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日本を発信するBEAMS JAPAN

「『四つの良し』というのを常に意識しています」――「bPr BEAMSがバイイングに掛ける想い」でbPr BEAMS (bPrビームス) の山口氏が、同社代表取締役社長の設楽氏の言葉を借りて口にした言葉だ。会社、取引先、消費者、そして“未来”にとって良い判断をしていく。我々は今回の「BEAMS JAPAN (ビームスジャパン) 」への取材で、この言葉の意味を改めて理解することになった。

BEAMS JAPAN (ビームスジャパン)
https://www.beams.co.jp/beams_japan/
「今、一番おもしろい日本」を世界へ発信すべく、2016年にBEAMS (ビームス) から発足したプロジェクト。現在、新宿・渋谷・京都の3拠点でショップを運営。日本のこだわりから生まれたモノ・コト・ヒトをBEAMSの“目”で見つめ直し、編集する場所として、異文化交流のターミナルを担う役割を果たしている。

取材班が訪れたのは、東京都新宿にあるBEAMS JAPAN。地下1階のレストランから5階までの全フロアが同プロジェクトの管轄であり、建物のファサードには日本を象徴する富士山のロゴが掲げられ、63もの提灯が客人を出迎えてくれる。

この場所で話をしてくださったのは、BEAMS JAPANでプロジェクトリーダーを務める佐野明政 (サノ アキマサ) 氏と、クリエイティブディレクターの鈴木修司 (スズキ シュウジ) 氏。BEAMS JAPANについてはもちろん、プロジェクトや商品の裏側について、実際にショップをまわりながら教えてくれた。

各フロアをツアーのごとく二人に案内してもらっていると、モノを通して日本中を旅しているような気分になった。スポットを浴びた商品一つひとつ、その魅力に日本の未来を託したくなる。今回はBEAMS JAPANが捉える“日本のカタチ”と、BEAMS JAPANが見つめる“日本の未来”を紹介したい。

日本のモノ・コト・ヒトに光を当てる取り組み

BEAMS JAPANについて教えてください

− 佐野氏コメント:BEAMSの目で見た日本の素敵なモノ・コト・ヒトを、BEAMSのフィルターを通して発信していこうと2016年にスタートしたプロジェクトです。単純に日本由来のモノを売るだけではなく、そこにあるストーリー、そこに関わるヒトにも焦点を当て、モノ・コト・ヒトにリスペクトを持って日本の文化を発信しています。

発端は、同社代表が海外の展示会に度々足を運び、さまざまなモノに触れるなかで、「いいな」と思うモノが実は日本のモノだった、ということが多く、日本のモノの良さを再認識したことです。そこから「日本に光を当てるビジネス」ができないかと考え、BEAMS JAPANを作りました。

(左) 鈴木氏 (右) 佐野氏

お二人の業務内容は?

− 佐野氏コメント:私はプロデューサーとして、企画の立案から実施に必要な社内外の調整を行っています。外部企業とのプロジェクトを担うことが多いので、イベントなどのコトに携わることが多いのですが、鈴木は主にモノの担当です。

− 鈴木氏コメント:そうですね。僕はディレクターとして、バイイングやオリジナル商品の企画がメイン業務です。日本全国をまわってBEAMS JAPANに合うものを探しています。出張が多く東京にはほとんどいなくて、新宿に来たのも1ヶ月以上ぶりなんですよ。

1階の商品は全て鈴木氏が携わっているとか

モノにこだわる

お二人から見てBEAMS JAPANはどんなプロジェクトでしょう?

− 佐野氏コメント:純粋に楽しいプロジェクトですね。扱っている商品の幅が広くて、それぞれにカラーもあります。食、銘品、ファッション、カルチャー、クラフト・アートと各フロアに定番商品が確立していて、ここに来れば普段見ないモノや食べたことのないモノに出会えますよ。

− 鈴木氏コメント:“そこに行かなきゃ会えないモノ”にこだわって探していますからね。BEAMS JAPANに限らず、BEAMSの人はとにかく凝り性なんです。自分でも「ちょっと凝りすぎだな」と思うことが多々あります。

定番商品の「下駄サンダル」(左) と「ソフトビニール人形」(右)

たとえばどんなことですか?

− 鈴木氏コメント:仕入れの数と見合わないくらい生産地に足を運んだりとか、やり取りをする中で興味が湧き過ぎて、呼ばれてもいないのに現地まで行ったりとか(笑) 郵送やオンラインでも商品自体は見られるんですけど、性格上、作り手や現場の空気感、その街の歴史や文化、全部が知りたくなってしまうんですよね。

人気商品となっている「信楽焼 オレンジ たぬき」も、特に職人さんからお話があったわけでもなく、ずっと僕が信楽焼のたぬきを良いと思っていて、滋賀県まで足を運び、商品化が実現したんです。職人さんとお会いして、商売繁盛の縁起物としてのたぬきの意味や発祥の理由を教えてもらった上で、BEAMSカラーの橙 (ダイダイ) 色でたぬきを作りました。ちなみに橙って、“代々”の字を当てて子孫繁栄を掛けた縁起物でもあるんですよ。

− 鈴木氏コメント:ただ可愛いとか、ただ美味しいだけじゃなくて、その場所に行かなきゃ会えないモノに惹かれますね。ついつい見過ごされがちなモノ、全国的には知られていないモノを見つけて、モノの裏側まで一緒にお客さまに伝えていきたいです。

日本文化と共に伝える

お二人で取り組んだ面白い事例はありますか?

− 佐野氏コメント:「銭湯のススメ。」ですかね。牛乳石鹸共進社さんから、「何か一緒にできないか」とお話をいただきました。そこで、我々が大切しているモノやコトの共通点を探り、挙がったのが銭湯です。牛乳石鹸の使用シーンの一つは銭湯、それから我々が大切にしている日本文化としての銭湯、「これしかない」と東京都浴場組合も巻き込んで、銭湯を舞台にプロジェクトを始動させました。

− 鈴木氏コメント:僕は、このプロジェクトの商品を担当しました。商品が要になると思い、企画したのが「橙箱」の石けんです。

− 佐野氏コメント:当初は正直難しいなと思いました。牛乳石鹸の創業時から思い継がれている商品で、かつパッケージデザインだけでなく、成分や香りまでBEAMS JAPAN仕様として作る提案だったんです。ただ、それでも鈴木がここまで言うってことは、実現したら面白いことになると思って頑張りましたね。

− 鈴木氏コメント:佐野の二つ名を知りたいですか? 「すっぽんの佐野」ですよ (笑) 噛んだら離さない、それくらい熱意を持っているんです。だからこそ、彼がちゃんとカタチにしてくれました。

左から「赤箱」「青箱」「橙箱」。橙箱は清潔感あふれるシトラスフローラルの香り

− 佐野氏コメント:モノを作って終わりではなく、銭湯という場所を使ってコトを仕掛けていきました。銭湯の楽しさ、良さを伝えて、その場所でモノを使ってもらうことがねらいです。

そこで、東京・東上野の銭湯「寿湯」をジャックしたイベントや、東京都浴場組合に加盟する約550もの銭湯とスタンプラリーを実施しました。

結果は大成功でしたね。正直、銭湯がこんなに人気なのかと実感しました。スタンプラリーの景品を非売品のTシャツなどにしたのですが、交換希望が予想を上回る数で景品がなくなるほどだったんですよ。協力いただいた銭湯や組合の方々も、イベントの盛り上がりや、普段はあまり利用していない若い人の増加を喜んでくれました。

素晴らしい企画力ですね

− 佐野氏コメント:モノやコトをどう伝えるかを考えるのは難しいですが、「こうなったら皆が喜ぶよね」といった“楽しいこと”を考えて、それを実現するために妥協せずに進むだけですね。「この辺でいいかな」という考えはなくて、「もっとこうしたらいい」、「こうなったら楽しい!」をイメージして取り組んでいます。

時代の変化についていく

インバウンドの低迷で思うことはありますか?

− 鈴木氏コメント:たくさんありますよ。一時期は売上が半分近くに落ち込んでしまったこともあるんです。BEAMS JAPANのロゴは、海外のお客様からもとても人気でしたから。でも、僕にとっては前向きなこともありました。

お客さまの買い物が慎重になった分、今まで以上に真剣に商品を考えようと、まずは足元を見直すきっかけになったんです。

コロナショック以降は、ロゴやブランドに頼らないストーリーのある商品開発を、より大切にしようとチームで話し合いました。また、お客さまがより値段にシビアになったので、コストパフォーマンスについても考えるようになりましたね。価格設定、生産国、素材、作り手のこだわりなど、モノの本質自体を見つめ直す良い機会になったと思っています。

今ここで踏ん張って見直したことによって行き残ることができれば、この先の未来も拓けていくのではないでしょうか。

ショップの役割

エンドユーザーに期待することは?

− 鈴木氏コメント:「たまにはお店に来てくださいね」、この一言に尽きます。極端に言うと、買わなくてもいいので遊びに来てほしいですね。ショップスタッフとコミュニケーションをとって、商品のストーリーを聞いたり、売り場を見たりしてほしいです。

− 佐野氏コメント:売り場は本当にこだわっているんですよ。どう見せるか、どうやって魅力的に伝えるか、多くのアイデアが詰まっています。状況が許せば、ぜひお店に来て実際に触って、五感を使って体験してほしいです。

「BEAMS EYE on BEPPU」では源泉掛け流しの足湯を店内に設置

− 鈴木氏コメント:直近だと「駄菓子じゃぱん」というプロジェクトで売り場が賑わいます (2022年4月6日〜5月8日) 。誰もが知っている老舗駄菓子メーカーとコラボレーションをして、日本の大切な駄菓子文化を発信する企画です。新宿店1階には「未来の駄菓子屋」をコンセプトにしたポップアップショップが登場します。駄菓子愛に溢れたオリジナルのコラボレーションアイテムも面白いので、ぜひ実物を見に来てください。

作り手・売り手・使い手の責任

ライフスタイル業界について思うことはありますか?

− 佐野氏コメント:伝え方の模索は業界全体で常に行っていく必要があると思っています。日本には本当にたくさんの良いモノ、良い作り手がいるので、それらを時代に合わせてどう伝えるか、誰が伝えるのかが重要です。

BEAMS JAPANとして、その答えの一つが「楽しく伝えること」です。モノが良ければ売れていた時代では無くなってきた昨今、真面目に丁寧に作られたモノであっても、お客さまの手や目に届かないこともあります。伝える側が熱意を持って楽しい気持ちで伝えていくことで、その気持ちが消費者へ伝播して、モノやコト、ヒトを伝えていけると信じています。

− 鈴木氏コメント:もっと先の未来のことまで考えると、一人ひとりがより責任を持って行動する時代になってきたと感じています。それは作り手や売り手はもちろん、僕を含めモノやサービスを受け取る買い手にも共通することです。

作る人の責任、売る人の責任、そして買う人の責任、それぞれの責任があります。限りある資源を思って地球に配慮したモノを作ること、そのストーリーをしっかり伝えること、そして使うモノの裏側まで十分に理解して購入し、長く使うこと。

皆で責任を分けあって、作って、売って、買って使う世の中であってほしいと感じています。

日本の子どもたちのために

叶えたい夢はありますか?

− 鈴木氏コメント:日本の子どもたちに「BEAMS JAPANがあってよかった」って言われたいですね。

− 佐野氏コメント:そんなこと言われたら、心から「やってよかった」と思うな。若い人たちに対しての想いは、どのプロジェクトにもあります。若い人たちに銭湯を利用してもらいたい、農業を知ってもらいたいなど、どの企業も職人も子どもたちを見ているんです。

農林水産省とのコラボレーションプロジェクト「たがやすBEAMS JAPAN」

− 鈴木氏コメント:僕は行政に呼ばれて講演を行うこともあるんですが、高校や大学から授業に呼ばれるんですよ。子どものため、次の人のためなら無条件に頑張れますね。自分が知っていること、これまで行ってきたことを共有することで、日本の文化やモノづくりに関心を持ってもらって、次の世代にそれらを託したいんです。

− 佐野氏コメント:そうした我々の活動によって、子どもたちが「日本って誇らしいよね」と感じてくれたら、日本をブランディングしたいと始めたこのプロジェクトの一員として誇りに思います。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

日本の未来を考える

「未来」を考えたときに、人はどこまで先を思い描くだろう。10年後と答える人もいれば、100年後と答える人、1000年先を見る人もいる。そんななかBEAMS JAPANの見る未来、それは決してプロジェクトや会社といった自身だけの未来ではなく、“日本”の未来なのだ。

会社、取引先、消費者、そして未来にとって良い判断をすること――この「四方良し」の精神が、プロジェクトやレーベルを跨いで社員全体に根付くBEAMSに感心すると同時に、その視線の先にこの先の未来を作る子どもたちがいることに感銘を受けた。果たして同じように子どもたちと日本の未来を想ってビジネスを行う人が、このライフスタイル業界にどれほどいるのだろうか。

夢や希望を口にすることは簡単であっても、実行に移すことは難しい。しかし、子どもたちの夢や希望、そして未来をつくることは、社会で働く全ての大人の使命ともいえる。

これは大手だから個人だからといった企業規模は全く関係なく、自身の取り組むビジネスに責任を持てるかどうかという“個の意識”の問題だろう。佐野氏や鈴木氏のように、誇りを持って自分の取り組む事業を次の世代に紹介できるか、より良い世の中のために汗水流せるか、今一度自身の胸に問いかけてほしい。

未来へと歩むなかで、我々には多くの変化が付きまとう。時代に合わせてライフスタイルが変化し、新しいモノが現れれば、消えゆく文化やモノもある。BEAMS JAPANは、その様子を見過ごすのではなく、時代に合わせたカタチや伝え方で新たな価値を創造し、伝承する道を作っている。ただモノを売るのではない、日本を救う今あるべきセレクトショップのカタチの一つとして、独自のスタイルを確立したといえるだろう。

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