セレクトショップが目指すべきウェルビーイングな売場

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ホームメディカルフィットネスとセレクトショップ

人々がより良いライフスタイルを目指すときに忘れてはならないことが一つある。それは「健康」であるということ。

ここでいう「健康」とは、単に心身に病気や怪我がない状態ということだけではない。肉体的、精神的、そして社会的に完全に満たされた状態が本当の意味での健康=ウェルビーイングだ。心豊かに幸せを感じ、その状態が持続していなければ、いくら病気にかかっていなくても健康とはいえないのである。

一昔前までは健康を意識し、健康のために何かを行うのは、ある程度年齢を重ねた人が多いというイメージがあったかもしれない。しかし近年ではウェルビーイングという考え方の広がりとともに、幅広い年代で健康に対する意識が高まっている。

ジムで身体を鍛えたり、公園や自宅周辺でのウォーキングやランニングなど、自宅以外の場所で体を動かすことに加え、コロナ禍では行動制限や人との接触を減らすという目的から、自宅で身体を鍛えたり動かしたりするという人が増え、ホームジムやホームフィットネスという新たな言葉も生まれた。

昨年の「&MEDICALのウェルネスライフとおうち時間」では、ライフスタイルの大きな変化がもたらしたホームフィットネス市場の盛り上がりに注目し、セレクトショップとの相性や新しい可能性についても紹介した。

その一方で一つのカテゴリとしての消費者側の需要や盛り上がりに対して、セレクトショップ側がそこにうまく参入し、供給できているのかというと若干の温度差のようなモノを感じずにはいられない。

現在ホームフィットネス市場はどのように変化しているのだろう。MMD TIMESではリブランディングから約1年を経て、今年4月に神戸阪急にブランド初の直営店をオープンした「&MEDICAL (アンドメディカル)」を再び取材し、サーバントチーフを務める 佐藤明香 (サトウ アスカ) 氏に改めて話を伺った。

&MEDICAL (アンドメディカル)
https://and-medical.com/
《おうちで健康》をテーマに、暮らしと身体のここちよい調和を追求したブランド。ホームエクササイズ、姿勢サポート、マッサージ、ストレッチなど、フィットネスに精通した専門家の科学的メソッドを活かしたアイテムを展開。HOME MEDICAL FITNESS (ホームメディカルフィットネス) を軸に、健やかなライフスタイルをサポートする。
&MEDICAL 神戸阪急店
https://and-medical.com/shop/
〒651-8511 神戸市中央区小野柄通8-1-8 神戸阪急 新館8階
2022年4月27日にリニューアルオープンした神戸阪急の新館8階にあるRelax&Reset (リラックス アンド リゾート) フロアにブランド初の直営店舗をオープン。&MEDICALのすべてのアイテムを実際に見て触って体験できるほか、姿勢や身体の歪み測定なども無料で行なっている。

消費者のコミュニティとしての直営店

リブランディングから一年、なぜ直営店をオープンしたのでしょうか?

佐藤氏コメント:自社WEBサイトの売り上げも順調に伸びてきて、ブランドとしてもさらなる成長を目指していくなかで、身体の悩みに寄り添ったアイテムという特性上、実際の使い心地や機能などを直接体験してもらえる場所を設けたいという思いが強くありました。

そこへ神戸阪急様のリニューアルに伴って、暮らしの提案を広げていくために「ライフスタイル売場にもっと力を入れたい」と先方からのお声がけをいただき、私たちの思いと実を結んだカタチですね。

オープンから約4ヶ月が経ち、実店舗という体験の場を設けたことで、直接得られるお客さまの声や反応はとても大きな収穫で、それらを参考にしながら現在は既存アイテムのアップデートにも力を注いでいるんです。

例えば、歩行そのものがフィットネスになるルームシューズ「KAMOLEG (カモレグ)」では色とサイズ展開を増やしたり、座姿勢をサポートする「KURA SEAT (クラシート)」は座面のクッション感へのご要望を受けて、さらなる座り心地の良さを追求しています。

カラー・サイズバリエーションが豊富になったルームシューズ「KAMOLEG (カモレグ)」
騎手の鞍から発想された姿勢をサポートする「KURA SEAT (クラシート)」

店舗ならではの消費者の反応を感じる部分は他にもありますか?

佐藤氏コメント:&MEDICALのアイテムを触って体験できる場ができたことで、お客さまにとってはWEB情報だけではわかりにくかったサイズ感や使用感を知っていただけるようになり、私たちもお客さまの悩みや反応を直接受け取ってご提案できるようになりました。

そうしたなかでWEBとの大きな違いだと感じるのは、購入されなかったお客さまの声や理由を拾えることでしょうか。オンラインショップでは「購入しなかった理由」というのはなかなか知ることができませんが、実店舗ならスタッフとの会話やお客さまの反応から、「なぜ買わなかったのか」という理由が分かることがあるんです。店舗での日々の接客で気付いた点は、ショップスタッフから日報として細かく報告してもらうことで、しっかりと情報共有しています。

買わない理由を知ることもブランドやアイテムのアップデートに繋がるんですね

佐藤氏コメント:他にも実際に商品を使って体の悩みが改善されたお客さまが感想を伝えにお店に来てくださったり、ご友人を連れて再来店してくださることもあります。以前とは別の体の悩みを相談に来られることもあって、また来店したくなる、戻ってきたくなる場所として実店舗が機能していることはとても嬉しいですね。

WEBだけでは難しい部分を実店舗でうまく補っていくことで、今後はWEBと実店舗の連動もしっかり取っていきたいと思っています。

スタイリングを楽しむホームメディカルフィットネス

直営店以外での展開についてはどうお考えですか

− 佐藤氏コメント:コロナショックを経て、人々の健康に対する意識はさらに高まり、ライフスタイルも日々変化しているので、ライフスタイルショップなどのセレクトショップでもお取り扱いが増えてほしいですね。

ここ数年で、リモートワークやハイブリッドワークなど私たちの働き方も変わってきました。職場でも自宅でも、日常のライフスタイルの中で手軽に健康課題を解決できるものが求められていると感じます。

その一方で一般的に健康器具というと派手な色やデザインで、存在感のある見た目がインテリア空間にはそぐわないというイメージが払拭できていない部分もあるのかもしれません。

スタイリングを楽しみやすいデザインと色使いの&MEDICALのプロダクト

− 佐藤氏コメント:&MEDICALのアイテムは暮らしと調和することを意識してデザインを設計しています。いわゆる従来の健康器具としてではなく、ライフスタイルやインテリア・家具の一部としてのスタイリングをお客さまに楽しんでもらいたいので、セレクトショップなどとも相性が良く、売場にもうまく馴染むのではないでしょうか。

普段の暮らしの中でできるだけ自然に、そして時間や手間をかけず、手軽に健康的な身体を目指したいというお客さまは多くいらっしゃいます。デザインと機能性を兼ね備えたヘルスケアアイテムは、スタイリングのしやすさも魅力ですし、心身ともに健康的なライフスタイルを目指したいというお客さまの獲得にもつながるのではと思います。

「暮らしに溶け込む健康」というところでいうと、例えばベンチやスツールなどの家具を購入する際、座り心地を考えてシートクッションなどを一緒にご購入される方は多いですよね。それを例えば「KURA SEAT」や「KURA SEAT HB (クラシート ハイバック)」にすれば、腰への負担が軽くなって体にもプラスになり、デザインの違和感もないので、ライフスタイルにこだわりたいと考えている層のお客様も取り入れやすいのではないかと思うんです。

スタイリングが楽しめるというのはまさにセレクトショップ向きですね

− 佐藤氏コメント:セレクトショップでは実際にベンチやチェアと一緒に展示をしたり、体験スペースを設けていただくと良いと思います。お客様がご自身で使用感や効果を体感され、商品の細かい説明などの接客なしで購入に繋がった実例もあるんです。特にルームシューズの「KAMOLEG」や姿勢サポートシートなどは、体験が納得に繋がるというケースが多いですね。

私たちは体の悩みを改善したり、健康になるためにわざわざ運動をするのではなく、日常生活の中でアイテムを使っていることで、いつの間にか健康になれるということが重要だと考えています。「KAMOLEG」を履くだけで普段の何気ないおうち歩行が体幹エクササイズになっていたり、いつものチェアを「STRETCH CHAIR (ストレッチチェア)」に置き替えるだけで、手軽に健康を手に入れられるんだというイメージをもっと持ってもらいたいんです。

座るだけで自然と美姿勢に導き、全身のストレッチもできる「STRETCH CHAIR 」

− 佐藤氏コメント:お客さまのなかには実際に部屋の中に置いたところが想像できないという方や、色合わせが不安という方もいらっしゃいます。そういうお客さまにとっては空間演出を得意とするセレクトショップのほうが、ご自宅のテイストを伺いながら、インテリア空間に商品を置いたディスプレイなどを見ていただいたり、より分かりやすい提案ができるのではないでしょうか。 

もちろん健康アイテムの接客や販売に不安や疑問を持たれているショップスタッフさんもいらっしゃるかと思います。&MEDICALではショップ様やスタッフ様向けに、商品の売り方やポイント、接客トークの実演などをわかりやすくレクチャーした動画の提供も行っていますので、ぜひご相談いただければと思います。

他にも店頭POPに商品紹介動画のQRコードを付けることで、接客に人員を割くことが難しいショップ様や、近くに販売員がいない時でも、お客様がご自身で動画を見て商品の詳細を確認できるようにしています。

健康アイテムの販売や接客が難しいものではないと、まずは売る側の方にも知っていただき、そこからさらに健康になるためのツールでもスタイリングを楽しめること、そしてデザインに我慢や妥協をする必要がなくなったということを、もっと多くの方に広めていきたいですね。

商品の体験だけではない実店舗の役割

店舗では体圧の測定や姿勢の分析なども行っているとお聞きしました

佐藤氏コメント:お店の役割としてアイテムの体験・実感はもちろんですが、そのほかにも現在のお客さまの体の状態を可視化して把握することも大切なんです。あわせてお客さまの悩みや生活スタイルもお伺いすることで、より適切なアイテムをご提案できます。

直営店では姿勢のバランスの偏りを可視化できる体圧分散測定器や、数枚の写真を撮るだけで体の歪みが分かる「シセイカルテ」というAI姿勢分析ツールを導入し、それらを使ってその人それぞれに合う商品提案をしています。「シセイカルテ」では、体の歪み状態を点数化したスコアや、同世代間で比較したランクが表示されるので、より直観的に自身の姿勢の状態が理解でき、首などパーツごとの診断や未来の姿勢なども知ることができるんです。

実店舗は商品を試す、購入するだけの場所ではないんですね

佐藤氏コメント:商品の体験をしていただくことはもちろん、自分自身も知らなかった体の悩みや姿勢の歪みに気づけたり、知ったりできる場所にしていきたいと思っています。科学的な分析結果やお客さまの悩みに合わせた商品提案をしていけることは、実店舗の大きな存在意義になっていくのではないでしょうか。

専門家やインストラクターを講師にお招きして、商品を使ったおすすめのエクササイズをレクチャーしたり、健康に関するイベントを開催することもあります。&MEDICALはデザインとサイエンスを掛け合わせたアイテムが特長なので、そのサイエンスの部分を専門家の先生たちから分かりやすく解説したり、効果的なメソッドをお伝えすることでも、お客さまとのコミュニケーションを深めていきたいですね。

イベントは店舗以外でも行っていますか

佐藤氏コメント:百貨店や書店、セレクトショップなどでのポップアップショップも頻繁に開催しています。都内でいうと六本木ヒルズにあるESTNATION (エストネーション) さんや銀座 伊東屋さんで開催したり、そのほか名古屋・大阪・広島・福岡など全国各地でポップアップを行いました。今年の年末には12月28日から1月10日までの期間、伊勢丹新宿店さんの本館5階にあるベッドバスパウダールームでのイベント開催も予定しています。

こうしたポップアップショップを通して体感できる場を増やすことで、気になっている商品を気軽に試していただき、健康についての新しい知識や情報を得られる場所として広めていきたいです。

六本木ヒルズのESTNATIONで行われたポップアップショップの様子

暮らしに溶け込む&MEDICALの新商品とこれからの展望

新商品についても教えてください

佐藤氏コメント:新しい商品としては10月中旬発売のオーバル型バランスボール「MALLOW (マロウ)」と、11月中旬発売予定の背もたれクッションタイプのマッサージャー「buno (ブノ)」があります。&MEDICALでは、“ホームジム”、“ホームリラクシング”、“ホームワークスペース”という商品開発の三つのテーマがあり、今回の新商品はホームワークスペースとホームリラクシングから生まれたアイテムです。

バランスボールは通常球体ですが、この「MALLOW」はオーバル型なので適度な安定感があって自立し、エクササイズアイテムとしてだけでなくワークチェアとしても使えて、長時間のデスクワークにもおすすめです。仕事の合間にちょっと身体を動かしてリフレッシュしたり、手軽に体幹を鍛えたりすることもできますよ。特にデスクチェアやワークチェアは大きくて場所をとってしまいがちですが、これなら省スペースに置けるので邪魔になりにくく、シンプルなインテリアともマッチして、自宅のワークスペースやリビングなどリモートワークでもご活用いただけます。

ワークチェアとしても使え、バランスボールとしてエクササイズも可能な「MALLOW (マロウ)」

佐藤氏コメント:この背もたれクッションのような「buno」は、座ってもたれるだけで背中から腰にかけて筋肉のコリをほぐしてくれるマッサージ機です。「さすってほぐす」という新しい体感が特長で、いわゆる押して揉むマッサージだと痛みを感じたり揉み返しが起きてしまったりすることもあるんですが、「buno」は優しく撫でられているような感覚で手軽にコリをほぐすことができます。

揉まないマッサージ機なので揉み玉ではなく、ローラーが肌の表面を優しくさするように上下に動いて、筋肉の繊維に沿ってほぐす柔らかい体感です。実際に使用されたモニターの方からも揉み返しがなく優しくさすられているような感覚で、肩凝りや腰痛だけでなく、足の方まで楽になったというお声もいただいています。

背もたれクッションタイプのマッサージャー「buno (ブノ)」

今後の展望などがあればお聞かせください

佐藤氏コメント:&MEDICALのテーマである「おうちで健康」という観点からみると、アイテムのプロデュースだけではなく、もっと広い枠組みで捉えた空間プロデュースも視野に入れていきたいですね。コントラクト向けのデザインや、健康をテーマにした家づくりとして「&MEDICALが造る健康な家」というようなことも考えていきたいと思っているんです。

わざわざ取り出して使うのではなく、日常使うモノで自然と健康になる、普段からそこにあるものでより生き生きと暮らせる、そんな空間を作っていくことをこれからも&MEDICALは目指していきます。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

セレクトショップに求められるウェルネスアイテムとは

世界的に見て良くも悪くも働き過ぎだと言われる日本人。その多くは少し前まで健康に対してやや無頓着だったように思う。しかし平均寿命が延び、高齢者の割合が増えていくなかで、人々は健康の大切さに気づき、そのために時間とお金を費やすようになってきた。

そうして注目されることとなったウェルビーイングという考えから、ホームフィットネス市場は盛り上がりを見せ、通販や家電量販店などでは売上が取れるカテゴリとして既に十分な結果を出している。しかし、そのニーズに反してライフスタイル業界での展開はまだまだ少なく、二の足を踏んでいるセレクトショップも多いのではないだろうか。

確かにこれまでのいわゆる健康器具といわれるモノはオシャレとは言えず、セレクトショップに並べられるようなものではなかった。ただ、それはもう過去のイメージだといえる。時代は変わりホームフィットネスアイテムは進化しているのだ。

今回再び取材を行った&MEDICALのホームメディカルフィットネスアイテムは、新たに何か道具を買い足すというよりも、既存の自宅で使われているアイテムを置き換えるだけで、無理せず気軽に健康を手に入れられるよう考えられており、さらにそれが機能だけでなくインテリアに馴染むデザイン性で作られている。

例えば人気の「KAMO LEG」というルームシューズの見た目はスタイリッシュなスリッパだが、履いて過ごすだけで自然と体幹が鍛えられたり足のストレッチができ、新商品の「MALLOW」はスツールのような見た目のバランスボールでリビングやワークスペースにも合わせやすく、弾むような座り心地で姿勢をサポートしてくれる。いつものルームシューズやスツールをただ置き換えるだけで健康を目指せるのだ。

もはや消費者は健康になるための道具のデザインに妥協する必要はなく、そのためだけの道具を新たに購入する必要もない。機能も兼ね備えたアイテムがスタイリングも楽しみながら選べるというのだから、それはライフスタイルを提案するセレクトショップでこそ活きるアイテムなのではないだろうか。

&MEDICALが実店舗で行っているというテクノロジーを使った集客施策の話もとても興味深かった。消費者に体験と購入以外の来店動機をつくれるというのは、セレクトショップとしても大いに参考になる話だといえるだろう。さらにそれがテクノロジーの力を使って行うというところが、今の時代にあった新しい方法だとも感じた。

ウェルビーイングやウェルネスライフという考えが人々に浸透した今こそ、ニーズがあるところに手を伸ばし、持ち前のセンスで自分たちらしく演出することが必要なのではないだろうか。ライフスタイルを楽しむウェルネスアイテムをいち早く取り入れて消費者に提案し、売り上げという結果に結びつけ、セレクトショップの醍醐味をぜひ見せつけてほしい。

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