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テーブルウェアの自家需要
農林水産省は「食育に関する意識調査(令和2年12月実施) 」にて、20〜30歳代を中心に新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)<以下:コロナ>の影響による食生活の変化が見られたと発表した。
変化項目の中でも「自宅で食事を食べる回数」「自宅で料理を作る回数」について「増えた・広がった」と回答した割合が多く、感染症拡大防止のための飲食店の営業自粛や、緊急事態宣言下の休業により外食機会を奪われたことが大きく影響していると考えられる。この食生活の変化は、ライフスタイル業界にとって言うまでもない好機である。
セレクトショップにおいて、テーブルウェアは既に定番カテゴリとして確立されている。その売場をこの機会に見直し、拡大・変更してみてはいかがだろう。時代の変化へ細かくチューニングしていくことで売上にも更なる期待が持てそうだ。
実際に、巣ごもり需要・巣ごもり消費という言葉が発生してから1年以上が経過し、何もせずともニーズの高騰、売上の上昇を感じているセレクトショップや企業も多いのではないか。2021年7月、東京都では4度目の緊急事態宣言が発令された。去年からの落ち着きはあるものの、外食自粛に合わせてまだまだその需要は続くことが予想できるだろう。
テーブルウェアは祝い事や記念品などのギフト需要から、家庭で使用する自家需要まで幅広いニーズがあるため、世の中の食生活が“内向き”に順応する過程で、いかにエンドユーザーにアプローチをしていけるかが鍵となりそうだ。
今回MMD TIMESは、そんな昨今の注目カテゴリ「テーブルウェア」を扱う三つのブランドを取材した。消費者に購入のきっかけが訪れている今、作り手・売り手がモノの魅力を再度認識することで、セレクトショップで扱うテーブルウェアの今後の開発や戦略に役立ててほしい。
テーブルウェアの使用シーンを想像させる
同じ食事でも、どんな器に盛られるかでその印象は大きく異なる。そこに添えたい食べ物が連想される、そんな器は魅力的であり、言うなれば、そのイメージを持たせることができれば、皿や器などの食器アイテムの購買欲求は高められるのだ。
株式会社ローヤル物産は、もともとカフェやレストランなど飲食店向け業務用食器やカトラリーの卸売をメイン事業とする企業。2014年、東京恵比寿にエンドユーザー向けの直営店「THE HARVEST (ザ ハーベスト)」を構えるタイミングでオリジナル商品の製作を開始し、現在はセレクトショップなどの小売店にも販路を広げている。
同社では、飲食店への卸を行っていることが、ショップの強みになっている。顧客である飲食店での商品使用シーンを紹介することで、プロの料理人が選んでいる信頼度はもとより、「モノは良いけど、どう使おう?」といった利用シーンの提案にも役立っているのだ。
テーブルウェアには、食事を楽しむためのデザインだけでなく、耐久性や汎用性も求められるため、「プロが選ぶモノ」というフレーズは、エンドユーザーの不安を払拭し、購入への後押しになるに違いない。
また、40年以上にわたって様々な地方の窯元との繋がりを持つ同社では、各名産地の特徴を活かしたオリジナル陶磁器を展開している点も、他にはない強みになっている。一つのショップで幅広い種類の陶磁器を見て比較し、自分の好みを知れるということも面白い。
実際にコロナショック以降、巣ごもり需要によりオンライン・店舗の順で売上は右肩上がり、現在は店舗への来店も多く、老若男女問わず客足が絶えないという。業務用卸だけに留まらず販路拡大したことが、今回の食生活の変化による市場変動にも対応できた要因であろう。
現代のカタチへと進化するテーブルウェア
日本で作られる陶磁器は、地域によって様々な特徴があり長い歴史を持つモノが多く存在する。「セレクトショップで扱うべき「食器」の基準とは?」でも紹介した「ANGLE INC (アングル)」は、愛知県瀬戸市に拠点を置いて、地場産業の商品開発をしている。
日本六古窯の一つとなる瀬戸焼で知られるこの地で同社が作り上げるアイテムは、いわゆる昔ながらのカタチとは一風変わったデザインが特徴だ。
歴史を持って長く受け継がれてきた素材の良さ・特徴を活かして、それを現代のライフスタイルやインテリアに合わせたカタチに昇華させることが同社の強み。質の良さだけでなく、時代にマッチしたデザインを併せ持つことからアパレルショップなどファッション性の高いショップでの取り扱いも多いという。
他方、一変したデザインの「ENNUI (アンニュイ) 」シリーズも人気商品の一つ。商品に描かれた人物を自分や友人に当てはめて購入していくユーザーが多いようだ。
自宅での食事が増えたり、在宅で働いたりと自宅での飲食の機会が増えていく中で、“自分専用の”食器やコップを手に入れたいというニーズは増加しているはずだ。同社の幅広いデザイン力には今後も期待したい。
箸・カトラリーに押し寄せる自家需要の波
SNSの普及に連れて、外食の様子だけでなく家庭での食卓の様子も頻繁にシェアされる世の中となった。今では当たり前の“食卓投稿”であるが、昨今、家庭での食事の増加により、以前に増して食卓投稿を見かけるようになっている。その影響がブランドやショップまで届くことも少なくない。
「株式会社サンライフ」もSNSの影響を実感する会社のうちの1社。Instagramでのインフルエンサーの投稿が影響して、現場での品薄が確認されることがしばしばあるという。
ギフトとしての需要が高い箸ではあるが、コロナ禍の器類の購入と併せて、自宅用の箸やカトラリーを新調する傾向も高まっているようだ。
また、コンビニのプラスチックスプーンやフォークの有料化が噂される中、持ち運びが可能なカトラリーセットも好調な様子。環境問題への対策として“マイ箸”に続くアイテムになるか、今後の動向に注目していきたい。
箸やカトラリーは他のテーブルウェアと比較して、より個人の所有物という認識の高いアイテムといえる。また、「食べる」という行為には欠かせないアイテムだからこそ、利用シーンの広がりには今後も目が離せない。
アウトドアやオフィス、自宅の中だとしても、ダイニングやバルコニーなど食べる行為ができる場所はたくさんある。「どこで誰と何を食べるか」といった細かいシーンを想定した上で、商品を選定し売場を作っていくことが新たな売上に繋がるかもしれない。
モノを通して幸せを作るチカラ
これまであった生活を変えざるを得なくなった時、そこには新たな気づきがあるだろう。食生活の変化は、食事の内容だけでなく、身の回りのアイテムを見直すきっかけにもなるはずだ。
長く続くウィズコロナの時代、外的環境との接点が薄れていく中、この時代を生きる人には「自分で自分を幸せにする力」が必要なのかもしれない。その幸せを作る方法として、生きていく限り必須とされる「衣食住」、これらを充実させるという選択があるだろう。
その中の一つ「食」の充実という観点で、テーブルウェアの存在は欠かせない。器やコップ、カトラリーの変化は、たとえ普段と同じ食事であっても、より美味しいと思わせる視覚効果を持っているからである。
テーブルウェアを購入する人というのは、料理をする人、料理に興味がある人、好きな人がほとんどだろう。料理人口が増える今、セレクトショップがそれらのバリエーションを豊富に扱う場所だという認知が必要だ。
「壊れたから、丁度いいモノがないから」そういった理由ではなく、インテリアや服と同じように、季節や気分、食事の内容に合わせてコーディネートを楽しむ、暮らしを豊かにするアイテムという認識をより多くのユーザーへ広げるチャンスが今なのだ。
人々の暮らしに寄り添うモノを通して、人とその人の生活を豊かに、幸せにできるのがライフスタイル業界の強みだとすれば、その力の見せ時はまさに今なのかもしれない。
掲載ショップ・企業紹介
THE HARVEST (ザ ハーベスト)
株式会社ローヤル物産が運営する食器・キッチン道具のセレクトショップ。生活をより豊かにする業務用食器やキッチンツールを多数揃えている。
取り扱いアイテム:食器、コップ、キッチンウェアなど
公式ホームページはこちら
http://www.theharvest.jp/
ANGLE INC (アングル)
日本の伝統的なモノやコトを様々な視点 (=ANGLE) から考察し、よりクリエイティブに昇華しながら現代の生活に合った商品開発を目指す企業。
取り扱いアイテム:食器、コップ、花器など
公式ホームページはこちら
http://angle-corp.com/
株式会社サンライフ
業務用箸、若狭塗箸などの販売・卸をする企業。都内にデザイン事務所を置き、時代と文化に合った箸やテーブルトップアイテムの開発を行う。
取り扱いアイテム:箸、箸置き、カトラリーなど
公式ホームページはこちら
http://www.ohashi-sunlife.com/