2022.06.14.tue

Nicetime Mountain Galleryが広げる新しいアウトドアショップのカタチ

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自由度の高い店舗形態

昨今のアウトドアブームと先行きについては「アウトドアブームの行方 2022」でも言及したが、引き続き市場の拡大は留まらない。

そんななか、今回は独自の店舗運営とセレクトでファンを増やす「Nicetime Mountain Gallery (ナイスタイム マウンテン ギャラリー)」を取材した。

Nicetime Mountain Gallery (ナイスタイム マウンテン ギャラリー)
https://nicetime-mountaingallery.jp/
「“Access to the Beautiful Scene” to have a Nicetime (素晴らしい大自然のなかで素敵な時間を過ごそう!)」をテーマに、アウトドアフィールドでより豊かな時間を過ごせるようなアイテムを取り揃えるアウトドアセレクトショップ。

Nicetime Mountain Galleryは東京都渋谷区幡ヶ谷にあるアウトドアセレクトショップで、京王線の幡ヶ谷駅から徒歩10分程度の住宅街に店舗を構え、国内外のアウトドアギアからオリジナルのアイテムまで、その名の通りギャラリーのように展示し販売する。

外観はアウトドアショップというより、カフェのようなグレーを基調としたスタイリッシュな佇まいで、実際に店内では珈琲やジェラートなども提供している。

今回取材を行ったのは、同店のショップマネージャーを務める石井統 (イシイ オサム) 氏と、ディレクター兼バイヤーの田中紘一 (タナカ コウイチ) 氏。2017年にオンラインショップを立ち上げ、2018年の店舗オープンも携わってきた創業メンバーであるお二人に話を伺った。

こだわりの商品構成で伝える

Nicetime Mountain Galleryについて教えてください

− 石井氏コメント:社名にも入っている「Nicetime (素敵な時間)」という言葉は、自分たちが自然やアウトドアが好きだったこともあって、「遊びのなかで感じる自然の魅力を、お客さまにも味わってもらうきっかけを提供したい」「より素敵な時間を過ごしてほしい」という想いから、2017年にアウトドアギアを中心に提供するオンラインショップを、翌年2018年には実店舗をオープンしました。

営業形態は少し変わっていて、開店当時からオンラインショップと実店舗を二人でやっていたこともあり、店舗は土日祝日のみオープン、平日は予約制という形をとっています。

石井統 (イシイ オサム) 氏

お二人の業務内容は?

− 石井氏コメント:ショップマネージャーとして運営に関わる業務全般や、情報発信のメインであるInstagramやFacebookなどの管理、PRなどを担当しています。人とコミュニケーションをとるのが好きなので、ショップ運営の責任者として、まず自分たちがアウトドアを楽しみながら、それをお客さまにちゃんと伝えるということを大事にしているんです。

− 田中氏コメント:ショップのディレクター兼バイヤーとして、バイイングとオリジナル商品の企画やイベントの企画立案担当です。10年以上アウトドア業界に携わっていた経験をもとに、そのなかで感じてきた商品やマーケットの流れを汲み、他社と差別化できるような商品選定や企画などを考えています。

田中紘一 (タナカ コウイチ) 氏

ギャラリーとしてきっかけをつくる

大切にしていることはありますか?

− 石井氏コメント:アウトドアショップ特有かもしれませんが、実際に山に登ったり、キャンプに行ったりすることです。フィールドに行くと、使用するギアに対して感じることや、行ったことで自分自身がどんな気持ちになったかなど、商品以外に対してもお客さまに伝えたいことが増えます。そういった遊びのなかで感じたことや、得た経験をショップでお客さまに直接伝えるというのを大切にしているんです。

駅から離れた住宅街までわざわざ足を運んでくださるお客さまのなかには、当店ならではのセレクト商品や、イベントなどに魅力を感じてくださる方も多いと思うので、より色んなことを話して情報交換したいですね。

− 田中氏コメント:アウトドアギアがたくさんあるなかから、自分に合うものを見つけるのが好きっていう人も多いと思いますが、増え続けるブランドと商品量に、情報過多でストレスを感じる人もいると思うんです。

いままで数多くのギアを実際に使ってきた僕達のフィルターを通すことで、そういった方がストレスなくギア選びを楽しめる手助けになれるような商品選定を心がけています。

Mountain Galleryという名前は、ただ商品を販売するのではなく、自然を愛するアーティストの個展や、多彩なイベントも開催するギャラリーのような場所にしようという意味も込めています。

アウトドア好きな方以外にも、インテリア好きな方、アート好きな方など、たくさんの方に異なる視点で自然の魅力を伝えたいので、多くの方にアウトドアを通しさまざまな楽しみを提供したいですね。

商品もギャラリーのように陳列されていますね?

− 石井氏コメント:はい、自分たちが使ってみて気に入った商品や、作り手の思いが詰まっている商品を中心に、なるべく1点1点に焦点が当たるギャラリーのような展示を心がけています。商品ごとに余白を持たせることで、それぞれをしっかり見ていただけます。

また、カラーバリエーションも時期や売場のバランスに合わせて全てを展示せず、あえて一部はバックヤードに引いたりもするんです。このように膨大な商品展開で埋もれがちなアイテムも、厳選し展示することで、商品の背景にあるストーリーもしっかりとお客さまに伝えられるように意識しています。

ストーリーがあるモノ

おすすめ商品を紹介していただけますか?

− 田中氏コメント:ここ数年アウトドアだとキャンプが人気で、そのなかでも焚き火を楽しむ方が非常に増えてるんですけど、それをさらに深く楽しむための鉈 (なた) を、デザイナーの熊野亘 (クマノ ワタル) 氏とオリジナルで作りました。

薪割りって斧のイメージが強いと思いますが、たくさん割るわけでなければ、日本で古くから使われている鉈のほうが、軽くコントロールしやすいため、女性にも扱いやすいんじゃないでしょうか。

− 田中氏コメント:最初から鉈を作ると決めていたわけではなかったんですが、熊野氏との商品開発プロジェクトが動き出した際、そもそも道具とは何なのかを考え、「今本当に必要なものは」と意見を出し合って、最終的に鉈の開発に至りました。結果、背景もしっかり伝えられるオリジナルアイテムが出来上がったんです。新潟県燕三条市の刃物に、シリコングリップやレザーカバーなど細部までこだわって仕上げました。

また、焚き火台も今非常に人気でたくさん種類がありますが、うちでセレクトしている「we know enough (ウィー ノウ イナフ) 」の焚き火台は、「炎から草花を守る、自然に優しい焚き火台」というコンセプトで、火床に加えて灰受けもついた二重構造により、地面や植物になるべくダメージを与えないように考慮されているんです。

このような自然環境に配慮した考えに共感できる製品や、ストーリーのある製品をうちのフィルターを通して選定し、お客さまが選びやすい売場や店舗になるよう心がけています。

熊野氏と共同開発をした鉈「NMG 001 Nata」
焚き火台「we know enough」

コミュニケーションが取りやすい店舗づくり

エンドユーザーに期待することは?

− 石井氏コメント:ショップはコーヒースタンドも併設し、週末はバリスタを呼んでコーヒーや焼き菓子、クラフトビールやジェラートも提供しています。

お店自体はそんなに大きくないので、人によっては入店してから1分も掛からずに見終わりますが、コミュニケーションが取りやすい店舗設計にしているので、買い物だけでなく食べたり飲んだりしながら、ゆっくり店内での時間を楽しんでいただければと考えているんです。

何かモノを買うという目的以外にも、実際に店頭にあるものを使用して、アウトドアを楽しんでいる私たちとの対話から、アウトドアギアのリアルな使用感やおすすめのキャンプ場の情報など、商品以外のコトも持って帰っていただけたら嬉しいですね。

今後の未来や展望などありますか?

− 田中氏コメント:東京を拠点にする僕らの悩みとして、遊びに行こうと考えたときにアウトドアフィールドが若干遠いと思うことも多いんです。そういったこともあって、ゆくゆくはフィールドに近い場所に拠点を増やすことも考えています。

遊ぶことも仕事ですし、アウトドアの環境が整っている場所に店舗を作ることで、新しい商品が届いたときに、すぐに試してお客さまにより早く伝えられますよね。移り変わりが激しい業界だからこそ、スピード感をもってお客さまに情報を届けられるショップにしていきたいです。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

アウトドア業界のこれから

止まらない市場拡大により、まだまだ盛り上がりをみせるアウトドア業界だが、それによりさまざまな問題も起きているのが現状だ。急激に増えたライトユーザーによるマナー問題や、ネットで人気商品の高額売買が横行し、廉価なコピー品が多発するなど、このままでは業界自体の質が落ち、自然やアウトドアを心から好きな人々が離れてしまう恐れも出てきている。

そんななかNicetime Mountain Galleryは、ただ商品を売るだけではなく、実店舗での対話・コミュニケーションに重きを置き、自然の大切さや楽しみ方を、ストーリーやリアルな意見を添えて消費者に伝えていくことで、業界全体に警鐘を鳴らしているようだ。

そしてそれはNicetime Mountain Galleryだけでなく、移り変わりの激しいさまざまな業界で、使い捨てされないための解決の糸口ではないかと感じた。

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