2021.11.30.tue

久保裕丈氏が推進するCLASの循環型サブスクビジネス

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CLASが目指す「モノを所有しない」暮らし

2000年代前半から人々の消費は“コト”や“トキ”、“ヒト”へと、“モノ”以外に変化してきた。 “モノ”を大量に所有するマキシマリストを経て、その対極にあるミニマリストとしての自由で軽やかな生き方が注目され、所有すること自体の意味も変わってきている。

定額制で“モノ”の利用権をレンタルするサブスクリプションサービスや、“モノ”を所有するのではなく、共有するという概念を基本としたシェアリングサービスが増え、過剰消費と使い捨て文化に替わる新たなライフスタイルが生まれた。

ニューノーマル時代に入って、オフィスや自宅などの場所の垣根を越えたワークスタイルや、目まぐるしく変わる環境に対応するため、インテリアのシェアリング需要が高まっている。

MMD TIMESは、これからのライフスタイル業界で主軸となる可能性を大いに含んだ、新たなインテリアのビジネスモデルについて、株式会社クラスの代表取締役社長を務める久保 裕丈 (クボ ヒロタケ) 氏に話を伺った。

株式会社クラス
https://clas.style/
家具・家電の利用・交換が行えるサブスクリプションサービスCLAS (クラス) を運営。個人・法人向けに変化に応じた“最適空間”を提供。必要な時に必要な商品をレンタル、不要になったら返却することで、より自由で手軽に家具・家電の導入が可能。循環型でサステナブルなモノを捨てない社会づくりの実現を目指す。

CLASが推進する「インテリアの不自由さ」からの解放

株式会社クラスについて教えてください

− 久保氏コメント:家具・家電を中心とした耐久消費財のサブスクリプションサービス「CLAS (クラス) 」を運営しています。いわゆる「大きくて、重くて、高いモノ」を中心に、「所有しない利用」を世の中に広げ、「モノを捨てない社会づくり」の実現へ取り組んでいます。

家具のサブスクリプションサービスを展開している同業他社だと、BtoBやBtoCをメイン事業としている企業が多いのですが、CLASでは自社製品の企画・設計・生産管理までを行うDtoC企業でもあるということが特徴です。

また、もちろん我々もBtoBやBtoCの事業も行っていますが、BとCの古くからの考え方も変えていきたいと思っています。

今までの家具・家電業界では、BとCが大きく断絶されていました。ユーザーも違えば、扱う商品、提供するサプライヤーもすべて違っていましたが、今後はその区別の意味がなくなってくるのではないでしょうか。

− 久保氏コメント:例えばオフィスですが、最近は「リビングオフィス」などの言葉が生まれてきているように、より家っぽく変化しています。「リモートワーク」で仕事ができるように住宅がオフィスになったり、「ワーケーション」に代表されるように泊まる場所がオフィスになることもあるんです。

空間の意味合いが徐々に重複してきているんですよね。我々は法人にも個人にもビジネスを展開していますが、将来的にはその二つを融合していきたいと考えています。

DtoC事業に注目したきっかけは?

− 久保氏コメント:我々は一つの商品をできるだけ長く循環させたいと考えています。

ユーザーが借り終わって返却した商品を、またリペアしてきれいな状態に生まれ変わらせてから、次の借り手へ送るようにしています。

その為には、「どんな製品特性であれば最も循環させやすいのか」、「ユーザーにとってどんな製品であれば気持ちよく使い続けてもらえるのか」を研究する必要がありました。

DtoCという形で企画・設計・生産管理までを行うことで、循環させやすい商品ノウハウの蓄積が可能になったんです。

リペア処理する前と後の状態

立ち上げの経緯を教えてください

− 久保氏コメント:自分が日々暮らしている中で感じた課題の一つに、「インテリアの不自由さ」がありました。

前職がMUSE&Co.というアパレルのベンチャー企業だったのですが、人の増員の変化や移転が多かったんです。移転時に什器を運ぶのも費用が高く、そのたびに買い替えるフレキシビリティのなさにストレスを感じていました。

個人としても引っ越しをするたびに家具を買い替えていたんです。ソファなんかは引っ越し先ではサイズも色味も合わなくなってしまうことが多いですよね。

捨てるのも大変だし、もったいないです。一人で粗大ごみ置き場に持っていくのも大変だから、便利屋に頼んで一気に持って行ってもらっていましたが、それを見ていてまだ使えるモノなのに捨ててしまうのは罪悪感がありました。

持ち家がある人は別ですが、家やオフィスを借りている人は家具を買うのもばかばかしいと思うようになったんです。でも、レンタルしている家具を探してみても、単身赴任を前提としたデザインよりも価格重視の商品ばかりで、なかなかいいサービスがありませんでした。

だからこそデザイン性の高い、素材にもこだわった商品を揃えた循環型のレンタルサービスを作ろうと思い立ったのが立ち上げのきっかけです。

「稼働率90%超え」を誇るCLASの商品管理法

商品調達の新たな試みについて教えてください

− 久保氏コメント:メーカーと事業収益を分配する「レベニューシェア契約」を積極的に進めています。商品資産はメーカー持ちで、我々が代行業者としてユーザーに商品を届け、そこで得た利益をシェアするシステムです。

今までの小売は「売り切り型」で、メーカーの粗利のアッパーが決まっていました。「売り切り型」だと、売った瞬間の1度しかメーカーに利益還元される機会がないですよね。

レベニューシェアの取り組みであれば、長期で多くのユーザーに使ってもらえて、結果的に売り切りよりもはるかに大きな利益を得られる可能性があります。メーカーにとっても手間なく継続収益を得られる新たな手段を獲得できるんです。

我々としても、従来の買い取り方式よりも在庫負担を軽減できるというメリットもあるので、双方にとって理想的な形だと思っています。

現在、取引メーカー約100社の内、既に2割の企業とレベニューシェアの取り組みを始めていて、今後も増やしていく予定です。

在庫管理はどんな工夫をされていますか?

− 久保氏コメント:利益に直結する指標として在庫稼働率の影響は大きいですね。そのため、我々は常にカテゴリごとに季節変動を加味した需給のバランスをチェックしています。

小売業であれば通常は売れる分だけ仕入れますよね。しかしCLASでは、いつどの商品が返却されて、どのタイミングでリペアしたものが上がってくるのかという在庫の増減も考慮する必要があるんです。

それらを把握した上で、新たな仕入れと在庫のバランスがとれているか、データを溜めながら慎重に判断しています。

今ではカテゴリごとにどのくらいの期間で返却されるかのデータも蓄積されてきました。

一人のお客様から利益を回収しきる必要はありませんが、平均利用期間に対して値付けをするなど工夫をしています。

サブスクリプション利用によって向上するユーザーの体験価値

ユーザーがサブスクリプションを利用することのメリットは?

− 久保氏コメント:「着替えるように空間を変える」というブランドメッセージの通り、その時の気分や用途に合わせて簡単に空間を作ることができます。

今だとリモートワークが増えて自宅で仕事をしたい人が増えていますし、他にも人を呼びたい時や、リラックスした空間が作りたい時など、このサービスを利用することで洋服と同じように家具も気軽に変えられるようになるんです。

転勤・転職・結婚・出産などの大きなライフステージの変化や、季節の変わり目などの小さなものまで、節目ごとに気軽にインテリアを変えていってほしいですね。

CLASならではの施策を教えてください

− 久保氏コメント:生活する上で必要なものは時流によってガラッと変わります。我々はユーザーと常に対話していくことで、その時流の変化をいち早くキャッチし、商品に反映させるよう工夫しています。

例えば、人気商品の法人向け簡易型フォンブース「C-0206」は、近年のリモートワーク需要に対して作られました。

簡易型フォンブース「C-0206」

− 久保氏コメント:また、他社にはない攻めたアイテムもあります。このファミレス席のようなソファブースもオリジナルで作っていて、天板がホワイトボードとして使えるんです。

ファミレス席のようなソファブース
天板がホワイトボードとして使える

− 久保氏コメント:時流に合った商品をいち早く目利きで仕入れたり、オリジナルで作れるのがCLASの特徴でしょうか。

ユーザーの気持ちに寄り添った、CLASの新たな表現

ページ作りをする上でこだわっていることは?

− 久保氏コメント:今まではインフラを整えることに注力していましたが、これからは自分たちのブランドアイデンティティを明確に定義して、ユーザーコミュニケーションの中に織り込んでいこうとしています。ようやく表現が追い付いてくるステージに入ったんです。

これから打ち出したいのは、機能面だけではありません。色・素材・サイズの絞り込みだけではなく、その人のライフステージや、大切にしていること、今の気分など、洋服を選ぶようにインテリアももっと情緒的に選べるようにしたいんです。

通常小売とは異なるサブスクならではの人気商品

人気のカテゴリは何でしょうか?

− 久保氏コメント:ソファ・ベッド・冷蔵庫・洗濯機などの「大きくて重くて高いモノ」です。

例えば、椅子などの小さな家具は不要になったら誰かにあげるのも捨てるのも簡単にできると思いますが、高額なソファだとそうはいきません。廃棄することへの罪悪感、破棄する際の面倒を考えると、簡単に商品を購入して失敗したくないですよね。

CLASのサービスであれば、サイト上の1クリックだけで家具・家電の回収もしてくれるし、新しい商品に取り換えるハードルも低いので、特に「大きくて重くて高いモノ」が人気の理由だと思います。

定番商品を教えてください

− 久保氏コメント:綿密に企画を練って作った価格競争力もあるPB家具が強いです。

PBで人気の「マルチユニットソファ」は、ユニット単位で自由に組み合わせができて、大きなコの字型やカウチにも使え、どんな家のサイズにも合わせることができます。

マルチユニットソファのコーナータイプ

− 久保氏コメント:NBでも電動昇降テーブルは運動不足や健康の問題が注目されている影響で、入荷した途端にすぐ欠品してしまう人気ぶりです。

家で座りっぱなしだと疲れるし体に良くないですよね。立ったり座ったり、その時の気分に合わせたスタイルでデスクワークできることが、今の需要に合っているのだと思います。

ボタン1つで高さを自由にセットできる上下昇降デスク

− 久保氏コメント:新商品も毎月100SKUずつリリースしていて、既存カテゴリだけでなく、PB家具・収納・ラグなども強化しているので楽しみにしてほしいですね。

ユーザーの自己実現を助けるCLASの未来

新たにチャレンジしたいことはありますか?

− 久保氏コメント:やりたいことは二つです。一つ目はサブスクリプションの物流やシステムなどのインフラを独自に作り上げてきたのですが、それらのプラットフォームを外部に提供していきたいと考えています。

ZOZOTOWNがECのフルフィルメントサービスを提供していますが、同様にCLASではサブスクリプション型のフルフィルメントサービスを提供して、様々な企業にも使ってもらえるようになりたいですね。

そうすればユーザーに「所有しない軽やかな暮らし」の良さを、更に広げていける機会を作れるのではないでしょうか。

二つ目に、空間への満足度、空間の価値を測って、より良い空間を提案できるようになることです。

例えばオフィスだと、どこの空間が利用率や生産性が高いか低いかを計測し、どこを変えればもっと社員の働き方が良くなったり、社員同士の交流がしやすくなるのかなど、空間の価値を可視化して提案の精度を高めたいと考えています。

最後に、ライフスタイル業界に対する展望はありますか?

− 久保氏コメント:抽象度の高い話ですが、ライフスタイル (人生) という言葉が入る以上、表面的な話ではなく、もっとユーザーの自己実現を助けられるようになるといいですよね。

インテリアを変えることで生活がより良くなったり、仕事がしやすくなったりすると思うんです。

ユーザーがライフスタイルに触れて、サービスを利用する頻度が増えて、自分の生活が良くなる体験をしてもらえば、ライフスタイル業界全体が活性化していくのではないでしょうか。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

バイイングからビーイングへの変化

ナイキやイケアなどの大手小売業者は、「買うこと (buying) 」から「新しい状態になること (being) 」の提供へシフトするという実験を行っている。

商品の売場面積を縮小し、ワークショップや体験スペースがメインとなっているショップを打ち出したり、ブランドのデザイナーがユーザーの夢の家を実現してくれるデザインスタジオを作るなど、ユーザーが「より良い自分」になるための価値を提供していこうというものだ。

新たなモノを買う喜びはドーパミン効果に過ぎない。しかし、モノを通じて、「より良い自分」になるための自己実現を手助けしてくれるブランドは、生涯にわたる価値を提供してくれるのではないだろうか。

今回インタビューを行ったCLASも同様だろう。インテリアという切り口からユーザーを「自由に軽やかに」するだけでなく、商品を循環させて廃棄を抑えるという、環境にとっても「より良い」状態へ誘うビジネスモデルを確立している。

世界の大手小売業界が行っているように、既存ビジネスに新たなサービスを追加したり、CLASのように新たなサービスを生み出すなど、今後のライフスタイル業界がモノを通じてどんなサービスを生み出し、新たな価値を提案していくことができるのか注目したい。

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