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セレクトショップの醍醐味

セレクトショップを営業する醍醐味とは何だろう。アイテムをセレクトすることの楽しさ、まだ誰も触れたことのない良いモノとの出会い、それを手に取るエンドユーザーの反応。ディレクター、バイヤー、ショップスタッフなど、立場が違えば、その醍醐味も変わってくるのではないか。

今回、セレクトショップ大手「BEAMS (ビームス) 」が展開する「bPr BEAMS (bPrビームス) 」に取材を行った。bPr BEAMSは、多くのBEAMSショップ内のメンズとウイメンズの中間域に展開されており、「洋服以外のライフスタイルグッズであれば何でも扱う」といった同社の数あるレーベルの中でも、比較的セレクトの自由度が高いレーベルだ。

話を伺ったのは、bPr BEAMSでディレクターを務める山口 真吾 (ヤマグチ シンゴ) 氏。管理職である彼の仕事は、マネジメントやディレクションにとどまらず、バイイングや発注、予算コントロールまで、全ての業務に携わっている。

そんな山口氏が「バイヤー冥利に尽きる」と口にした、セレクトショップで働くことの醍醐味とは何だろうか。bPr BEAMSの描く理想のセレクトショップ像と山口氏の想いを伺った。

bPr BEAMS (bPrビームス)
https://www.beams.co.jp/bprbeams/
1992年、「Elements of Life」をコンセプトに生活雑貨、ステーショナリー、アクセサリーなどのセレクトやプロダクト企画を行うレーベルとしてスタート。BEAMSの原点となる“BASIC & EXCITING”をプロダクトの視点で提案し、「ジャンクからハイエンドまで」世界中から集めた多種多彩なアイテムを紹介している。

洋服以外を企画するbPr BEAMS

bPr BEAMSについて教えてください

− 山口氏コメント:bPrというのはBEAMS PLANNING ROOM (ビームス企画室) の略なんです。BEAMSという枠を越えて、時代やマーケットに合わせたプロダクトを提案する企画室をイメージして誕生したのが始まりです。BEAMSといえばアパレルですが、メンズカジュアルレーベルのテーマでもある「BASIC& EXCITING」を、“洋服以外のプロダクト”でも提案していこうという趣旨で立ち上がりました。

同レーベルで扱っているモノは、メンズとウイメンズのショップそれぞれで展開していないアイテムです。具体的には、服飾小物を除いた生活雑貨やステーショナリー、インテリアなどですね。一般に、ライフスタイルグッズやギフトグッズとしてカテゴライズされるアイテムです。

ターゲット層に設定はありますか?

− 山口氏コメント:bPr BEAMSとして、新たにお客さまについてターゲットやペルソナを設定することはしていません。我々はBEAMSが展開する「各レーベルのお客さま」をターゲットにしています。

当社には30以上のレーベルがあり、例えば、BEAMSが好きな人、Ray BEAMSが好きな人、BEAMS BOYが好きな人と、お客さまの好みも多様です。bPr BEAMSとしての世界観を作ったり、一つのカラーに統一して顧客を獲得したりすることは敢えて行わず、それぞれのレーベルのお客さまが各ショップに立ち寄ってお気に入りのアイテムを見つけて購入いただけるような流れを目指しています。

共通するセレクトの基準はありますか?

− 山口氏コメント:「キャッチーでポップ、目立つモノであること」です。売場がコンパクトなので、一つひとつのモノのインパクトを重視しています。お客さまには宝探しのような感覚で、暮らしの中のアクセントになるモノを探してほしいですね。

ベーシック&エキサイティングな提案

おすすめ商品を教えてください

− 山口氏コメント:ベーシック=定番商品としては、CHEMEX (ケメックス) の「コーヒーメーカー」やFire-King (ファイヤーキング) の「スタッキング マグカップ」、LAMY (ラミー) の「ボールペン」などですね。

これら名品と呼ばれる商品は、セレクトショップを名乗る以上、売場の箔をつけるためにもなくてはならないアイテムです。同じく定番の品であるCalifornia Clock (カリフォルニア クロック) の「Kit-Cat Klock (キットキャットクロック) 」は、ハリウッド映画やアニメにも登場したことのある掛け時計で、このようにモノ自体にしっかりストーリーがあって、知る人ぞ知る商品を置いていることも、売場を構成する上での大切な要素ですね。

写真左:スタッキング マグカップ / 写真中央:コーヒーメーカー / 写真右:Kit-Cat Klock

ではエキサイティングな商品とは?

− 山口氏コメント:エキサイティングな商品とは、新しい価値を提案できるモノだと考えています。例えば、今だとアウトドアアイテムの需要が高まっていて、供給が追いつかないブランドや商品もありますよね。我々としても、バイクパッキングやソロキャンプなど、現在のアウトドアブームを受けて何かしらのアウトプットが必要です。

そこで、我々が今回目を付けたのが「ウォークスツール」です。このプロダクトは、ブーム以前からバードウォッチングやフィッシングなどプロユースの商品として、長きにわたり使用されてきました。そんなストーリーのある名品を、今のトレンドと掛け合わせて提案してみることにしたんです。

スウェーデン生まれの携帯用スツール

− 山口氏コメント:ブランドも意図していないような使用方法やシーンの提案をすることで、新たな価値創造ができると考えています。この商品に限らず、旅行ブランドのアイテムをアウトドアに持ってきて、ジャンルの垣根を取り払ったエキサイティングな提案をしていきたいです。

アウトドアブームのなかで既に流行っているアイテムを単純にセレクトすることもできますが、bPr BEAMSとしては、これまでにない提案をして、新たなトレンドを発信していきたいと考えています。

コロナ禍で旅行がしづらくなったこともあり、アウトドアブームはさらに加速しました。抑えられていた旅行需要は、今後の新たな施策などを機に回復・活況になるはずです。そのタイミングを逃さず、旅行アイテム・アウトドアアイテムをクロスオーバーして提案できれば、良い化学反応が起きるのではないかと思っているんですよ。

− 山口氏コメント:ベーシックなモノにしても、エキサイティングなモノにしても、それぞれに込めた売り手の遊び心やセレクトの意図がお客さまに伝わることで、買い物の本質的な楽しさを共有できます。

最近は、WEBやSNSで事前に調べてから買い物に来る目的買いが主流となっていて、とても便利な世の中です。でも、時には誰かのオススメではなく、自分が一目惚れしたモノや直感で「欲しい!」と思ったモノを購入してほしいなと思います。バイヤーがバイイングしてきたモノを、お客さま自身の目利きでバイイングしてほしいですね。

四方良しの精神

大切にしていることはありますか?

− 山口氏コメント:社長がよく言っている言葉なのですが、「四つの良し」というのを常に意識しています。会社にとって、取引先にとって、お客さまにとって、そして未来にとって、良い判断を心がけるようにしているんです。

三方良しはよく耳にされるかと思いますが、4つ目の未来というのは、今だとSDGsをはじめ、未来の地球にとっての課題が多くを占めますね。パッケージや簡易ラッピングなど、できることを常に気にかけています。

僕が特に意識しているのは、「取引先であるブランドさんとの未来」です。お客さまだけに喜んでもらう一方通行なバイイングは簡単ですが、「ブランドにも喜んでもらえるように」というのは、意識していないと難しいのではないでしょうか。仕入れるだけでなく、ブランドとの良い未来のために、一緒に成長できる形で共に仕事をしていきたいです。

まだ世に知られていないブランドと一緒に仕事をして、ブランドが大きく成長するのを実感すると、これこそバイヤー冥利に尽きるなと感じます。本当に嬉しいです。

ブランドと一緒に成長する未来

具体的に、このブランドと成長した! という事例はありますか?

− 山口氏コメント:SALLIES (サリーズ) ですね。SALLIESの「Pocket Pal (ポケットパル) ミニマルウォレット」は、販売当時、PVC素材の透ける財布で、セルフ陳列できる財布は市場には珍しく、僕が興味を持ったことをきっかけに広まっていった商品です。

それまで、ミニ財布といえばショーケースに入っている革小物で、ギフトの王道というイメージでしたが、この財布を目にした時、ベーシック&エキサイティングでいうところの「エキサイティング」にあたる、新しい雑貨だなと感じ、興味を持ちました。

塩ビの素材感と90年代の電化製品を思わせるような配色が印象的

− 山口氏コメント:販売当初は10個、20個と本当に僅かな数からスタートしました。今ではbPr BEAMSに欠かせない人気商品になっています。日常使いでは味の出る革製品を、ちょっとした散歩やフェス、旅行の時はミニマルウォレットを、と使い分けの提案ができたことが受け入れられたようですね。

機能としてわかりやすく使い勝手がいいことに加えて、「透けているデザインが可愛い」とInstagramで拡散されたことも大きく影響しました。SNSでの拡散は予想外の反響でしたが、これを機に10代20代の間で瞬く間に火が付いて、若い世代を中心に幅広い層に手に取ってもらえる商品になりました。

− 山口氏コメント:こうしてセレクトしたブランドの商品に人気が出ると、毎回別注で商品を開発し、囲い込みをして他社へ広がらないように独占するという方針も出てくるかもしれません。このミニマルウォレットでいえば、毎シーズンカラーやデザインを変えて展開しているので、それをBEAMS限定にしてしまえば、当社にとっては有利に働く可能性があります。

しかし我々は、そのブランドの未来のために「BEAMSでやっているブランド」ではなく、「BEAMSと育ったブランド」として認知されるよう、独占するようなことは行いません。良いブランドの良いアイテムが、他の会社にも広がるように、さらには海外にまで広がるようにと願っています。「誰もが知るブランドを一番初めに見つけて、一緒に大きくしたのはBEAMS」ってカッコよくないですか? どんな時もブランドにとって良い未来を考えられるセレクトショップでありたいですね。

bPr BEAMSの未来

これから挑戦したいことはありますか?

− 山口氏コメント:具体的なアイテムでいうと、将来的には寝具に挑戦してみたいです。リネンなどのベッド周りのアイテムは、低価格帯か高額かの両極端で、中間ゾーンで本格的に寝具を扱っているセレクトショップがなかなか見つかりません。海外では力が入れられている領域にもかかわらず、日本のセレクトショップは寝具についてまだまだ未開拓な印象です。そういう誰かがやっていそうで、まだ誰も手を付けていないジャンルのプロダクトに挑戦していくことにこそ、BEAMSブランドを背負うことの使命を感じます。

意外と「洋服以外」のアイテムはたくさんあって、僕らもやっていない商品群はいっぱいあります。現状、洋服の比重が圧倒的に多い当社ですが、bPr BEAMSを筆頭に洋服以外のウエイトも上げていきたいです。

レーベルとしての理想像を教えてください

− 山口氏コメント:レーベルの立ち位置としては、生活必需品としてのライフスタイルグッズを扱うのではなく、嗜好品としてのアイテムを扱っているという概念を大切にしていきたいです。

昨今のコロナ禍で、実店舗での販売は本当に落ち込みが激しくなりました。そうはいっても、我々セレクトショップは他の業界と比較してみると大きな打撃を免れた方ではないでしょうか。それはやはり、生活必需の衣食住ではなく、趣味性の高い“ファッション”を売っているショップだからだと考えます。

水が飲みたいからコップを買うのではなく、家に帰った時に気分が良くなるからそのコップを買う。そういった、「なくても困らないけど、あるとハッピーになるモノ」を売るレーベルでありたいです。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

ゼロから見つけイチを広げる喜び

山口氏の考えるセレクトショップで働くことの醍醐味は、未来を創造することにあった。その未来には、自社の発展のみならず、レーベルを構成する取引先ブランドの発展までもが含まれており、セレクトショップの意義について改めて考えさせられた。

また、「これは良い」と思う直感を大切に買い物してほしいという願いは、エンドユーザーだけでなく、ディレクターやバイヤーなど、業界関係者にも同様に言えることではないだろうか。トレンドをキャッチすることはもちろん大切なことだが、そのアンテナとは別に、良いモノを感知する感性を磨いておきたい。

ゼロから自分の力で見つけてきたモノがじわじわと世の中に広がっていく、その景色を誰よりも間近で見ること――山口氏が「バイヤー冥利に尽きる」と口にするその感動を体験することで、セレクトショップの在り方や自身の業務への向き合い方が変わるかもしれない。

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