2021.04.06.tue

デジタル時代のステーショナリー

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個人需要が好調な文具業界

文具業界はリーマンショックで一時的な落ち込みを見せたのち、現在までに順調に回復をし、現状では大きな落ち込みはなくほぼ横ばいである。

その要因は、個人需要に対しての高機能・高性能製品の開発、それらの海外進出。一方、法人需要はタブレットやスマートフォンなどのデバイスの積極的な活用やペーパーレス化により減少傾向にあるようだ。

これだけデジタル化の勢いが加速する中で打撃が少なく、むしろ「文房具大賞」「文具女子博」などの賞やイベントが盛り上がりを見せるなど、業界として衰える様子はなさそうだ。また、最近ではインターネットと連動がある“IoT文具”の開発も進み、学校教育でのデジタルデバイスとの併用という新たな市場開拓も現実味を帯びてきた。

このように大手文具メーカーが海外展開やIoT化を進める中、ライフスタイルショップが取り扱うことで気づきを提供できるアイテムにはどんなモノがあるのか。デジタル時代の文具業界の新たな動向を各ブランドの特徴とユーザー特性から考察してみよう。

時代が追いついた新たな働き方アイテム

コロナショック以降、働き方は大きく変化した。在宅ワークの普及でステーショナリーアイテムにも新たな用途が発生し、ニーズを伸ばしている。

株式会社LACONIC (ラコニック) から展開されるブランド「NOWHERE (ノーウェア) 」は「新たな働き方やライフスタイルの変化」を見据えたモノづくりに調整するプロジェクトとして2018年に立ち上がった。

もともと企業が取り組むフリーアドレスに対応するアイテムとして販売されていた「ドキュメントクラッチボックス」が現在のリモートワークの整理・移動ツールとして重宝され、新規ユーザーを獲得しているようだ。

さらに、このアイテムは自宅への作業持ち込みによる収納需要に対応できる点も人気の秘密。既存の収納アイテムに「ファッション性」「可搬性」をプラスした移動型の“魅せる”収納ボックスとなっている。

スタッキングした時を想定したフラットな構造

「何でもいいからあればよい」という自宅の何気ない収納・整理グッズは今、より高い利便性やファッション性が求められるフェーズに突入したようだ。業界の今後の動向に注目したい。

アイテムひとつの重みの変化

変化に合わせて進化するアイテムもあれば、時代が移り変わっても変わらずに愛され続けるモノもある。PICUS (ピクス) のアイテムはそんなアンティークを思わせるデザインをベースに素材の質感や国内生産にこだわってつくられている。

展開するブランドの一つ「MTS」は、素材の特性を活かした手触り感のあるシンプルな形状が特徴だ。メイン素材として真鍮無垢が使用されているものが多く、使い込むほどに味のある変化を楽しめる。

断捨離やミニマリストというモノを最小限に絞る生活スタイルの流行を経て、それを追い風に加速するデジタル化。その結果、1人あたりが手元に持つ文具の数は圧倒的に減っているのではないか。

だからこそPICUSの目指す「一点物でもなく、大量生産でもない中量生産」という位置づけはエンドユーザーの心を掴むのかもしれない。

“中量生産”とされるアイテムはギフトにも最適

自分が選んだアイテムが経年変化していくことは、自らがつくり出す“一点物”アイテムとして愛されるであろう。アナログ文具にはアナログならではのデジタルに出せない味があることを忘れずにいたい。

デザインの力で新たな息吹を纏うアイテム

世界有数の文房具消費国である日本が開発する文具は、世界的に見ても性能が高く評判が良い。一方、国民にとって“当たり前”となってしまっている製品のその「当たり前の価値」を再認識してもらうためには新たなアプローチや付加価値が必要だ。

Craft Design Technology (クラフトデザインテクノロジー) <以下CDT>は、その名の通り、日本の老舗文具メーカーが持つ“技”と“技術”にデザインを加えてリメイクし、現代の人々の手にわたるようプロデュースをするブランド。

デザインへのこだわりは徹底的に追究されており、各製品に使用するカラーコードやパターン等が規定されている。いずれも日本の伝統的な色、パターンで構成されており、Made in Japanへのリスペクトを感じることができる。

1963年から国民に愛される「ぺんてるサインペン」(CDTデザイン)
各プロダクトの角度までもが規定されているのだから驚きだ

モノは使ってみて初めてわかる良さがある。その出合いのきっかけとして、CDTの魅せるデザインの力は、現代のユーザーへと大きく働くであろう。国内認知だけに留まらず、海外に向けてもその力に期待したい。

デジタル化が進むからこその希少価値

今回の取材から、日本の文具業界が挑むものの大きさが窺えた。高性能・高品質が当たり前の業界が求めるモノは、もうひとランク上の付加価値なのだ。

このデジタル社会に合わせて文具そのものをデジタル化するのもひとつ、新しい生活様式に合せて新たなツールとスタイルを提案するのもひとつ。そして、こだわりの素材やデザインを見つけてお気に入りの文具として手に取ってもらうことも手段のひとつであろう。

どれだけデジタルが進んでも、私たちの机の上からアナログとされる文具たちが消え去ることはない。むしろデジタルに溢れた世の中で触れるアナログなモノの価値は高まるに違いない。また、それらにユーザーのアイデンティティが現れていくのではないか。

そのモノからは個性が出にくいデジタルデバイスと、選ぶモノによって使い手の人となりがわかるアナログアイテム。その共存が我々の暮らしを豊かにしていくに違いない。

ライフスタイルショップは、デジタル現代のステーショナリーの付加価値を理解したうえで、エンドユーザーに求められるデザイン性や機能性への目利きが必要となってくるだろう。

掲載企業紹介

LACONIC (ラコニック)

2006年設立。東京発のステーショナリーメーカー。「簡潔」という意味を指す「laconic」の名のとおり、シンプルかつスタイリッシュなアイテムが特徴。オリジナルブランドの企画製造販売・OEM生産を行う。

取り扱いアイテム:手帳、文具、雑貨

公式ホームページはこちら
https://www.laconic.co.jp


PICUS (ピクス)

『時代が移り変わっても多くの人々に愛され続けるアンティークのように、使い込み古くなっても尚その魅力を失わない商品』をコンセプトに2009年より商品づくりをスタート。

取り扱いアイテム:文具、雑貨、アクセサリー

公式ホームページはこちら
https://www.net-picus.jp


Craft Design Technology (クラフトデザインテクノロジー)

『用の美』を再評価することでメイドインジャパン製品の真髄を世界に発信するブランド。老舗文具メーカーとアライアンスを組み、従来の文房具の発想に囚われず、『Craft (匠の技)』『Design (デザイン力)』『Technology (革新技術)』を調和させた商品開発を行う。

取り扱いアイテム:文具、雑貨

公式ホームページはこちら
https://www.craftdesigntechnology.co.jp

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