2021.06.29.tue

“モノづくり県”の地場産業とこれから

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地場産業から読み解く本質の価値

日本のモノづくりにおいて、地場産業や伝統産業は欠かせない要素である。各地域の気候や風土など諸条件を活かしたモノづくりや、日本の文化が生みだし継承されてきたことは、これからのモノづくりにおいても活かしていきたいエッセンスだ。代々紡がれてきたストーリーは、モノの価値を高めるだけでなく、今後の文化の発展にも力を貸すに違いない。

今回MMD TIMESは、岐阜県を中心にモノづくりを行う企業、株式会社岐阜県商品開発研究所を取材した。商品の開発から販売、プロモーションまでを担い、岐阜県産商品のブランド力向上のためのサポートを行っている。

飛騨家具や美濃焼など、岐阜県産の商材はライフスタイルショップでも目にする機会が多いのではないか。岐阜県には昔から「7大産業」という言葉があり、食品、繊維、陶磁器、木工・家具、金属・刃物、紙、プラスティックの7つの地場産業で成長してきた歴史を持つ“モノづくり県”だ。

その魅力を国内に、そして世界に発信していきたいと熱い志を持った代表取締役兼クリエイティブディレクターの林弘之 (ハヤシヒロユキ) 氏。その林氏が抱いているモノづくりへの想いと、今後のモノづくりのあるべき姿を伺った。

株式会社岐阜県商品開発研究所
https://www.gpdl2020.com/
「岐阜」というキーワードを軸に県内、県外の多くの人が集うプラットフォームとなることを目指す企業。主に、協業事業者や連携事業者・商工会・金融機関者と連携し商品開発や販売を行う。今後は海外での店舗運営も予定している。

モノづくりに責任が持てる集団

会社設立のきっかけを教えてください。

−林氏コメント:「モノの本質の価値を提供する会社」を創りたいと思っていたんです。僕は呉服屋の息子として生まれ、高級着物を巡回して販売している父の背中を見て育ちました。

着物の世界は独特で、販売する側のセンスでモノの価格が変動するんです。着物や帯などは基本的に量産するものではないので、価格の比較が難しく、着物柄に帯柄を合わせるなどのコーディネートも必要ですから、そういった売り手のセンスや信用も含めて価格が決まるんです。

そういう業界を見て育った中で、「モノそのものの価値」を考えることが多くなりました。呉服業界のように売り手の手腕でモノの価値を左右できることも面白いのですが、そういう世界を見て育っただけに、逆に「モノそのものの価値を届けるビジネス」をしたいと思うようになりました。

また、「0から10まで携わることができるビジネス」へのこだわりが強かったので、出身地である岐阜県産のモノづくりに川上から川下まで携われる会社を立ち上げることにしました。

美濃市にある岐阜県商品開発所のギャラリー兼オフィス

岐阜県商品開発研究所とは?

−林氏コメント:社名の通り、岐阜県産のモノを中心とした商品開発を行っています。岐阜県というと県民にもあまり知られていないのですが、7大産業が盛んな県で、生活にまつわるモノはほとんど揃ってしまうんです。

これだけの産業が集まっている県は日本でも珍しいのですが、何でもあるからこそ突出して目立つということがないのが課題ですね。僕らはそんな岐阜県全部を商品だと捉えて、地元のモノづくりを活性化させ発信していきたいと考えました。

業務の内容としては、自社製品としての開発もあれば、事業者からの依頼でディレクションに入ることもありますね。具体的には、企画の立案から開発、商品PRも含めたマーケットの作り方や展示会の設営まで全てを行っていて、社内外に各分野に特化した人材・ブレーンを抱えていることが強みです。

−林氏コメント:会社はあくまで社員一人ひとりが叶えたいモノづくりの“プラットフォーム”なので、会社が作りたいモノを作るのではなく、モノづくりへの明確な目的と想いがある個 (=社員) に会社が投資をするカタチを取っています。いわゆる「社内ベンチャー」のようなスタイルです。

社員は自分のブランドを立ち上げて自分で運営していきます。最終的にはそのブランドで独立してもらいたいですね。0から10まで自分で行うことになるので、モノづくりへの責任は大きく問われますよね。「最後まで自分のモノづくりに責任が持てる集団」、そのプラットフォームを作ることが代表としての僕の役目だと思っています。

課題解決と継続可能なモノづくり

具体的な事業事例を教えてください。

− 林氏コメント:手漉きの和紙を使った「花ノ和」というプロジェクトがあります。県の「美濃和紙をブランディングしてほしい」という課題に応えるカタチで自社製品として和紙の花を開発しました。

長期間劣化しない和紙の特性を活かした美濃和紙の花

−林氏コメント:実は、もともと美濃和紙で作る花はあったんです。でも色が付いていたり、素材が単調だったりと和紙である必要性が低い商品でした。そこを和紙だからこそ活きる、むしろ和紙にしかできない商品へと進化させたのがこのプロジェクトです。

よく照明のシェードなどに利用されるように、光で透ける繊細な質感が和紙の良さですよね。その和紙の良さは着色しない方がよく表れるので、思い切って白一色にしました。それだけでなく、花の種類に合わせて、和紙の厚みやテクスチャを変えるなど細かいところまで作り込んでいるんですよ。

県や市と取り組む事業者へのセミナー

− 林氏コメント:こうした自社製品の他にも、岐阜県の様々な事業者の商品をプロデュースしています。デザインやブランディング、価格設定はもちろん、生産工程での課題や後継者問題など、それぞれの事業者が抱えている内容の炙り出しをして、一つひとつ解決します。

事業者が直面している課題をヒアリング

− 林氏コメント:その際に意識していることは「事業者が自己資金の中で可能なビジネス」を考えることです。県産品の商品は地方創生に繋がるので、県からの支援金が多少なりにあるんですね。でも我々はその資金をモノづくりのイニシャルコストに充てず、プロモーションに充てるよう勧めます。

開発商品は展示会などに出展し認知を図る

− 林氏コメント:支援金がないと生産できないようなスキームでモノづくりを開始してしまうと、ゆくゆく途絶えることになりかねません。モノづくりというのは、売って終わりではなく売ってからがスタートだと思っているので、各事業者が支援金のない状態でも、そのモノづくりを持続していける仕組みを作っていきたいんですよね。

未来のために目指すこと

今後、岐阜県商品開発研究所が目指すことは?

− 林氏コメント:大前提として岐阜県に貢献していくことはもちろんなのですが、もっと大きい範囲で言うと“ヒト”と“モノ”への関わり方を深めていきたいと思っています。

ここで言うヒトというのは、これからの未来を築く「子ども」を指しています。教育を行政に任せきりにするのではなく、行政・教育機関にまでモノづくりの知識を落とし込んで、最終的には子どもたちにビジネスの仕組みを学んでもらいたいと思っています。近い将来、我々のような会社と一緒に仕事ができる環境を子どもたちに与えたいですね。

また、モノというのは、「太陽、水、風や木など、自然の摂理から成り立つ資源」です。我々は、そこに重きを置いてビジネスをする目標があります。

− 林氏コメント:地域の資源でどのようにモノづくりやビジネスが成立して循環しているのかを、もっと可視化して子どもの世代に伝えていきたいです。具体的には、山を購入してビジネスをしたいと思っています。例えば1本の木を選ぶところから、その木でデスクを作って経年変化を楽しむところまで、子どもたちに体験してほしいんです。

人間はどこまでいっても自然に依存して生きているので、そこからできるモノづくりや教育、ビジネスを発信し体験してもらうことで、どんなことも自分たちの生活する土地や自然が財源なんだということをもっと認知させていきたいですね。

本質を追求し商流を探る

ライフスタイル業界の今後についてお考えはありますか。

− 林氏コメント:全ての人が“想い”と“責任”を持つことが重要になってくると思います。当社でもそこはとても重視していて、例えば、採用時の入社の目的でも「これを作りたい」ではなく「何故それを作りたいのか」の想いがないとモノづくりは難しいと判断しています。

最後まで遂行するモノづくりへの責任もそこに付随してくると思うんですよね。ライフスタイル業界も同様で、強い想いと責任を持ってモノづくりと向き合ってほしいと思っています。

それから、ライフスタイルとは環境づくりなので、常に自分の生活が何で成り立っているのかという本質を考える必要があります。

− 林氏コメント:岐阜県で言うと、林業は大きな要素のひとつです。木材からは、家や施設などの建築物はもちろん、家具や小物、生活雑貨など何でも造れます。実際に飛騨家具などは全国各地にファンがいてブランドとして成立していますね。これは岐阜県にとっても大きな収益で、県にとってもなくてはならないビジネスです。

このように各地域によって経済圏の作り方は違っていて、そこにはちゃんとした理由があります。まずは自分たちの生活エリアではどうやって経済を回しているのか理解することが重要だと思うんです。そこを理解することで、自分たちの環境に貢献するような買い物の仕方、働き方を選ぶこともできますよね。

幸いなことに、世の中はだんだんとそのことに気づき始めているんです。「誰がどこでどのように作っているのか」、近年、エンドユーザーはそこを気にしてモノを買う風潮になっています。変わらないといけないのは、作り手側なのかもしれません。

県のブラッシュアップ事業で商品監修をした除菌剤

− 林氏コメント:例えばパッケージ。今であれば、表と裏が逆になるべきだと僕は思っています。原材料や生産地・生産者など、人が知りたい本質の部分は裏に書いてありますよね。これからの時代は、エンドユーザーへモノの“本質”を伝えていくアプローチのほうが必要なんだと思います。

これだけ本質が重視される時代だからこそ、我々もそこへの追究は欠かせません。業界全体も周辺環境を見つめ直して、何十年、何百年と経っても継続していける、その場所の風土に合った商流を探る必要があると思っています。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

未来に貢献する仕組み作り

自分の身の回りのモノが何で成り立っているか考えてみてはいかがだろう。自然に逆らっていたり、シンプルであるべき工程が複雑になっていたりしないか、改めて考えてみると、作るモノや売るモノの価値観が変わってくるはずだ。

これから100年後、同じ場所に住む人々の生活を守るためにも、自分たちのライフスタイルを見直し、構造を理解した上で初めて未来に貢献する仕組みを作れるのかもしれない。

SDGsが謳われる昨今、言葉の意味を知るだけでなく、その本質とは何かを考える必要があるだろう。まずは自身の生活圏という小さい範囲から、現在の生活環境をどう維持し改善・開拓すべきなのか問いかけてみてほしい。

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