍以上を売り上げ、食品ロス削減量 (食品として活用される量を換算) は、活用計画0.5tに対して約1.4倍の0.7tを実現した。化学調味料不使用なのでお子さまのおやつにも安心して与えることができるため、食育や環境教育の一環として、小さな子どもがいる家庭や保育園でも食の大切さを教えやすい商品として現在も好評のようだ。

それぞれ、ブロッコリーの茎は一袋あたり約300g、だいこんの皮は約170gのフードロス削減量を示しており、このように商品情報としてロス軽減量を表示することは、購入者への環境問題への意識付けを行うためにも、店頭での売場づくりに活かせる工夫のように感じる。

ホームパティーやアウトドアのお供に

加工過程で発生するフードロスは、野菜だけでなく果物にも同様に起こる。製造過程で加工しなければ、大量に事業系フードロスを抑えられるのではないかとも考えられるが、それにも課題が潜んでいるのだ。例えば、柑橘類。みかんをはじめとする日本の柑橘は、世界的にも評価の高い果物である一方、剥く面倒くささ、食べる手間を嫌厭して消費者離れをしている側面があるため、生産者としては、消費者に手に取ってもらうためにもカットなどの加工を施し商品化することも重要な手段の一つだ。

そこでCRUST JAPAN株式会社は、今回カットフルーツ工場から出たフルーツの皮のロスに着目し、そのアップサイクルに取り組んだ。新たに発売される「CROP」第一弾は、甘夏の皮をアップサイクルした「あまなつハニー」。食品ロスとなる甘夏の皮から天然香料を抽出し、スパークリングドリンクにアップサイクルした商品で、そのままでももちろん、カクテルやモクテル (ノンアルコールカクテル) のミックスなど好きなスタイルで楽しめる。

昨今のライフスタイルを取り入れた提案として、外食自粛やアウトドアブームを視野に入れた売場づくりも考えられる。ポップなデザインがホームパーティやキャンプのお供として場を明るくしてくれるだろう。飲料は常温保管でき比較的保管も長くできるため、店舗でのストック時の不安要素はが少ないところが嬉しい。

女性に向けたヘルシー食品に

旭松食品株式会社から展開されている「オートミール」シリーズは、「米化オートミール」として健康や美意識の高い女性を中心に、今注目されている食材オートミールを商品化した即席カップ。

2022年9月から新たに発売される第4弾の「トマトバジル風味」、「塩とんこつ風味」、「梅しそ風味」の3品は、美味しさとフードロス削減を実現するため液体調味料にこだわり、ヘルシーかつ本格的な味わいを目指した商品だ。

米化オートミールの即席カップ

「トマトバジル風味」は肉を取り除いた鶏骨を、「塩とんこつ風味」は豚骨を活用し、それぞれ残渣(濾過後に残ったかす)は飼料として無駄なく活用。「梅しそ風味」はかつおの刺身やたたき製造時に残る粉状になった身を活用しており、紀州梅を梅干しに加工する工程で使用した漬け汁も活用している。

フードロス削減のため“だけ”の商品ではなく、米化オートミールの即席カップという、商品自体の魅力があることに加えて、さらに本商品を選択することがフードロスに繋がるという2つの価値が存在することが魅力である。売場では、アップサイクルフードとしてだけでなく、健康や防災用保存食などに応用が効き、主に自家需要として販売しやすいことが特徴だ。

アップサイクルだけではない価値と魅力を

セレクトショップで購買される食品は、日々の食料品としてではなく嗜好品やギフトの需要が多くを占める。ショップに訪れる消費者は、食品をメインに扱う量販店や専門店とは違う期待を持って店舗に足を運んでいることは明確だ。商品の生産プロセス、生産者の想いなど、バッググラウンドにあるストーリーにも注目されやすい環境といえるため、今回紹介したようなアップサイクルフードの魅力や価値を伝えるにも、セレクトショップは適していると考える。

また、トレンドにあわせたライフスタイルを提案するショップが、現代の世界的課題でもあるフードロスというトピックを発信するために、アップサイクルフードを扱うことは意義のあることではないか。しかし、単純にアップサイクルフードをかき集めることが良しとされるわけでもない。なかでも、よりセレクトショップとの親和性の高い商品をセレクトする必要がある。

「ライフスタイルショップらなではの食品」「地球を終わらせないネクストミーツの代替え肉」でも伝えたように、コンテンツ自体の魅力や価値に加え、デザイン性やブランドそのものの価値の高さが伴っていることが、消費者の興味関心を惹きつけるきっかけとなることを忘れずにいたい。

つまり今回紹介した商品のように、食育させたい子どもや健康志向の女性に向けてなど、アップサイクルフードであること以外の特徴や明確なターゲットがあることもセレクトショップで扱うために押さえておきたいポイントでもある。まずは、味やデザイン、食材の栄養価などの別の購買理由がある場合でも、その商品を選択することがフードロス削減に繋がる事実を伝えられるモノのセレクトがあることは、ショップとして粋な提案ではないだろうか。セレクトショップとして食を扱うことの意義を今一度考えてみてはいかがだろう。

掲載企業一覧

オイシックス・ラ・大地株式会社

「Oisix」「らでぃっしゅぼーや」「大地を守る会」の国内主要ブランドを通じ、安心・安全に配慮した農産物、ミールキットなどの定期宅配サービスを提供。子会社の買い物難民向け移動スーパー「とくし丸」や、米国でヴィーガンミールキットを展開する「Purple Carrot」も含め、食のサブスクリプションサービスを広げている。「サステナブルリテール」(持続可能型小売業)として、サブスクリプションモデルによる受注予測や、ふぞろい品の積極活用、家庭での食品廃棄が削減できるミールキットなどを通じ、畑から食卓まで、サプライチェーン全体でフードロスゼロを目指す。

公式ホームページはこちら
https://www.oisixradaichi.co.jp


CRUST JAPAN株式会社

シンガポール発の食品ロスのアップサイクルを行うフードテック企業。2021 年 2 月に日本法人を設立。日本国内のまだ食べられるにも関わらず廃棄される予定の食材「食品ロス」をおいしい食品にアップサイクルすることで、持続可能性を高め、SDGsに貢献。グループ全体で2030 年までに世界中のフードロスを1%削減することを使命とする。

公式ホームページはこちら
https://www.crust-group.com


旭松食品株式会社

大阪府大阪市淀川区に本社を置く食品企業。「おいしさ」「健康」「安全」の3点をすべてクリアする製品を目指し、企画開発から製造、流通を行う。こうや豆腐の生産設備は、そのほとんどが自社設計・自社開発。

お問い合わせはこちら
https://www.asahimatsu.co.jp/

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