2022.01.25.tue

体験型ラボラトリーで魅せる地場産業

Contents

ファッションの多様化に対する靴下産業の取組み

SNSの普及で個人の発信力が強くなり、それに伴って個性が重視されるようになってきた。アパレル業界では豊富な種類のデザインやジャンルが生まれ、ユーザーの選択肢が今もなお広がり続けている。

街のショップを見渡せば多種多様な素材や柄の商品が並び、そして季節が変わればそれらはあっという間に入れ替わる。

個人の選択肢が広がり表現の多様化が進むなか、こういった店舗の種類豊富な品揃えを実現できている背景には、懸念される廃棄衣料問題の解決に向けて、各ブランドの小ロット発注に切り替えるといったオーダースタイルの変化が見られる。

そして、それに伴ってブランドから小ロットオーダーを受注するメーカーの取り組みにも、少しずつ変化が起こっているようだ。

今回MMD TIMESは、靴下メーカーから自社ブランドを立ち上げ、地場産業を盛り上げるべく斬新なアイデアで多品種小ロットの時代に適応できる取り組みを行っている、株式会社創喜 (ソウキ) の代表取締役社長 出張 耕平 (デバリ コウヘイ) 氏に話を伺った。

株式会社 創喜 (ソウキ)
https://www.souki-knit.jp/
https://slabo.souki-knit.jp/
日本一の靴下産地である奈良県広陵町で1927年に創業し、OEMを中心に多くのブランドの靴下を手掛けてきたメーカー。主に厚みがあり、ざっくりとした編み目が特徴のローゲージソックスやアームカバーを得意とし、現在は「Re Loop (リループ) 」、「SOUKI SOCKS (ソウキソックス) 」、「ai amu (アイアム) 」の3つの自社ブランドを展開している。2021年12月17日にはS.Labo (エスラボ) という体験型のファクトリーショップをオープンした。 

多品種小ロット発注に適応させる一歩

会社について教えてください

− 出張氏コメント:当社は曾祖父の代に創業して100年近くになりますが、元々はOEMを中心に請け負っていた靴下メーカーです。

7~8年くらい前からファッションの多様化による多品種小ロットオーダーへの変化に対して危機感を覚え始め、6年前に新規事業を立ち上げることにしました。

アパレル業界ではどのブランドも在庫を抱えたくないですし、世の中の流行に合わせてファッションの入れ替わりは早いですからね。多品種小ロットのオーダーは仕方のない傾向だと思います。

− 出張氏コメント:しかし、この受注スタイルではメーカーにとっては生産効率が悪く、売上の右肩下がりは進行し、この先回復する目途は立ちそうもない。靴下産業の将来に不安を覚えるようになっていたんです。

そこで、これからは我々メーカーも前面へ出て行かなくてはいけないと感じ、当社をもっとPRし取引先を広げるため、新規事業として自社のブランドを立ち上げようと思い立ちました。

また、この広陵町において靴下産業は地場産業なのですが、今はどんどん衰退していますので、この町の靴下産業を将来残していくためにも、我々が盛り上げていくべきだと考え、まずは前進することにしたんです。

靴下製造の知識と”作れる”強み

どのようなブランド展開をされていますか?

− 出張氏コメント:大きく分けると「Re Loop (リループ) 」、「SOUKI SOCKS (ソウキソックス) 」、「ai amu (アイアム) 」の3つのブランドがあります。

「Re Loop」は地場産業を残して持続可能にしていこうという想いで、私自らが最初に立ち上げたブランドです。

環境に配慮したリサイクル素材を使用し、それに加え通常はお金を払って処分していた製造時に出る残糸を組み合わせて編んでいます。

だから、同じ柄の商品は一つもありません。そういった唯一無二の商品を展開しているブランドです。

リサイクル素材と残糸を編んだブランド「Re Loop」

− 出張氏コメント:次に「SOUKI SOCKS」は、長年靴下業界に携わってきたデザイナーの森田 仁美 (モリタ ヒトミ) 氏を迎えて立ち上げました。

このシリーズはファクトリーブランドとしての当社のイメージを確立するために、得意技術とする太い糸を使った、肉厚で丈夫に仕上げたローゲージソックスを展開しています。

肉厚で丈夫なローゲージソックス「SOUKI SOCKS」

−出張氏コメント:そして、3つ目のブランドは「ai amu」です。こちらは「藍を編む」という意味で、先代でもある藍染めが好きな私の母が立ち上げました。代表的なアイテムとしては藍染めのローゲージソックスやアームカバーがありまして、他にはない工夫をしています。

天然藍染めのアームカバー「ai amu」

−出張氏コメント:それは地元の奈良県産の素材である、吉野葛の食品製造時に産業廃棄物として出る絞りかすを和紙に再資源化し、細く切って編み込んでいるんです。

更にその編み込んだものに天然藍を使って手染めするため、色合いや柄の出方がそれぞれ異なる一点モノになります。製品というよりはもはや工芸品に近い商品とも言えるでしょう。

Re Loop (リループ)
OEM 製造で出た残糸やリサイクル紙など環境に配慮した素材を使用して、おしゃれに編み込まれた唯一無二の靴下を展開している。持続可能な地場産業を目指して作られたブランド。

SOUKI SOCKS (ソウキソックス)
職人の技術と経験値がつまっているローゲージソックスのブランド。シンプルなデザインで毎日使え、上質な素材とはき心地にこだわっている。

ai amu (アイアム)
奈良県吉野葛の絞りかすを再資源化した糸で編みこみ、本藍で藍染したラインナップ。工芸品に近いブランドとして展開している。虫よけや日よけとなるアームカバーがロングセラー。

https://www.souki-knit.jp/brand/

創喜ブランドの強みはなんでしょうか?

− 出張氏コメント:自社ブランドを持つということは、当然既存の取引先様ともバッティングしてしまう可能性があります。同じ市場で共存していくためには、やはりブランドの差別化を図ることが重要ですよね。

当社のブランドの強みは、ファクトリーであるが故に“作れる”ことにあります。我々は自分達で企画したモノを自らの手で一編み一編み丁寧に編み上げてお客さまにお届けするという、靴下を熟知したプロ集団だからこそできる靴下ブランドとして自信を持っています。

そして、この靴下の町である奈良県・広陵町に工場があるということも当社の強みの一つですね。奈良県特有の素材である地元名産の吉野葛を使い、日本一の靴下産地と呼ばれる広陵町で「靴下工場の靴下」として展開できるのは当社にしかない魅力と言えるでしょう。

SDGsに関する取り組みもされていらっしゃいますね?

− 出張氏コメント:ブランド立ち上げ時から、SDGsを考慮したサステナブルなモノづくりに取り組んできました。

例えば、SDGsの目標12にあたる「つくる責任つかう責任」の達成を目指し、靴下の材料として環境に配慮したリサイクル紙の使用や、吉野葛の絞りかすをはじめとした産業廃棄物を再資源化した糸を使用するなどの心がけをしています。

また当社が得意とするローゲージの靴下はとても丈夫なので、ユーザーに長く使って頂ける商品です。このようにブランドごとにSDGsを意識した展開をしているんです。

今後は、その他商品における取り組みだけでなく、地元雇用を生み地産地消を実現できるような施設の充実にも力を入れていきたいですね。

体験型で印象付けるファクトリーブランド

先日オープンされた施設について教えてください

− 出張氏コメント:2021年12月17日にS.Labo (エスラボ) という施設をオープンしました。この施設は広陵町にある当社の工場に併設しており、子どもから大人まで体験しながら靴下の知識を楽しく身につけられるソックスラボラトリ-です。

ここでは当社ブランドの全商品を見て触れて購入することができるので、我々が自信を持って展開している商品の色や素材の良さをぜひ手に取って実感していただきたいですね。

それから物販以外にも靴下を修理したり、端材でぬいぐるみを作ったりするワークショップや、オリジナルソックス作りの体験プランなども用意しています。2022年中には工場見学もスタートする予定なので、ぜひ楽しみにしていてください。

靴下の端材で作るぬいぐるみのワークショップ

− 出張氏コメント:S.Laboは商品としての靴下に出会うだけではなく、靴下の歴史や職人の技術など、モノづくりの裏側にあるストーリーに触れていただく場所でもあるんです。

ソックスラボラトリーで体験できる3つのテーマ

S.Laboにはどういったテーマがあるのでしょうか?

− 出張氏コメント:日本一ワクワクするソックスファクトリーとして、3つのテーマを掲げています。

1つ目は“であう”。実際に我々の商品を手に取っていただき、靴下を製造する職人に出会うことができます。

2つ目は“まなぶ”。商品ができるまでのストーリーを学んだり、「ダーニング」という修繕の仕方を体験することで、穴の開いた靴下を補正してモノを長く大切に使う昔からの文化を学んだりすることができます。また、今後も靴下にまつわるワークショップを随時行っていく予定です。

そして3つ目は“あそぶ”。当社が開発した「チャリックス」というマシンで遊びながらオリジナルソックスを編み上げ、自分だけの手作り (足作り) ソックスを持ち帰ることができるんです。

漕いでオリジナルソックスが作れるチャリックス

− 出張氏コメント:このチャリックスというマシンは、昔工場で使用していた編み機に、動力源として自転車を取り付け、足で漕いで遊びながら靴下を作れるようにしたオリジナルの靴下編み機です。子どもから大人まで楽しんでいただけますよ。

靴下の昔と今、未来が見えそうな楽しいラボラトリーですね

− 出張氏コメント:広陵町は今やベッドタウンとして人口が増え続けている利便性の高い町です。こういった工場での実演を通して、たくさんの人に楽しく歴史的背景や当社の技術的価値を実感していただき、この町の未来をより多くの人と一緒に盛り上げていけたらいいなと思っています。

「体験」の先に見える継承

なぜ広陵町にS.Laboを設立したのでしょうか?

− 出張氏コメント:広陵町は以前200~300軒もの靴下工場があったのですが、今では靴下工場はたったの40軒となってしまいました。その工場跡地は住宅地化され住民が増加しています。

しかし、このように工場が減ってしまい町はベッドタウン化しているのにも関わらず、広陵町は“日本一の靴下の生産地”と未だに言われているんです。

私はそこに違和感を覚えまして、これからは我々の力でもっと靴下産業を広陵町の地場産業としてしっかり盛り上げていかなきゃいけないと感じました。

− 出張氏コメント:そのためには、まず人口が増加している広陵町の地元の住民に知ってもらいたいと思い、ここにS.Laboを設立したんです。

このS.Laboでの体験が楽しい記憶となって、次世代を担う若い人が興味を持ってくれることを期待しています。将来的に「靴下の業界に関わってみたい」とこの産業を継承してくれると嬉しいですね。

我々の最終ゴールは「衣・食・遊」を取り入れた「靴下のテーマパーク」を実現することです。地元雇用を生みながら、地元の特産物を使った地産地消のカフェを併設することをはじめとして、叶えたい夢はたくさんあります。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

「強み」を活かした自社ブランドの確立

逆らうことができない時代の流れに直面したとき、そこで立ち止まって守りに入るのか、革新して進むのか、経営者の立場としては判断に苦しむことがあるだろう。

出張氏は、広陵町での靴下産業の衰退やアパレル業界での多品種小ロットという変化に対し、同社の作れる強みを主軸にブランドを立ち上げるという一歩前進する選択をした。

そして、エンドユーザーに「体験」でファクトリーブランドの価値を実感してもらう戦略によって、他のブランドとの差別化を図り、従来の取引先との住み分けを実現している。

また、この「体験」を通して次世代に産業を継承する地域貢献も同時に進めており、社会全体のSDGsの観点からしても、とても重要な動きと言えるであろう。

エンドユーザーに体験を通じて自社の強みを共有し、更に産業全体に関心をもってもらうことで次世代継承に繋げる。

このような発想の転換と新たな取り組みに挑戦する同社のような企業が、将来どのような変化に対してもしなやかに邁進して行くに違いない。

MMD TIMESは、今後も時代の流れにしなやかに対応すべく果敢に挑戦していく素晴らしい企業を紹介していきたい。

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