2021.03.30.tue

インテリア業界の仕掛け人 北村甲介氏

Contents

業界の枠を超えた新たな取り組み

LIVING HOUSE (リビングハウス) 愛知東郷店の店頭

今、インテリア業界の中で例を見ない独創的な取り組みをしている企業のひとつ、リビングハウスをご存知だろうか。

インテリア家具のセレクトショップをメイン事業としつつも、エンドユーザーにとっての空間価値を創出する事業を多角的に運営しており、その事業内容はとても興味深い。

人々の暮らしにまつわる様々な事業を手掛けており、そのコンテンツは業界では珍しく家電や花、英会話スクールなどと幅広く展開している。

今回 MMD TIMESは、エンドユーザーの文化感覚を底上げし、未来のライフスタイル業界を活性化することを目的としている、株式会社リビングハウスの代表取締役社長 北村甲介 (キタムラ コウスケ) 氏に話を伺った。

取材に応じる北村甲介氏

彼の座右の銘は、「論語と算盤 (そろばん)」。

これは2021年の大河ドラマにも取り上げられ、2024年から紙幣刷新で新一万円札の顔となる渋沢栄一の言葉であり、当時の日本経済が陥った「過剰な利益追求」を解決するために「道徳」と「利益追求」のバランスを説いた名著のタイトルでもある。

社会をより良くする理念の上に成り立つ、利益を求める姿勢を貫いた渋沢栄一の哲学と、日本のインテリア文化を盛り上げつつ、自社のビジネスを確立させようと奮闘する北村氏の具体的な事業構想から、これからのライフスタイル業界に必要なビジネス展開のヒントを探っていきたい。

LIVING HOUSE (リビングハウス) のロゴ
株式会社リビングハウス
https://www.livinghouse.co.jp
「あなたのくらしに魔法をかける」をキャッチコピーに、全ての人の日常・非日常空間を豊かにするためのインテリア商社。メインのリテール事業では、国内外問わず500以上のブランドを扱う「LIVING HOUSE」を全国の主要都市に展開する。

業界への危機感から生まれる多角的事業

リビングハウスの業態について話す北村甲介氏

会社について教えてください

− 北村氏コメント:株式会社リビングハウスは小売を中心としたインテリア商社です。

家具・家電の販売、花のサブスクリプション、英会話スクールなどのBtoC事業から、モデルルーム・ホテル・オフィス・商業施設の空間提案、地方の事業再生などのBtoB事業まで、インテリアにまつわる様々な事業を多角的に運営しています。

異業種とのコラボレーションも積極的に行っていて、この業界ではかなり珍しいのではないでしょうか。

LIVING HOUSE (リビングハウス) の展開する事業一覧

どのような経緯で現在の事業スタイルが確立されたのでしょうか?

− 北村氏コメント:弊社は僕で3代目となるのですが、33歳で家業を継いだ当時、既に家具インテリア業界全体では右肩下がりの時代でした。

マクロ的に経済を見ると住宅着工数や婚姻数が減少している背景があり、業界全体にも危機感を感じていましたし、様々なブランドが立ち並ぶ中で自分達の独自性を出して差別化をしないと勝ち残れないと思ったんです。

業界の底上げのための文化の構築を考えつつ、まずは自社分析を行い、世の中のニーズと掛け合わせ、いかに収益性を上げるかをロジカルに考えました。

その結果が家電販売や英会話スクールという、既存の空間価値を上げステークホルダー全員にメリットを生み出す、今までのインテリア業界にはない試みへと繋がりました。

弊社で言う「空間価値」とは、単純に内装やディスプレイのクオリティを上げるということだけではなく、その空間に関わる全ての人間にとっての価値を上げることを意味します。

それぞれの立場においても利益が望める、そんな空間や時間の活用方法を日々模索しているんです。

空間時間価値を創る新しいコンテンツ

LIVING HOUSE KARE (リビングハウス カレ) 梅田店内のENGLISH SCHOOL (イングリッシュスクール) の様子
KARE梅田店内のENGLISH SCHOOL

英会話スクール事業を立ち上げたきっかけは?

− 北村氏コメント:一般的に家具インテリアショップの来店客数が伸び悩む時間帯に、店舗空間をどうにかして活用したいと考えたのが始まりです。

平日夕方以降の時間帯は、会社帰りにゆっくり家具を見るという人々の需要が少ない中、広いショップスペースの家賃が収益性を押し下げていることに悩んでいました。

スペースがあることを前提にどうマネタイズするか、今までと違うアプローチを考えた時に、平日夕方以降に活況な英会話ビジネスとのコラボレーションに行きついたんです。

家具インテリアショップと英会話スクールの関連性を話す北村甲介氏

それぞれにメリットを生み出せるのですか?

− 北村氏コメント:この事業にはステークホルダー全員にメリットが発生する要素がいくつかあります。

ひとつは英会話スクールを通してユーザーが実際に家具を試せること。通常、洋服を試着するように家具を試用することはできないですよね?

我々としても英会話という異業種と組むことで、別の目的で来たユーザーに商品を体験する機会を増やせる為、長い視点で考えた時に未来のお客様になっていただける可能性があります。

次に来客頻度が高く安定していること。英会話スクールの授業に合わせて毎週一定の来客数がありますし、「母の日」や「クリスマス」などでギフトを購入するときも英会話のレッスンで毎週立ち寄るリビングハウスでギフトを購入してくださる可能性も期待できます。

最後に弊社ショップが好立地にあるということ。通常の英会話スクールでは、家賃面の問題で出店を断念せざるを得ない一等地の商業施設で営業が出来るし、ユーザーも通いやすいですよね。

実際に申し込み数は他の英会話スクールと比較してもダントツで多いんです。

また商業施設側からしても、インテリアショップだけではできない集客力が生まれます。

家電量販店EDION (エディオン) と提携したLIVING HOUSE (リビングハウス) の家電売場
エディオンと提携した家電売場

家電の動向はいかがでしょうか?

− 北村氏コメント:とにかく好調ですね。販売開始の1年目から目標としていた金額の400%UPの売上がありました。

家電はそもそもインテリアとの相性が良く、多くのショップで取り扱いがされていると思います。

弊社ではその家電の需要をさらに掘り下げて、他のインテリアショップでは展開していないTV、エアコン、冷蔵庫などのリビングダイニングに関係した大物家電まで展開させました。

それが功をなして家電の3大売れ筋となるまでに至り、特に好調なエアコンは現在PBを開発中です。

もっとデザイン性の高い家電が増えてほしいと思っていて、インテリア業界だからこそできるアプローチで新たなカテゴリとしての可能性を探りたいですね。

単にインテリアショップに置いておけば売れるというものではないので、販売方法を試行錯誤した結果として現在の形に落ち着きました。

売り方に対しては今までのノウハウがあるので、今後は販売方法というソフトをインテリア業界に向けて発信し、今まで販売対象ではなかった新規アイテムを取り入れることで、業界全体が発展していくことを考えています。

英会話も家電も事業として共通しているのは、店舗の売上効率を上げつつ様々な立場の人から見た空間価値を上げ、いかに今後のユーザーのインテリアに対する感度の向上に貢献できるか、そして文化価値を上げることが出来るかがポイントだと考えています。

関わる人間がみな幸せになる構造でないと、文化と言えるまで育ちませんから。

ニューノーマルで生まれた新たな生活文化

LIVING HOUSE (リビングハウス) のカタログ類

メインで取り扱うインテリア家具では何が人気ですか?

− 北村氏コメント:コロナショックによる特需で全体的に売上は伸びていて、前年比も100%を超えていますが、圧倒的に人気なのはダイニング系ですね。

ダイニングで仕事をする人が増えたことと、家族での食事の時間が増えたことが要因でしょうか。

その中でも特に売れ筋はMOCOAシリーズです。

長く座っても疲れないダイニング用ソファと、テレワークと食事が兼用できるソファとセットのローダイニングテーブルが伸びています。

MOCOA (モコア) ダイニングテーブルとソファ
MOCOA (モコア) ダイニングテーブルとソファ

− 北村氏コメント:また、オンラインミーティングなどにより家の中が見えるようになったことで、アートや装飾性の強い家具が動いていますね。

弊社が独占販売契約したKARE (カレ) というドイツのブランドが以前から人気だったのですが、コロナショックで大幅に売上が伸び、青山店は2倍、ECは3倍の売上となっています。

KARE (カレ) 青山店の店頭
KARE青山店

− 北村氏コメント:オンラインミーティングという文化は、新たにインテリア需要を見出してくれる一因となりました。

今までアートは感度の高い人が買うものでしたが、これを機にトライするユーザーが増えたんです。

プライスも3~4万円とトライし易く、買い替えが出来る価格設定を意識して展開しているので、アート商品は今後も更なる伸びが期待できます。

LIVING HOUSE (リビングハウス) のインテリア商材を使用したイメージ

− 北村氏コメント:ユーザーの感度が上がり、新たな文化が育つ分岐点を見逃さず、それを後押しするようなチャレンジを続けていきたいですね。

インテリア業界の刺激剤

インテリア業界の今後について語る北村甲介氏

これからの業界を盛り上げるために必要なこととは?

− 北村氏コメント:次世代のインテリア企業自体のレベルを底上げすることが大事だと思います。

例えばヨーロッパはユーザーの感度が高く、文化のみならず産業としてもインテリアが栄えていますよね。

それは幼少期からの環境文化が、成長してからのその人の暮らしに大きく影響するんです。

人は小さい頃から良いものを見て育つとモノに対する目が養われて、自ずと自分自身でも良いものを選ぶ傾向があるんですよね。

日本でもコロナショックがきっかけでユーザーの感度が上がっていますが、産業が成長していくのは次の世代がインテリア家具を消費する時となる、 10から20年後です。

だからこそ今のタイミングで、お子さんを持つ方たちの暮らしをより良くする必要があり、そのために供給側となる企業全体のレベルを底上げしなければならないと考えています。

コロナショックを境にインテリア業界に追い風が吹いている今、チャレンジングな動きをする企業がどんどん増えてほしいですし、弊社も業界の刺激剤となれるようにチャレンジを続けて行きたいです。

取材を終えた北村甲介氏

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

岐点を活かしたチャレンジ

LIVING HOUSE (リビングハウス) のインテリアスタイリング

「例えばサーフィンで言うと、いい波が来た時の為に、常にライディング技術を高める努力が必要ですよね? 今のライフスタイル業界にも同様のことが言えます。」と北村氏は語ってくれた。

今、コロナショックで人々の暮らし方が大きく変わり、業界の一部に追い風が吹いている。ユーザーの需要のみならず、マインド自体に変化が起こっているのだ。

しかしその追い風に乗れるかどうかは、暮らし方を提案するセレクトショップやブランド側の思考やレベルにより大きく変わってくる。

LIVING HOUSE (リビングハウス) 店内の一角

これからライフスタイル業界の経営層でも世代交代が始まっていくことが予想される。

今の業界を創り上げた賢人たちが20年後も変わらず業界を切り開き、牽引してくれる訳ではない。

これは決して他人ごとではなく、我々1人ひとりがこの業界に携わるものの一員として、北村氏のように熱量を持って、未来のライフスタイル業界に少しでも刺激を与えていく必要がある。

この分岐点を最大限に活かして、今のエンドユーザーの感性の成長を促すことで、将来的なライフスタイル業界全体の底上げを図るべきだ。

自社の発展を見据える北村氏のチャレンジには、業界全体が成長していくためのヒントが無数に存在している。

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