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アップサイクルにより新たな価値に変換された伝統工芸

本来廃棄物とされていたモノに、デザインやアイデア、技術革新で新たな価値を加え、今までにないモノへと生まれ変わるアップサイクル。廃棄物を原料に戻し再利用をするリサイクルとは異なり、本来の素材を活かしつつ、また違った価値を与えることができる。

過去の記事でご紹介した「アーバンリサーチが取り組むSDGs」のように、アップサイクルが持つ独自性やデザイン性、そのストーリー性から、ファッション業界や建築業界を皮切りに、今インテリア業界でも注目されているのだ。

サステナビリティが叫ばれる昨今、製造後最初に流通し販売される「1次流通」や、一度消費者の手に渡った後、古着屋やオークションを通じて販売される「2次流通」とは違う、「2.5次流通」という新しいビジネスモデルが続々と誕生している。

民家から廃棄物として調達した箪笥を、アーティストとのコラボによりアップグレードして販売する、富山県の株式会社家’s (イエス) もその一つである。

株式会社家's (イエス)
https://www.yestoyama.com/

“古いもの (old) × 新しいもの (new) = 本当に新しいもの (the new) ”をコンセプトに富山県で活動をスタート。日本の伝統的な箪笥や木彫りの熊などを、地域の職人や全国のアーティストとコラボし、アップサイクル商品として新たな価値を創り出す。

「上質な無垢材を使った、100年経っても色褪せない工芸品ともいえる家具を捨ててしまうのがもったいないと思ったんです。」

そう語るのは、代表である 伊藤 昌徳 (イトウ マサノリ) 氏。

今回は箪笥のアップサイクルから見る、消費することに意味のある新しい価値とは何なのか、それが今後ライフスタイル業界にどんな影響をもたらすのかを紐解いていきたい。

移住で気付いた“非効率”の真の豊かさ

株式会社家’sの事業内容を教えてください。

− 伊藤氏:富山県高岡市を拠点に家具や古民家のアップサイクル事業を行っています。具体的には、地元の木工職人、塗装業者、そして全国のアーティストと都度プロジェクトメンバーを組み、富山で調達した遊休家具にデザインを付加して生まれ変わらせます。

それを自社ECサイトで販売したり、ホテルや飲食店へ卸しているんです。まだアップサイクルの家具に馴染みのない方がほとんどなので、気軽に使っていただけるように2020年からはBtoC事業として、循環型アップサイクル家具のサブスクリプションサービスも開始しました。

サブスクであれば購入するよりも気軽に利用できるため、より多くの人にその価値に触れてもらう機会を提供できると考えています。

循環型アップサイクル家具の事業モデル

会社設立の経緯を教えてください。

− 伊藤氏:東京で人事コンサルティングの会社に務めた後、富山県高岡市への移住してからは地方創生を目指して起業しました。東京は人口密度が高く娯楽も多いため、時間の体感速度が速く、全てにおいて効率重視ですよね。

一方、高岡では情報伝達の方法一つを取っても、回覧板を回して日常的にコミュニケーションを取るような、地方特有の「非効率の中の豊かさ」に魅力を感じました。

また、およそ400年前、高岡市は金属工芸や漆芸が盛んな工芸都市として栄えた城下町だったんです。

− 伊藤氏:現在、「後継者不足」や「モノが売れない時代」など、伝統産業から聞こえる声は、必ずしもポジティブなものではありません。

しかし、高岡の職人たちからは、伝統は守るものではなく攻めるものという考えに基づき、新たに100年後の伝統を作り上げようとする職人の勢いを感じました。

彼らの想いに感銘を受け、過疎化・高齢化が進行する富山で自分にどんなことが出来るか考え、様々な事業にチャレンジしているなかで、大量に廃棄されている古い家財道具に気が付き、地元の職人と共に家具をアップサイクルする事業に行き着いたんです。

マッチングによる新たな商品開発のカタチ

どのように家具をアップサイクルしていくのですか?

− 伊藤氏:メインで取り扱っている家具は、無垢材を使用した昔ながらの製法で作られた品質の良い箪笥です。

クライアントの希望、自社ECでの販売予定など、目的によってどの職人やアーティストとプロジェクトチームを組むかを決めるところから始めるんですよ。

その後、チームと一緒にどんなデザインで付加価値を付けるかという大枠を決めます。

デザインは基本的にアーティストにお任せすることで、振り切った面白さが表現出来たり、結果的に精度の高いアウトプットが出来ると思っています。

アーティストの田中紳次郎氏による、古い長持に柄を施すアートイベント

最近のおすすめアイテムはありますか?

− 伊藤氏:異素材コラボの箪笥でしょうか。異素材と合わせることで、木が活きてくるんです。

新しいアクリルと約100年前の木材とか、素材の対比で木の温かさが引き立つんですよ。

蛍光色のアクリル板と組合せた箪笥
異素材を組み合わせた箪笥をテーブルとしてコーディネート

− 伊藤氏:他にもアルミフレームのチェストは、金属と木のバランスが妙にマッチして、和洋どちらの空間にも合う仕上がりになっています。

無垢材の箪笥がアルミフレームとの組み合わせでチェストに

どのようにして異素材コラボが出来上がったのですか?

− 伊藤氏:会社のMissionにも掲げているのですが、古いものと新しいものを組み合わせることで、今までにない付加価値が生まれると考えています。

昔、人材と企業のマッチングを仕事にしていた時、マッチングによって生まれる無限の可能性を肌で感じたんです。企業が新たな人材を加えることで、大きく飛躍していく様を数多く見てきました。

それはこれらの箪笥のように素材の組み合わせにも言えることですし、売る場所や買う人というモノとヒトのマッチングも同様です。

例えば富山では箪笥を廃棄するご家庭が増えていますが、アップサイクルしてデザインという価値を加えることで、東京やNYでは元値より高い価格で買ってくださる方がいる。

木彫りのクマを使ったリペアプロジェクト

− 伊藤氏:そういった場所のマッチングも、ビジネスをしていく上でとても興味深いと考えています。

木彫りのクマを使用した、リペアプロジェクトはマッチングの成功例ともいえます。富山のリサイクルショップで数千円で買えるモノが、アーティストの手によって、数万円~数十万円のアートオブジェに生まれ変わるんです。

不要とされていたモノがアップサイクルすることで、また誰かの家のリビングに飾ってもらえる。伝統を残しながら価値を循環させることができるのが、アップサイクルの素晴らしい点ですね。

アップサイクルで変化する用途

今も箪笥の需要はあるのでしょうか?

− 伊藤氏:BtoC事業では、国内で箪笥を本来の用途で販売するのは難しいと学びました。暮らし方の変化によって今の日本の家庭ではクローゼットが主流になった為、箪笥が不要になってきたんです。

そこで、食器棚やサイドテーブルなどの別の家具にアップサイクルすることで、ライフスタイル需要に合わせた新たな使い方を提案することが出来ています。

海外のお客様は、こちらが想像しないような使い方をしてくださるから面白いですよ。本棚にしたり、テレビボードにしたり、異文化の国だからこその使い方に刺激をもらっています。

BtoB事業では、飲食店やホテル向けの売上が伸びているんですが、こちらも箪笥ではないユニークな提案がお客様に喜ばれています。

あるショップでは箪笥を一面に配置し、壁として使ってもらったり、ケータリング会場で箪笥にキャスターを付けて持ち込み、現地で軽食が入った引き出しを、そのままサーブする面白い試みをされた企業もありました。

箪笥を壁として使った和装のイメージビジュアル

− 伊藤氏:昔と同じ用途の箪笥としての需要は減っていますが、工芸品としての箪笥を価値ある素材とみなし、アップサイクルして別のものとして利用されるお客様が増えているのは嬉しいことですね。

ケータリングのトレーとして箪笥の引き出しを使用

今後チャレンジしたいことは何ですか?

− 伊藤氏:日本家具のアップサイクルブランドというカテゴリーで、日本の職人の技術の高さを海外にも発信することで、富山の地域やそこで働く職人に今以上に元気になってほしいです。

一点モノで「他にない」ことを評価いただいていますが、一点モノであるが故の調達の難しさなど、まだまだ改善すべきポイントは盛りだくさんですが、今後の成長を期待していただきたいです。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

これからのユーザーにとっての消費の意味

これまでアパレル業界だけでなくインテリア業界の多くの企業では、「計画的陳腐化」という考えの下、既存商品を意図的に時代後れにすることにより、市場の拡大を図る戦略モデルが成り立ってきた。

トレンドによって買い替え需要を促進し、その存在が賞味期限を過ぎた在庫を生み出してきたのだ。エンドユーザーの購買の物差しも変化しつつあり、今やトレンドであることが購買理由になりにくい。

一方で、ユーズドを含めたリセール市場や、アップサイクルなどで掘り出し物を見つける体験こそが楽しく、エンドユーザーの購買意欲を刺激するといった事象も生まれている。

エンドユーザーに対して、「トレンドに代わる消費」によって新しい価値を提供する必要が生じているのではないだろうか。まさにライフスタイルを売り物にする我々のビジネスにこそ、新たなビジネスモデルの創造が求められている。

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