2022.11.08.tue

KEYUCAが探求する“ちょうど良い“モノづくり

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ライフスタイルの提案とモノを生み出すこと

ライフスタイルショップとは生活に必要なインテリアやファッション関連用品を、同じコンセプトやブランドイメージで展開もしくはセレクトし販売する店舗を指す。(出典:ライフスタイル・ショップとは?日本の内装材料辞典)

ここ近年で急激に増え続けていたライフスタイルショップはコロナショックで落ち着きをみせ、多様化する時代に対して、どのような暮らしのどのようなターゲットにどのような製品を提案するのかがより重要視されている。

例えば、それは暮らしや働き方が大きく変化し自宅にいる時間が増えたことで、ソファ一つとってもくつろぐだけでなくリモートワーク用に座面の硬さを求められたり、コンパクトで仕事使いもしやすく落ち着けるラウンジチェアのニーズが増えていたりと、求められる製品やクオリティが変わってきていることからも分かる。改めて、製品づくりについて本当に消費者が求めるコトを考え直すフェーズに来ているのかもしれない。

そんななか、ライフスタイルショップとして全国各地に展開する「KEYUCA (ケユカ)」も、コロナショック最中の2020年に20周年を迎え、これを機に今までやってきたことを振り返り、ブランドとしての方向性や商品構成を大幅に見直して、お客さまが今求めるモノづくりについていま一度考え直したという。

今回は商品企画開発部リーダーとして家具やカーテンなどの主軸商品の開発を担当してきた茂野真幸 (シゲノ マサユキ) 氏に、KEYUCAが考える“モノづくり”を伺い、同社の開発へのこだわりと想いと共に、ライフスタイルショップの本来のあるべき姿を考えていきたい。

KEYUCA (ケユカ)
https://www.keyuca.com/shopping/
生活雑貨、服飾雑貨、家具、カーテン、スイーツ、アパレルなどケユカでしか手に入れることができないオリジナル商品を、お客さまにとっての「ちょうど良いをつくる」をテーマに取り扱うライフスタイルショップ。シンプルなモノづくりを通して、日々の暮らしを心地良いものにしている。

「インテリア」ショップから「ライフスタイル」ショップへ

KEYUCAというブランドについて教えてください

茂野氏コメント:KEYUCAは店舗什器や建築金物などのBtoB向け流通事業を主軸に手がける河淳株式会社が、BtoC向けのインテリアショップとして2000年に立ち上げたブランドです。

元々、河淳株式会社のメインである流通事業部では什器、備品、販促のPOPツールなども手がけており、その他の事業部でも家庭内の金物や住宅部品など、暮らしに身近な製品を多岐に渡り製造販売してきました。そんなさまざまなモノを少しでも手ごろな価格で提供するということをBtoBで進めてきた河淳株式会社が、その技術をもって一般のお客さまにも良いモノづくりを直に伝えていくために生まれたのがKEYUCAです。

河淳株式会社 (カワジュンカブシキガイシャ)
https://www.kawajun.co.jp/
1974年に創業し、現在は流通事業部、ハードウェア事業部、パブリック事業部、ホテル事業部、メディカル事業部、ThreeS事業部、海外事業部などのBtoB向け事業に加えて、ケユカ事業部でBtoC向け家具や雑貨なども手がける企業。

現在は何店舗ありますか?

茂野氏コメント:横浜に1号店を立ち上げてから今年で22年が経ち、2022年10月現在では国内に67店舗を構えています。そんなKEYUCAも20周年を迎えた2020年に、MD構成のなかで新たにアパレルの投入を行い、インテリアショップからライフスタイルショップとして生まれ変わりました。

それまでは家具やカーテンというインテリアを中心に展開していましたが、20周年という節目に改めて自分たちの強みであるオリジナル商品を中心としたモノづくりをしっかりと打ち出していくことに決め、コンセプト自体も「Simple & Natural (シンプルアンドナチュラル)」から「ちょうど良いをつくる」というモノづくりにフォーカスした内容に変更しました。

KEYUCAが考える「ちょうど良い」とは

「ちょうど良いをつくる」とはどのようなことですか?

茂野氏コメント:ただ良いものを作るということや、品質度外視で安いものを作るのは簡単なんですが、買って使って良かったなという満足感は追求すればするほど難しいんです。忙しい生活の中で良いと思っていた商品からもっと便利な商品ができたり、上質だと言われていた商品はよく考えてみると使い心地が悪かったりすることは、今までの当たり前を疑い新しい良さを探し出すことのきっかけとなりました。

変化が早い世の中だからこそ、常にお客さまに「使って良かった」と思っていただけるような商品開発を追求し続けることに我々は時間と労力を惜しみませんでした。

その結果、9割がオリジナル商品で構成され、KEYUCAでしか買えない、KEYUCAでまた買いたいというお客さまの声も増え、モノづくりを強みとした会社である河淳ならではの「ちょうど良いをつくる」という価値観が確立されました。

具体的に「ちょうど良い」商品を教えてください

茂野氏コメント:たくさんあるのですが、特に代表的なのは「arrots (アロッツ) ダストボックス」です。観音開きのダストボックスで、この形状にもこだわっています。パカッと両開きになるところはもちろん、我々はさらにその先を考えてダンパーというパーツを仕込み、ゆっくり静かに閉まるということにこだわり続けて開発しました。

このダンパーを仕込んで静かに閉まるという仕様には自信があり、ここまでこだわっている会社は少ないのではないでしょうか。なぜ我々がそこまでこだわったかというと、日々使用する方の気持ちになり、毎日キッチンなどで使用する方にとって、閉まるときのパタンという生活音の積み重ねがストレスになるんじゃないかと考えたんです。そのために何度も試作を重ねてモデルチェンジをして、やっと今の形が完成しました。

モノづくりが強みの我々だからこそ、ディティールにもこだわって、お客さまが買って終わりではなく、使ったその先にある「ちょうど良い」気持ち良さまで考えるようにしているんです。

累計53万台以上販売しているarrots ダストボックスシリーズ (2022年10月時点)

KEYUCAが考えるエゴにならないモノづくり

働く上で大切にしていることはありますか?

− 茂野氏コメント:私は主にデザインに携わることが多いのですが、KEYUCAではデザイナーの顔が見えすぎるのは良くないと考えているんです。デザイナーが顔として前面に押し出されることも多いインテリアショップやブランドも多いなか、我々はあくまで「ちょうど良い」モノを作る会社なので、自身の個性やこだわりなどは抑え、ブランド自体の個性をクオリティに置き換えられるようにセンスを磨いてきました。

ただベストな商品を作るのではなく、アジャストされた商品を作るのがKEYUCAらしさであり使命だと思っていますし、それこそが20 周年で打ち立てた「ちょうど良いをつくる」というコンセプトのすべてだと思っています。この考えを大切にしているので、チームにも「自分の好きだけで作らないで、ちゃんとお客さまの顔を想像して、誰かの何かのためにモノづくりをしてほしい」と強く言っているんです。

セグメント分けの重要性

「ちょうど良い」をデザインするコツはありますか?

− 茂野氏コメント:よくお弁当箱で例えて話すのですが、我々のターゲットは忙しい共働きのご家庭だったりするので、そこをメインターゲットとした際に水の漬け置きに弱かったり、レンジでは使用できないような曲げわっぱのお弁当箱を作ったりはしないと思います。単に洗練された上品な道具を用意するのではなく、お手入れや取り扱いもしやすい機能的でデザイン性の高いお弁当箱を作るはずです。でも曲げわっぱもとても良いとは思ってますよ。

ただケユカのちょうど良いとは違うという例え話です。機能性とデザイン性のどちらかではなく、両方のバランスを取った商品づくり、そしてバランスこそが我々の“らしさ”でもあって、「ちょうど良さ」のコツだと思っています。

また、製品開発していく上で考え方の基礎となった商品があります。それはKEYUCAの定番タオルシリーズのうちの「抗菌防臭フェイスタオル (3枚入り)」です。このタオルセットは色分けした機能性タオルをセットにすることで、トイレやキッチン、洗面所と使用場所によって使い分けしやすくしました。

「抗菌防臭フェイスタオル (3枚入り)」

− 茂野氏コメント:一般的にはタオルをデザインするとなったら、柄をつけたり刺繍を入れたりなどの見た目を考えることが多いなか、我々はお客さまが使用して心地よく暮らせるように考えることがデザインだと定義したんです。

ご使用される場所について考えて色分けしたのち、トイレやキッチンなどでも使用されるなら抗菌防臭などの機能性も足していったほうがいいんじゃないかと、それぞれをセグメント分けして考えていき開発することで、結果的に多くのお客さまから支持を得た人気商品になりました。

それと同様の考えで「1週間タオル (7枚入り)」も、1日1枚ずつ毎日タオルを変えて1週間使用してもらえるように、KEYUCAらしいくすみカラーのグラデーションにして、日々の使いやすさや楽しさを考え商品開発もしていったんです。今ではセグメント分けしながら、お客さまの気持ちになって考えていくことが開発のベースになっています。

BtoBでのノウハウをBtoCに

その他のオススメ商品を教えてください

− 茂野氏コメント:河淳らしい商品としてもオススメなのがステンレス素材のドレーナーです。これには店舗什器などのステンレス素材の製品に長く携わってきた河淳としてのノウハウが詰まっています。

細かく見ていただければわかるんですが、他社がステンレスの角を切りっぱなしで販売しているのに対して、我々はさらに研磨することで角を丸くし安全性や完成度を高めています。

BtoBで業務用の備品や什器をさまざまな企業や公共の場に提供してきたからこそ、高く設定した基準値での安全性や耐久性など、細かい箇所までこだわるモノづくりが現れているんです。

それこそがKEYUCAの商品開発のバックボーンで商品全体に繋がるこだわりですね。また、河淳らしさという点では商品だけでなく、KEYUCAの什器や台車などもオリジナルで開発して使用しています。

研磨され丸く整えられたステンレス製ドレーナーの角
店内の什器も河淳製のものを使用

多様性に配慮した「ちょうど良さ」とは

製品開発に苦労したことはありますか?

− 茂野氏コメント:私のチームが担当するルームシューズや家具の開発に苦労した商品があります。まず定番で幅広いラインナップを用意しているルームシューズですが、そのなかの「フットマットレスシリーズ」がそうです。

疲れにくさや履き心地を追究し、一般的にソールに使用される汎用性ウレタンを使用するのではなく、ルームシューズ専用の形や硬さ、高さまでこだわり靴を作る技術を応用し、オリジナルのソールを開発しました。その後、女性が履くうえで、もっと合う形や高さがあるんじゃないかと考えて、そこからさらにアップデートしたのが「スラリと履けるルームシューズ」です。

女性はヒールのある靴を履くことが多く、自宅のキッチンなどで立っている時も少し厚みがあり角度のついたソールのほうが疲れにくいのではという仮説をもとに、何度も検証を繰り返して開発に至りました。ルームシューズだからという一般的な固定概念は取っ払い、履く人にとっての「ちょうど良い」を考えた結果のなかで最終的にこれがベストだと考えたんです。それが今ではKEYUCAのルームシューズコーナーの広さとラインナップに繋がっています。

検証を重ねて独自に開発された「フットマットレスシリーズ」の中敷き
ラインナップ豊富なルームシューズコーナー

− 茂野氏コメント:また、ウッドショックや為替変動、環境問題など原材料の枯渇、原価高騰などに配慮されたオーダー家具「バリタシリーズ ライトソリッド」を2022年の9月に発売したのですが、天然素材という点や新たな技術を用いることもあり、構想から開発、発売まで約2年の歳月がかかりました。このバリタシリーズは「育てる」「つくる」「支援する」という、木材を使用する者としての責任を伝えようと考えています。

「つくる」は、可能な限り木材の使用量を減らしながらも、無垢材の良さを活かした天板を特殊技術で開発し、販売自体もオーダーメイドなので在庫過多を防ぎました。そして「支援する」「育てる」に関しては、バリタシリーズが販売されるごとに植樹され木材を減らさないようにすることで、ただ消費するだけではなく循環するサステナブルな仕組みづくりを考えたのです。

バリタテーブルシリーズ

お客さまに期待したいことはありますか?

− 茂野氏コメント:KEYUCAへ来店した際は、ぜひとも新しい価値観を発見してもらいたいです。我々が用意する色んな「ちょうど良い」を見つけてほしいし、これからもお客さまの数だけある「ちょうど良い」を常に更新していきたいと思っています。そのためには私たちがまだまだやれることは多く、伝える手段も増やしていく必要があるのです。アプリもそうですがあらゆる手段で、よりちょうど良さが伝わりやすい方法を考えていく必要があります。

5年後も10年後も我々がやることは変わりません。「ちょうど良いをつくる」を移りゆく時代に合わせてしっかりと提案していき、モノづくりを通して人々の心地良い暮らしの一部でありたいと思っています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

お客さまを主役に据えて考える

ちょうど良いという言葉には曖昧さがつきまとう。ちょうど良いお風呂の温度と言われても、その人にとっての気持ち良さはさまざまだ。しかし、ダストボックスひとつとっても蓋が閉まるときの音まで考え抜くKEYUCAなら、消費者の人となりや好みについて考え、その人が最も気持ちよく感じそうな温度と環境を整えるだろう。むしろ、その先の風呂上がりの一杯まで提供するかもしれない。

今回の取材を通してKEYUCAというライフスタイルショップは、まず第一に使用する人の目線に立ち、その人にとってなにがベストなのかを考え、お客さま主体のモノづくりができるブランドだということがわかった。

今回、茂野氏に話を伺ったなかで「KEYUCAではデザイナーの顔が見えすぎるのは良くない」という言葉が特に印象に残った。増え続けたライフスタイルショップは、品揃えを増やすことや他社との差別化に注力しすぎて、売場での選びやすさや使用した先にある快適さなど、本来消費者が求めている暮らしの提案について考えられていないショップも多いのではなかろうか。

自身の感性やこだわりを表現することに励むことが多いクリエイティブな業界のなかで、裏方に徹する謙虚さのなかにある確かな自信を茂野氏から強く感じることができた。そこには、本当に求められているライフスタイルショップとしての在り方のヒントがあるような気がした。

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