2021.04.13.tue

A&Fが築いた日本のアウトドア文化

Contents

真剣な遊びの中から見えること

アウトドアがひとつの文化として確立されつつある。

アメリカがそうだったように、形は違えど日本でもアウトドアが文化と言えるまで育ってきたのがこの40年だ。当時日本でも数少ない専門的なアウトドアブランドの地道な活動がユーザーの認知を押し上げてきた背景もあるのだろう。

そして、コロナ禍においても屋外という安心感が追い風となり、選定できるアウトドアアイテムも市場に増え、セレクトショップらが、それぞれスタイルの違った提案をするまでに発展した。

「ファッション業界に浸透するアウトドアブーム」でも紹介した、各ブランドが出展する展示会の様子からも見て取れる。

そんな中でも株式会社エイアンドエフは、流行に左右されない硬派なショップを持つ企業としてファンの間では知られた存在だ。

1977年創業以来、日本のアウトドア業界を牽引してきた同社のスタッフからユーザーにまで及ぶエンゲージメントの高さや、輸入ブランドの見極め方まで、マーケティング部の 新美 吉人 (ニイミ ヨシト) 氏に詳しく語ってもらった。

株式会社エイアンドエフ
https://aandf.co.jp/
1977年創業の、世界中の優れたアウトドア・キャンプ用品を輸入販売する企業。直営店A&Fカントリーは世界中の優れたアウトドアブランドを販売。国内20以上の店舗では、「良い物を永く」をコンセプトに、街からフィールドまで長く愛用できるアウトドアで必須のギアの数々を提案する。

ブランドを選び抜く独自の視点

会社について教えてください

−新美氏コメント:アウトドアアイテムの卸売と直営店舗の運営をメイン事業としています。

衣・食・住・を背負って、心の赴くまま人間の手が入っていない自然の地に分け入り自然の営みを学ぶ。そんな活動を推奨して、今のアウトドアブームが始まる前から様々なアクティビティに対応できるアイテムを幅広く展開しています。

商品の特徴はどのようなところですか?

− 新美氏コメント:創業当初から、アウトドア大国であるアメリカのブランドを数多く取り扱ってきましたが、他の会社との大きな違いは「商品の選定基準」ではないでしょうか。

“何が良いものなのか”、アウトドア業界ではその線引きは感覚値でしかありません。輸入商品がメインの私たちは、その道具を実際に使ってみた自分たちの感覚を信じて、胸を張って紹介できるものだけを販売しています。

そして道具がよくできていても、作り手に魅力がなければタッグを組むことはありません。

作り手を深く理解するには、まずは作り手と一緒に真剣に遊ぶことが大切なんです。おもしろい道具を見つけたら、まずは作り手に会いにいく。遊びを通じて言葉を交わせば、その商品が単なる金儲けの手段なのか、魂をこめて作られたものなのかが分かります。

長く取り扱いがあるブランドは、みな代を超えて家族ぐるみの付き合いが続くところばかりです。

専門的な商品が多いですが、販売時のこだわりはありますか?

− 新美氏コメント:アウトドア用品は、時に命を預ける道具になり得ます。だからこそ商品の選定時はもちろんですが、販売時には特に気を付けていますね。

アウトドア業界はみな同様だと思いますが、ファッションを売っているわけではないので、売って終わりではありません。

テクニカルなアイテムが多い分、ユーザーの経験値に合ったアイテムをお勧めしています。良い商品をきちんと理解して、壊れたら修理をしながら永く使って欲しいので、リペア部門も設けているんですよ。

卸先のお客様も同様に、きちんと店頭で接客をしていただけるショップへ販売をしています。最近はEC市場が伸びているので引き合いが多いのですが、販路がECだけのお客様はお断りする場合もあります。

私たちは使い方を一歩間違えたら怪我にも繋がりかねない商品を扱っているので、コミュニケーションの少ないWebツールのみで販売するのはとても怖いことだと考えています。

裏付けのある高クオリティアイテム

定番商品を教えてください。

− 新美氏コメント:たくさんありますが、アウトドアでもインテリアとして日常使い出来るアイテムが人気です。

「PENDLETON (ペンドルトン) 」はアメリカで創業した老舗のウールウェア・ブランケットのブランドですが、ネイティブ・アメリカンの伝統的な柄が特徴です。ここ10年はタオルブランケットが圧倒的に人気ですが、最近は日本独自開発の滑り止めが付いたラグなども出ています。

PENDLETONのラグ

− 新美氏コメント:Helinox (へリノックス) のフォールディングチェアもロングセラーですね。

デザインの美しさと座り心地の良さはもちろんですが、世界のテントメーカーで約90パーセントの採用率を誇るポールメーカーであるDAC社が作っているので、強度や耐久性は抜群です。類似品も多いですが、クオリティが全く違うんですよ。

Helinoxのフォールディングチェア

− 新美氏コメント:身に着けるアイテムとしては、MYSTERY RANCH (ミステリーランチ) のバックパックでしょうか。

この「スリーデイアサルト クラシック」は、米軍を始めとする各国の特殊部隊で採用実績のある代表的なモデルです。耐久性や使用感は当然のことながら、内部にPCスリーブが付けられた事で、今まで以上に普段使いや仕事用にと買っていかれるユーザーが多くなっています。

MYSTERY RANCHnののスリーデイアサルト クラシック

− 新美氏コメント:Darntough (ダーンタフ) は直訳すると「めちゃくちゃ丈夫」という名の通り、もし穴が開いたら交換する生涯保証を謳っているソックスブランドです。1足3,000円のソックスと聞くと一見高いように感じますが、メリノウールの他社製品と比較しても耐久性とフィット感はダントツに良くて、うちではロングライフ商品となっています。

Darntoughの生涯保証ソックス

アウトドア活動の起点

今後チャレンジしていきたいことは?

− 新美氏コメント:2019年9月にA&Fのオリジナルアウトドアブランド「SABBATICAL(サバティカル)」を立ち上げました。刻一刻と表情を変える自然環境の中、その変化を五感で感じられる道具を提案するということをコンセプトに、テントから展開を始めています。

A&Fのロゴにも使われているように、テントはアウトドアでの生活の起点です。ここを起点にアウトドアの新しい発想が生まれ、より優れた道具が提案され、人と人を繋ぐ起点になる、そんなブランドを目指しています。

A&FのオリジナルアウトドアブランドSABBATICALのテント

− 新美氏コメント:今までの積み上げてきたユーザーとの信頼関係があってか、発売前からSNS上で「A&Fのオリジナル商品なら間違いない!」と評判をいただき、発売と同時に売切れしまっていまして、お陰様で現在は抽選対応となっているほどです。

今後もA&Fが培ってきたノウハウを活かした新たなオリジナルアイテムを発信していきたい。そして道具を通して学び、道具と共に成長していく、そんな人と道具の関わりを、私たちは作り続けたいと考えています。

商品知識量がユーザーの信頼を得る

今後のアウトドア業界はどうなっていく?

− 新美氏コメント:市場の追い風は肌で感じています。ただ僕としては、もっとエンドユーザーに日本のフィールドを活かした遊びを追及して欲しいですね。

テント張ってBBQするのもひとつの楽しみ方ですが、日本は北海道から沖縄まで気温も違うし、山も川も海もあるという、どんなアクティビティも始められる恵まれた環境にあるんです。ランニング、トレッキング、クライミング、サーフィン・・・ジャンルは数えきれないほどありますから、自分に合ったアクティビティを見つけて欲しいですね。

セレクトショップに感じることは?

− 新美氏コメント:アウトドアに関して、スタッフもしっかりとした知識を持ってユーザーとの関係性を積み重ねて、一過性のブームで終わらせることなくロングタームで売り続けるセレクトショップが増えて欲しいです。

使い方を間違うと怪我に繋がるものだと認識して、責任を持ってお客様へ売る。他の商品でも同じだと思いますが、買って使い捨ての時代は終わって、ロングライフ商品を信頼できる売り手から買うという流れになっているのではないでしょうか。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

ロングライフを生み出す好循環

この世に存在する道具には生まれた背景と訳があり、A&Fのチームにはそれら数多くの商品を見極める目があるのだろう。それはアウトドアが好きだからこそ日々深く学ぶことができ、遊びとして実践することで知識や経験として積み重ねられていく。

そんな彼らの目を通して丁寧に販売される商品は、当然ながらエンドユーザーの信頼に繋がる。まさに企業、スタッフ、ユーザー間のエンゲージメントループの良い例だ。

様々な縁をつなぎながら、優れたアイテムを見つけ出し、ユーザーの顔を見ながら誠実に販売するというスタイルは、アウトドア業界だけに留まらず、セレクトショップにも共通して取り入れることが出来る施策である。それを継続することは、「一過性ではないロングライフなブランド」を作る為のキーのひとつになるのではないだろうか。

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