2023.03.21.tue

成増から広げるセレクトショップ「Tem」

  • Tem

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ひとあじ違う“古着屋”

消費者がショップに足を運ぶ目的はウィンドウショッピングを含め、基本的には“買い物”である。買う目的以外でショップに何度も立ち寄るのは、やはりどこか気が引けてしまうことがあるだろう。

片やショップ側からすれば、たとえどんな動機であれ、できるだけ多くの人がまずはお店に足を運んでくれることを望んでいるにちがいない。ではどのようにすれば、消費者がもっと気軽に足を運べるようなショップになるのだろうか。

どのショップも消費者の動向を踏まえ、入店するきっかけ作りに日々試行錯誤しているなか、ひとあじ違った趣向を凝らしているのが、今回取材を行ったセレクトショップ「Tem (テム)」だ。主に古着を扱うお店だが、どのような工夫がなされているのだろうか。

同ショップは東京都板橋区の成増にある。この街はたくさんの飲食店やスーパーなどが充実し利便性がある一方で、セレクトショップやインテリアショップなどはほとんどない。

そのためか住宅街を歩いていると、突如として現れる同ショップは異彩を放って目を引く。そんな同ショップでは性別年齢に関係なく、購入目的じゃなくとも消費者が気軽に立ち寄る姿が見られる。

今回の取材では同ショップを手掛ける代表の畑山真子 (ハタヤマ マコ) 氏にショップ作りの工夫や展開、想いについて伺った。ここから消費者が立ち寄りやすいショップ作りのヒントを探ってみたい。

Tem (テム)
https://tem.stores.jp/

アパレル業界に精通する3人、畑山真子 (ハタヤマ マコ)、旭立武基 (ヒタチ タケキ)、芹澤洋明 (セリザワ ヒロアキ) が東京の成増に立ち上げたセレクトショップ。90年代のアメカジを中心とした古着のほか、生花や観葉植物、オリジナルブランド商品などを取り扱う。地域密着から全国への発信を目指し、ライフスタイルにまつわる数々のコラボレーション企画やイベント開催を積極的に行っている。 

性別年齢問わず入りやすくなる店作り

Temについて教えてください

− 畑山氏コメント:古着屋とお花屋が融合したようなセレクトショップで、取り扱っているアイテムには古着だけでなく、PBや生花、観葉植物などがあります。前職が同じ大手アパレル企業という共通点がある3人で立ち上げたショップで、以前から家族ぐるみでも仲が良く、よくみんなで一緒に飲みに行ったり旅行をしたりしていたんですよ。

そうしたなかで、「古着を扱うセレクトショップを作りたい」と意気投合し、2021年にここ成増にTemをオープンしました。

なぜ成増にショップを構えたんですか?

− 畑山氏コメント:代表の一人が以前から成増に住んでいたので、この街で遊ぶことも多く愛着がありました。あえて東京の真ん中ではなく、成増のように少し都心から離れた場所で、のんびり地域の方々と街を盛り上げながらショップを運営するのもいいなと思い、この地を選んだんです。

古着と生花の組み合わせは珍しいですね

− 畑山氏コメント:基本的に私たちが扱う古着のスタイルはアメカジなのですが、そういう雰囲気の古着屋さんって、一般的にちょっと女性が入りづらいイメージがありませんか?

女性のお客さまや、アメカジなどの古着のことをよく知らない方にも来店してもらえるような、新しいイメージのショップにしたくて、生花を取り扱うことに決めたんです。

そもそも私自身も花が大好きでしたから、これまで培った洋服や雑貨のディスプレイの技術を活かしつつ、生花と洋服でデコレーションすれば、きっと今までにない印象の新しいショップができるだろうと考えました。

華やかな生花をお店のファサードに配置し、生花のまわりはレディースのアイテムを並べています。

− 畑山氏コメント:実際には生花を見て、女性だけでなく男性のお客さまも多く来られるんですよ。心地よい空間に性別は関係ないですよね。

代表3人が創るショップの世界観

商品選定は3人でされているのでしょうか?

− 畑山氏コメント:「90年代のアメリカ古着に合うモノ」というコンセプトを基本として、3人で取り扱うアイテムを選んでいます。

このコンセプトのほかに、お客さまが喜んでくださるかどうか、自分以外のほか代表二人が気に入るかどうか、世の中のニーズに合っているかどうか、ということを熟考してから候補を持ち寄り議論を重ねていますね。

その結果、古着でいう王道のアメカジやアウトドアファッション、女性が好みそうなはっきりとした色彩の服、おもしろ雑貨といった、それぞれの好みのアイテムが混在している“3人の部屋”のような空間ができあがりました。

3人の世界観が店内を賑やかにし、お客さまからも「それぞれの個性が光っていておもしろいですね」と喜んでいただけています。

今のオススメ商品をご紹介ください

− 畑山氏コメント:雑貨ではアメリカのテキサス州から仕入れた、ガソリンスタンド「Buc-ee’s (バッキーズ)」のキャラクターグッズがおすすめです。

このシリーズはお客さまの反響が良く、私たちも見れば見るほど愛着が湧いてきたので、だんだんと取り扱いアイテムの種類を増やしていきました。

バッキーズのマスコットキャラクター「Bucky (バッキー)」グッズ

− 畑山氏コメント:他には、サブカルチャーに対する深い愛情と光るセンスを持つ、イラストレーターの平沼久幸さんのトートバッグもおすすめしたい商品ですね。

平井久幸氏のポップなイラストが描かれたトートバッグ

− 畑山氏コメント:それから「メキシコ925シルバージュエリー」も外せません。こちらはL.A.から仕入れたもので、ラグジュアリーブランドが扱っている素材と同等のクオリティを、手に取りやすい価格でご提供しています。

L.A.から仕入れた高品質素材のシルバーアクセサリー

− 畑山氏コメント:洋服の人気商品は、PBの「マシュマロマン スウェット」です。カリフォルニア州でデビューし、雑誌「POPEYE」でも活躍されているイラストレーターのGramas (グラマス) さんとコラボした商品で、一度は完売したほどの人気アイテムなんですよ。

Tem × Gramas オリジナル商品「マシュマロマン スウェット」

− 畑山氏コメント:花や観葉植物関連の商品では、これからのスプリングシーズンに合わせて、アリウムの“クレイジービーンズ”、ポピー、チューリップなど、お部屋を明るくするようなものがおすすめです。また、部屋に吊るすタイプのコウモリランは、ペットが植木にぶつかって部屋を汚したり、ケガをするなどの危険もなく、特に室内でペットを飼われている方から人気があります。

そして花器はアメリカのビンテージやオランダ製など、日本ではあまり見かけない鮮やかな色のモノばかり揃えているので、お花を生ける以外にも花器単体で飾っていただいてもオシャレですよ。

季節によって変わる生花の販売
鮮やかなカラーが揃う海外製花器

地元に根付くショップの取組み

お店作りで何か工夫していることはありますか?

− 畑山氏コメント:お客さまがお店に気軽に足を運んで楽しんでいただけるような機会をたくさん作りたいので、入口のウッドデッキのスペースを利用して定期的なイベントを開催しています。

具体的には、地元のパン屋さんや農家さんの商品を販売したり、また地元のお店だけでなく、沖縄の焼き物「やちむん」の販売をしたりといったポップアップイベントなどです。

そのほか、ミルクティーのケータリングサービスで人気の「MILKTEA SERVICE (ミルクティー サービス)」さんとのコラボレーションや、イラストレーターのGramas (グラマス) さんや平沼久幸 (ヒラヌマ ヒサユキ) さんのイラスト販売、田中草樹 (タナカ ソウジュ) さんとのコラボネコの販売、ビーチサンダルをカスタムするワークショップの開催など、さまざまな角度から見た生活にまつわる、とにかくおもしろそうと思ってもらえるような内容のイベントを開催しています。

これまでに行ったポップアップイベントやコラボの様子

− 畑山氏コメント:こうした多種多様な方々とコラボレーションすることで、性別年齢に関係なく、どなたでも気軽に足を運べる場所にできたらいいなと思っているんです。イベントがきっかけでショップの存在を知ってもらうだけでなく、このお店に集まる人同士が仲良くなってくれるのもまた、私たちにとって喜びですね。

一度お店に足を運んでくださった方は、その後もふらっと立ち寄ってくださっています。ときには若い学生さんから恋愛相談を受けるなんてこともあるんですよ(笑)

買う目的じゃなくてもこうやって気軽に立ち寄ってくれると、このショップが信頼されているなと感じられて嬉しくなります。

ショップとしての将来のビジョンはありますか?

− 畑山氏コメント:このショップを次世代に継がれていくような愛されるお店にできたらいいですね。

成増から発信した“楽しい時間の体験”を、世代や性別を越えてたくさんのお客様と共有し、誰でも気軽に立ち寄れる「憩いの場」のようなショップにすることが理想です。

そのために、さらに地元のみなさんが喜んでくれるようなイベントの企画をしたり、日本各地のポップアップイベントへの参加を積極的に増やしたりして、Temを通した交流の輪を広げていこうと思っています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

ショップ作りは仲間作り

Temはセレクトショップというカテゴリに収まることなく、楽しめる場所の提供として誰でも参加しやすい入口を作っている。

その入口とは、同ショップが企画するさまざまなイベントのことで、イベント内容は必ずしもTemの商品にまつわるものとは限らない。おもしろいコトやモノであればさまざまな企業とコラボレーションし、地元の人々をはじめ多くの消費者が喜ぶことを第一に考え開催しているのだ。

ユニークな企画を積極的に取り入れる背景には、売り手と買い手という当たり前の関係性よりもむしろ、“仲間”として関係を築くことへフォーカスしているのだろう。

その結果、消費者にとってセレクトショップというカテゴリを越え、楽しいことがあるお店として、気軽に足を運べる場所となっているのだ。同ショップにおいて、消費者が気軽に足を運べる「ショップ作り」とは「仲間作り」なのだろう。

このような消費者と距離を縮めるアクションは、その地域の活性化につながるだけでなく、今後ライフスタイル業界全体においても消費者の本音を知り、新境地を開くカギとなっていくのかもしれない。

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