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持続的な顧客獲得の戦略

多くの業界で異業種参入のニュースをよく耳にする。大手ファッションブランドが農業を始めたり、車の製造メーカーが医療品のマスクを生産したり、暮らしの変化に伴い多様化するニーズに応えるために、異なる業界との繋がりを生み出す企業がいくつも現れた。

ライフスタイル業界においても、以前紹介した「FREDDY LECKが仕掛ける地域コミュニティ」では異なる業種を組み合わせ、お互いの良さを活かした施策を行ったり、「&MEDICALのウェルネスライフとおうち時間」のように他業界から参入している企業がある。

これらは従来とは違う客層の認知度を上げることができたり、他業種とのコラボレーションによる話題性が得られたり、期待できる効果は大きい。

しかし、持続的な顧客獲得のためには目新しさからの一時的な話題性だけではなく、自社の顧客にしっかりと目を向け、そのニーズに応えていくことが大切なのではないだろうか。

今回、MMD TIMESが取材を行った、株式会社マイナビが運営するEC形態のセレクトショップ「kurasso (クラッソ) 」は、元々メディアとして事業展開していたが、2年前にセレクトショップとして小売事業を開始した。

ショップの公式Instagramアカウントには約70万人ものフォロワーがおり、現在も着実に顧客を獲得し続けている。その背景にはどのような施策があるのだろうか。kurassoの戦略に迫るため、運営責任者である橋元 理恵 (ハシモト リエ) 氏に話を伺った。

kurasso (クラッソ) 
https://kurasso.woman.mynavi.jp/
https://www.instagram.com/kurasso/
「家事を楽ちんに。家族に笑顔を。」をコンセプトにした、家事時短・効率化・手軽に素敵な暮らしを実現するためのノウハウやアイテムを提供する、雑貨・インテリアのECセレクトショップ。公式Instagramアカウントではフォロワー約70万人を獲得している (2021年12月時点) 。

集客に効果的なInstagram

kurassoについて教えてください

− 橋元氏コメント:kurassoはおうち時間をより豊かにするために、手軽に実現出来る収納方法のノウハウや、家事の時短になるような機能面に特化したアイテムを提供する雑貨・インテリアのECセレクトショップです。実店舗は構えておらず、集客は主に公式Instagramで行っています。

元々はメディアサイトとして育児をしながら働く女性に対して、実践的で役立つ情報を提供していました。そのサイトが顧客に広く周知されるようになったきっかけが、公式Instagramの立ち上げです。ユーザーの日常的な悩みに寄り添うメディアとしてInstagramを利用し、日々の暮らしに役立つノウハウや便利アイテムなどの紹介を始めました。

ペルソナはおしゃれにゆったり暮らしたい働く30代主婦

Instagramで集客するポイントは?

− 橋元氏コメント:投稿を行う上で、その商品の使用シーンや、それによって暮らしがどう便利になるのか、いかに価値のあるモノなのかが想像しやすいように、伝える事を意識していました。

そのために効果的だったのが「文字入れ投稿」です。アカウントを立ち上げた当時は、まだ今ほど目にする機会がありませんでしたが、写真に文字を載せて投稿することで、写真だけでは伝えられない細かな情報を伝えることができるんです。

エンドユーザーに伝えたい情報を届けることができる文字入れ投稿

− 橋元氏コメント:例えば、tak. (タック) の「モーニングプレート」は、仕切りがついているので盛り付けがしやすく、ワンプレートで使えるおしゃれなお皿として人気ですが、kurassoのユーザーには洗い物を減らせたり、食洗機で洗えたり、スタッキング収納ができたりするというようなポイントが刺さります。文字入れ投稿では、そういった内容も商品の魅力として、より詳しくユーザーに届けられるようになりました。

また、kurassoでは“マルチに使用できる商品”がフォロワーの共感を得やすいので、実用的なモノの魅力を伝えるには、文字入れ投稿はピッタリでした。それに文字入れ投稿ならメディアサイトと同じような感覚で暮らしの紹介ができると気付いたんです。

お役立ち情報などを読み物として投稿することで、継続的に投稿を見てくれるユーザーが増え、次第にInstagramの運用がkurassoの要となりました。

ユーザーの需要を汲み取る力

新規顧客を獲得する施策はありますか

− 橋元氏コメント:「kurassoファミリー」と呼ばれるアンバサダー施策に力を入れていますね。

アンバサダーにはkurassoで展開している商品を実際に使用してもらい、レビューを投稿してもらっています。そのおかげでアンバサダーのフォロワーなど、kurassoを知らない新規ユーザーにも伝えたいことを届けられるようになりました。

kurassoファミリーはこちらからお声掛けをしていて、現時点で200~300人程います。人選する際には「暮らしを便利に、快適にしたいと思っている方」ということを重視しつつ、影響力の高さなどを加味して見ています。

kurassoファミリーの投稿を用いた公式Instagramの投稿

ユーザーの購買意欲を高めるには?

− 橋元氏コメント:顧客の需要や意見を大切にした取り組みを心掛けていますね。その一つとして、Instagram上で季節毎に開催しているイベントやキャンペーンがあります。最近では2周年を記念して「kurassoアワード2021」というイベントを開催しました。

kurassoアワード2021では、こちらがカテゴリー毎にノミネートした商品をInstagram内の投稿で紹介し、各投稿への「いいね」で投票を募り、今年最も話題を集めた受賞商品を決めました。

− 橋元氏コメント:イベント中はストーリー機能で呼び掛けを行ったり、投稿に枠を付けて目立たせたりするので、商品が目に留まりやすくなって、今まで紹介した商品を顧客へ再アプローチすることが出来ます。

このようなユーザー巻き込み型のイベントを今後も行っていけば、持続的なCXに繋がると信じています。より良いCXを実現させていくことでユーザーのショップに対する信頼度が上がり、結果的に購買意欲も高めていくことができるのではないでしょうか。

ヒントはいつもユーザーの声から

Instagramの運営で大切にしていることは?

− 橋元氏コメント:様々な生活の悩みに対して具体的な解決策がまだ見えていない方に、課題解決が出来る商品の情報をお届けすることを大切にしています。

フォロワーは最初から購入目的で見に来る方だけではなく、家事楽の情報に興味を持っている方や、暮らしに役立つノウハウを知りたい方もいるんです。その現状を踏まえて、商品への要望を持っている方のコメントを拾うことに日々注力しています。

例えば、「洗濯機横のデッドスペースをどうにか活用したい」というような、暮らしに対する意見って結構多いんですよ。kurassoではそんな悩みを抱えているユーザーへ、相性が良く、そのなかでもさらに売れ筋が良い商品を紹介しています。

ユーザーから日々の生活の悩みをkurassoの投稿にコメントしていただけているのも、kurassoならこの悩みを解決できるのではないかと期待されているからこそだと思っています。今まで要望一つひとつに対して適切な商品をわかりやすくお届けしてきた結果だと思うので、これからもその期待に応えていきたいですね。

こだわりの商品選定

オススメ商品はありますか

− 橋元氏コメント:おうち時間の需要が高まっていることもあり、キッチンアイテムやランドリーグッズには特に力を入れてセレクトしています。そのなかでも売れ行きがいいのはマルチに使える商品ですね。

キッチンアイテムですと、recolte (レコルト) のプロセッサー「カプセルカッターボンヌ」です。これは一台で7通りの使い道があり、この1年でとても売上が伸びています。kurassoファミリーからも様々な使い方の投稿が上げられているので、ユーザーに使用方法をわかりやすく伝えることができているんですよ。

recolteのプロセッサー「カプセルカッターボンヌ」

− 橋元氏コメント:ランドリーグッズでは、“空中収納”と呼ばれるわずかなデッドスペースでも活用できる収納アイテムもオススメです。日本ではコンパクトな家の設計によって、浴室の横に洗濯機置き場がある家庭が多く、お風呂から上がった際の洋服やタオルを置くところがないという悩みを持つ方が多いんですよね。

そうした悩みを解決できて、且つ洗濯機横のデッドスペースを収納として活かせるのが、tower (タワー) の「マグネット折り畳み棚」です。

tower の「マグネット折り畳み棚」

− 橋元氏コメント:使わない時は折り畳めるのでかさばらないですし、ユーザーからも「かゆいところに手が届くから買ってよかった」と喜んでいただけました。

このように、Instagramから生活の悩みなどの口コミを得て、暮らしや生活環境の特徴を汲み取ることで、人々のライフスタイルに合わせた人気商品を発信することが出来ているのだと思います。

kurassoのオリジナリティ

アイテムはどのように選定しているのでしょうか?

− 橋元氏コメント:kurassoの商品選定には独自のこだわりが二つあります。

一つ目は、「マルチに使える機能的な商品」です。例えば、一台でさまざまな調理ができる便利家電を取り入れることによって、「洗い物を少なくしたい」、「片付けを楽にしたい」などというニーズに応えられるからです。

これらの選定基準は、支持してくれるユーザーの声を大切にしているからこそのこだわりで、それこそがkurassoのオリジナリティです。ECサイトは商品を陳列するスペースに限りがないため、いくらでも商品を取り扱うことができますよね。でも、沢山の商品を出品することよりも、あくまでも「暮らしに役立つモノ」に厳選して掲載することを重視したいと思っています。

− 橋元氏コメント:二つ目は「カラーの選定」です。取り扱いメーカーの商品全てを扱うということはしておらず、複数色展開している商品はブランドの世界観に合うようにカラーを絞って選定しています。これはユーザーのニーズをより反映したショップでありたいと考えているからなんです。

kurasso のユーザーは、機能性を持ちつつもすっきりした見た目のモノを好む傾向にあります。それはインテリアのカラーやデザインについても、奇抜で個性的なモノよりシンプルでオーソドックスなモノを選ぶユーザーが多いからです。その為、取り扱いカラーは白やベージュのような清潔感がある明るめのトーンをセレクトすることが多いですね。

あらかじめカラーを厳選しておけば、ユーザーから見ると部屋のインテリアと馴染む商品を選びやすく、“惹かれるモノしかない”状態を作れるので、ショップの価値を高めることにもなります。労力を掛けてでもここはこだわりたいポイントです。

kurassoが見つめる未来

今後の展望を教えてください

− 橋元氏コメント:Instagramのトレンドは変遷が早いので、きっちりと追っていきたいです。黎明期からの継続的な文字入れ投稿が今の成果に繋がっていますが、そこに拘らずトレンドに沿って柔軟に変化していけるようにしたいですね。

また、これからは動画投稿にも力を入れていこうと思っています。動画を載せると1投稿あたりの滞在時間が増えて、エンゲージメントが上がりやすいという傾向が見られるため、トレンドを取り入れた動画の投稿も強化していきたいです。

− 橋元氏コメント:それと同時にECサイトの作り込みも行っていく予定です。おうち時間の重要性が再認識され、今後もライフスタイル業界のEC化率は上がっていくことが予想されていますが、kurassoではECサイトの作り込みが十分でないという課題があります。

今後は自社スタジオでの撮影を積極的に行い、写真に統一感を持たせたり、商品の機能面を必ず記載するなど、掲載情報の統一を図ってECサイトの商品ページをより一層充実させていこうと思っています。

kurassoのサイトで紹介することによって、まだ世の中で取り上げられていない商品の機能や魅力を、それを求めている人に届けられるようになれたら嬉しいですね。その発信方法も今ある形だけに囚われず、より良い方向へと進化していきたいです。

元々、ユーザーの要望に応えるべく生まれたセレクトショップなので、ECサイトが終着点とも考えていないんですよ。より多くの暮らしに役立つ情報を伝えられるのであれば、メディアに留まらず、ショップに形を変えますし、ユーザーの声に耳を傾け、世の中の役に立つ企業としてやれることはやる、そんな柔軟性を持ち続けたいですね。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

時代とニーズに寄り添う柔軟性

「どんなにデータマイニングやデータ活用が優れていても、顧客にとってそれが快適なことであり信頼を得られなければ何の意味もない」というウォルマートでCCOを務めるジェイニー・ホワイトサイド氏の言葉がある。これはデータ統計の結果を重視するのではなく、自社のブランドに付いてきている顧客からの信頼を得ることが成功への鍵という意味だ。

今回取材したkurassoはこの言葉の通り、ユーザーの声をキャッチしてその想いに寄り添う取り組みを行ってきた。

メディアからECショップへ形を変え、サービスの提供を行うことで着実に顧客の信頼を獲得したkurassoは、昨年1年間で20万人ものフォロワーを増やしている。更に、今後もフォロワーの要望に対してInstagramだけではなく、時代やニーズの変化に沿ったより良い手段を模索し、変化することにも柔軟かつ積極的な姿勢が窺える。

環境やトレンドの変化が激しい近年において、今までの業態を維持するだけではユーザーの要望に沿うことは難しい。交流の場として活用されていたSNSがここ数年で使用する人が増え、宣伝の役割を大きく担うようになった。そうした世間の動きによって売り手側に求められるスキルも変わってくる。そんな中でkurassoの柔軟性には、どんな環境でもユーザーの要望に対応できる強さが備わっていると感じた。

新たな事業を立ち上げて成功させる為には、もちろん話題性も必要だ。だが、それ以上に長く支持を得る為に重要なのは、マーケットインを徹底し、環境が変化しても常にユーザーの声をしっかりと受け入れられる環境づくりではないだろうか。

MMD TIMESとしても、それぞれのブランドの届けたい想いを汲み取り、その期待に答える発信媒体となるべく、これからも尽力していきたい。

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