2022.08.16.tue

grn outdoorが楽しむお酒とソトアソビ

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古着屋から生まれたアウトドアブランド

20年前、東京都練馬区に「酔 (すい)」という名の古着屋があった。90年代以降のアメカジブームを体験した読者も少なくないと思うが、爆発的な人気により希少価値の高い古着が高額で取引され、2000年代以降のショップの在り方にも大きく影響を与えた。

古着屋としてスタートした「酔」の転機は2005年、当初は普段着で着ることができるアメカジをテーマに古着販売のみを行っていたが、古着に合わせられるオリジナルアメカジブランド「grn (ジーアールエヌ)」を立ち上げ、古着が手に入りにくくなってきたマーケットに適応して、カジュアルに合わせられるファッションの提案を行なった。

ジーンズの歴史を紡ぐHINOYA」のなかでも記載した通り、企業が時代やトレンドに合わせて柔軟に変化することは、成長していくうえで大きな鍵になる。古着屋「酔」から始まった「SUI INTERNATIONAL (スイインターナショナル) 株式会社」も、変化し成長してきた企業の一つである。

現在ではgrnの他、「grn outdoor (ジーアールエヌ アウトドア)」、「BRENDS (ブレンズ)」の三つのブランドを企画生産し展開している。今回はそのなかでもアウトドア好きにファンが多い、grn outdoorの営業担当である堤勇一郎 (ツツミ ユウイチロウ) 氏に話を伺い、人気の秘密を紐解いていく。(※grnは2022年8月現在休止中)

SUI INTERNATIONAL (スイインターナショナル) 株式会社
https://www.grn-sui.com/
一つひとつの洋服を大切に、ファッションの楽しさを伝えていく。いつまでも装うことを忘れないすべての人に、暮らしに馴染むファッションとスタイルを提供し、お客さまの毎日を豊かにすることを理念としている。「grn (ジーアールエヌ)」、「grn outdoor (ジーアールエヌ アウトドア)」、「BRENDS (ブレンズ)」の三つのブランドを運営。古着屋発ブランドとして素材にこだわり“トレンドを取り入れたアメカジ”をテーマに展開。
grn outdoor (ジーアールエヌアウトドア)
https://grn-outdoor.com/
“60/40 (ロクヨン) クロスでソトアソビを楽しく”をコンセプトに、アメカジやアウトドア好きの間で現在まで愛され続けている素材「60/40クロス」を使用した商品を中心に展開。公園で遊ぶことやキャンプすることなどの「ソトアソビ」をより楽しくさせるファッション性、マルチ機能、使いやすさを求めている。

好きが高じて始まったgrn outdoor

grn outdoorの始まりについて教えてください

− 堤氏コメント:grn outdoorというブランドは、よく勘違いされるんですが実はアメカジメインのgrnとは全くの別物で、2018年にディレクターの立元真 (タチモト マコト) と生産の岡倉亜利武 (オカクラ アトム) 、あと営業の村田将 (ムラタ ショウ) の3人で始まりました。

社内のキャンプ好き3人が「ソトアソビ」をより楽しんでもらいたいという想いからブランドを立ち上げ、アパレルを扱うgrnとは違い、アパレル以外にもチェアをはじめテーブルなどのギア、ビールをより楽しめるタンブラーや小物など、幅広いカテゴリのアイテムをオリジナルで生産しています。

僕は元々繊維系の会社に勤めていたんですが、退職後に良いタイミングで今の会社が求人をかけていて入社しました。アウトドア好きなのでプライベートで山に行ったりキャンプして遊んでいたというのもあり、僕自身アウトドアに関わる仕事には興味があったのに加えて、僕や元々いたメンバーも皆お酒好きという共通点もあって、見事にぴったりハマった感じですね。

入社後から今までどのようなことを担当されましたか?

− 堤氏コメント:基本的には得意先さんであるアウトドアショップやセレクトショップへの卸売の営業がメインなんですが、その他にアウトドアイベントの企画運営や出展などの業務も多いです。

例えば今年の7月末にも開催された、BtoB向けの合同展示会「OUTDOOR THINGS (アウトドアシングス)」に運営として参加しているんですが、そこから派生したBtoC向けのキャンプイベント「OUTDOOR THINGS CAMP (アウトドアシングスキャンプ)」も運営を担当していて、年に2回のペースで開催しています。

OUTDOOR THINGS CAMP (アウトドアシングスキャンプ)

− 堤氏コメント:最近だと8月の山の日に開催して、2022年は11月にも開催予定です。出展社さんやキャンプ会場とのやり取り、POP作成なども僕が担当しています。

「楽しいファースト」が生み出す循環

働くうえで何を大切にしていますか?

− 堤氏コメント:本当に一番大切にしているのは、笑っちゃうかもしれないんですけど、 得意先さんとかに対して常に「楽しいファースト」でやりますって話をしています。先輩とかには「仕事は楽しいだけじゃないんだよ」って言われることもあるんですけど、楽しくないことがあまりないんですよね。

僕らの商品が売れて、ショップが大きくなったら楽しいことだと思いますし、イベントで一緒にお酒を飲んで楽しいと思うこともありますし、とにかくお客さんにも自分にもストレスをなるべく与えないように心がけています。アウトドア業界自体がちょっと特殊だと思うんですが、そんなに「売上売上」って言う人たちも少ないんですよ。自分自身も売上のことを先に考えるというよりは、まず楽しいことを考えるようにしているんです。

例えばイベントで出展者さんとお話していて、そのきっかけからコラボレーションが生まれることもあるんです。それを抜きにしても、ただ単純にみんなでお酒を飲むことが楽しいからやっているってことも多いんですけどね。

コミュニケーションのなかから始まるんですね

− 堤氏コメント:はい、後々それも利益になってくると思うんです。僕らは色んな方々とコラボレーションさせてもらうんですけど、仲良くなって一緒に何か作って、それが売れて、お互いの認知度が上がって、また商品作りに繋がって、それが売れてっていうサイクルになると思っています。

お酒好きから生まれる製品作り

モノづくりをするうえでのこだわりを教えてください

− 堤氏コメント:4人ともお酒が好きだから、アイテムには必ずビールを入れられるポケットを付けようって話しをしていたり、「ソトアソビ」を楽しめる商品作りにはこだわってきました。提案っていうと少し固いんですけど、僕らがこうやって楽しんでいるからこそお客さんもどうですか、って言える感じですかね。

とにかく、キャンプに行って気軽にビールを楽しめるようなカジュアルなモノづくりを大事にしているんです。ここはビールが入るんですよ、みたいな感じで薦めたりもできますしね。ビールを入れるのが推奨ポイントなんです。

ビールが入れられるポケット

実際に飲みの場で生まれた製品とかはあるんですか?

− 堤氏コメント:「YOIDORE BAG (ヨイドレバッグ)」っていう製品があるんですけど、大阪の&NUT (アンドナット) さんと飲みに行ったとき、楽しかった思い出を商品として形に残そうと作ったものなんです。&NUTさんには大阪の十三にあるスナックに連れていってもらったこともあって、夜の街のネオンやビールをイメージしたカラー展開で、ブランドのネームタグもオリジナルで作りました。

YOIDORE BAG (ヨイドレバッグ)

− 堤氏コメント:「ダックロー」っていう僕らのオリジナルキャラクターがいるんですけど、酔っ払って千鳥足でおみやを持ったダックローをプリントしてたりと、そのときの実際のエピソードをそのまま商品化したような製品なんです。まさに利益追及というよりは思い出重視で楽しくコラボレーションした例だと思います。

うちは商品会議自体もキャンプ場や出先だったりで、お酒を飲みながらやることが多いです。アイテムもビールに関わるものだったりするので、飲みながらやることで面白いアイデアが出ることもあります。今販売しているものは、ほぼそうやって生まれたものです。

千鳥足でおみやを持ったダックローのイラスト

作るのに苦労した製品があれば教えてください

− 堤氏コメント:「MK5 CYCLELONGJKT (エムケーファイブサイクルロングジャケット)」というハードシェルジャケットですかね。最初の段階ではポケットなどがたくさんついているものを考えていたんです。

でも縫い目を多くしすぎるとそこから雨水が浸みてきたりするので、少しずつポケットを省きシンプルにしていきながらも、背中のポケットにはちゃんとビールが入りますっていう機能性を失わないように気をつけたり、自分たちらしさを両立させながら商品を作るのには苦労しました。

削ぎ落としていく工程は機能性やデザインの観点から大切なんですけど、個性や自分たちのこだわりをちゃんと入れて、ただのレインジャケットにならないように工夫したんです。

MK5 CYCLELONGJKT (エムケーファイブサイクルロングジャケット)

今着ているベストもgrn outdoorのアイテムなんですね

− 堤氏コメント:はい、これは僕自身も大好きでよく着ている定番品「TEBURA VEST21 (テブラベストニジュウイチ)」といいます。ポケットが全部で21個ついていて、背中にはもちろんビールも入るようになっているんです。

定番の理由としてはブランドができた時から多用している、アウトドア生地の定番でもある綿60%とナイロン40 %のロクヨンクロスを使用していて、うちのブランドらしい商品だからですね。ポケットも多いので商品名には手ぶらで出かけられますよって意味もあって、そういった機能性だけでなく遊び心も愛される理由だと思っています。

TEBURA VEST21 (テブラベスト ニジュウイチ)

「ソトアソビ」を楽しむことへの想い

消費者にとってgrn outdoorの役割はどうありたいですか?

− 堤氏コメント:そんなにはないんですよね。ただ、外に出てビールを楽しんでもらうための存在でいいとは思っています。その時にgrn outdoorを少しでも思い出してくれるくらいでいいですね。

あとはさっき話したぼくらのオリジナルキャラである「ダックロー」の人形があって、それをノベルティとしてお配りしてるんです。ダックローは足が三本ある八咫烏 (ヤタガラス) をモチーフにしていて、八咫烏って日本神話で太陽の使いなんですよ。そういう意味でもお客さんにはキャンプの時とかに晴れるお守りとして持っていってもらいたいという想いでお渡ししています。

イベントに行けばもらえるんですね

− 堤氏コメント:イベントで5千円以上ご購入いただいた方にお配りしているので、grn outdoorのアイテムを購入いただければ手に入れることができます。それとは別に、非売品でお取引先さんだけにお渡ししている少し大きいタイプや、この世に4体しかない特大ダックロー人形もいたりするので、もしかしたらどこかで会えるかもしれません。

アウトドア業界として考える課題を教えていただきたいです

− 堤氏コメント:よく周りとも話すんですが、最近のアウトドア業界はギアが溢れちゃっていると感じますね。キャンプやアウトドアという行為を楽しむことを、僕らからしっかり発信していかなきゃなと思っています。「ソトアソビ」ってけがをしたり、下手をすると命を落とすリスクもあるので、楽しくかつ安全に遊ぶための心得みたいなものも伝えていきたいですね。

モノが飽和していると言われる今、流行っているものをただ模倣したりして、安全に配慮がされていない製品づくりをしているところも増えているので、消費者も良いモノや本物を選べる目を持って安心安全に楽しんでほしいと思っています。僕らもブランドとしてそういったことをもっと発信していくことが課題ですね。

今後、ブランドとして叶えたい夢を教えてください

− 堤氏コメント:今、僕は香港や台湾への海外輸出も営業担当しているので、今後はマーケットとしても成長してきているタイにも広げていきたいですね。アジア全体のアウトドア市場が盛り上がってきているので、今やっているOUTDOOR THINGSという合同展示会も海外開催して、日本のモノづくりやキャンプスタイルを海外の人たちにももっと知ってもらえる機会になればいいなと考えています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

「楽しむ」をモノづくりに活かすということ

一見簡単そうに思える「楽しく生きる」「楽しく仕事をする」ということだが、日常で多種多様な働き方や生き方をしている人々がいるなかで、いろいろなしがらみや人間関係に悩まされ、難しく感じることも多く思える。だが実際にそれを実践し人々に商品を通じて伝え、支持を得ているgrn outdoorのようなブランドもあるのだ。

今回の取材を通し我々が感じたことは、日常のなかでしっかりと深呼吸し息抜きもする大切さや、日々をそれぞれの形で楽しむこと。そしてなによりもただ楽しむことだけでなく、しっかりと信念を持って取り組むのが大事だということだ。

例えば、楽しむこととはコミュニケーションを取ることでもあり、得意先や消費者の普段は聞けないリアルな声や意見を聞いたりすることに繋がる。その結果、新たな製品づくりや取り組みに広がり、最終的に両者の成長や糧になるのだ。

堤氏の話を聞くなかで、売れることを考えるのも大事だが、改めて自分たちが欲しいものや良いと思うものを作るという製品作りの原点を今回の取材で見た気がする。そしてそれはモノが飽和していると言われる今の時代、自分たち「らしい」製品づくりで生き残っていくヒントなのだろう。

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