2023.03.14.tue

革新と不変が作るROSE BUDらしさ

  • ROSE BUD

Contents

ROSE BUDがROSE BUDであり続けるために

“らしさ”とは何だろう。さまざまなブランドから商品を買い付けて販売するセレクトショップにおいて、それは編集力と表現するのが正しいのか。はたまた、今では当たり前となったPBが放つ個性がそれなのか。その決め手を判断するのは難しい。

今回我々が取材を行ったのは、今年立ち上げから30年を迎えた「ROSE BUD (ローズバッド)」。言わずと知れたレディースのみを扱うセレクトショップのパイオニアだ。立ち上げ当初はそう多くなかったセレクトショップの数も、今や山ほどある。しかし、数多あるセレクトショップのなかでも、ROSE BUDの放つ個性は色褪せず健在だ。

聞けば、現在ROSE BUDのなかには買い付け商品の他に五つのPBが展開され、それぞれに異なるコンセプトやスタイルを持つという。では我々が感じ取っている“ROSE BUDらしさ”というのは一体何なのか。

商品一つひとつ、それぞれのブランドの個性を尊重し、ROSE BUDらしさでまとめる重要な調整役を務めるのが、ヴィジュアルディレクターを務める大野麻美 (オオノ アサミ) 氏。同ショップでの販売部門に長く携わっていた彼女がディレクション分野に就任したのは1年前。売り手と作り手の声に耳を傾け、それぞれの立場に立ってROSE BUDというショップ全体のヴィジュアルをディレクションしている。

今回は、今年30周年という節目を迎えるROSE BUDに、これまでの歩みとこれからの展望を伺った。独自の編集力と個性創造は、今やセレクトショップには欠かせないスキルだろう。他にはない個性を放ち続けるROSE BUDの話から、その鍵を探りたい。

ROSE BUD (ローズ バッド)
https://www.rosebud-web.com/
1993年、渋谷に1号店をオープンしたレディースセレクトショップ。トレンドからベーシックまで幅広いテイストのアイテムを揃え、オリジナルブランド商品をはじめ、世界各国から集めたウェアからアクセサリまで、さまざまなアイテムを展開。女性のクローゼットのなかのようなワクワク感を具現化したようなショップを目指す。

表現したいのは女性のクローゼット

ROSE BUDについて教えてください

− 大野氏コメント:今年で30周年を迎えるレディースのセレクトショップです。今でこそ珍しいものではなくなりましたが、渋谷の明治通りに1号店がオープンした1993年当時は、レディースだけを取り扱うセレクトショップはほとんどなく稀な存在でした。

この30年間でオリジナルブランドのローンチや渋谷店の閉店など、ブランドにとって大小さまざまな変化がありましたが、買い付け商品やPB商品などの取り扱いアイテムのコンセプトは一貫して変わりません。

渋谷・1号店は2019年に惜しまれながらも閉店

そのコンセプトとは?

− 大野氏コメント:まるで女性のクローゼットのなかにそのまま飛び込んだようなセレクトショップであることです。クローゼットを開けたときのワクワク感や、気分で服を選べるような空気感を大切にしています。

現在、オリジナルブランドである「ROSE BUD」の他にも「ストアブランド」と呼んでいる四つのラインがあって、それぞれにコンセプトを設定しているんです。それら五つのブランドに加えて買い付け商品もあるので、ROSE BUDに来るだけでさまざまなスタイルが揃い、完結するように構成しています。

30年で変わったこと、変わらないこと

ストアブランドについて教えてください

− 大野氏コメント:四つのストアブランドのなかで最も歴史が長いのが、昨年5周年を迎えた「mici (ミチ)」です。カジュアルでありつつもモードの要素が強く、自立した大人の女性に向けたブランドとして人気があります。他方、普遍的な要素の強いmiciに対して「CREOLME (クレオルム)」はトレンドに敏感な方に向けたブランドで、比較的若いお客さまがターゲットです。ジャンルとしてはビンテージやストリートの要素を持っていますね。

また、2周年を迎える「mag.by c (マグ・バイ シー)」はアーバンヒッピーのスタイルを彷彿させ、「GENE HEAVENS (ジーン ヘブンズ)」は、大人の女性がラフに着こなしやすいワークミリタリーや、シャツなどを中心に展開するブランドです。

− 大野氏コメント:このようにそれぞれ独立したコンセプトを持つストアブランドがありつつ、そこで押さえきれないオンタイムなトレンドアイテムを、ブランド「ROSE BUD」から展開しています。また、ROSE BUDから出るアイテムは、個性の強い買い付け商品やストアブランドの商品同士を緩やかに繋ぐ“汎用性”も押さえるようにしていて、全体のコーディネートのバランスを保つ役割も担っていますね。

四つのストアブランドと統一された世界観

同じ屋号内に5ブランドもあると調整が難しそうですね

− 大野氏コメント:そうですね、ブランド同士の世界観の統一が、ヴィジュアルディレクターである私の仕事でもあります。展開する五つのブランドと買い付け商品、「すべてを組み合わせることでROSE BUD」という一つのブランドに見せる必要があるところが私自身の課題でもあり、ショップの最大の魅力でもあるんです。

先ほどお伝えした「クローゼットのなか」をより具体的にイメージして、ブランド一つひとつの個性を膨らませつつ、お客さまがイメージしやすいように全体のコーディネートも考えます。LOOKを見てもらうとわかりやすいのですが、ストアブランドそれぞれのLOOKはもちろんのこと、全ブランドをミックスしたLOOKも出してイメージを発信しているんですよ。


アイテム一つひとつ、ブランド一つひとつの個性は違っても、ROSE BUDという同じ世界観が通って見えるように、さらには実店舗とECサイト、SNS上でも統一された世界観を表現するようにしています。

特に、今は昔と違って事前にオンラインで検索してから、イメージを持って店舗にいらっしゃるお客さまが多いので、そのイメージと店舗の世界観を乖離させないことは重要ですね。そのうえで、せっかく足を運んでいただいたのであれば、店舗でないと体験できないようなサービス、例えば試着やスタッフとのコミュニケーションを楽しんでもらい、来店前に持っていた期待以上の状態で帰ってもらうことが理想的です。

ミックスして完成する“らしさ”

売場作りに工夫はありますか?

− 大野氏コメント:あえてブランド同士をはっきり分けすぎないようにしています。もちろん、ブランドを固めてアプローチしたいなどの戦略があるときは意図的に固めますが、ブランドを分けての陳列だけしてしまうと、「すべてを組み合わせてROSE BUDの世界観を作る」ということが難しくなりますよね。基本的にはお客さまご自身でも各ブランドを組み合わせていただけるように、コーディネートしやすい売場と動線作りに力を入れています。

あとは、13ある店舗のエリアの特性を考慮して、必要であれば店舗ごとに調整を行うこともありますね。例えば、同じ大阪内の近くに構える2店舗でも、お客さまの層や好まれる商品・スタイルが変わってくるんです。そのため、そこはショップスタッフやマネージャーとコミュニケーションを取りながらこまめに修正していきます。

すごく地道で大変な工程ですね…!

− 大野氏コメント:ROSE BUDはスタッフそれぞれのコーディネート力や個性が強みでもあるので、現場の声は大切にしていきたいですね。実際にいろいろなアイデアが現場からよく挙がります。私自身、ずっと販売に携わってきて、そこから今こうしてヴィジュアルディレクターという仕事に就いている背景があるので、直にお客さまと接しているスタッフの強みをなんとしても売場に活かしたいですし、またそれを求められているのかなとも感じていますね。

それに、ショップのマネージャー陣のケアレベルもとても高いんです。そのため各店舗担当のマネージャーとのコミュニケーションを徹底し、あとはある程度の自由度を持って動いてもらっています。売場の調整やアレンジは、現場スタッフの腕の見せ所でもありますしね。

もちろん本社で、バイヤーやデザイナーの想い、戦略をより身近に知れるようにもなったので、作り手の想いにもしっかり耳を傾けて、現場の意見とバランスよく調整していけるように努めています。

定番商品や売れ筋はあるのでしょうか?

− 大野氏コメント:ROSE BUDではどんなトレンドが来ても、色もの・柄もの・デザインものが売れ筋に上がるんです。今でいう“映える”アイテムですね。昔からそれがショップのアイデンティティです。近年は特にコロナショックやSNS普及の影響もあってか、皆さん洋服に華やかさや明るさ、派手さを求めるような傾向にあって、私たちのような個性が際立つお店が注目されているのを実感しています。

色もの・柄ものが強いので、今まではシーズンとしてSSが強く、逆にいえばAWは色柄需要と共に落ち着きがちだったので、このトレンドを追い風にしていきたいですね。今シーズンのSSから徐々にスタートする30周年企画を武器に、AWまで1年を通して強みを生かしていきたいと思っています。

30周年で表現する「繋がり」

周年企画で表現したいことは?

− 大野氏コメント:「繋がり」です。30年間で生まれたROSE BUDのなかのブランド同士の繋がりをはじめ、街との繋がりや人との繋がり、私たちの歴史の繋がりを、1年を通して表現していきたいと思っています。

SSのLOOKは、複数のモデルさんにあえて色違いの同じコーデをさせたり、渋谷発祥のセレクトショップである歴史を振り返るのに、あえて撮影を渋谷に設定したりしました。そういった過去との繋がりも大切にしたいので、これまでのアーカイブアイテムをアレンジして販売する企画も予定しています。

その他にもコスメなどの他業界やインフルエンサー、エンターテイメントとのコラボレーションなど、洋服だけにとらわれない協業にチャレンジして、ただ「ありがとう」を伝えるだけの周年記念ではないものを作り上げていきたいです。

ROSE BUDが30周年を迎え、その間さまざまな変化がありつつも、ありがたいことに30年間卒業せずにずっと好きでいてくれる顧客さまもいらっしゃいます。そうしたお客さまにも、改めて「やっぱりROSE BUDはこうだよね」という実感を持っていただけるような1年にしていきたいですね。そして、お客さまの存在を糧に、変化を恐れずチャレンジし、新規のお客さまにもアプローチしていきたいと思っています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

らしくあるための手段の変化

「らしさの継続はコンセプトの維持継続」、取材を終えてみて、それを強く感じる。女性のクローゼットのなかのワクワクは、いつの時代も変わらないのだ。一貫したコンセプト追求のなかで手段を変化していくその姿勢が、変わらないROSE BUDらしさを作り上げているのだろう。

また取材中、「SNSが当たり前の時代であることとショップスタッフの個性の強さを活かして、スタッフの“アイドル化”を進めたい」との言葉もあった。各店舗のスタッフの個性を表に出し、ファンを増やすことで集客増加や実店舗の価値向上を図るブランドは増えている。特にここ最近のアパレル業界への取材では、ショップスタッフの活躍に期待を寄せる声の多さが印象的だ。

ただし、この戦略はブランドの個性確立の上に成り立つものだと理解している。その点、今回取材したROSE BUDのような「らしさが際立つセレクトショップ」だと、取り組まない訳にはいかない大きなミッション、いやチャンスなのだろう。30年という年月を次なる30年へと繋ぐ手段の変化を期待したい。

Recommend