2022.08.09.tue

ビームス工房が推進するリペアという文化

Contents

BEAMSのセンスが光るリペアサービス

「モノを長く大切に使う」、この考えが日本人にとって新しい価値観かと言われるとそうでもない。“もったいない”という言葉が代表するように、昔から国民性としてモノが粗末に扱われることに心を傷める気持ちを持っていると思われる。

しかし、その“もったいない”発祥の国と謳う一方で、食品ロスや衣料廃棄物が著しく多い国でもあるのは何故だろう。大量生産・大量消費の時代のなかで“新しいモノ”に過剰に価値を置き、「使えるモノを廃棄する」ことに無痛な国民性が生まれたのだろうか。ファッション、住宅、クルマなど、どの業界を見ても諸外国に比べ、日本の中古市場は小さい。

ことアパレル業界においては、欧米諸国のようにドネーション (寄付) の観念や近年見られるファッション・スワップという交換会の認知も薄く、古着はトレンドやカテゴリの一つという認識が強い。メルカリなどのフリマサービスが浸透した今でも、日本の衣料廃棄物は年間50万トンを超えている。

このような「消費者へと渡った後の衣料廃棄」を防ぐためには、大きく二つの解決策がある。一つは廃棄ではなく再利用へ、つまり中古市場の活性化を図ること、もう一つは修理修繕を促し、一つのモノを長く使い続けてもらうことである。

前述したように、“新しいモノ好き”であり、加えて“もったいない”精神を持ち合わせる我々日本人には後者の修理修繕、いわゆるリペアサービスが国民性にフィットし、取り入れやすいサービスだということに気づく。今回取材した「ビームス工房」は、「BEAMS (ビームス)」が昨年オープンした修理工房。同社の商品だけでなく、他社商品であってもリペアやリメイクに対応している。

「良いモノを選んで買って、それを長く着てもらいたい」、そう語るのはビームス工房の責任者を務める荒瀬和雄 (アラセ カズオ) 氏。

モノを買うことは悪ではない。手放す方法を考えることも大事だが、買ったモノを大切に使い続ける工夫や知識を知ることで解決できることもある。「つくる責任 つかう責任」が求められる現代に、BEAMSの新たなサービスが業界、そして消費者の救いの光になるか。ビームス工房の魅力に迫る。

ビームス工房
https://www.beams.co.jp/service/bkoubou/
45周年を迎えたBEAMS (ビームス) が、長く培ってきたファッションに対する知見で、一人ひとりに最適な修理、ケア、リメイク、カスタムを提案する修理専門のショップ。ファッションのトレンドと背景を熟知し、豊富なフィッティング経験と商品知識をもつBEAMSスタッフがコンシェルジュとして対応する。さらに、高い専門技術をもつ衣服修理の職人が常駐。パンツやジャケットのフィッティングから手持ちのスニーカーのリメイクまで、“その場で”相談が可能。また、LINEを使ったオンラインでの問い合わせにも対応するなど、顧客に寄り添ったサービスを提供している。

BEAMS商品以外も歓迎「ビームス工房」

ビームス工房について教えてください

− 荒瀬氏コメント:東京・神宮前の「ビームスF」と「インターナショナルギャラリー ビームス」内にある修理専門のショップです。洋服や靴の修理を中心に、一部カバンやスニーカーなども受けつけていて、ご相談内容に合わせて、ショップに構えている工房や協業している修理工房とで対応をしています。

BEAMSで購入された商品はもちろん、他のブランドやセレクトショップで購入した商品も修理可能なところが大きな特徴です。

ショップ内にある工房

他店で購入した商品も受け付けてくれるんですね!

− 荒瀬氏コメント:ビームス工房ができる前は、BEAMSで購入された商品だけの修理対応をしていました。しかし昔から、「他店で買ったモノだけど、どうにかできないか」という依頼はあり、心苦しいと思いつつも会社のルール上お断りをしていたんです。

恐らくどのショップも同様の対応をされていると思いますが、その“他のショップがやっていないコト”に今回あえて挑戦したのが、ビームス工房です。

トレンドや時代背景も影響し、洋服は「買って捨てる」というサイクルがこれまで定着していましたが、近年「今着ているものを大事に着よう」というサイクルに消費者意識が変わっています。BEAMSとしても、「良いモノを長く使ってもらいたい、そのうえでファッションを好きになってほしい」という想いから、ショップやブランドの垣根を越えて、良い洋服を長く着てもらうためのサービスを始めることにしたんです。

リペアからリメイクまで受ける“相談窓口”

ビームス工房ならではの魅力は?

− 荒瀬氏コメント:BEAMSの販売スタッフが修理対応を行っていることですね。パンツやジャケットは、袖丈の見え方で着ている印象は大きく変わります。手前味噌になりますが、BEAMSという屋号の信頼感とセンスに任せられることは一つの魅力ではないでしょうか。

基本的に窓口にはドレス部門のショップスタッフが立ち、お客さまの相談を伺います。ドレスのスタッフはお客さまの体型に合わせたバランスの取り方を徹底的に叩き込まれているので、細かいところまで気が付いて手直しすることが可能です。

やはり長年セレクトの商品を扱ってきたノウハウを活かして、幅広い提案が行えるのは強みですね。修理からサイズの調整、リメイクまで、本当にさまざまなご相談があるのですが、対応できることの多さに対する自負はあります。

相談は窓口だけでなく、LINEでも受付可能。

リメイクまで対応してくれるんですね!

− 荒瀬氏コメント:お客さまの意思やご要望があれば、「応えてあげたい!」と思っちゃうんですよね。長袖のジャケットを半袖にしたり、長ズボンを半ズボンにしたり、ときどき「なんでこれやるんですか?」という相談もあったりして(笑) 元には戻らないので思い切りは必要ですが、着なくなったものをリメイクすることで、長く使ってもらえるのはいいことだと思っています。

− 荒瀬氏コメント:どのお客さまもファッションが好きだからこそ、しっかりとビジョンをお持ちなので、そういった方には断らずにYESって言いたいですね。それを知ってか知らずか、ショップのすぐそばにある本社のスタッフにも好評のサービスになっています(笑)

「REPRO-PARK」との協業によるスニーカーカスタム。

− 荒瀬氏コメント:以前BEAMS JAPANの関係者から、「プレゼンで使用するにあたり、法被の『BEAMS』のロゴを全部隠したい」というオーダーがありました。こういう場合は発想力との勝負ですね。その時は、その法被に合う色柄のバンダナを見つけてきて隠すリメイクを施しました。

完成品はとても喜んでくれましたね。ベースは修理工房なんですけど、そんな風にファッションに携わっている人やファッションが好きな人の“相談窓口”でもありたいなと思っています。

法被ののBefore (左) After (右)

良いモノだからこそ長く使う当たり前へ

荒瀬氏の考えるリペアサービスの役割とは?

− 荒瀬氏コメント:きちんと着られるようにしてあげることです。洋服は長く着れば着るほど、体型の変化に合わせた調整が必要だったりします。気に入った洋服を長く着るための一つの方法として、リペアを考えてもらえると嬉しいですね。

BEAMSで販売しているモノはもちろん、他のセレクトショップやブランドでも、素材やデザインにこだわっているモノが多いですから、それらを無下にせず、「ここまで着たなら、もういいや」と思うまで着てもらいたいです。

リメイクに関しても、最初から「やっちゃおう!」とは言いませんが、そこまでして長く着てもらえるのであれば、どんどん提案していきたいですね。実は僕が着ているこのシャツも、元々はピンクだったものを黒染めしたんです。

「京都紋付」との協業による黒染めサービス。

− 荒瀬氏コメント:最近はピンクの気分じゃなくて何年も着ていなかったんですが、黒にしてからはヘビーローテーションで着るようになりました。そんな風に、“あの頃はよく着ていたけど、近頃は気分じゃないから着ない服”って皆さんありますよね? そういうモノも、手放す前に相談してほしいなと思います。

黒染のBefore (左) After (右)

今後の展望を教えてください

− 荒瀬氏コメント:相談窓口としてどれだけの説得力を持てるか、が鍵ですね。ファッションにこだわりのある方に特に人気のサービスなので、他のセレクトショップやスタイリストの方々も相談に来てくれると嬉しいです。その点で言えば、社内でも認知に差があって、本社も含めて原宿地区には広まっているんですが、まだ原宿以外のショップスタッフにはあまり知られていないサービスだったりします。

まずは業界の内側から、そしてファッションが大好きなお客さまへも認知を広げていくことで、東京だけでなく地方からも需要を増やしていきたいです。良いモノを選んで買うのも大切で、良いモノだからこそ長く使ってほしいですね。それが当たり前の世の中になっていくことを願っています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

リペアが当たり前のファッション文化に

モノの生涯を考えたとき、作り手は使い手へそれらを手渡して終わりにして良いのか。「つくる責任」の範囲が問われている。

長持ちする素材や造りであること、使い手自身で手入れができること、使い終わった後も循環する道筋が作られているかなど、生み出したモノが使い手に渡ったときのことまで考えることが、今求められている「つくる責任」であり、同時に「良いモノ」の定義でもある (もちろん使う側にはモノが自分の元に来るまでのプロセスを把握する「つかう責任」が生じる)。

ビームス工房が提供するリペアやリメイクのサービスは、まさに「生み出したモノが使い手に渡ったときのこと」を考えたうえでの立ち上げであり、その守備範囲を自社取扱商品の外にまで広げたことは、今の時代に合った評価されるべき決断だといえる。

また消費者にとっても、誰もが知る大手セレクトショップであるBEAMSが修理工房の窓口という存在価値は、大きなベネフィットとなるだろう。それでも荒瀬氏のいうように、リペアやリメイクという文化の定着はまだ浅い。ビームス工房の取り組みが、同社内に持ち合わせる影響力を活かして広がる未来に期待する。汚れたらクリーニングして再び着るのと同じように、体型の変化や気持ちの変化に合わせて、リペアやリメイクを楽しむファッション文化が当たり前の選択肢になることを願って。

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