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個人店だからこそ生まれる店舗としての個性

MMD TIMESでは、アウトドアの流行や今後のアウトドア業界の動向について、これまでいくつかのメーカーやブランド、ショップなどに取材を行ない、独自の見解を交えて紹介してきた。

「アウトドアブームの行方」では、メーカーやブランドの見解として、作り手側が現在のブームと今後についてをどう捉え、どのような発信をしているかに触れ、前回の「セレクトショップが見据えるアウトドアブーム」では、アウトドアギアを専門に取り扱うショップとして、「plywood ニホンバシ」を取材し、多様化するアウトドアブームへのショップ側の在り方に迫った。

ファッションやインテリアなど、様々な業界を巻き込んだこのアウトドアブームだが、それらのアイテムを取り扱うショップは数多あり、どこにでもあるモノや店にならないためには消費者へのアプローチが重要だろう。

そこで我々は、今後も続くといわれるアウトドアブームの中で、セレクトショップとしての新たな視点での見解を得るべく、前回に引き続きアウトドアギアを取り扱うショップに話を聞くことにした。

今回、MMD TIMES取材班が取材したのは、東京都多摩市にセレクトショップ 「efim(エフィム)」を構える篠崎 聡 (しのざき さとる) 氏。異業種の会社員から独立し店舗を構え、卸までを個人で行う面白い経歴の持ち主だ。

アウトドアギアという枠組みに捉われない店

「場所はどこでもよくて、この壁が欲しかった」と篠崎氏が語る通り、大きな白壁が印象的な店舗。

「efim(エフィム)」のコンセプトについて教えてください

− 篠崎氏コメント:店名の「efim」は、「enjoy fully in my life」(=楽しんだ者勝ち)の頭文字を取って造った造語です。世の中にある使いたくなるような言葉っていうのは、すでに他で使われてしまっているものが多く、例えばネットで検索しても上位に引っかかりにくくなってしまいます。それで、使いやすい造語を店名にすることにしました。「楽しんだ者勝ち」っていうのは、僕をそのまま表現した言葉でもありますね。

店のコンセプトは「一歩外に出るキッカケをつくる」こと。どちらかと言えばインドア派の人が、外へ出ることに興味を持つようなグッズを扱っています。ヒマラヤ山脈は登れないけど、高尾山なら行けるかなっていう感じですね。本格的なアウトドアギアよりも、はじめの一歩として取っ付きやすいような、手頃でオシャレだと思えるアイテムを取り扱っています。キャンプギアに限らず、ガーデニング用品やファッション雑貨が多いのもそれが理由のひとつです。

例えばアウトドア用のチェアを購入するとして、今主流の本格的なモノだと1万円以上するものが多いんです。でも、「ハマるかわからないけど始めてみよう」っていう人が、はじめから何万円も出せないですよね。だからチェアだったらなるべく1万円以内と決め、手に取りやすい価格のアイテムを扱うようにしています。

efim(エフィム)
https://efim.thebase.in 
「enjoy fully in my life」(=楽しんだ者勝ち)人生を楽しむ人々の毎日を豊かにするアイテムがここに。散歩・旅行・ショッピング・ガーデニングなど、外に出かけるキッカケとなるグッズを取り揃えたショップ。アウトドアアクティビティ初心者でも楽しめる手頃でファッショナブルな商品を展開する。 

なぜアウトドア業界でやってみようと思ったのですか?

− 篠崎氏コメント:自分の得意じゃない分野がいいなと思ったんですよね。得意な分野でお店を出すっていうのは何となく想像がつくけど、自分が知らない分野というのをやってみたかった。それまではインテリア業界にいて、アウトドアは知らないけど興味がある分野だったので「やってみたいな」と思っていたんです。

自分が知らない分野とはいっても、インテリア業界で働いて培ったMDなどは活かせていると思います。都心と郊外との地域MDの違いなんかは意識しています。ただ、それよりも個人のワクワクの方が勝ってしまうことが多いんですけどね。

企業の会社員から個人事業主になったことも大きな変化ですよね

− 篠崎氏コメント:そうですね。個人事業主になったことで、自分がやりたいと思ったことは損得勘定抜きにしてやれるようになりました。売れる商品というより、自分自身が「こんなのあるといいな」と思う“ワクワクする商品”を取り扱っています。

実は僕は卸もしているんですが、始めたきっかけは、いま店の売れ筋アイテムにもなっているこの「power code (パワーコード)」という商品なんです。一般的にはパラコードと呼ばれているもので、元々はパラシュートを吊すためのロープなので、かなりの強度があります。

「efim」オリジナルのパラコード「power code」など、取り扱うパラコードは、色柄も豊富で90種を超える。

− 篠崎氏コメント:お店を始めた当時から、僕にとってこのパラコードという紐が魅力的だったんです。ある時、ショップで販売するだけじゃなくて卸もしてみたら?と言ってくれる人がいて、卸を始めることにしました。

卸売を紐から始める人なんてそういないので、紐屋さんとして認知してもらえたらいいなと思ったんです。そういうことも個人事業主だからできていることのひとつだと思いますね。

アウトドアにはもちろん、編んでアクセサリーにしたり、切って靴紐にしたりできるパラコード。

“アマノジャク”がセレクトする商品のポイント

アウトドアブームについて変化を感じることはありますか?

− 篠崎氏コメント:アウトドアブーム自体は一定数の定着層ができてきたので、この先も緩やかに続いていくと思います。けれどその反面で「初心者にとってはハードルが高くなった」という感覚もあります。

原因は「オシャレじゃないとできない」という流れになってきていることです。しかも必要な道具を全て揃えるとなると、とてつもなくお金が掛かるんです。

本来アウトドアというものは「お金を掛けずに始められる遊び」だったはずなのに、「お金が掛かる遊び」になってきている。ブームに乗って車までもギア化してしまっているので、初心者には始めにくくなっている部分もあると思います。

そんな流れを感じていることもあって「efim」では、これから始める人をターゲットに“お金を掛けずオシャレにアウトドアを楽しめる商品”をセレクトし、今後もそれしかやらないと決めています。

その中でも強化している商品はありますか?

− 篠崎氏コメント:「食」に関連する商品です。僕には、どこまでも「リアルなモノ」を求めたいという思いがあって、そこを意識しています。実は卸では紐以外のほとんどが食に纏わるギアばっかりなんです。

− 篠崎氏コメント:これだけオンライン化が進み、OEM・ODMの時代になっているので、「店舗も卸も絶対やらない」と思っていたんです。でも、これから始める人が少なくなると思った途端、やりたくなる“アマノジャク”な性格なもので。その時に「どんなに時代が進んでもリアルでしか体感できないもの(=食)」にこだわろうと思いました。

中でも具体的に強化しているのは、“ステンレス商品”です。滅菌・殺菌効果の高さから、東南アジアで使われている食器はステンレス製がほどんどなんです。日本も年々温暖化で暑くなってきていることや、アウトドアでも使いやすいこと、さらに今年は、空前のカレーブームです。

もうこうなってくるとステンレスばっかりなんですが、これらのステンレス商品など、食にまつわる商品はできるだけ国内生産にこだわっています。

ステンレス商品のほとんどは、ステンレス製品の産地として有名な新潟県燕三条で製造している。

他に商品をセレクトする際にこだわっていることはありますか?

− 篠崎氏コメント:“他で売っていないモノ”にこだわっています。やっぱり“アマノジャク”なので、例えば、インテリア業界から出たアウトドアグッズを扱ってみたり、他のアウトドア専門店ではなかなか見られないような商品を置きたいなっていう気持ちがありますね。

もちろん、そういった視点で“自分が置きたいモノ”を置くと、全然売れないことがあるのも事実です。けれど、そのコンセプトを貫いた結果「efim」にしかない商品が集まって、それが店の強みや個性になっているのだと思います。

コミュニティの場としての店舗のあり

接客で気を付けていることはありますか?

− 篠崎氏コメント:ルールは特にありませんが、来店された方にはあたかも昔から知っている人かのような空気で話し掛けるようにしています。

僕は黙ってると話し掛けにくいタイプの人間のようなので、そこは自分から積極的に声を掛けるようにしています。それはもう面倒くさいくらいに。でも基本的には商品の話ではなくて、天気だとか商品に関係ない“今日の話”をしています。

商品の話をする場合は、お客様それぞれに目的や用途があるので、ポジティブなことだけでなく、ネガティブなことも伝えるようにしています。そうすることが信頼にも繋がると思うんですよね。

店舗を持ってみて良かったと思える点はどんなところでしょうか?

− 篠崎氏コメント:最大の良いところは“お客様の声が聞けること”ですね。「こんなのないですか?」っていう声はリアルなトレンドがわかるので、よく参考にしていますし関心が高いです。机上のデータではわからない鮮度の高いマーケット情報ですよね。

これだけのアウトドアブームの中で、膨大なネット情報を隅から隅まで見ている人たちの“本当に欲しいと思うモノ”が知れるのは、店舗をやっているからこそのメリットだと思っています。

では、お客様から見た「efim」の利点は何だと思いますか?

− 篠崎氏コメント:“場所”だと思います。僕が好きなモノを好きなように集めた店を、同じように好きでいてくれる人がいて、店に来てくれる。そういった人たちと繋がって新しいことを興すことができる。それはお互いにとってメリットだと思いますし、お客様にも実際に言ってもらっていることですね。

また、普段は絶対に交わらないであろう人たちと出会えるのも店舗があってこそだと思います。世の中に面白い人ってたくさんいて、店をしてるとそういう人と出会えるので刺激になります。

業界の人も今まで関わることがなかったような人も、自分のつくった店で出会い、共感し、それが何かに繋がったり新しいものが生まれたりする、そういったコミュニティが生まれるのは「efim」というルールのない場所があってこそだと思っています。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

ブーム継続に欠かせないニッチ需要とそれをキャッチする場所

ブームが継続していることの裏側にはトレンドの変化がつきものだと言えるだろう。以前はコストの掛からなかったアクティビティが、時代や人々の思考、ライフスタイルの変化などによってハイコストなものに変化していくこともある。そのトレンドのキャッチするのと合わせて大切なのは、対する“消費者の反応”をうまくキャッチしていくことである。

表面的にトレンドだけを追っていても、それは氷山の一角に過ぎず、本質を捉えることは出来ないのだと今回の取材を通してわかった。「オシャレでハイコストなギアを楽しむコア層」の裏側には、「上がりきったハードルに手の届かないビギナー層」の存在がいることを忘れてはいけない。そこに目を向けてみることで新たなマーケットが生まれるのだ。

では、トレンドに対する消費者のリアクションをどこでキャッチするのか。その場所こそが実店舗であり、その店舗の個性が強ければ強いほど「ニッチ」と呼ばれるようになる。コミュニティとはそういった場所から生まれやすいのも事実であろう。

今回取材をした「efim」代表の篠崎氏は、個人事業主として独立したその環境と“アマノジャク”な性分とが、彼自身が見つけたニッチ市場と最適にフィットした事例である。そしてその市場を愛する消費者たちが、店舗というコミュニティを通して、これから新たなアウトドアブームのトレンドを生み出していくかもしれない。

前回、「セレクトショップが見据えるアウトドアブーム」でも述べたように消費者は多様化している。どの層にどうアプローチしていくかがセレクトショップ としての課題となる今、「efim」のように「enjoy fully in my life」(=楽しんだ者勝ち)の精神で、個性を強みにした店づくりをしてみるのも面白いのではないだろうか。

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