2020.09.22.tue

展示会MaG.とオンライン展示会MaG.+

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モノづくりを通じた「想い」の発信

「こだわりのアイテム、その価値をバイヤーにしっかりと伝えたい」というコンセプトで運営する、ファッション・インテリア・雑貨等の合同展示会MaG. (マグ) 。MMD TIMESは2日目でにぎわう東京会場を訪れ、主催者である石津和也 (イシズ カズナリ) 氏に取材を行った。

以前「EXHIBITION 2020AW」でも紹介したように、今年は新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) <以下:コロナ>の影響により、展示会の中止や延期が目立ち、オンライン上での開催が増えている。そこで今回は、リアル展示会であるMaG.の、今の時代だからこそ必要なモノづくりに対する「想い」を持ったブランドキュレーションについて、また今後の展示会の新たな発信のカタチ作りに欠かせない、スタートしたばかりのオンライン展示会MaG.+ (マグプラス) について話を伺った。

合同展示会MaG.とは

MaG. 2021 S/S vol.16
開催期間 (東京) :2020年9月8日 (火) ~9月10日 (木)   会場: SPIRAL HALL (表参道)
開催期間 (大阪) :2020年9月15日 (火) ~9月16日 (水)  会場: PINE BROOKLYN (福島)
開催期間 (福岡) :2020年9月29日 (火) ~9月30日 (水)  会場: RESOLA TENJIN HALL (天神)
https://mag-preview.com/
※東京展・大阪展の会期は既に終了しています

MaG.は、SSとAWにテーマを分けて年に2回、3月と9月に開催している。取扱いブランドは国内外を問わず、ストーリー・こだわり・想いを持って作られた商品であるかに重点を置いた出展審査と、ライフスタイルを軸とした独自の空間づくりにより、「バイヤーが会場丸ごと欲しくなる空間」を目指す。

会場はまるでモノづくりの職人たちが大きなひとつの工房に集まったかのような雰囲気だ。ライフスタイルにまつわる様々な単品アイテムをピンポイントで展開するブランドが多く、そのこだわりや想いと共に展示している。今回はアパレル、ファッション雑貨(バッグ、ポーチ、シューズ、メガネ、帽子、ジュエリー、フレグランス)、生活雑貨 (キッチン・ダイニンググッズ、除菌) 、食品、インテリア・軽家具などを扱うブランドが出展しており、ミリタリーのデッドストック1点物を仕入れているアパレルメーカーなどニッチなアイテムも見ることができた。

価値をつなぐ出会いの場

展示会のテーマや特徴を教えてください

− 石津氏コメント:開催当初から一貫しているのは、「様々な質・価格の商品が溢れるこの時代の中で価値あるストーリー・背景を語れるブランドとバイヤーが出会う場を作る」ということです。今でこそモノづくりの根幹自体が注目されるようになり、今までのMaG.の活動が少なからず市場に貢献しているのではないでしょうか。

出展ブランドの審査も私自ら行います。流行や売上視点だけで商品開発・輸入をしているブランドではなく、必ず自分たちのモノづくりを通じてエンドユーザーに「何か」を発信したいブランドであることがキュレーションのポイントです。時代が変わるにつれて消費のカタチも変わってきた今、価値あるブランドを買う人、気にせずに流行りモノを買う人、というようにエンドユーザーは二極化しています。

ある程度の価格帯でコンセプトや生産背景がしっかりしたこだわりの商品を作るブランドは、所有する際に考えて買う必要が出てきます。一方、量産型の安価なアパレルを販売するブランドも今や生産技術が高くなって良いものを作るようになっています。MaG.が取り扱うブランドは前者で、今後は価格競争だけで戦うのではなく、日本の伝統工芸のように、永く続く価値を持てる商品であることが重要だと思うんです。

MaG.では、出展ブランドと主催者はイーブンな立場であり、パートナーであると考えています。そしてその商品を仕入れたショップの方が、作り手の想いを理解し、その価値を代弁してエンドユーザーに伝えていく伝言ゲームのようなものであり、いかに正確にブランド価値を伝えていけるかが、今の時代のキーワードだと考えています。

今回のチャレンジポイントや、前回との違いはありますか?

− 石津氏コメント:出展ブランド、感染対策を意識した会場構成、オンライン展示会、この3つでしょうか。まず出展ブランドですが、全体のうちの6~7割は前回出展していないブランドです。来場するバイヤーに鮮度を感じて欲しいのでて、毎回あえて変えているんです。ブランド側にもメリットがあって、毎回同じ展示会に出展するよりは、バイヤーの層が異なる他の展示会にも出るなど、時期ごとに出展先を変えてもらった方が卸先の新規開拓にも繋がると思っています。

そして今回は新たに「メガネ」ブランドだけにフィーチャーしたEyEs (アイズ) ゾーンを作りました。実はメガネの展示会周期ってアパレルの周期とズレているので、バイヤーの都合を考えると、全体のコーディネートを考えながら服飾雑貨のひとつであるメガネも一緒に選べたらいいんじゃないかと考えたんです。

− 石津氏コメント:会場構成は感染対策として密な空間を避けるため、細々と平台に陳列するようなアイテムはあえて減らし、ひとつひとつのブースが広く取れる工夫をしています。

入口では非接触のデジタル検温・消毒コーナーを設け、各ポイントにも超音波加湿器を配置し会場空間の消毒をしています。超音波加湿器には、今回初出展ブランドである「SEEDING (シーディング) 」の舐めても安全なグレープフルーツ種子から抽出された99.9%抗ウイルス・抗菌配合製剤を使用しています。

− 石津氏コメント:もうひとつは今回初めての試みとして、オンライン展示会MaG.+をスタートさせたことです。コロナの影響で外出に制限がかかり、今まで合同展示会の常識だった「現地に行って実際に見るしかない」という選択肢を広げたい、という考えから始めました。

オンラインでの新たなチャレンジ

MaG.+
開催期間:2020年9月1日 (火) ~ 2021年2月28日 (日)
https://granstra.com/ssr/exh/hit9TBahJgrGaS0sTvrF?utm_source=mag

リアルとオンラインの展示会はそれぞれどのような位置付けでしょうか?

− 石津氏コメント:オンライン展示会のMaG.+は、バイヤーが何か新しい商材を探す時に、まず最初に使うツールとして確立していきたいと考えています。画像に特化した検索エンジン代わりとしてもよく使われているInstagramやPinterestのような、“商品検索のツール”といったところでしょうか。何時でも何処でも、展示会開催時期や場所に縛られることなくブランド探しができる。そしてリアル展示会であるMaG.は、実物を見て、作り手と直接コミュニケーションできる場です。

どちらかに一方的に誘導する、というよりは、使用シーンによって便利に使い分けてもらえるよう、今後もブラッシュアップしていく予定です。

MaG.+のブランド紹介ページ

石津氏コメント:また、オンラインとオフラインの融合も狙っています。バイヤーはMaG.+でも事前に展示会の情報を詳しく得ることができるようになり、候補のブランドに目星をつけることでMaG.開催当日の効率UPができると考えています。

MaG.展示会場内でも各ブースにQRコードを配置し、ブース担当者が接客中の場合もQRコードを読み込むことで、バイヤー自らMaG.+上から商品の情報を読み取って確認したり、ブランド選定しやすいようにブックマークのように活用することも出来るのではないでしょうか。

各ブースに設置されたMaG.+のQRコード

ブランド側から見た、オンライン出展のメリットについて教えてください

石津氏コメント:MaG.に出展されたブランドは、無料でMaG.+にも出展できるようにしている為、MaG.以外でのバイヤーとのタッチポイントを増やすことが可能です。皆さんうまく使い分けをされていて、今回MaG.には出展せず、MaG.+だけの出展者も全体の4割ほどいます。

また一番のメリットは、主催者である私たちと一緒に高いクオリティのブランドページを作れることでしょうか。オンライン初出展で何から手をつけていいか分からないブランドでも、写真のスタイリング・背景・撮り方から、記事の内容まですべて私自身がチェックし、相談に乗ったりアドバイスをしています。

例えば木のカトラリーを扱うブランドのページでは、当初の登録画像は白背景の単品画像だけだったのを、商品が更に魅力的に見えるように、使用シーンをスタイリングした画像や、雰囲気を出すためにあえて大胆にトリミングした画像に変更しました。

リアル展示会でブースを設営する様に、この1ページの中でブランドの価値を最大化できるよう、一緒に作り上げブラッシュアップしていきたいです。

画像のスタイリングを行った木のカトラリーブランドのページ

MaG.+の今後の改善点やブラッシュアップポイントはありますか?

石津氏コメント:サイト上での見せ方や使い勝手をどうするかが課題ですね。リアル展示会のブース構成と同じように、回遊してコーディネートを考えられるようなサイト構成を目指しています。

会場内を歩いて目に留まったモノを見つけた時のような「新たな出会い」を演出したいので、目的の商品を検索するだけではなく、サイト内をくまなく見てほしいんです。だからあえて検索機能は付けていません。それでも現段階のブランド問い合わせ数を見ると、後方に配置したブランドにもちゃんと問い合わせが来ているので、しっかりと各ブランドを見てもらえていると感じています。

今後は数か月スパンで並び順を変えてテストしていく予定です。ショップのVMDやゾーニングを変更して鮮度を出すのと同様、ブランドの順序による優劣が出てきた場合は、入れ替えることで解決していきます。リアルの展示会場で空間を演出する時のように、動線や余白にも気を配って作りこんでいきたいですね。

今後の展示会主催者としての役割

今後の目標を教えてください

− 石津氏コメント:日本だけのマーケットでは厳しいと感じているので、今後は世界に向けて発信していきたいですね。ファッション以外にも、アート、食、酒など日本の伝統や特徴が際立つカテゴリーを発信すべくプロジェクトが進行中です。

展示会自体は引き続き日本で行う予定ですが、開催時期を世界基準に合わせていくことを考えています。世界の流れを見ると、毎年2月と7月にイタリア・パリなどでファッションウィークが開催されるので、その帰りに日本に寄ってもらいたいですね。日本のブランドが海外の展示会に出展する場合ブランド側のコスト負担が大きくなってしまうので、世界から東京に呼べる「場」を作ろうとしています。

そしてオンラインMaG.+もグローバルに対応できるよう、表示言語を増やしていく予定です。今は日本語表示だけですが、韓国・香港のバイヤーから既に問い合わせが来ているんですよ。オンライン、オフライン共にグローバルに見てもらえる環境を整えていきたいですね。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

これからの合同展示会の新たなカタチ

合同展示会の在り方の進化を考えた時、ふと15年程前のアジアの大型展示会を思い出した。そこは当時日本の大量生産大量消費の発注の場のひとつだった。似たようなデザイン、材質の商材が溢れかえり、その中から仕入れ条件に合うアイテムを探して少しデザインを変え、数千個単位ずつ買い付ける。多くのバイヤーが経験した懐かしい風景かもしれない。

この10年で、日本の消費者のモノに対する感性が成熟期を迎え、消費に対する考え方が変化したことで、展示会に求められるコトも変わってきた。展示会は今や、単なる企業ブースの集合体ではなく、ブランドの発信の場となったのだ。まさに石津氏が語ってくれた、こだわったモノづくり、ストーリーのあるコンセプト、商品を魅せるディスプレイと共に、ブランドの「想い」を発信する場へと進化している。

そして今回のMaG.+のチャレンジのように、これからの展示会は主催者のフィルターでブランドをキュレーションし、売り手と買い手が出会う「場」を提供するプラットフォームの構築が必要とされている。時間・距離・国・言語においてボーダレスな出会いの「場」の発信だ。

ここでの売り手と買い手は、ブランドとバイヤー (BtoB) だが、近年ブランドとエンドユーザー (DtoC) の直接の商流が作られ始め、リテーラーとしての存在を脅かされつつある。セレクトショップも合同展示会と同様に、自分たちにしかできないキュレーション力を発揮する「場」を作り上げ、エンドユーザーに対して「目利きの伝達者」としていかに正確にブランド価値を伝えていけるかが、今後のリテールで生き残っていくキーワードになるだろう。

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