2023.03.28.tue

グリーンブームの行方 2023

  • SUBURB RANCH
  • InterPlantsNet
  • Do! earth&green
  • HINODEYA

Contents

アフターコロナに向けたアイテムたち

いよいよ春本番。世の中は新生活に向けて動き出している。家具や生活雑貨、ステーショナリーなど、さまざまなカテゴリの商品が春商戦に突入するだろう。今回特集するグリーンもその一つ。植物の多くが春から夏にかけて成長期に突入するため、3月は植え付けや植え替えにぴったりの季節であり、初心者にもグリーンの購入をおすすめしやすい。

BOTANYがセレクトするグリーンの基準」でも伝えたように、近年のグリーンブームはコロナショックが拍車をかけ、ビギナーの裾野を広げた。また1990年代から2000年前後にかけて起こった“ガーデニングブーム”とは少し異なり、“インテリアグリーン”の人気が高く、「“屋内で”花や植物を愛でる」傾向が強い。年齢層も幅広く、20〜30代をはじめとする若い世代への浸透が特徴的だ。

これはSNSの普及により「暮らしの見える化」が進んだことに加え、イエナカ需要との親和性が相まった結果だと考える。家具や生活雑貨など、屋内でのアイテムを取り扱うセレクトショップにとって、このブームの違いは大きいはずだ。しかしアフターコロナに差し掛かった今、そのイエナカ需要も落ち着きを見せはじめ、人々のライフスタイルも新しく生まれ変わろうとしている。このグリーンブームは今後どうなっていくのか。グリーンや関連商品を取り扱うブランドに取材を行い、グリーン業界の動向と今後の行方について話を聞いてみた。

グリーン好きであるに越したことはない

まずは、趣味が高じて半年前にブランドを立ち上げたばかりという「SUBURB RANCH (サバーブ ランチ)」に話を伺った。東京・梅ヶ丘に店舗を構える同ブランドは、アパレルのOEM事業を行っている店主の杉田憲洋 (スギタ ノリヒロ) 氏が、自身の趣味として植物を愛でているうちに販売するにまで行き着いてしまったのだとか。

梅ヶ丘にある店舗。現在もアパレル業を営みながら店舗を営業している

取り扱っているグリーンは、ビカクシダ (コウモリラン) をはじめとする着生植物や、グラキリス (塊根植物)、チランジアなどのエアプランツ、その他、初心者でも育てやすいインテリアグリーンなど。「小さな子株から植物を育てる楽しさを伝えたい」との想いから、比較的お手頃で小さな個体を提供している。

なかでも着生植物は、コルクや板、ヘゴなどの着生材に仕立てて生長管理するため、部屋の壁に掛けて楽しむことができ、インテリア性も高い。気に入った着生材と株を見つけて組み合わせ、自分好みの形に育てていくのも醍醐味だという。実は杉田氏自身もそこに魅せられた一人。「当初は全く興味がありませんでしたが、友人に子株をもらったことがきっかけで植物にハマってしまい、店を開くまでになりました。板を選んで株を仕立てていくところが、洋服をコーディネートする感覚に似ているんですよね」。

着生植物「ビカクシダ (コウモリラン)」

管理方法は比較的簡単で初心者にもおすすめだが、見た目のインパクトの強さから育てやすさが伝わりづらく避けられがち。「僕みたいに一歩踏み込めばハマるポテンシャルを持っている人は、まだまだいると思います」と、店主の期待は大きい。

接客面では、SNSを通じた消費者とのコミュニケーションがアパレル業以上に多いとのこと。販売後も育成方法にまつわる相談などを受けるため、関係が続いていくそうだ。時には販売した植物の子株を顧客からもらうこともあると聞き、開店半年にして売り手と買い手の絆の強さに驚いた。生き物を扱うということは、それだけ顧客との強い結びつきが生まれるのかもしれない。しかし、そこには両者がそれに対して同じように想っている必要がある。グリーンの販売においては、“グリーンを好きである”ということが何よりの強みとなるのだろう。

店頭ロスをなくし安心の販売を

ショップでグリーンを取り扱う際に懸念点として挙がるのは、何といっても店頭管理だろう。手入れが容易な植物を扱うことは顧客のためでもあり、ショップのためでもあるのだ。商品である以上、美しく魅力的に陳列する必要があり、店頭ロスはもってのほか。「未来アグリス株式会社」では、丈夫で室内でも育てやすいガジュマルやパキラが人気だそう。いずれも成長が早いので初心者も楽しんで栽培できるうえ、気根や幹の形が個性的なので好みの樹形を選ぶ楽しさもある。

また、店頭管理の課題を解決してくれるのは、植物の品種だけではない。同社のメインブランド「InterPlantsNet (インタープランツネット)」から販売されている「AQUA TERRA POT (アクアテラポット)」は、観葉植物を簡単かつ清潔に管理できる底面給水ポットだ。

植物が植えられたインナーポットと、水を蓄えるアウターポットの 2 つのポットで構成される同商品は、給水ヒモから適度な水分が植物に供給される仕組みとなっている。アウターポットの水がなくなってから水を追加するという水やり目安がわかりやすいため、店頭陳列時にも管理がしやすく、作業負担や店頭ロスの軽減が期待できる。

AQUA TERRA POT

こうした商品展開によって売場での管理をより簡易化し、グリーンを取り扱う小売店を増やしていきたいと語る同社。導入シーズンとしてのおすすめは春と秋で、植物にとって快適な気候である同シーズンは、消費者にも店舗にもグリーンを扱いはじめる時期としては最適とのことだ。まずは、シーズナルイベントとして期間限定で取り扱い、そこで顧客や店舗と相性の良い商品を見つけ、常時展開に移すのも一つの手段だという。

生き物であるが故にロスの観点から躊躇しがちな店舗も、まずはこの春、店舗環境や顧客層とマッチする最適な商品を見つけることからはじめてみてはいかがだろう。

ホームケアグッズのススメ

「グリーンの導入と併せて検討してもらいたいのはメンテナンスツールですね」、そう語るのは園芸ブランド「Do! earth&green (ドゥ! アース&グリーン)」。初心者へのグリーン販売時は特に、ジョウロや霧吹き、スコップなどのメンテナンスツールがあるかないかで売上の差が大きく開くという。

我々が注目したのが、ホームケアライン商品「evo (エボ)」シリーズ。ホームセンターや園芸店で見る培養土や肥料とは一見異なる、良い意味で土臭さのないデザイン。セレクトショップやアパレルショップ、さらには自宅のインテリアにも馴染むようなパッケージデザインとサイズ感が特徴の本シリーズは、培養土メーカー生まれの同ブランドだからこそ開発できるアイテムだ。

もちろんデザイン面だけでなく、機能面や初心者への配慮も欠かせない。「みどりが鮮やかになる土」、「実と花がよくつく肥料」など、目的や用途に応じて原料や配合比率を変えたアイテムを、初心者が手に取りやすいネーミングに置き換えてわかりやすく商品化。ビギナーのショップスタッフにも優しいアイテムだといえる。

昨今のグリーンブームで愛好家の広がりを感じるという同社は、「今回のブームでハマったユーザーが、これから先も楽しんで栽培を続けていける工夫が必要だ」と語る。新商品「育てるあかり」は、コア層に向けて展開する商品。コア層であれば高価格帯商品であっても、その機能を求めて一定の売上が見込めるとのこと。今後は初心者向けの手に取りやすいアイテム展開に加えて、より本物志向の玄人ユーザーに向けた商品も同時に扱っていく必要がありそうだ。

「育てるあかり」は価格4,950円 (税込)

グリーン事業の持続可能性を高める

グリーンブームにおける生産者の課題は何だろう。このブームは持続可能な消費活動なのだろうか。商品開発によって業界の課題に気づくこともあるだろう。「株式会社HINODEYA (ヒノデヤ)」から展開されているブランド「REPAIR’N MAINTENANCE (リペアアンドメンテナス)」が昨年リリースしたのは、瀬戸焼の盆栽鉢。釉薬を使わないウ泥鉢は、通気性と保湿性がともに高く、植物の育成に適している。

以前から展開していたプランターシリーズ同様、武骨で男性的な素材感とスタイリッシュさが加わりモダンな印象のアイテムだ。什器にアルミやステンレスを組み合わせることで、よりモダンで新鮮な世界観の演出が可能とのこと。同ブランドの他商品との相性も良い。

商品を開発するにあたって、窯元や盆栽農家のもとを訪れた際に知った細かな手仕事や、丁寧な栽培管理に心を打たれ、売り手としての価値創造、またその背景周知の必要を強く感じたという。国内においては、生産者の手間隙に対するコスト感覚が非常に安価だと警鐘する同社。実際に、グリーンブームとはいえど、「安いものが良い」という大量生産・大量消費の文化は未だに残っており、焼き物や植物の価値基準も同様なのだとか。国内での価格向上に停滞を感じている生産者のなかには、海外への輸出やインバウンドなしでは事業が成り立たないところもあるのだろう。

30年かけて育てられた赤松が約12万円。この価格をどう見るか

業界の継続、ブームの継続は生産者なくしては決して成り立たない。生産者には技術の継承となる後継者の課題もあるだろう。価値を生み出すところに正当な対価がまわり、業界が活況して継続するように、作り手と売り手ができることを尽くしてほしい。売り手に今求められるのは、トレンドを取り込んだ魅力的なプロダクトの開発や見せ方、シーンの提案を行い“モノの価値”を高めていくことである。同ブランドのプロダクトは、それを体現した新しい感覚の商品だといえるだろう。今後もそのアイデアに期待したい。

ブームの火は続くのか

最後に述べたブームの継続については、「garageが芽生えさせるグリーンショップ」でも触れたように今後大きな課題となってくるだろう。盛り上がりによる供給過多や管理が追いつかないなどの原因でロスを出してしまったり、売り手の知識が行き届かないことから、ビギナーにネガティブなイメージを植え付けてしまうことも考えられる。インテリアグリーンを盛り上げていく売場として、ライフスタイルショップは外せない。そうなれば、ショップスタッフにもグリーンを愛でる気持ちや、必要な知識が備わっていることが第一条件となってくるであろう。

また、今回取材するなかで目立った商品はエコポットだ。グリーンのユーザー属性として環境への関心が高いことから、エコ商品との親和性の良さを感じる。自然原料で作られた土に還るポットや、飛行機や新幹線の座席に使われる糸をアップサイクルして作られたグローブなど、取材中もユニークな商品が目立った。「未来に向けて“Re-Think”するMONTAGE 29th」でも、カーペットからアップサイクルされて作られたプランターを紹介したが、今後もグリーン関連のエコ商品には注目していきたい。

このグリーンブームは、間違いなくたくさんの愛好家を生んでいる。このブームの火を灯し続ける役割を果たすのが、ライフスタイルショップの新しい提案だ。グリーンの提案はもちろん周辺アイテムを含め、育て方・楽しみ方の提案を積極的に行っていきたい。

掲載企業・ブランド紹介

SUBURB RANCH (サバーブ ランチ)
東京都世田谷区梅丘に店舗を構えるブランド。インドアグリーンをはじめとする観葉植物をメインに取り扱うショップ。ハンギングやテーブルに置けるサイズ感を中心に「共に育つ」をコンセプトに掲げ、心を豊かにしていく日常アイテム等もセレクトして展開している。

取り扱いアイテム:観葉植物、着生材、アパレル雑貨など

公式ホームページはこちら
https://suburbranch.com/


未来アグリス株式会社
農業種苗・園芸商品を取り扱うメーカー及び商社。1988年創業後、2023年2月1日にハクサンインターナショナルから社名を変更。メインブランドである「InterPlantsNet (インタープランツネット)」は、植物専門会社としての専門的なノウハウを商品に凝縮することで、簡単で清潔に管理できる本格的なインテリアグリーン商品の開発をコンセプトとしている。

取り扱いアイテム:観葉植物、ポット、ブリザーブドフラワー、ドライフラワーなど

公式ホームページはこちら
http://www.hk-int.jp/


Do! earth&green (ドゥ! アース&グリーン)

植物のいのちでもある土づくりで培った知識とノウハウをもとに、より多くの方に植物を育てる楽しさを提案している園芸ブランド。全国の園芸店、雑貨店やホームセンターなどへ、オリジナル商品、植物、国内外の園芸雑貨の卸販売をはじめ植物と育てる暮らしにまつわるプロダクトの開発を行う。

取り扱いアイテム:ポット、培養土、肥料、メンテナンスツール、観葉植物など

公式ホームページはこちら
https://dolabo.co.jp


株式会社HINODEYA (ヒノデヤ)

生活に溶け込みやすくデザインと実用性のバランスが取れたモノ、眺めるために置きたいアンティークの様なたたずまいのモノ、経年変化の面白さを楽しみながら自分の手になじむように育てられるモノ、甘くなり過ぎず魅力的なモノ、驚くような面白いコト、未来のコトを考えながらモノづくりをしている雑貨メーカー。

取り扱いアイテム:プランター、ポット、盆栽鉢、生活雑貨など

公式ホームページはこちら
https://hinodeya-kyoto.com/

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