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アフターコロナに向けてできることを

2022年8月に公開した「EXHIBITION 2022AW」でも述べた通り、2015年の国連でのSDGs採択から2030年の目標達成期限まで今年でちょうど半分を過ぎたが、達成度合いに対して3年連続ランクダウンの日本にとっては、まだまだ課題が多く残されている。昨今、さまざまなファッション関係者の方々に話を聞くなかで、多く出てきた言葉は「アフターコロナ」と「ウィズコロナ」だ。

既に海外では「アフターコロナ」が定着し、イベントの開催は勿論、渡航や流通に関しても大きく回復している一方、日本は依然として「ウィズコロナ」が主流となってしまっている。売り手に対しては行政の対応や海外渡航のハードルの高さなど、経済に関与する課題が残る。一方、買い手についてはコロナ禍で抑えていた消費活動がまだ再開しきれていない。アフターコロナに向けての日本の対応が海外と比べ、動きが遅いのが現状だ。

そんな状況の日本だが、続く円安の影響もあり、海外からの注目が増えていることも予想されている。現に日本国内での販路よりも海外に販路を広げようと戦略をたてるブランドや、コロナショック以降から海外のシェアが大半を占めるようになったというブランドもあると聞く。売り手も生き残るためにできることを改めて考え直し模索しているのかもしれない。

以前に「ファッションとカルチャーの架け橋 PROJECT TOKYO」でも紹介した「PROJECT TOKYO (プロジェクトトウキョウ)」も、コロナショックの影響を大きく受けた合同展示会の一つである。強みでもある海外とのマッチングがコロナ禍でできていなかったが、少しずつ海外との繋がりを取り戻し、日本企業と海外の繋ぎ手としての機能はもちろん、現在の環境問題やSDGsに対しての考えを展示会に盛り込み、来場者に想いや取り組みをしっかりと伝えようとしていた。

その姿勢が、今注目されている「サステナブル」や「SDGs」がファッションにより形骸化してしまっている点や、コロナショック以降のモノづくりやブランドとしての生き残り方のヒントを示しているように感じた。

PROJECT TOKYO 2022 AUGUST
開催期間:2022年8月30日(火)~8月31日(水)
会場:東京国際フォーラムE1ホール・LOBBY GALLERY
https://www.project-tokyo.com/
※PROJECT TOKYO 2022 AUGUSTの会期は既に終了しています。

WOBE
https://www.project-tokyo-info.com/wobe/s/

本来の形を取り戻したPROJECT TOKYO

今年2回目の開催となるPROJECT TOKYOは、コロナショックから2年半ぶりに海外からのゲスト誘致にも成功し、我々から見ても本来の形を取り戻しているのは明らかだった。

代理店経由ではなく、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどの海外から直接ブランドも出展していたり、海外の有名バイヤーもゲストとして会場を見て回るさまは、コロナショック以前の本来のPROJECT TOKYOが理想とする形だ。

また、それ以外に今回の会場で目についたのは、SDGsの各ゴールを来場者に視覚化して見せる「Be Conscious of SDGs (ビー コンシャス オブ エスディージーズ)」というエリアや、フードロス・フードウェイストを解決する企業がアップサイクルした商品を紹介する「グッドさいくるフェスタ」というエリアがある。

これらはPROJECT TOKYOが掲げる「connecting fashion + culture (コネクティング ファッション + カルチャー)」というコンセプトに沿い、ファッションだけでなくカルチャーや地球環境という側面をしっかりと来場者に伝える内容となっていた。

そんな本来の姿を取り戻しつつあるPROJECT TOKYOのなかでも、「アフターコロナ」を見据えた新たな市場への挑戦や、サステナブルの在り方などを模索している出展社の特徴も交えて紹介していく。

過去の記憶を現代に繋げる

メイン会場とは異なるB1Fのハイエンドブランドを集めたロビーギャラリースペースの入口で、初めに迎えてくれたのが、2016年にデシリー・ニコル氏が立ち上げたアメリカのブランド「TODD PATRICK (トッドパトリック)」だ。

PROJECT TOKYOには初出展および日本初上陸となるTODD PATRICKは、細部までこだわった自身のコレクションが繊細な感性を持つ日本人に共感してもらえると考えて、アメリカの次のマーケットとして日本を選んだそう。

実際に紹介されたコレクションは、過去の文化や歴史を自分たちのフィルターを通し、現代的にアップデートしている。たとえば、パンツにアイロンをかけてプリーツを作っていた古き良き文化を参考に、現代の技術を用い、細かいステッチでプリーツを入れるなどしたレザーショーツや、どこか懐かしい重ね着風のシャツなど、使用する生地へのこだわりが見て取れる。

パンツの中心の折り目を縫うことで真っすぐなラインを保つように工夫

ただ新しいだけではない、どこか温もりや懐かしさを感じさせるTODD PATRICKのコレクションからは、長く着用したくなる良さを感じた。

人の手でしかできないことを

古き良き文化や歴史を現代にアップデートしているという意味では、ウィメンズブランドの「Millanni (ミランニ)」も当てはまる。2010年までイタリアのマックスマーラでデザイナー兼パタンナーを経験した同ブランドの根本貴史 (ネモト タカシ) 氏は、その時の経験をもとにクラシカルなデザインや技術、パターンを活かしながら、「人の手を感じさせるモノづくり」を特に大切にしてきた。

尾州と呼ばれる愛知県尾張西部エリアから岐阜県西濃エリアで作ったというオリジナルのジャガードジャケットは、最終的に織りを自身でカットすることで完成するという。現代の最先端の技術が発達し高機能素材や新しいデザインが増えていくなかで、機械では表現できない人の手にこだわり、繊細な差異を表現することでブランドの存在価値を高める。

ベビーアルパカストールの切れ端を使用した「レースドレス (写真中央)」と「アーガイルジャガードジャケット (写真右)」

独自のサステナブル表現

ファッションを楽しむ上で皆一度は既視感を覚えたことはないだろうか。それは何かに似ているとか、どこかで見たことがあるというように色んなケースがあるが、「UNKNOWN PRODUCTS (アンノウン プロダクツ)」のブースで感じたのは全く別の既視感だ。ブランドを代表するアイテムという「Leather Paper Bag (レザーぺーパーバッグ)」は、街中で見かけたブランドの紙袋を使い回す女性から着想を得て生まれ、UNKNOWN PRODUCTS流のサステナブルを表現している。

革製品ではあるものの、とにかく「紙袋っぽさ」を表現し、なるべくバッグに見えないようにこだわったという。捨てられるようなものを作らないようにしていきたいという、デザイナーの高手祐弥 (タカテ ユウヤ) 氏の想いが強く現れているアイテムだ。くたくたやボロボロになっても大事にしたいと思われるものが増えることで、「結果的にサステナブルに繋がるのでは」と語る高手氏のその言葉に大きな重みを感じた。

「Leather Paper Bag (レザーペーパーバッグ)」

ファッションブランドではない強み

最後に紹介するのは、海外へ販路を広げる目的で今回の出展を決めたという「norbit by Hiroshi Nozawa (ノービット バイ ヒロシノザワ)」。デザイナーの野澤広志 (ノザワ ヒロシ) 氏は、ファッションブランドが毎シーズンフルモデルチェンジすることに疑問を感じ、ブランドのコンセプトを確立した。それはライフスタイル・アウトドアブランドとして「外遊び」を目的とし、機能性を備えた100年先も継続し得るブランドにするというもの。

そのなかでも特徴的だったアイテムは、US ARMYの素材からインスパイアされたメッシュパーカージャケットだ。インセクトシールドという虫除け加工が施され、まさに「着る蚊帳 (カヤ)」と呼んでも良いような特徴的なもの。独自のサイクルでモノづくりをするnorbitだからこそ、自分たちが気持ちよく楽しく着るための道具を、ファッション業界のサイクルに捉われず常に進化し提供しているのだ。

「Insect Shield Jacket (インセクトシールドジャケット)」

ファッション業界で生き残るために

コロナショック以降、まだまだ手探りで生き残る方法を模索している作り手や売り手も多いファッション業界で、本来の形を取り戻しつつあるPROJECT TOKYO。自社商品の可能性に確かな自信をもち販路を広げようとしているブランドが多いように感じた。それは「モノづくりに真摯に向き合う」ことと、ただ良いものを作るだけじゃなく「長く大切に使用してもらえるものを作る」という、トレンドに左右されないマインドがそうさせているのかもしれない。

その考えはファッション業界の課題でもあるSDGsが掲げる「12.つくる責任、つかう責任」にも大きく関わり、モノづくりと向き合い、長く使ってもらえるモノを作ることで、それが結果的にサステナブルに繋がるのだ。

今回の取材では、そんな想いを持つ作り手を大切にし、環境に配慮した取り組みを行うPROJECT TOKYOが今後のファッション業界で生き残っていくヒントを指し示しているように感じた。そして、この考えや取り組みが広がっていくことが、2030年のSDGs目標達成にも少なからず関わってくるのではなかろうか。

我々MMD TIMESは今後もPROJECT TOKYOの変化に注目していきたい。

掲載ブランド紹介

TODD PATRICK (トッドパトリック)
2016年にアメリカで生まれたメンズウェアブランド。デザイナーであるデシリー・ニコル氏が70〜80年代のファッションやカルチャーを現代的に落とし込み、リラックスなシルエットにユニークなテキスタイルを組み合わせ、昔からのディテールに技術を加えて表現している。

取り扱いアイテム:メンズウェア

公式ホームページはこちら
https://www.toddpatrick.co/


Millanni (ミランニ)

デザイナーである根本貴史 (ネモト タカシ) 氏と伊藤理恵子 (イトウ リエコ) 氏が「シルエット」「素材」「プロセス」「仕立て」の四つに重点を置いて手がけるブランド。昔のものを尊重しながらも、職人の手を加えることにこだわり、1点1点時間をかけて生産することをコンセプトとしている。

取り扱いアイテム:ウィメンズウェア

公式ホームページはこちら
http://millanni.com


UNKNOWN PRODUCTS (アンノウン プロダクツ)

日本のプロダクトブランドとして2019年より発表を開始したunknown productsは、商品ごとに異なる明確なコンセプトと、良質な製品を生み出していくことを目的とし、妥協することのないモノづくりを国内生産にこだわり行っている。

取り扱いアイテム:バッグ、財布、アクセサリー

公式ホームページはこちら
https://www.unknownproducts.jp/


norbit by Hiroshi Nozawa (ノービットバイヒロシノザワ)

「膨大な年月を経ても色あせない」をコンセプトに、デザイナーの野澤広志 (ノザワ ヒロシ) 氏が提案するライフスタイル・アウトドアウェアブランド。先人の生み出した技術、機能美にこだわり心地よい休日のための一着を提供する。

取り扱いアイテム:メンズウェア

公式ホームページはこちら
https://www.norbit.jp

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