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デザインの今を知る

「モノづくり × デザイン」と聞いてイメージするのはどんな内容の作業だろう。

カタチを整えたり、ロゴをつくったり、ユーザーの嗜好に合わせてパッケージを一新したりと、工程は幅広い範囲に及ぶはず。

しかし最も大切なことは結果につながることだ。結果とは売上や反響であり、ユーザーに何らかの影響を与えることである。

近年、表面的な特徴を作り出すことだけがデザインの概念でないというのは周知の事実になっている。それにも関わらず、今もなお表面的なデザインだけを請け負うデザイナーも数多く存在し、その逆もしかりだ。

そういった「デザイン」の仕事は、結果として成果も表面的なものになってしまいがちではないだろうか。数字が伴わず、協業が上手く進まなくなってしまうケースも珍しくはない。

そんなライフスタイル業界の現状を憂いてマーケットインを主軸に、世の中をデザインの力で元気にしているのが h concept (アッシュコンセプト)だ。彼らが協業してブランドの立ち上げから販売まで携わっている soil (ソイル)は、珪藻土のバスマットというヒットアイテムを生み出した。今では多くのエンドユーザーが珪藻土という素材を認知するまでに至っている。

今回は「モノづくり × デザイン」という視点から、それぞれ会社の代表を務めている名児耶秀美 (ナゴヤ ヒデヨシ) 氏と石動博一 (イスルギ ヒロイチ) 氏に想いを伺った。お二人の言葉を端緒に、その本質を探ってみたい。

[対談メンバー] ※五十音順

石動博一 (イスルギ ヒロイチ) 氏 (写真左) :soil (ソイル) 株式会社代表取締役。江戸時代から続く左官屋 (現・株式会社イスルギ) の家に生まれ、左官の技術と材料で珪藻土製品のブランド 「soil」 を生み出した。特に珪藻土のバスマットは、今までのバスマットの概念を全く変えた商品としてベストセラーとなっている。

名児耶 秀美 (ナゴヤ ヒデヨシ) 氏 (写真右) :アッシュコンセプト代表取締役。生活者とデザイナーが楽しめるモノ創りをめざし、デザイナーとのコラボレートブランド「+d (プラスディー)」をはじめ様々な製品を発信。ジャパンブランド・地場産業振興コンサルティング等も手掛ける。

デザインの目的とは

soilを立ち上げたきっかけを教えてください

− 石動氏:僕らsoilの母体は多くの職人を抱えている、イスルギという江戸時代から続く左官屋です。主にビルの外壁や床など大掛かりな左官工事を手掛けています。左官工事は建設業の景気に大きく左右される仕事です。そのため今まで何度も苦しい想いを経験しました。

建設業の景気が悪くなれば仕事がなくなるので、職人を遊ばせることになり、そうなると職人やその家族にまで迷惑をかけてしまいます。

経営に関わるものとして、この状況をなんとか打破したいと思い、以前から景気が悪い時でも彼らの技術を生かして、活躍できるような商品があればいいと考えていました。そんな中で出会ったのが名児耶さんです。もう今から12年ぐらい前ですね。

姫路城の漆喰壁の修復の様子

どこでお二人は出会ったのでしょうか?

− 石動氏:石川県にデザインセンターという場所があって、企業とデザイナーをマッチングしてくれるプロジェクトがあるというので参加してみたんですよ。デザイナーという人と仕事をしたことがなかったので、何かヒントがもらえるんじゃないかと思ったんです。

そこで名児耶さんに会いました。彼はプロジェクトの中で僕が作った珪藻土のコースターを見たときに「これだ」と思ってくれたみたいですね。

− 名児耶氏:だって、本当に「左官ってすごいな!」「珪藻土ってすごいな!」と思いました。言葉は良くないですが、「こどもの泥遊び」のようなクリエイティブさがそのまま商品になっていると感じたんです。完全に自然素材でできているんですよ。これってすごく素敵なことじゃないですか。

しかも珪藻土は、高い吸水性と吸湿性という素晴らしい機能まで備えていたんです。注目せずにはいられませんよね。それで石動さんに素材を生かしたシンプルなデザインの商品をいくつか提案しました。

− 石動氏:僕らが名児耶さんにお願いしようと思ったのは、まずシンプルなデザインを提案してくれたからなんです。ほかにもデザイナーの方はいましたが、提案の方向性が異なっていましたね。左官の仕上げをまったく別のインテリアに施してみるなど、面白いアイデアはありましたが、残念ながら商品としては成立していませんでした。

だけど名児耶さんのシンプルなデザインは、珪藻土という素材そのものの魅力を引き出しているように見えたんです。

協業の決め手はシンプルなデザインということでしょうか?

− 石動氏:実は一番の理由は別にあって、デザインのことではありません。名児耶さんの言葉で最もシビれたのは、「売るのは任せてください」と言ってくれたことで、それが決め手でしたね。

それまで僕もモノを売ることにチャレンジしてこなかったわけじゃないので、モノを売ることは簡単にできる事じゃないと思っていたんです。

例えば左官の仕事を一般に向けてパッケージ化して、販売するといったこともやったことがあります。ですが、エンドユーザーに知ってもらえないと認知は広がらないし、市場に存在すらできない。モノを作ったら売れるわけじゃないことは痛感していました。

− 名児耶氏:今の時代に求められるデザイナーの仕事というのは、ユーザーの手に届くところまでデザインしないといけないと思うんです。

だけど、いまだに「意匠」だけをデザインするのがデザイナーだと思っている人がいます。もちろん、美的造形性はとても重要な要素です。しかし、今はデザインの範疇とはどこまで?というくらい広がっています。

− 石動氏:名児耶さんが売り方から見せ方までデザインしてくれるのは本当に大きいですね。その共通の理解を踏まえて、珪藻土の魅力を伝えたいという強い共感があったので、名児耶さんに生産管理から販売まで携わってもらってsoilを立ち上げることになりました。

商品の展開について教えてください

− 名児耶氏:最初は「インテリア ライフスタイル2009」という展示会で発表したんです。珪藻土がまったく知られていないため、インパクトが必要ですからsoilとしてある程度の商品ラインナップを充実させて臨みました。

石動さんは、こちらがデザインを出すと次の打ち合わせにはサンプルを作ってきてくれるんですよ。その都度、本気でこのブランドを成功させようと思っているのが伝わりましたね。

展示会では、会場へ入って真正面のところに展示させてくれたこともあって、皆が「これって何で作られているんだ?」ってすごくビビッドな反応を示してくれて、総じて好感触でした。

− 石動氏:最初にコースターの物珍しさもあって受け入れられたんです。その後、バスマットが当たって、珪藻土に対する認知が一気に広がっていく感触がありました。

展示会の様子

モノづくりの観点で、苦労した点を教えてください

− 名児耶氏:12年前のブランド立ち上げ当初は、まだ世の中に珪藻土を使った商品がなかったので、素材に対する認知がなかったことが本当に大変でした。

何が大変かというと、珪藻土のように「割れることを想定した商品」というモノ自体が無いんです。そのため、強度と品質を天秤にかけながら商品を作らないといけません。

− 石動氏:珪藻土を増やせば割れやすくなってしまうんですよ。とはいえ珪藻土を減らせば品質は下がってしまう。特に苦労したのがバスマットで、踏んだ時に割れてしまうことがどうしてもでてくる。珪藻土の性質に対する認知の低さもあって、最初の頃はクレームが結構ありました。

代表的な商品の一つである「BATH MAT square」

− 名児耶氏:それに加え、珪藻土製品はシリコンの型に入れて、固まったら取り出し、充分に乾かしてつくるのですが、職人による手作業だから数を増やせなかったんです。店舗で商品が品切れを起こしてるのに、工場へ電話したら「乾いてない!」と職人から怒鳴られたこともありました。(注:珪藻土製品はシリコンの型に入れて成形し、その後十分に乾かすことで完成する)

− 石動氏:珪藻土の性質上、仕方ないことなんですが、だからといって品質が下がるのをユーザーが望んでいるかというと、そうじゃないですよね。こちらも本物の自然の素材を暮らしに取り入れて、しかもちょっと暮らしが便利になるという体験を伝えたいわけです。

なので、思い切って割れてしまったら交換するという対応をすることに決めました。あの判断はsoilというブランドの方向性を決定づけたと思います。

あの頃は職人も手探りで、彼らも意地があるから半端な商品は絶対に作りません。生産が安定するまで時間はかかりましたが、その苦労があったおかげで、品質の高い手作業の生産体制を整えることが出来ました。

次はデザインの観点から、なぜ珪藻土という素材が世の中に広がったと思いますか?

− 名児耶氏:「こんな商品が欲しかった」という共通のトレンド感にフィットしたのが大きかったのではないでしょうか。だからこそライフスタイルショップを中心に多くの反響を得ることができました。

具体的な要素としては2つあるのかなと思っています。ひとつは珪藻土という素材の斬新さです。自然素材で機能性もあり、それを扱える職人がしっかりと技術を継承していました。

もうひとつがデザインの部分です。特にヒットしたsoil バスマットは、珪藻土をバスマットに持ってきたことで、デザインそのものも斬新でした。従来の商品からイメージすると明らかに異なっていますよね。バスマットと言えば当時は布製が多く、その売場に珪藻土という固い素材のものがあるって、見るからに異質じゃないですか。

− 名児耶氏:さらにsoilの商品はパッケージのデザインで、売場での見え方、物新しさを強調しました。自然素材感の伝わるシンプルなパッケージや、グレーカラーリングも手伝って、セレクトショップに新しいバスマットの見せ方を提案することが出来たから喜ばれたんでしょうね。

また、エンドユーザーも発信しやすく、インフルエンスしやすい商品ということにもなったのかなと思います。

− 石動氏:段階的な展開も良かったのではないでしょうか。

最初は珪藻土のコースターから始まり、インパクトこそ大きくはなかったかもしれませんが、布でもなく陶器でもなく、双方の良さを合わせ持った商品としてセレクトショップに受け入れられました。同時に世間の「珪藻土」に対する興味関心を引き出すことができたんです。

珪藻土の可能性を広げるこれからの展開

soilの現在の取り組みについて教えてください

名児耶氏:バスマットのように、soilは暮らしに浸透したブランドです。それがユーザーの生活を豊かにしていると思っています。

これから僕らがやりたいのは、そうしたモノづくりのヒントをあらためて身近なところから得ようとすることです。エンドユーザーとsoilとの直接の接点がうまれる取り組みを準備しています。

− 石動氏:soilの製造工場がある石川県で初めて直営の店舗をオープンさせます。ブランドとしては、これまでエンドユーザーとのタッチポイントが薄かったので、直営店を通じて今まで以上に生活に寄り添ったモノづくりへと生かしていければと考えています。

2021年9月18日にオープンしたブランド初の直営店舗「soil flagship shop」

− 石動氏:それに、まだまだ珪藻土という素材には可能性があると思っています。世の中に珪藻土の商品が増えて名前は有名になりましたが、珪藻土の名前を知っていれば、全てを知っているように語られることがあるんです。でも実はそんなに簡単な素材ではありません。

更には「多孔質」など、珪藻土以外の自然素材を使った商品も企画しています。

例えば、多孔質には吸水性や吸湿性だけではなくて、吸臭効果もあります。それを「炭」や「焼却灰」など他の多孔質の物質と組み合わせて吸臭性を強化した商品を販売したり、更に他の物質と組み合わせて防虫効果のある商品の開発等も進めています。

ゴミ箱の蓋を開けたときの不快な臭いを軽減する「FRESHEN (フレッシェン) 」

− 石動氏:このような新商品の反響を見るためにも、直営店を今後の展開の軸にしていきたいと考えています。

名児耶氏:世の中の暮らしに対して、これだけ純粋に自然のモノを身近にする商品のインパクトって、とても大きかったと思うんですよ。

直営店を通じて、自然の素材が持っている効果や自然のモノが暮らしの中にあることで起こる豊かさを、これまで以上に訴求していきたいですね。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

デザイン商品の関係

今ではライフスタイルショップだけに限らず、様々な業態の店舗で珪藻土を使った商品が売られている。まさにライフスタイルショップが世の中に広げた素材と言っていいと思う。

それによってエンドユーザーの暮らしはポジティブに変化した。バスマットに新たな選択肢が加わって、お風呂場を出たところに珪藻土のバスマットのある光景はもはや普通のもの。

振り返ればそれまで業界に無かった素材で機能性があり、しかも自然素材というキーワードは、ライフスタイルショップが仕入れたいと思う商品といって間違いない。

それを浸透させたのは、間違いなくデザインの力だ。今回の取材でそれがあらためて分かった。

すべてを挙げることはできないが、総じて言えばsoilがデザインしているのは、ショップを通してユーザーの手に届き、ユーザーがどう反応するか、そこまでの一連のフローだと思う。

どうすればショップが扱いたいと感じる商品になるか、トレンド感を注視しながら魅力的な商品にしていく力。その結果としてバスマットが生まれたのなら、「ユーザーに届くところまでデザインすること」がモノづくりの可能性を引き出している。

その目線がある限り、直営店のオープンはsoilに良い影響を与えるだろう。左官職人の生活を守ることがきっかけで始まったsoilが、またライフスタイル業界の常識を変える商品を生むかもしれない。

掲載企業ショップ紹介

soil (ソイル)

金沢に本社を構える左官工事の専門集団イスルギを母体として、左官仕事を生かした新規事業として2009年にブランドスタート、2015年に会社設立。古来より培ってきた技術を背景に、珪藻土のバスマットをはじめとした、暮らしを少し豊かにするユニークなアイテムを生み出している。

公式ホームページはこちら
https://soil-isurugi.jp/


h concept (アッシュコンセプト)

デザインを通して世の中を元気にする会社として2002年設立。オリジナルブランド「+d (プラスディー) 」をはじめとする生活用品の企画製造および販売や、全国の企業・産地のデザインコンサルティング等を行う。2012年には地元・下町に直営店の「KONCENT (コンセント)」をオープン。国内・海外にも店を構える。

公式ホームページはこちら
https://h-concept.jp/


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