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ライブハウスのようなショップ「BRICK&MORTAR」

美術館やギャラリーに足を運ぶ、書店に行って画集を買う… “アート鑑賞”というと、そんなイメージが浮かぶ人が多いのではないだろうか。そうしたアクションが必要で、なおかつ作品の魅力がわかる素養も必要なのでは?という印象から、アートは敷居が高いと思われがちだ。アートをもっと身近に感じてもらうために、企業はどのような工夫をしているのだろうか。

今回、MMD TIMES取材班が注目したのは、デザイン事業やプロダクト事業など、アートと日常生活を結びつける事業を幅広く手掛けている村上美術。同社が運営するインディペンデントショップ「BRICK&MORTAR(ブリック アンド モルタル)」は、普段はオリジナルプロダクトを販売する店舗でありながら、制作活動のアトリエも兼ねており、イベントやエキシビションのためだけに営業を行っている日もあるというユニークな業態だ。

「EXTRA PREVIEW #20」でも話を伺った同社代表の村上周(むらかみ あまね)氏にインタビューを行い、アートを主体とする企業がどのような思いで店舗運営を行っているかを探った。

村上美術株式会社(ムラカミビジュツカブシキガイシャ)
http://www.murakamiart.jp/
[ Art of life -生活にアートを- ]というテーマで、古き良き日本の伝統あるアートをリスペクトし、誰もが身近にアートを取り入れた暮らしを目指す。アーティスト/村上周(むらかみ あまね)氏を主体に、AMDR(エー・エム・ディ・アール)のデザイン事業、amabro(アマブロ)のプロダクトブランド事業、BRICK&MORTAR(ブリック アンド モルタル)の店舗事業のほか、ベビーギフトのセレクトショップ「GIVING STORE」の店舗事業など幅広く手掛けている。 

制作活動の様子を間近に見れる

村上美術について教えてください。

− 村上氏コメント:一言で表すのは難しいのですが、[ Art of life – 生活にアートを – ]という理念のもと、アートの展示を見る機会はあっても、所有したことがないという人に向けて、よりアートを身近に感じ、日常に取り入れた生活を提案する企業です。

AMDR(エー・エム・ディ・アール)というデザイン事業からスタートし、仲間が増える中で「ものづくりをしよう」ということでプロダクト事業のamabro(アマブロ)が生まれました。

ただ、デザインやプロダクトだけではアートの観点から少し物足りないと感じていたため、実店舗を通してアートの幅をさらに広げたいと考え、店舗事業のBRICK&MORTARへと展開していきました。

BRICK&MORTARはどのようなお店なのでしょうか

− 村上氏コメント:自分が表現活動を軸にしていることもあり、もともとはアトリエと店舗が合体したような、公開制作ができる店舗を目指してスタートしています。

以前は事務所を別の場所に構えていましたが、焼き物の工房のように「発信している人間が店の裏にいる」という方がわかりやすいのではないかと思い、2年ほど前から店舗に事務所を移しました。

私をはじめ、デザインチームや店舗運営チームが、BRICK&MORTARに来てアイデア出しなどの制作活動をしているので、店舗に来た人や前を通りかかった人は、その様子を見ることができます。

BRICK&MORTAR(ブリック アンド モルタルhttp://www.brickandmortar.jp/
旬なアイデアを新鮮なまま伝えられる場所として、自由に、そして柔軟に、アートと日常生活を結びつけるインディペンデントショップ。特集によって内容が変わるメディアのように、今作りたいものを作り、ときにはアトリエやギャラリーへと様変わりをして、常に訪れる人を楽しませる仕掛けを行っている。

企業・ブランドと消費者を繋げる、ハブとしての役割を担う

お店に来るお客様の反応はどうですか?

− 村上氏コメント:おもしろいことに、作業をしていると「何をしているんですか?」と声をかけてきて、話し相手になってくれる方が結構いるんです。会話の流れで人を紹介してもらうこともあり、コミュニケーションが広がっています。

通常はプロダクトを販売する店舗としての営業ですが、イベントを開いたりギャラリーとして展示をしたりすることもあって、その都度レイアウトだけでなく、取り扱うプロダクトもがらりと変えています。

来るたびに店舗営業していたり、イベントを開いていたりと、いつも雰囲気が変わるので、お客様にも「今日は何をしているんだろう」と興味を持ってご来店いただけていると思います。

− 村上氏コメント:イベントをきっかけにして、村上美術のことを初めて知る方や、AMDRは知っているけどamabroは知らない、また、その逆の方もいらっしゃいます。

通常の店舗を見てもイベントの展示を見ても、「村上美術」として本質的な部分がリンクしていることを感じ取ってもらえる場所となるので、 全体のハブとしての役割を務めているのがBRICK&MORTARだと思います。

「敷居は低く、間口は広く」、誰でも受け入れてくれる

店づくりについて意識している点はありますか?

− 村上氏コメント:まずは毎日ちゃんとオープンすることですね。通常はプロダクトの販売をしていて、イベント期間はイベントのために営業するという運営方針ですが、以前は1〜2カ月の間クローズして作業場にしていたこともあったんです。

けれど、これだけ間口が広いので、お店を閉めている期間がもったいないと思い、イベント、通常営業、公開制作と、常に風通しを良くすることを大事にしました。

ここはギャラリーではなくて、あくまでも店舗だということ。この店が常に動いている、思考が動いているということを我々が表現していると、それを面白いと思う人が自然と集まってくる、そういう場所になるように心掛けています。

自由に人が集まれるお店ということでしょうか?

− 村上氏コメント:“〇〇系”みたいにカテゴライズされるのが苦手なので、カテゴリー分けできないような店舗にしているのですが、あえていうならライブハウスのような場所でしょうか。

お客様の具体的なターゲットも特に決めていません。「敷居は低く、間口は広く」をモットーに、いろいろ方を受け入れられるようにしたいですね。普通のお店と違って流動的なのがBRICK&MORTARの特徴だと思います。

展示する内容が変われば、店舗もお客様も変わるというライブ感を大事にしていて、「こういう場所あまりないよね」と言われるのが自分たちにとっては一番の誉め言葉だと思っています。

技術や伝統へのリスペクトを忘れないモノづくり

レジ袋からインスパイアされたプロダクトのCONVENI BAG(コンビニ バッグ)

代表的なプロダクトや展示方法へのこだわりを教えてください。

− 村上氏コメント:プロダクトに関しては、既存の製品や伝統へのリスペクトを残しつつ、デザインを加えて現代のライフスタイルに合わせることを意識しています。

例えば、 デザインチームが制作を担当した「CONVENI BAG(コンビニ バッグ)」は、昨今の環境問題からコンビニやスーパーのレジ袋が有料になっていく中で、レジ袋としての意匠を引き継ぎ「使い捨てされるプラスチックのものを使わない=決別」という思いを込めてプロダクト化しました。

機能としては必要ないベロの部分も、従来の袋の形を踏襲して表現しています。レジ袋は使いやすいものを安く大量生産するという過程から、人々の努力によって生まれたものなので、形に対するリスペクトは忘れていません。

− 村上氏コメント:ブランドを立ち上げたときに作った食器類は、amabroの顔のような存在です。特に豆皿は17世紀ごろから使われていた器で、形や柄が美術品のように美しい。それを今のライフスタイルに合わせてデザインを加えることで、若い人たちにも気軽に使ってもらえたらと思います。

展示方法については、展示品にもよりますがインスタレーションはどこかに取り入れるようにしています。単純に作品を並べるのではなくて、ちょっと違和感のある並べ方をして、見た人が何か思いを巡らせたり、考えたりする時間を与える空間づくりを意識していますね。

ショップを彩る自由な発想のインスタレーション

キャッチーな「MENTAL HEALTH(メンタルヘルス)」のアイテムも目を惹きますね。

− 村上氏コメント:これは店舗運営チームのアイデアで売場をカテゴリーやテイストで分けるのはなく、メンタルヘルスをコンセプトに「感情」をベースに編集するというチャレンジの際にスタートしたプロジェクト(B&M Mental Health Community Center)から生まれたアイテムです。

「人は怒りを感じると能動的になる」など、感情をいろんな方向から見て、それに合わせて商品を並べるという編集をしました。「メンタルヘルス」という言葉は欧米では日常的に使われていますが、日本ではまだネガティブなイメージがあるかと思います。

そんな言葉を私たちなりのユーモアをもって広めていくことで、どんな感情でもそれを自覚し、気兼ねなくシェアできるような空気を作りたいと考えています。言葉に馴染んでもらうためにも、スウェット等にイラストやロゴを使い、ユーモアをもって表現しました。

店舗も展示商品も、新鮮で自由な発想を取り入れている印象を受けました。

− 村上氏コメント:そうですね。店舗に来た方が「こんなに自由奔放にやっていいんだ」と安心していただけるような空間がBRICK&MORTARだと思います。村上美術やブランドの成り立ちも含めて知っていただける場所ですので、ぜひ気軽に遊びに来て欲しいです。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

アーティストの頭の中を覗ける場所

村上氏にとってアートとは「誰しもが持っている表現方法の一つ」であり、店舗は「自分たちが日々考えていることを実験的に発信できる場所」なのだという。

アートと聞くと敷居が高いように感じてしまうかもしれないが、インタビュー中でも語られているように、誰でも歓迎してくれるのがBRICK&MORTAR。この店を訪れることは、すなわち村上氏をはじめとするアーティストたちの頭の中を覗き見る体験でもあるのだ。

「CONVENI BAG」は既存のレジ袋にリスペクトしながら環境問題への意識向上を主張し、「MENTAL HEALTH」のシリーズは気持ちを誰かとシェアし合うことの大切さをキャッチーなデザインで気づかせてくれる。こうした制作者の意図をプロダクトに落とし込めるのも、アートならではの表現といえるだろう。

「アートは難しい」とか「アートは分かりにくい」と決めつけて、アートというひとつの「ツール」から距離を置いてしまうのはもったいない。身近なアイテムにアーティスティックな発想が加わって起こる化学変化や、インスタレーションを意識した売場は、きっとさまざまなセレクトショップのヒントになってくれるはずだ。

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