2022.05.03.tue

Sunday peopleが作るハッピーなモノづくりの輪

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Sunday peopleのモノづくり

「長所と短所は表裏一体」とはよく言ったものである。初対面での挨拶や面接などの自己紹介のために、自己分析をしながら長所や短所を考えたことがある方も多いだろう。マイペースであることが楽観的でポジティブな性格と捉えられたり、協調性がないとネガティブに捉えられたり、言い方次第で、相手に与える印象は大きく変化する。

では、モノの善し悪しについてはどうだろう。例えばマスクの場合、息苦しさや蒸し暑さと引き換えに、我々の身体をウイルスや花粉から守ってくれている。

どこに重きを置いて、どの視点でモノを見るかで、モノの見え方というのは180度変わってくる。極端に言えば、「自分が見たいように見える」というのが人間の性分だろう。

今回取材をしたのはSunday people (サンデーピープル) の石井彰一 (イシイ ショウイチ) 氏。グラフィックやプロダクト、パッケージなど、デザインワークを中心にクライアントの課題を解決する一方で、自身の創作活動にも意欲的に取り組む人物だ。

「悪いところを改善することは、平均に近づくために必要なことかもしれませんが、良いところを伸ばせば、それは他との明確な差別化に繋がります」そう語る同氏の“目”は、“良いところ”を見つける一種の才能に長けていた。モノを「良い」と判断するその感性と、それらをクリエイティブなモノへと昇華させるアイデアの源を探る。

Sunday people (サンデーピープル)
https://www.instagram.com/sundaypeople14/
JAGDA (日本グラフィックデザイナー協会) の会員として、グラフィックデザインをはじめ、プロダクトデザイン、パッケージデザインなどを行うデザイン会社。デザインを得意としつつ、空間プロデュースやブランドコンサルティング、イラストワークなども行い、企業のさまざまな課題をクリエイティブな方法で解決している。イラストワークでは、石井彰一が作り出したキャラクター“mememememe™”を主題としたペインティング作品展「⽬と⽬で通じ合う、そうゆう仲になりたいわ展」を開くなど、アーティストとしての活動も積極的だ。

クリエイティビティを試す時

Sunday people設立のきっかけを教えてください

− 石井氏コメント:独立してSunday peopleを立ち上げるまでは、デザイン事務所に勤めたり、インハウスのデザイナーとしてプロダクトを作ったり、ブランドを立ち上げたりしていました。長くデザインの仕事を行うなかで、次第に「自分のクリエイティブで挑戦したい」という気持ちが湧いてきたんです。

その気持ちの根本は前職でのジレンマにあって、インハウスのデザイナーをしていた当時、会社の枠から出られず窮屈に感じていました。

会社員は安定した仕事や収入を得られる一方、会社の色と違うことは簡単にはできません。例えば新商品を作るにしても、卸先店舗や顧客層に合わせた価格帯やカラー設定があり、そのなかでのモノづくりが基本になります。「もう少しお金をかけてオリジナリティを出したい」とか、「プロモーションのために他のツールを作りたい」とか、もっと良いモノにするためのアイデアが浮かんでも、会社として守るべき制限や制約がある以上、そこに逆らうモノづくりはできなかったんです。

そこで、「もっと自由に幅広く、いろいろなクリエイションをしたい」「クリエイティブを突き詰めたモノづくりをしたい」と、自分を試す意味でも独立の道を選びました。

なので、今の仕事に“デザイナーだから”という制限は一切設けず、できることは何でも行うので、イラストも描くし、空間プロデュースもするし、ブランドディレクションもしています。Sunday peopleでは僕のいろいろな一面を見せたいと思ったので、屋号も何屋と断定できるような名前にはしたくなくて、Sunday peopleにしました。

ペインティング作品展「⽬と⽬で通じ合う、そうゆう仲になりたいわ展」

Sunday peopleに意味はあるんですか?

− 石井氏コメント:実は昔から会社員として働きながら、個人でも創作活動を行なっていて、その活動日が日曜日だったんです。といっても、必然的に日曜日しかなかったんですけど(笑) 絵を描いたり、Tシャツにその絵を刷って売ったり、友達の仕事をサポートしたり、日曜日の創作活動で人と触れていると、みんながニコニコしていることに気づいたんですよね。「日曜日ってみんなが笑顔で好きだな」と思ったことや、英語にした時の響きの良さも気に入って、この名前を付けました。

相手と会って “良いところ”を見つける

大切にしていることを教えてください

− 石井氏コメント:仕事を受ける時は、絶対に相手に会いに行きます。どれだけ遠くても面と向かって話して、その人が何を考えているのかを知ってから仕事をしています。

これは仕事の“正解”を知るためでもあるんです。例えば「ロゴだけ作って」と依頼されたときに、かっこいいロゴを作るのは簡単ですが、その会社のコンセプトやターゲットにとってはそれが正解じゃないことって多いんですよ。実はかっこよくなくてよかったとか、そういった認識相違が起こるのが嫌で、「依頼者がどういう風にしたいのか」をしっかり把握してから取り組むようにしています。

全体ディレクションまで携わることになった「シトラバスター」

− 石井氏コメント:また、実際に会うことで会社やブランド、作り手の“良いところ”を自分の目で探せるということもプラスに働きます。

意外と当事者って自身のことを過小評価していて、価値やニーズ、可能性に気づいていないことが多いんです。そうとなれば、こちらから積極的に見つけていかないと、そもそも気づけていない本人の口からヒントが出てくることはありませんよね。

これは僕自身もそうで、例えば自分の子どもを親目線で見ていると、どうしても悪いところばかりに目がいきがちです。でも、先生や友人など周りの人から「ここがすごい」「これができる」と言われて、初めて気づく長所って少なからずあるんですよね。そこを褒めると、ぐんと伸びるんです。

具体的な事例はありますか?

− 石井氏コメント:石川県加賀市の山中温泉地区で作られる山中漆器という伝統工芸品があって、その山中漆器を製造するメーカー「素地のナカジマ」と作った、「MUDDY (マディ) 」という生活雑貨のシリーズがあります。このシリーズの特徴は、独特な表情のある塗りむらや気泡の跡なのですが、実はこれ、ずっと“不良”とされていた物なんです。

「MUDDY」(Instagram:@muddy_products)

− 石井氏コメント:工房に足を運んで不良品とは知らず見かけた際に、手仕事の良さが現れていて良いなと思いました。でも、「これを活かしてモノづくりをしましょう」と伝えてもなかなか受け入れてもらえず、「不良だから」と誰もやりたがりませんでした。それまで長い間、“綺麗に塗ること”を目指して腕を磨いてきた職人にとって、“悪い”と言われてきたモノを作るというのは抵抗があるでしょうし、“良さ”を理解するのも難しいことだったんだと思います。

そんななか、一人の職人さんが「挑戦してみる」と手を挙げてくれました。意図せず発生する色むらを意図的に作るためには、また別の技術や塗料の調整が必要でしたが、試行錯誤してようやくカタチになったシリーズです。職人さんの決意と努力に感謝するのと同時に、職人さん本人がとても喜んでくれたことが、「今後の商品展開にもより力を入れよう」という僕自身のモチベーションにも繋がりました。

この色むらを作れるのは工房でただ一人だとか

− 石井氏コメント:現実を知ったふりをしてモノを作ったり、できあがったモノだけを見てあれこれ言ったりするような、“ドライなモノづくり”はしたくないんです。現場に行って話を聞き、実際に体験してみて、できない理由も含め、全てを知ったうえでデザインに落とし込んでいきたいですね。

みんなが幸せになるモノづくり

モノづくりを通して叶えたいことは?

− 石井氏コメント:作り手や売り手をハッピーにしたいなと思っています。自分のモノづくりが連鎖して、自分の周りの人、さらにはその周りの人へとハッピーが広がっていくと嬉しいですね。

印象に残った事例はありますか?

− 石井氏コメント:オブジェの魅力を高めるイロハ」でも取り上げてもらった、「CHITOSE series (チトセシリーズ)」を作っている「木村木品製作所」との一件は感慨深いですね。

− 石井氏コメント:木村木品製作所は青森県弘前市にある小さな木工屋さんで、作られるモノは国内外問わず幅広く世に出ています。「ミラノサローネ」や「メゾン・エ・オブジェ」などの海外の展示会にも出展されていて、その技術も確かなものです。僕は独立して間もない頃から今に至るまでずっとCHITOSEの開発に携わっているのですが、そんな木村木品製作所から映像制作の依頼を受けました。

内容は「メゾン・エ・オブジェ」出展に向けての会社紹介の映像で、木村木品で働く職人達の姿を3分ほどにまとめて作ったんです。撮影時に密着した職人さんは、「これぞ職人」というようなかっこよさのある寡黙な方でした。

− 石井氏コメント:作品納品後、その職人さんと東京で再び会う機会があったのですが、制作中は表情ひとつ変えなかった方が僕を見て、「ありがとう」と言ってくれたその一言が忘れられません。作った映像を息子さんが見て、「お父さんってこんなにカッコイイことをやってたんだ」と言われて嬉しかった、と言ってくれたんです。

良いモノを作れば、受け取る人だけでなく、制作に関わった人のモチベーションを上げ、その家族も幸せにできるんだとわかり、自分自身も幸せな気持ちになりました。

クライアントに期待することはありますか?

− 石井氏コメント:想いのある人と仕事がしたいですね。モノづくりやその前段階の会話って、合気道に似ているんですよね。向こうから来てくれないと返せません。たまに、モノになにも想いのない人から「これで売れるの作って」と言われることもありました。そういう人とモノづくりをするのは難しいなと感じます。

身軽さと柔軟さを持った業界に

これからのライフスタイル業界について思うことは?

− 石井氏コメント:いま一番に感じるのは、ライフスタイルの多様化ですよね。ここ1〜2年で大きく変わったし、近年、仮想空間 (=メタバース) という非現実な世界も注目されていて、これからもっと変わるんじゃないかと思っています。

その変化が進むと、これまで僕らが“ライフスタイル”と呼んでいたものも、「ライフスタイルという言葉で良いのか」とか「モノがないライフスタイルもあるんじゃないか」とか、新しい疑問が出てくると思うんです。

「ライフスタイルとはこうあるべき」みたいな決め付けの概念に固執するのではなく、現実と非現実を行き来できるような柔軟さを今から身につけておきたいですね。そして、それが僕一人とか誰かだけではなくて、業界全体が柔軟に対応していけるような状態になってほしいと思っています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

作り手を照らすSunday people

「灯台下暗し」とはよく使われる例えで、灯台直下はかえって暗いことから、身近なことはよく見えず、気づかないことが多いと言われる。

そんな時に自分の足元を照らし、気づかせてくれる存在がいることは心強い。Sunday peopleは明るく作り手や売り手の足元を照らし、自身に眠っている価値に気づかせてくれる存在なのだろう。

ときに人は、無意識に自分自身に制限をかける。「今までこうしてきたから」「これがルールだから」と殻を作り、その殻に守られることに慣れると、殻の破り方を忘れてしまうことがある。

石井氏は自身でその“制限”にもどかしさを感じ、Sunday peopleとして独自のクリエイティビティを通し、過去の自分と同様に殻に籠ってしまった企業や人を引き出す手助けをしているようにも思えた。これまでの習慣や経験から勝手に抱いてしまっている制限を解放し、「もっと自由な発想で、もっと良いモノを作っていいのだ」と、気づきを与える。そうすることで、モノの価値創造だけでなく、作り手や売り手に希望やモチベーションをも与えているのだ。

変化が著しい今の時代、その制限を取り払うことは難しいことだが、非常に重要である。それは、石井氏が言う“ライフスタイルの変化”に対応できなくなることが目に見えてわかっているからだろう。

“普通”や“当たり前”などという言葉に隠れてしまった「モノの良さ」「技術」「歴史」を、制限で縛ることなく、今一度、見つめ直してみてはいかがだろうか。“普通”の期限が短くなった今、あらゆる制限から解放されることができれば、足元の価値に気づける瞬間が待っているのかもしれない。

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