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来場者増の合同展示会に学ぶ小売業界活性化のヒント

MMD TIMES取材陣は、合同展示会:MONTAGEに続き、昨年9月の記事「EXTRAPREVIEW#19 合同展示会へ注がれる主催者たちの熱意#02」でも紹介した合同展示会「EXTRA PREVIEW #20 @TOROT」に取材に訪れた。MONTAGEやギフトショーと同日程で開催されていたEXTRAPREVIEWでも、主催者から話を聞くことができた。

私たちが会場を訪れたのは最終日の2月7日(金)だったが、オープン前から受付の開始を待つ多くの来場者が会場に集まっており、午前10時の開場とともに、雑貨、アパレル、インテリアなど各業界のバイヤーと思われる人々で賑わっていた。

第20回目を迎え、新たな会場である江東区東雲にあるアートスペース「TOLOT」で開催された同展示会。会場が変わったことによる変化はもちろんあるが、業界のバイヤーたちが注目する合同展示会としてのブランディングは維持し続けていると感じた。

主催者が今回のEXTRA PREVIEWに込めた思いとともに、2019年の業界動向の振り返りや、さらに今後の展望について話を伺った。

合同展示会:EXTRA PREVIEW(エクストラプレビュー)とは?

EXTRA PREVIEW #20 @TOLOT
開催期間:2020年2月5日(水)~2月7日(金)
会場:TOLOT https://montage-express.jp
株式会社ハイタイド/株式会社ディテール/村上美術株式会社/株式会社100percent/株式会社チップス/ヨシオグッドリッチデザイン
※EXTRA PREVIEW #20の会期は既に終了しています

6つの企業が主催する合同展示会:EXTRA PREVIEWは、まるでセッションのような感覚で市場に新しい価値観を提供し続ける、まったく新しい展示会を目指している。大規模見本市では実現できない、質の高い展示会を目指し、出展社同士が意見やアイデアをぶつけ合い、試行錯誤を繰り返しながら規模を拡大してきた。

志さえあれば、規模の大小にかかわらず、平等に発表できることがEXTRA PREVIEWのもっとも注目すべき点であり、その商品・展示方法は独自性・創造性にあふれている。

合同展示会:MONTAGEでは、照明や家具などの大きなインテリア商材・アウトドア商材・グリーン商材など、シチュエーションを意識したブランドが多く出展していたのに対し、合同展示会:EXTRA PREVIEWでは、インテリア雑貨商材・アパレル商材・アクセサリー・ステーショナリーファッション小物など、より気軽に手に取りやすく、デザイン性のあるアイテムを扱うメーカーやブランドらが多く出展していると感じた。

テーマは「バイヤーフレンドリー」

20回目を迎えたEXTRA PREVIEWですが、展示会全体のテーマを教えてください。

− 主催者コメント:開催当初から掲げているのは、「バイヤーフレンドリー」というテーマです。来場するバイヤーに向けて、喜ばれるような親切な提案をすることで、メーカーやデザイナーも開発意欲が高まり、業界自体を盛り上げることにつながると考えています。

特に来場者と出展社の双方のコミュニケーションというものを大事にしています。そこに関係性ができることで、出展社(メーカー)は「来場者(バイヤー)が喜びそうなもの」という視点で新しいアイデアが生まれるかもしれないし、メーカーがバイヤーに意見を求めたり相談をすることもできる。メーカーとバイヤーが一緒になってものづくりをすることができるんです。

そうやってバイヤーが欲しくなるアイテムを生み出すことで、メーカーとしても開発へのモチベーションが高まり、そしてその先にはエンドユーザーがいます。来場者と出展社のコミュニケーションから生まれる「何か」が色々な相乗効果を与え、ものづくりの次の一手を打てるようになればいいなと思っています。

展示会というひとつの空間にさまざまなメーカーが集まるわけですから、出展社同士も横のつながりを持ち、切磋琢磨しながらお互いを高め合う場所になってほしい。そのコミュニケーションの場を提供するということがEXTRA PREVIEWが担うべきところだと考えています。

出展社を決定する際に、主催者として意識しているポイントを教えてください。

− 主催者コメント:EXTRA PREVIEWでは出展社のキュレーション(オーディション)に力を入れていて、エントリーした企業を多角的な視点で選考しています。

SNSなどのリアルな意見もチェックしますし、そのブランドが業界や消費者にどのように支持されているか、という点もジャッジの対象としています。その上で、「新しい」「いま欲しい」という消費者としての感覚的にワクワクやドキドキ感が伝わってくるような企業やメーカーを選んでいます。

− 主催者コメント:一方で、展示会としては改革的なことを重要視するのではなく、じっくりと地に足を付けたやり方で、安定感を維持していきたいと考えています。EXTRA PREVIEWには毎回、感度の高いバイヤーの方々が来場されており、クオリティを維持し続ける安定感があることで、来場者も安心して商材を選ぶことができるのではないかと考えています。

また、時代の流れに合ったもの、トレンド感のあるものはもちろん必要ですが、昔からの定番、ザ・スタンダードな技を極めていくことも大切だと思うので、定番を貫きながらも革新的なことをしているブランドには常に注目しています。

会場レイアウトにリズムをつけ、来場者の新しい発見を生む

出展社と来場者のコミュニケーションを重視する上で、会場レイアウトに工夫をしている点はありますか?

− 主催者コメント:来場者が見やすい配置とリズム感のある会場づくりを心がけています。一つ一つのブースを隈なくしっかりと見ていただきたいので、単純にジャンル分けするのではなく、バイヤーの視点に立ち、ブースのサイズ感やジャンル、アイテムなどに強弱をつけ、バランスを考え、それぞれのブースが引き立つような配置を意識しています。

また、出展社の過去のブースづくりのイメージも事前に確認し、限られた枠の中で表現ができているかということも必ずチェックし、こちらから魅せ方についてアドバイスを行うこともあります。

出展社は自分たちのブースだけに意識が向きがちですが、主催者として会場全体のイメージを見ることも大切です。全体のバランスも意識しつつ、個々の出展社のブースにも目を向け、主催者と出展社が一緒になってブースづくりをしているという感覚ですね。

− 主催者コメント:カテゴリーについてもきっちりブースの配置を分けてしまうと、そこに興味のない来場者はカテゴリーエリアごとスルーしてしまうかもしれない。

極力そうならないよう配置に強弱をつけてリズムを作ることで、カテゴリーの括りでは出会えなかったアイテムに出会える、来場者にとって新しい発見がある、というのもEXTRA PREVIEWの面白さのひとつだと思います。

EXTRA PREVIEWの世界観を踏襲する新会場「TOLOT」

今回、新たな会場として「TOLOT」を選んだ理由を教えてください。

− 主催者コメント:EXTRA PREVIEWでは、会場のシチュエーションも大事にしています。今までの開催規模や、前回までの会場「TABROID」でやってきたことを総合的に考えて、工場だった建物の内部を改装した「TOLOT」を選びました。

他の展示会のようにホールを借りるという選択肢もありましたが、この雑然とした雰囲気でならTABLOIDでやってきた世界観を踏襲でき、なおかつ来場者にも出展社にも楽しんでもらえると思ったんです。

20回目という節目で新しいことをというよりも、これまでの積み重ねを重要視し、展示会の安定したブランディングのために選んだ場所です。

新しい会場での来場者・出展社からの反応はいかがでしょうか。

− 主催者コメント:以前の会場ではフロアをまたいだ迷路のような配置にしており、次に何があるかわからないことで「おもしろい」という声も大きかったのですが、一方で「迷ってしまった」「目当てのブースにたどり着けなかった」という意見もありました。今回はワンフロアということもあり「圧倒的に見やすくなった」という声が届いています。

また、前回と比べて来場者の数もかなり増えたと感じています。会場がゆりかもめの日の出駅近くだった前回までは、同日程で行われている他の展示会を見て回った最後にEXTRA PREVIEWを訪れる来場者が多く、夕方がピークの時間帯になっていました。

しかし今回は、りんかい線の東雲駅近くになったことでアクセスがしやすくなり、同沿線上で他の展示会の前や合間にも来場しやすくなりました。10:00の開場から閉場時間の20:00まで来場者がほぼ途切れることがなく賑わっています。

− 主催者コメント:この会場周辺は工場地帯ということもあり、飲食店などがほとんどないのですが、来場者の利便性を考えて人気のキッチンカーを招致し、会場内にカフェ兼食事スペースを設けました。

このスペースは商談などにも自由に使っていただくことができるので、食事をしたり、バイヤー同士でコミュニケーションを取ったりと、来場者の滞在時間も長くなっているようです。

会場や開催時間の変更について、来場者や出展社の案内はスムーズにできたのでしょうか?

− 主催者コメント:来場者に向けては、SNSやハガキで会場変更のアナウンスをこまめに行っていたこともあり、スムーズに案内できました。

一方、以前から参加していた出展社の中には、会場変更で不安に思われた方もいらっしゃったと思います。その点で言うとEXTRA PREVIEWでは以前から会期の二カ月ほど前にすべての出展社に向けた内覧会を実施しているんです。

会場のレイアウトが決まった段階で内覧会を行い、会場の雰囲気を見てもらって自分たちのブースのデザインをイメージしてもらう機会を設けています。来場者にも出展社にも安心し、楽しんで参加してもらえるようオペレーションを徹底しました。

厳しい業界動向の中で、EXTRA PREVIEWができること

合同展示会の主催者として、2020年の小売業界の動向をどのように見ていますか?

− 主催者コメント:2019年は体力のある大手企業は運営できていたと思いますが、中小企業にとっては非常に厳しかったと感じています。一方で、EC事業はテコ入れをすればするほど収益につながるという傾向が見られ、良い部分も悪い部分も明確になった一年だと思いますね。

2020年はオリンピックイヤーで盛り上がりを期待していましたが、新型肺炎の流行というアクシデントでインバウンドが伸び悩んでいます。正直なところ、これからどうなるかは読めない部分が大きいですね。そんな状況の中だったので今回の開催も来場者の減少を危惧していたのですが、予想外に多くの方が来場してくれています。

一部の業界や業種に限らず、全体的な来場者が増加しているので、これをきっかけに業界全体のコミュニケーションの活性化、さらにビジネスの活性化につながることを願いたいです。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

出展社と来場者が協力して作る“三方よし”の空間

今回のインタビューでは、 「2020年セレクトショップを取り巻く業界の動向は?」で紹介したアンケート結果と同様に、EXTRA PREVIEWの主催者も今後の業界動向に非常に厳しい見解と危機感を持っていると語られた。

一方で、会場全体の来場者が増加しているという明るい変化も起こっている。今回の来場者増につながったのは、会場アクセスの利便性だけではなく、主催者のこまやかなオペレーションと、企業を単なる出展社と捉えず、一緒に展示会を、ひいては業界全体を盛り上げていくパートナーとして捉えている点が大きいのではないだろうか。

それこそが主催者の語る「安定感」につながり、出展社・来場者・主催者の“三方よし”が確立された展示会を作り上げているのではないかとMMD TIMESは感じた。次回以降、さらにブラッシュアップされていくであろうEXTRA PREVIEWの動向に、今後も期待していきたいと思う。

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