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挑戦を重ねるKanademono

新たなショップの立ち上げにおいて最も重要なこと、それはずばり「集客」ではないだろうか。どんなに良いモノを仕入れても、PRが十分に行えていなければ、エンドユーザーにショップや商品の認知をしてもらえず、売上に繋げることができない。また、PR施策を闇雲に行っても商品が売れるわけでもなく、常に効果的な戦略を練る必要があるだろう。

株式会社bydesign (バイデザイン) は創業から5年というまだ若い企業でありながら、メインブランドである「Kanademono」を中心として着実に売上を伸ばし続けている。

その理由の一つとして「新たな選択肢を増やすbydesign」でも紹介をしたように、エンドユーザーの需要を的確に押さえたbydesignならではの独自のモノづくりが挙げられる。ただ、同社の成長の理由と強みはそれだけではない。良いモノを作り、それを周知してもらう為の集客施策に工夫がなされていることも影響している。

今回は、2021年7月から新たに取締役社長として就任した 石川 森生 (イシカワ モリウ) 氏に、「DtoCならでは」という観点からKanademonoの集客施策について話を伺った。

Kanademono
https://kanademono.design/
株式会社bydesignのメインブランド。金物と木材の調和 (ハーモニー) から生まれたミニマルでニュートラルな家具を提案する。素材感と高いデザイン性、さらに実用性にもこだわり、サイズオーダーやオプション機能など、使う人、シチュエーションに合わせて日々アップデートするインテリアが魅力。

新しいKanademonoの始まり

石川氏の経歴について教えてください。

− 石川氏コメント:元々、僕はEC事業の立ち上げやサポートを数多く手掛けてきました。また、それと並行して大手企業のWeb事業の責任者を務めることもありました。

そういった経験を踏まえて僕が仕事をする上で重要視しているのは、市場で伸びている領域に常に身を置いておくことです。時代の流れが早いIT業界の中で、上手くいっているモデルに後から乗っかるだけでは後れを取るばかりになってしまいます。

波に乗っているモデルをいち早く見つけてそこに参入しなければ、脅威となる同業他社と戦っていけません。

− 石川氏コメント:だからこそbydesignの創業者から、「テーブルのサイズオーダーを受けるDtoCビジネスを手伝ってくれないか」と声を掛けられた際は前のめりになりました。当時、すでに勢いのあるDtoC業態の企業がいくつか現れ始めていたので、そこと戦っていく為にも、まずはDtoCという業態を自分自身の目で確かめてみたいと思ったんです。

最初は業務委託という形で関わっていましたが、bydesignの面白いほどの成長ぶりを間近に見て、表面的な関わりではなくもっと本格的に内部に入っていくことを決めました。

どのような経緯で社長に就任することになったのでしょうか?

− 石川氏コメント:僕が社長になったのは、Kanademonoが次のフェーズに突入したからです。これは後で詳しく説明しますが、以前のbydesignはとにかくプロダクト一本で勝負していくという形式をとっていました。

KanademonoのメインであるTHE TABLE (ザ テーブル) は、エンドユーザーの需要を満たすことができていたし、後のコロナショックによって人々がおうち時間にこれまで以上に投資をするようになったこともあって、更に勢いを増すことができたんです。

それを機に、今までと同様の成長カーブを維持していくのであれば、マーケティングを強化し、組織としての機能も強化をしていかなければ難しいという話になりました。

これまでの延長線上のやり方ではなく、考え方を変えて運営をしていくことが、よりKanademonoの成長にも繋がると判断し、創業メンバーとの話し合いを重ね、経営者を交代しようという結論に至ったんです。

経営方法を変えるだけではなく、社長まで変えるというのはとても大胆ですね

− 石川氏コメント:創業から5年が経った今、Kanademonoは0から1を作るフェーズを終え、1を100にするフェーズへと移行している段階です。何かを新たに作り出すのと、作ったものをより大きく成長させていくのとでは、やることも方法も変わりますよね。

大胆に思えるかもしれませんが、創業メンバーは前者を得意としていて、僕は後者を得意としているから、それぞれのフェーズを得意とする人が経営者に立つ方がより会社を伸ばしていけるという考えの下での判断です。

− 石川氏コメント:とはいえ何もかもをガラッと変えるわけではありません。現在はお部屋の実例共有アプリを運営しているルームクリップ株式会社が親会社になったことで、資本構成自体は変わりましたが、Kanademonoはこれまで同様にDtoC業態を続けていきます。

業態はそのままに、更なる成長を促す為に集客施策の強化は必須と考え、そこを得意としている僕が経営を引き継いでいくことになりました。

集客施策に注力するKanademono

何故、集客施策を強化したのでしょうか?

− 石川氏コメント:施策を組む前に、どのようなアプローチをすれば最も効率よく売上を伸ばすことができるのかを把握する必要があるんです。そこで、まずは売上が立つまでの流れを全て分解する作業から始めます。売上が立つのは注文が入るからですよね。それを更に細かく分解していくと、事業目標を達成する為の具体的な計測指標となるKPIの内、どの要素を強化することが売上を効率よく伸ばすことができるのかが分かるんです。

例えば、今より売上を2倍にしたいという目標を立てた時に、集客を見込んで広告を増やすのか、客単価を上げる為に品揃えを増やすのか、選択肢は色々あります。しかし、ビジネスの形態や段階によってどのようなやり方を採るべきかは変わります。

そうした分析を行った結果、Kanademonoは集客を念頭にWebの広告運用を改善して、売上を伸ばしていくのが最も早く且つ効果的であると判断しました。

最も効果的な施策がWeb広告なのは何故でしょうか?

− 石川氏コメント:既に大手ブランドが多く存在している家具市場の中で、Kanademonoが対等に渡り合っていく為に有効となるからです。そもそもインテリア業界の中でDtoCそのものが既存の大手家具ブランドの流通への対抗策なんです。

日本のEC化率は8%で、とすると流通の9割以上がWebじゃない場所で動いていることになりますよね。本当はリアルショップで商品の展開をした方がいいんでしょうけど、既存の流通に入っていく為のプロセスは決まっていて、そこをカバーできないベンチャーでのキャッチアップは難しいんです。

しかし、SNSが登場したことでエンドユーザーの目に留まる機会が増えて、我々のようなベンチャー企業が既存の流通を抑えて売上を伸ばしていける可能性が飛躍的に増えました。Kanademonoが Web広告にコストをかける理由はまさにそこにあります。

広告施策を行う上で意識していることはなんですか?

− 石川氏コメント:広告内容は特に気に掛けながら精査しています。例えば、主力商品であるTHE TABLE は、機能を推すのではなく天板や鉄脚のラインナップが豊富で組み合わせも自在に行えるので、良質な空間を作ることができるという内容にしているんです。

また、ターゲティングも細かく見ています。かなでものが築いてきたブランドの世界観に共感してくれそうな人へ、SNSでリーチをしていくことで、そのニッチな領域の中では既存の流通より強い影響力を持つことができます。そこをカバーすることにより、既存流通に出す為の投資よりも費用対効果が高いという結果が表れているんです。

何故、高い効果を得られるのでしょうか?

− 石川氏コメント:弊社では広告運用の成果を判断する為の手法として、一般的に用いられるラストタッチというモデルではなく、「どれだけ人の記憶に残るか」に重きを置いています。ラストタッチは、訪問者が商品を購入する直前のクリックについて、それ以前にどのような広告を見てきたのか、購入に至るまでに何がどのような影響を及ぼしたのかを基準としています。

例えばYouTubeに広告を掲載したとして、このラストタッチでは高い集客効果を得ることができないんです。

− 石川氏コメント:YouTubeへの訪問者は、他に見たい動画があってYouTubeを開きますよね。広告は動画の合間に流れるので、ともすると邪魔だとも思われかねないんです。実際にYouTubeの広告を見て商品を買おうとしてくれるエンドユーザーは多くありません。

しかし、我々はYouTubeの広告を強化することで、後に別の経路からの売上が立つことになるという検証結果を得ています。動画の合間であれ、かなでものが伝えたい世界観や商品の魅力を精査して広告を作っている為、エンドユーザーの記憶に残り、それがきちんと集客効果を高めて売上にも繋がっているんです。

Kanademonoが描く未来

今のライフスタイル業界に求めることはありますか?

− 石川氏コメント:ライフスタイルを提案している立場の者として、「家具は長く大切に使い続けていくモノ」という考え方が浸透していけばいいと思っています。その鍵となるのが引っ越しです。

日本では人と家具が一緒に新しい住居に移るのが一般的で、これは人と家具がセットになっているといえます。このケースでは、それまで使っていた家具のサイズや雰囲気が新しい住居に合わないから処分するということもあるでしょう。

家具の買い替えに繋がるので、経済を回しているという観点では確かにそうなのかもしれませんが、サステナブルとはかけ離れているし、時代と逆行しています。

− 石川氏コメント:一方、欧米では住居と家具がセットになっている文化が浸透していて、実際に日本よりも家具付き賃貸が普及しています。部屋の雰囲気や間取りに合わせた家具が揃っている空間を選んで、人だけが移動するんです。

日本でも同じように家具付き賃貸が普及していけばいいと思っています。家具を自分で購入するとなった時、経済的な理由で安価なモノしか選べない人がいる現状はすごく勿体ないんです。

部屋に合うように作られた良質な家具を、長く大事に使い続けることが浸透して、しかもその空間を誰でも自由に選ぶことができるようになれば、良い循環が生まれるんじゃないでしょうか。

その為には、家具やそれによって得られる体験を提供するライフスタイル業界が、積極的に新しい価値観も提案していくことが必要だと思います。

Kanademonoの展望を教えてください

− 石川氏コメント:これまで築いてきた商品そのものやモノづくりのプロセス、集客施策等あらゆることを今後の状況に適応させ、再現性を高めていきたいです。

再現性を高めるというのは、これまで培ってきたことを仕組み化して、プラットフォームを確立していくことです。誰か一人優れた人間がいるから会社が成長する、そうでなければ成長できない、というのは会社が一定以上の規模になった際のウイークポイントになってしまいます。優れた誰か一人がいなくてもしっかりと成長が維持できる仕組みを成立させていきたいですね。

これはモノづくりのプラットフォームを作る上でも同じことで、ルームクリップと組んだのも、そこが大きく関係しています。ルームクリップは商材アイデアが豊富で、どのような商品がどういう属性のユーザーに好まれてタグ付けをされているのかといったデータや、課題に対しての改良アイデア等も多く蓄積しています。

− 石川氏コメント:これまでにもエンドユーザーからの反応は拾っていましたが、それらのデータがあることでマーケットインのプロダクト強化をより図ることができるんです。今までに築き上げてきた世界観とエンドユーザーに求められていることを、どのようにミックスして変化させていくのか、そこを意識することで更に成長していけると思っています。

経営自体は変わりましたが、何もかもを一新させたいわけではありません。「誰もが素敵な空間にアクセスできる社会の実現を」という理念は変わっていないし、プロダクトへのこだわりを守っていきながら、強固にして進化をしていきたいと考えています。

今いるスタッフやこれからbydesignに入ってくる新たなスタッフにとって、変わらぬこだわりが課題解決の為に認識を共有できるツールになればいいですね。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

Webマーケティングに秘められた可能性

bydesignは新たな経営者を迎えて、更なる発展を遂げるに至った。昨今では適材適所という考え方の下で、トップが変わるのは珍しいことではないが、同社は何もかも全てを変化させた訳ではない。

あくまでも「誰もが素敵な空間にアクセスできる社会の実現を」という理念を念頭に、今ある課題を解決する手段の一つとしてマーケティングの強化に取り組んだ。

それによって、「欲しいモノを探しても見つからない」という思いを抱えるエンドユーザーに対して、同社の商品が広く認知される結果に繋がっている。ただ、これは決してECショップだから成し得たことではない。

実際の販売の場こそ異なるものの、状況によって購入機会を増やす為の手段を変化させていくことは、リアルショップとECショップ、どちらにとっても有効であることは変わらないだろう。

これからマーケティングの力が今まで以上に集客へ影響を及ぼすのは間違いない。SNSが普及している中、特にWebマーケティングはショップの成長を著しく飛躍させてくれる可能性を秘めている。

新たな顧客の来店を見据えて、集客施策を深く考えてみてはいかがだろうか。

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