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トートバッグブランドROOTOTEの歩み

技術の進化や時代の変化に伴い、消費行動が変わりつつある。Z世代と呼ばれる1990年代半ばから2010年頃に生まれたデジタルネイティブな世代が消費活動を始め、消費行動の変化にも拍車が掛かっていることから、マーケティングの対象として注目を集めている。

その特徴の一つに「個性の重視」がある。Z世代は幼い頃からインターネットに触れ、さまざまな情報を目にし、世界中の人々と交流できることが当たり前という認識を持った世代だ。ダイバーシティな世界で生きるが故に、モノを選択する際の基準に「自分らしさ」や「自分にとっての価値」が挙がるのも必然といえる。

そして、あらゆる業界の企業は、この消費者の変化についていかなければ存続は難しいだろう。今、必要とされているのは、「個性を表すモノ」「一人ひとりの価値観に寄り添うモノ」ではないだろうか。

このように消費行動が著しく変化するなか、常時2,000SKU以上のトートバッグを扱うトートバッグ専門ブランド「ROOTOTE (ルートート) 」の昨今のラインアップが面白い。

全国で展開するベーカリー「アンデルセン」とのコラボレーションで生まれた、パンをやさしく持ち帰るためのエコバッグの開発や、多肉植物をモチーフに作品を生み出すアーティスト「GIRUVI (ギルヴィ) 」と開発した多肉植物を運ぶためのトートバッグ「Planta (プランタ) 」など、汎用性の高い点が長所であるトートバッグに、あえて運ぶモノの制限を設けることで、「持ち手の個性を際立たせること」や「トートバッグの使い分け、複数持ち」の提案をしている。

今回取材したのは、同社代表取締役の神谷富士雄 (カミヤ フジオ) 氏。前述のコラボレーション商品を含む数々の商品開発の裏側やトートバッグの現状、ROOTOTEの今日に至るまでの歩みから目指す未来までを伺うことができた。現代に起きる変化のなかで立ち止まっている人は、同氏の言葉から逆風を追い風に変えるヒントを探してみてはいかがだろう。

ROOTOTE (ルートート)
https://ROOTOTE.jp/
2001年の誕生以来、「Fun Outing!〜楽しいお出かけ!〜」をお届けしているトートバッグ専門ブランド。目印はRマークのブランドタグ。カンガルーのおなかの袋からヒントを得た「ルーポケット」がアイデンティティ。ひとりひとりの個性や価値観を大切にしながら、お気に入りが見つかる豊富なデザインバリエーションを提案している。

事業継続のためのブランド化

ROOTOTEの立ち上げに至った経緯を教えてください

− 神谷氏コメント:株式会社スーパープランニングから事業独立し、2019年4月に株式会社ルートートを設立、2001年にトートバッグ専門ブランドROOTOTEをスタートしました。ブランドのスタートは、3つの観点から総合的に市場を分析した結果です。

一つ目は、時代背景。スーパープランニング設立時、今から40年ほど前の世の中には、アメリカのライフスタイルに強い憧れがありましたよね。80年代はロフトや東急ハンズなどの総合小売店ができ、「雑貨」というモノがマーケットに広がっていくことに伴い、我々もそのフィールドで幅広くモノづくりを行なっていました。

しかし、90年代に入るとバブルも崩壊し、アメリカのやり方をそのまま日本で踏襲するのではなく、日本独自の商いを行う必要があると気付き始めたんです。そして2000年代へ入る前に、「このタイミングで変わらなきゃ」という思いもあって、ありとあらゆる物を作ってきたこれまでの形態とは違うビジネスモデルを作ることにしました。

− 神谷氏コメント:二つ目は、多種多様な物を作り続けてきたことへの自問自答です。管理の問題はもとより、ありとあらゆる物を作って商売を広げた結果、「自分たちって何者なんだろう」という気持ちが大きくなってきました。

これは三つ目の“イズム”にも通じるのですが、私の家系は戦前まで400年以上ものあいだ忍冬酒というお酒を作り続けていた造り酒屋です。そうしたバックグラウンドから事業を見つめ直したときに、「何か一つのブランドとしての事業をした方が、この先の継続を考えたときに強みになるのでは」と判断したんです。そこで注目したのがトートバッグでした。

なぜトートバッグなのでしょう

− 神谷氏コメント:世界中どこにでもあるプロダクトですが、日本人だからこそ気付ける細かな機能やデザインでトートバッグをブランディングすることに可能性を感じました。

従来のトートバッグは、アウトドアで水や氷などの物を運ぶために開発された流れを汲んでいます。そのため、他のカバンのようにポケットなどの機能がほとんど付かないシンプルなデザインが特徴です。

それが故に、トートバッグの中の物を探すために、ゴソゴソとバッグ内を漁るといった光景を見かけたことがあると思います。そうした場面に日本的な几帳面さや丁寧さ、所作といわれるものを吹き込みたいと思いました。欧米ではバッグをひっくり返して物を探すシーンに遭遇することもありますが、日本人の性格上そういうことができる人は少ないですしね。

その日本人の“所作”を意識してカタチにしたものの一つに、「ルーポケット」があります。このポケットは、肩がけしながらでもスマートに物の出し入れができるよう考えて設計されていて、ルートートの全商品に付いているブランドのアイデンティティです。

カンガルーのおなかの袋からヒントを得たルーポケット

トートバッグはコミュニケーションツール

どんなブランドでありたいですか?

− 神谷氏コメント:お客さまにとって、「いつでもどこでも一緒にいる相棒」みたいな間柄であってほしいですね。メインのバッグとして主役であっても、脇に抱えるモノだけに脇役であってもいいと思っています(笑)

また、消費者に「カバンとトートバッグの違い」を明確に分けてもらうことが私にとってのミッションです。トートバッグは物を運ぶという機能だけが本質ではなく、好きな物を身に付けるマインドや、それを周りに示すことでコミュニケーションを生むという存在価値があります。

カテゴリとしてカバンは既に確立していますが、かつてのTシャツがそうであったように、トートバッグもカバンの一種ではなく、一つのカテゴリとして成立するように普及させていきたいです。

トートバッグを含め、雑貨はコミュニケーションツールだと思っているので、その時の気分や好きなことを表現するためのツールとして消費者と共にあるブランドでありたいですね。ROOTOTEの展開するトートバッグは、商品バリエーションに富んでいるので、消費者にもショップにも、満足してもらえる品揃えだと思っています。

膨大な商品数ですが、どのように商品開発をされているのでしょうか?

− 神谷氏コメント:多様なファッションおよびライフスタイルに適するデザインバリエーションを提案するため、「アートやデザインに関心がある」「ナチュラルが好き」「サステナビリティを重視する」などのペルソナを設定し、クラスターごとにチームを編成、その後、商品に落とし込んでいます。時代に合わせて、そのペルソナがどういう物を欲しているか、その気持ちに寄り添った商品を開発しています。

環境配慮の視点で生まれたトート「ルー・ガービッジ」

そこから生まれる商品は年間1,000SKUほどで、常時2,000SKUもの商品からセレクト・購入が可能です。なかには継続して出している定番商品もあれば、期間限定で販売されるものもあります。そのほかにも、OEMやコラボレーションなど多岐に渡って商品を開発しており、このような幅広い展開は当社の強みの一つです。

個の主張と女性的感性の重要性

消費者や業界に期待することはありますか?

− 神谷氏コメント:消費者には、ぜひモノを「自分の“好き”」で選んでもらいたいですね。「欧米で有名なブランドの物」「SNSや著名人の間で流行っている物」、そればかりに好きの領域を持っているのは勿体無いと感じます。「エスプリを感じるから」という理由でモノを選択する時代は終わり、表面的ではなく、“自分の目で見つめたうえで選択すべき時代”になりました。これは消費者に限らず、働いているスタッフにもそういう気持ちを持ってほしいと思いますね。こういった想いに共感する人、ファンやアンバサダーを増やしていきたいです。

ライフスタイル業界全体を通しても、同じことが言えますよね。消費者がそうであるように、売り手も“自分のライフスタイル”をショップにできる時代です。そういったショップが台頭するなかで、これまでのように売れているモノやエスプリを感じたモノを、そのまま展開するような表層的なショップや売り場では時代の流れに置いていかれる気がしています。

スタッフひとりひとりが自己主張していくこと、自我を啓蒙していくことがこれからは必須で、その個性や主張を取り入れ、ショップとして表現していくことが大切ではないでしょうか。

最後に、今後の目標があれば教えてください

− 神谷氏コメント:トートバッグを通して、現代の男性社会からの解放の一端を担いたいですね。トートバッグは、その日の気分やシーンで使い分けをしたり、好きなものや好きなことを表したり、使用イメージが女性へ感覚的に伝わりやすいアイテムだと思っています。一方で、男性には伝わりにくいんです。

男性にそういった女性的な感性のあるライフスタイルや心の豊かさのようなものをわかってもらうことが、私のなかで一つのバロメーターになっています。

ポケットチーフにもなるエコバッグは男性も携帯しやすいアイデア商品

− 神谷氏コメント:例えば、「堅いイメージの男性が可愛いトートバッグを持っている」という豊かさのある社会になってほしいですね。男性が当たり前にトートバッグを持つ時代が来れば、現代社会にも変化が訪れると信じています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

変化する消費者とモノのあり方

取材中、同社の面白い取り組みを耳にした。月に1度ほど「お茶会」というオンラインでの社内交流の場が設けられるというのだ。勤務地や部署を超えて、好きなことや好きなもの、趣味の話まで、業務時間内に雑談をするという文化がこの会社にはある。

目的はスタッフ間の関係性強化だけではなく、マーケットを考えること、企画の種を膨らませることにもあるそうだ。社内スタッフの“個”を見つめることは、消費者の“個”を見つめること、個の好きを意識したモノづくりを行う会社ならではの“らしい”取り組みだと感じた。

現代のマーケットに必要とされる、「個性を表すモノ」「一人ひとりの価値観に寄り添うモノ」をまさにカタチにしているROOTOTE。トートバッグの現在のあり方から社会情勢を読み取り、その変化を社会変革の指標に設定する神谷氏に驚いた。トートバッグに限らず、一つのモノが世の中でどのようなポジションにいるかを分析することは、過去と未来のマーケットを捉えるうえで重要ではないだろうか。

モノの価値は時代や社会とともに常に変化し、消費者がモノを選ぶ基準も変化している。同社のトートバッグがそうあるように、自社で扱うモノを見つめ直し、社会への関わりや世の中での立ち位置を知ることが、ブランドの変化をもたらすヒントになるのかもしれない。

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