2022.05.17.tue

情報をデザインするPR手法

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メディアとブランドを繋ぐCasokdo

PRの役割とはなんだろうか。よく耳にするワードではあるが、実際に「PR」と「広告」は混同することが多く、その違いを説明するのは少し難しい。

PRとは、“Public Relations (パブリックリレーションズ)”のことであり、日本パブリックリレーションズ協会では、以下のように説明している。

「パブリックリレーションズ (Public Relations) とは、組織とその組織を取り巻く人間 (個人・集団) との望ましい関係を創り出すための考え方および行動のあり方である。パブリックリレーションズについて、アメリカで教科書として定評がある『体系パブリック・リレーションズ』では、次のように定義されている。『パブリックリレーションズとは、組織体とその存続を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持するマネジメント機能である』」 (出典:パブリックリレーションズとは)

つまり、PRは組織と取り巻く公衆との良い関係づくりをすることであって、広告とはニュアンスが異なる。PRは企業がニュース性のある情報を提供し、それを話題性があると判断したWEB媒体やマスメディアが情報を拡散する流れを組む。つまり、消費者が受け取る情報の“種”がPRなのである。

そうなると、ブランドの立場から見れば、PRは自社の商品やサービスを売るうえでより不可欠な要素となってくる。では、その重要なPRをどのようにして実践できるのだろうか。

今回取材をしたのは、主にライフスタイル業界の企業のPR事業を中心に展開する、株式会社Casokdo (カソクド) の代表取締役 / PRディレクターの 五十嵐洋 (イガラシ ヒロシ) 氏。同社は事業を通して社会に貢献することを考え、さまざまな企業の商品やサービスを世の中に伝えている。

PRを熟知した五十嵐氏から、事業にかける想いと実例を伺い、ブランドとPRとの切り離せない関係性とその活用法を学ぶ。

株式会社Casokdo (カソクド)
http://a-ms2.com/
2010年にライフスタイル業界のPR活動支援を目的に立ち上げたコンサルタント会社。企業のPR活動、インテリアデザイン雑貨等に関する企画立案やプロモーションのサポート、商品プロデュースなど、業務は多岐にわたる。デザイン性のあるモノのPR活動を得意とし、社会貢献に繋がり、かつ「人」を幸せにするというミッションを掲げて業務を遂行する。
その他、PRだけでなく販売サイト「ARIGATO GIVING (アリガト ギビング) 」を自社で運営。このサイトでは、エシカル、ソーシャル、オーガニック、トラディショナル、デザインをキーワードに集めた商品を販売している。

ARIGATO GIVING 
https://www.arigatogiving.com/

ライフスタイル業界におけるPRの必要性

Casokdo設立のきっかけを教えてください

− 五十嵐氏コメント:前職で働いていたライフスタイル業界のメーカーでは、商品企画やプロモーション、マーケティングなどを担当していて、その頃から業種によるPR活動の違いを感じていたんです。

例えば、ファッション業界ではほとんどのブランドが当たり前のようにPRに力を入れているのに対し、一方インテリアなどを取り扱うライフスタイル業界のブランドは、PRを大手セレクトショップに任せ、自主的な活動はあまり目立たない印象でした。

ライフスタイル業界には、良いブランドの商品がたくさんあるのだから、もっと世の中に広めるための情報を出していくべきだと思ったんですよね。

− 五十嵐氏コメント:そこで、ライフスタイル業界に特化したPR支援ができるような会社を、12年前に立ち上げました。

PRは情報を送るだけでは成り立たず、メディアとの信頼関係を築くことが第一なので、ノウハウのない状態で突然取り組むのはまず難しいでしょう。もっとスムーズにPRができるようなサポートがいいなと思ったんです。

社名は、「一緒に仕事をしながら事業を加速していこう」という“加速度を上げる”意味で、そこから「Casokdo」と付けました。

Casokdoの役割はなんでしょうか?

− 五十嵐氏コメント:一言で表すと「情報をデザインしてメディアに届ける」ことです。

これはクライアントから打ち出したい商品やサービスの情報をいただき、それがニュースになりうるかを一緒に精査することから始めるんですよ。例えば広告として打ち出す場合は、メディアの枠を購入し商品を自由に宣伝するわけですが、PRは違います。

PRの場合は、メディアの枠を買うのではなく、情報を発信してメディアに取り上げてもらう流れを作ることなので、広告費がかからない代わりにメディアの興味を引くようなニュース性のある情報にしなくてはなりません。つまり、メディアが求める内容=消費者が喜ぶ魅力的な情報でなくてはならないのです。

僕らはいただいた商品情報をストーリーから組み立てて、メディアが取り上げてくれるような情報にデザインし、最終的に多くの消費者に届けるお手伝いをしています。

メディアに伝えるにはどのような手段がありますか?

− 五十嵐氏コメント:一つはいわゆるプレスリリースと呼ばれる資料を作成し、各メディアに情報を届ける方法です。

この資料作成においては、商品やサービスの内容をより理解していただくために、できる限り写真を多用します。やはりインテリアなどの商品はビジュアルが大事ですし、スタイリングが命ですからね。そのためにも資料作りには情報を一目で掴んでもらえるよう、専門のデザイナーを起用しているんですよ。

もう一つの方法は、記者発表会やプロモーションイベントの開催です。予算に合わせて会場を借りて、商品やサービスのイメージに合うメディアを招待します。

イベント開催に関しては、期間限定で一般の方も見られるような機会を設け、よりタイムリーに消費者へ情報を届けたり、話題性を上げたりすることもありますね。

商品価値を高めるPR

メディアに取り上げられやすい商品のポイントはありますか

− 五十嵐氏コメント:大きく分けて三つのポイントがあります。一つ目は、既存商品の色違いやパターン違いなどではなく、「新商品で、新規性があること」。二つ目は、他社にはない個性が光る「オンリーワンであること」。そして三つ目は、発売する時期として「季節が合っていること」です。

これらに該当する内容だと、比較的メディアに取り上げられやすくなりますね。例えば、最近ではステーショナリーブランドTRINUS (トリナス) の商品をサポートしました。これは日本の特殊印刷を駆使して、実際に触れることが難しい絶滅危惧種のスキンを疑似再現し、その肌ざわりが楽しめるノートブックです。

絶滅危惧種のスキン(表面)を疑似再現した「flerco note (フレルコノート)」

− 五十嵐氏コメント:この商品は、人の触覚を使った新しい発想で、個性がしっかり出ているまさにオンリーワンの商品ですよね。こういったデザイン性とストーリー性に優れた商品は、とても注目されやすくなるんです。

PRとしては、このような商品の特性を活かし、消費者が「触れてみたい」と興味を持ってくれるよう、「絶滅危惧種を持ち運び愛でることができる、不思議なノート」として打ち出しました。

触れられないものに触れられる体験という、レア感がある情報として出したことにより、メディアや消費者の心を掴むことができたんです。

PRで大事にしていることを教えてください

− 五十嵐氏コメント:メディアに取り上げられやすい「三つのポイント」を作り上げるのはもちろんですが、それに加え、ブランドが伝えるべき“ブレない軸”作りを、クライアントと一緒に進めていくこともとても大事ですね。

例えば、以前愛媛県で約40年にわたって有機農場とまちづくりに取り組んでいる生産者団体、「無茶々園 (むちゃちゃえん)」が展開するブランド「yaetoko (ヤエトコ)」の新商品のPRをお手伝いしたことがあります。

伊予柑の蒸留水からできたハンドクリーム (左) と、甘夏の精油配合のバーム (右)

− 五十嵐氏コメント:こちらは雑貨屋さんでも取り扱われるような可愛い商品展開のブランドコンセプトなのですが、打ち合わせ当初に上がってきたパッケージデザインは、その頃地方コスメとして主流だった、景色画像を取り入れたコンサバティブなものでした。

ブランドイメージと見た目のパッケージデザインに少しズレが生じていたんです。そういった場合、せっかくの商品の特徴がぼやけて掴みづらくなり、メディアも取り上げにくくなってしまうんですよね。

そのためPRの観点を踏まえて、まず一般的な「地方コスメ」という概念に惑わされないよう、きちんとブランドコンセプトに合わせたパッケージデザインに変更してもらいました。

ブランドの軸のズレを解消するために、時にはPRだけに限らず、商品の企画段階から一緒に考えていく必要もあるので、目標を定め、話し合いながら企画を進めていくことの重要性を、いつもクライアントの皆様にはお伝えしています。

Casokdoの特徴は何でしょうか

− 五十嵐氏コメント:一般的にライフスタイル業界のPR企業が対象とするモノは家具が多いのですが、僕らはライフスタイルに関わる雑貨、コスメ、家電、サービスなど、幅広い商品のPRにも対応しています。

そして、それらの商品やサービスのブランディングからプロモーション、最終的な販売を見据えた動きを常に意識していますね。CasokdoにとってPRというのはあくまで立ち位置なので、PRのその先に、クライアントの販売利益を生み出す目的があることを忘れないようにしているんです。

それから、地域に根付いた商品やサービスのPRも積極的にサポートしています。地方にもいいモノがたくさんあるのに、ほとんどのメディアは東京都内にあり、地方とメディアとの接点が少ないという理由だけで、情報格差が生まれている現状がありますよね。

地域に根付いた事例の一つに、毎年3月21日の「伝統産業の日」に京都で行われるイベントのPRがあります。

京都で開催された日本最大級の工芸イベント「CRAFT POINT KYOTO (クラフトポイントキョウト)」

− 五十嵐氏コメント:こちらはイベント企画から携わり、情報収集と情報のデザインには大変な労力を費やしました。

携わる前は、この日一斉に京都各地で小さな工芸品のイベントが行われていて、観客も散らばってしまい、小さく収まってしまうという宣伝力の弱さに課題があったんですよね。そこで『日本最大級の工芸イベント』として、京都伝統産業ミュージアムをメイン会場として設け、各イベントを一つに取りまとめました。そうすることで京都の職人が集結し、来場者はショップやギャラリーなど一挙に体験できるようになって、注目を浴びたんです。

これによりメイン会場を中心に、京都の街歩きをするかたも増え、地域活性化にも繋がった嬉しい結果となりました。大盛況に終わり、とても有意義なプロジェクトになったと思います。

Casokdoの展望

最後に、これからの展望をお聞かせください

− 五十嵐氏コメント:これまでのPRはマスメディアだけに頼っていましたが、SNSなどさまざまな発信ツールが揃うこの時代、各ツールに適したコミュニケーションの手法を考えていかなくてはいけないと思っています。

例えばユーチューバーやインスタグラマーなどとコラボレーションをして、インフルエンサーマーケティングのサポートをしたり、動画配信用の自社メディアを作って、運営サポートをすることなどです。

これから、企画、プロモーション、販売という一連の動線を見据え、多くの人に広められるようなPR方法を、もっとライフスタイル業界に普及させていきたいですね。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

PRとライフスタイル業界の未来

PRは、作り手の思いや個性を発信し、消費者が持つ熱量や情報量とのギャップを埋められる点で、宣伝とは大きく異なる。

そして、人と人が繋がり社会全体の循環を生み出すという点で、大きな効果をもたらしているのだ。

しかし、今のライフスタイル業界では、大手ライフスタイルショップだけがその効果的なPRに積極的である状況に留まり、各ブランドは他業界に比べるとまだまだPRの取組みに対して意欲的ではないように思える。

その結果、消費者はライフスタイル業界のブランド知識に乏しくなり、そして消費者の認知がないからまた、ブランドもPRに対して消極的になっているという悪循環が生まれているのではないだろうか。

そういった中で、五十嵐氏は時代に合わせた幅広い発信ツールに対応することで、誰もが効果的なPRができるようにと入口を広げようとしている。

それは、ライフスタイル業界の今とこれからの力を信じて、業界全体の認知が消費者へ広がっていってほしいという大きな期待があるからにちがいない。

MMD TIMESも同氏の想いと同じく、ライフスタイル業界のこれからを応援するためにこのメディアを立ち上げた。

情報は人を動かし社会を動かすものだ。

今後ライフスタイル業界に携わる多くの企業が、他業界と同じようにもっと積極的な情報発信をしていき、その結果、より多くの消費者を惹きつけ、今まで以上に業界が盛り上がることを切に願う。

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