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ビームスの太鼓判。B印MARKET

2022年2月、「BEAMS (ビームス)」が新たなプロジェクトを始動した。その名は「B印MARKET (B印マーケット)」。

同社のスタッフが独自の視点で仕入れ、キュレーションしたアイテムやサービスを紹介し販売する「個人商店」と、さまざまなライフスタイルシーンにおけるスタッフの一押しアイテムを集めた「B印 MARKET AWARD」、これらのコンテンツをはじめとするメディアコマースで、贔屓目なしに社内外の良いアイテムやサービスに“ビームスの太鼓判=B印”を押して販売するというものだ。

InstagramやTikTok、YouTubeなどSNSや動画配信サービスを介して個人の活躍が目立つ現代では、消費行動を促す要素としても“個”の力が欠かせなくなってきている。そんな時代のなか立ち上がった同サービス。時流を汲んだ必然的なコンテンツともいえるが、実際に本企画を形にできる企業は限られるように思える。

大前提として、「個人の魅力を後押しするブランド力」が企業自体に必要だ。その上で個人にも求められるスキルがいくつかある。人を惹きつける「魅力」、商品をセレクトする「バイイング力」、モノを売る「販売力」、そして「発信力」などだ。企業の力と個人の力、どちらか一方が満たされているだけでは成立が難しく、両立している必要があるだろう。

これら諸条件があるにも関わらず、実現しているところが同社の頼もしさだ。同企画を組織単位で行うには、それなりの人数も必要であれば、スタッフ同士の個性が偏るわけにもいかない。発案があっても人材確保の苦労が懸念されるため、素質がないと良いタイミングでのリリースは難しい。

今回はそんな同プロジェクトに関わる3名を取材した。BEAMS CREATIVE プロデューサーの佐藤嘉紀 (サトウ ヨシノリ) 氏と高瀬弘将 (タカセ ヒロマサ) 氏、そしてBEAMS CE本部 デジタル部 部長の門脇匠太 (カドワキ ショウタ) 氏だ。同社だからカタチとなった本企画、立ち上げのきっかけや見どころ、今後の展望を伺った。

B印MARKET (B印マーケット)
https://www.beams.co.jp/special/bjirushi_market/
BEAMS (ビームス) が「ビームスの太鼓判。Selected by “BEAMS”」をコンセプトに展開するオンラインショップ。「個人商店」と「B印 MARKET AWARD」をはじめとしたコンテンツにて、BEAMSスタッフの目利きによる一押しのアイテムやサービスが紹介され、それらを販売する。

ヒトの時代のオンラインショップ

立ち上げのきっかけを教えてください

− 高瀬氏コメント:「モノからコトへ、そしてこれからはヒトだ」という代表の設楽の考えを形にしました。従来のマスマーケティングからマイクロマーケティングに移りゆく時代のなかで、スタッフの個性をもっと活かしたP to C (パーソンtoコンシューマー) のプロジェクトですね。レーベル単位に留まらず、スタッフのレベルまで細分化して商品の良さを伝えていこうと試みました。

もともと当社は「BEAMS動物園」というくらい、スタッフの個性が豊かで、さまざまなライフスタイルを持った人の集合体です。何でも楽しそうに仕事に打ち込む社風や仲間に、日々刺激を受けています。

佐藤氏コメント:僕は21歳の時にアルバイトで入社してからずっとBEAMSの人間です。高瀬が言うように昔から社内には情熱的な人が多くて、いろんな分野のプロがいます。みんな目利きがあって顔が広く、物知りなんですよね。

現在セレクトショップも増えてきて、異なるセレクトショップでも同じ商品を扱っていることもありますが、例え同じモノでも「なんで紹介するのか」「どう紹介するか」という点において、BEAMSはずば抜けた力があると思っています。その強みを活かすという点でも、B印MARKETはもってこいの企画ですね。

佐藤嘉紀氏

門脇氏コメント:僕はショップマネージャーや店舗管理を経て、現在、オンラインショップを見る立場で、店舗とオンラインとお客さまとの関係値作りを行なっています。実はスタッフ個人のコンテンツ自体は昔からオフィシャルサイト上にあるんですよね。

「スタイリング」や「フォトログ」という写真をアップするコンテンツやブログを通して、スタッフは自身のスタイリングをオンラインに掲載できるようになっています。これがお客さまからの反応がいいんです。多い時だと、スタッフのコンテンツを経由したEC購入率は40%を超えることもあります。お客さまのなかには、レーベルのファンを超えて、そこにいるスタッフのファンになっている方が一定数いるのだという確信がありました。このことも、B印MARKETの立ち上げを後押しするきっかけになりましたね。

BEAMSスタッフのフィルターを通してモノを売る

B印MARKETならではの特徴は?

− 高瀬氏コメント:「BEAMSにいる人たち」というところは他に真似できない特徴だと思っています。商品を知っていることはもちろんですが、その商品を使って、「いかに楽しく暮らすか」という点において我々はプロです。日々ライフスタイルについては考えていますからね。

−佐藤氏コメント:「B印 MARKET AWARD」では、その特徴が顕著に表れています。このコンテンツは、アウトドアやおうち時間など、さまざまなライフスタイルシーンでのおすすめのアイテムを、その分野に長けたセレクター (=スタッフ) が紹介するものです。どのセレクターもセレクトした商品をただ紹介するだけでなく、「どうしたら楽しめるか」という話題でいくつもアイデアが展開できていて、身内ながらに感心しています。

「B印 MARKET AWARD」

− 高瀬氏コメント:機能だけじゃなくて、デザインを含めたバランスを見たらこれだよねなど、詳しい人たちの個人的な会話を覗いている感じで、総合評価を知れるのもいいと思うんですよね。商品がたくさん見られるオンラインショップでモノを買う時に苦労することの一つが、「大量にある商品から良いモノを探すこと」ですが、セレクターの目線を入れることでそこが省けるうえ、モノの価値を知っている人のリコメンドを得て安心して購入できるのも、ユーザーにとってメリットではないでしょうか。

門脇氏コメント:それから「スタッフ自体が熱狂している」ということも特徴ですね。スタッフは「売れそう」というより、自分が心から良いと思ったモノを「共有したい」という一心ですし、そのために実店舗では取り扱っていないような商品まで個人で仕入れができているのは、BEAMSならではの風土と思い切りですね。

例えば、「個人商店」の店主である牧野は、某大手スポーツメーカーからランニングのアドバイザーとして招集されるほどの人材で、彼のキュレーションは、完全にランナーとしての自分が全開で出ています。アパレルを超えて、マッサージ機とか筋膜リリースまで売っているんです(笑) 既存のBEAMSでは表現できないようなパーソナルな趣味嗜好や背景があるからこそ成立するコンテンツであって、逆にそういった背景がないと売れないモノもたくさん展開しています。

「個人商店」店主 牧野英明氏のおすすめアイテム

高瀬氏コメント:牧野の例を見ても、個人のフィルターを通してモノを売ることに可能性を感じています。また、サイトは店主ごとにソートがかけられるような構造になっているので、ファンになってもらうと、店主個人のページから他にもその人がおすすめしている商品がわかる仕組みです。このように普段検索だけしていても出会わない偶然の出会いがある、“のめり込める設計”もポイントですね。

熱量を持った社員の集合体BEAMS

店主やセレクターはどのように選定を?

− 佐藤氏コメント:店主やセレクターを選出する際のレギュレーションは特に設けておらず、セレクトの視点が面白い人をリサーチして参加オファーをかけているんです。個人商店ではレギュラー店主の他にも、期間限定店主を社内外から定期的に招いています。

− 高瀬氏コメント:単純に考えるとSNSアカウントのフォロワー数に頼った人選になりそうですが、我々はそこだけでは決めていません。強いていえば、何らかのライフスタイルに造詣が深いかどうかという個性を重視した選定です。

− 門脇氏コメント:大体そういう人は社内でも認知されていて、「これといえばあの人だよね」というのがわかっちゃいますね。学校みたいですよね(笑) みんなお店での繋がりがあるので、誰かに聞けば名前が上がってくるというのがうちの会社の面白いところですね。

門脇匠太氏

みなさん、通常業務と並行されているんですか?

− 高瀬氏コメント:そうですね、所属部署にお願いして時間を割いてもらっています。業務の合間を縫って発信する必要があるので、本当に本人自身に熱量がないとできないんですよね。

門脇氏コメント:スタッフによっては、ショップスタッフではないけれどファンとの時間を作るためにお店に立ったり、また、仕入れの様子を発信したりする人もいます。商品のスペックというより自分の熱量を伝えるコンテンツなので、そういったプロセスエコノミーを積極的に行える人が向いているのかもしれません。

− 高瀬氏コメント:そういった発信力も功を成して、販売後すぐ商品が完売することもあります。お客さまはスタッフがその商品を仕入れる段階から順を追って見ているわけですから、告知効果も大きいんです。

現状選出しているスタッフたちは、そういった発信力やクリエイティブの能力にも長けているので、今のところ運営サイドから指摘することはほとんど何もないですね。切り口は人ごとに違っていて、紹介した人が紹介したいように紹介しているところに説得力があるので、そこを優先して各個人でトンマナが変わることはご愛嬌としています。

太鼓判”B印”が価値創造に

消費者に期待することは?

− 高瀬氏コメント:やはりスタッフに注目してもらってファンになってもらいたいです。そのためにも、個性が強くて専門性の高いBEAMSのヒトにもっと注目してもらえるようなメディアにしていきたいですね。

高瀬弘将氏

最後に、今後の展望を教えてください

− 門脇氏コメント:まだまだ始まったばかりのプロジェクトですが、「誰かの太鼓判がほしい」という消費者の気持ちに、B印MARKETは”ビームスの太鼓判=B印”という形で信用を示していきたいです。

例えば、本を読みたいと思った時、意思決定の手前には必ずエピソードがありますよね? 先輩が読んでいたとか、SNSで紹介されていたとか、これって本に限らず、レストランでも日用雑貨でも、消費には付きものです。情報過多で時間が限られるなか、信用をもとに消費をしたいと思う、その気持ちに寄り添うショップでありたいです。

− 佐藤氏コメント:ゆくゆくはメディアコマースの枠を超えて、BtoBや「ふるさと納税」などの行政のプロジェクトである、BtoG (ビジネス to ガバメント) にも積極的に関わっていきたいです。BEAMSスタッフが世の中にあるものに太鼓判である”B印”を付けることで、それがまたモノの価値を上げることになる、これってセレクトショップがやってきた原点でもありますよね。

− 高瀬氏コメント:
そういうセレクトショップの原点を、これからはヒトを通してやっていきたいですね。今、セレクトショップってすごく多くて、取り扱っている商品も似てきてしまっている、消費者目線に立つとショップごとの特徴がわかりづらくなってきています。

そんななか、BEAMSの特徴はやっぱりヒトです。BEAMSの語源である「光」を、スタッフ個人という新たな角度から当てることによって、世の中にあるモノやサービスに対して、新しい価値を創造していきたいと思っています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

個人が活躍する時流を汲んだプロジェクト

同社を取材するのは、「bPr BEAMSがバイイングに掛ける想い」、「BEAMS JAPANが照らす日本の未来」に続き3度目となる。共通するのは、誰しもが会社を愛し、仕事を楽しんでいるところだ。どのプロジェクトに於いても、良いと思ったことを推進していく社員一人ひとりの力の大きさを感じる。その推進力は、良いモノを見極めて販売するというセレクトショップの原点から生まれ、磨かれてきたスキルなのだろう。

また、今回の「B印MARKET」への期待もますます高まる。先が読めない時代だからこそ、SNSだけに頼らないオウンドメディアの基盤を整えることは重要で、メディアコマースの形を模索することは必要不可欠だと感じる。そのなかで同社の “個”をフィーチャーする構造は、個人が活躍する時流を取り入れており、かつ個性豊かな会社の強みを活かしきった親和性の高い造りといえる。

ローンチから間もない本プロジェクト。時代とBEAMSと消費者との化学反応が今後のライフスタイル業界にどのような結果を与えてくれるのか、今から楽しみだ。

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