地域に寄り添うデザインプロダクトショップKONCENT

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街を元気にするデザインプロダクトショップ

「モノづくりの街」と聞いてどこをイメージするだろうか。昔から職人の街として知られる場所、街おこしを機に新たに知名度が広がりつつある場所、「モノづくり」はその場所に仕事を生み、人を呼び、活気を起こしてゆく。つまり、「モノづくり」とは「街づくり」と密接な関係を持っているのだ。

今回は、東京・駒形に本店を構えるデザインプロダクトショップ「KONCENT (コンセント) 」を取材した。同ショップは、「珪藻土を暮らしに広めたsoilのデザイン力」、「ライフスタイル業界とInstagram」でも紹介した「アッシュコンセプト」が、直営店として国内外に8つのショップを展開している。

KONCENT (コンセント)
https://koncent.net/
「モノを創る人と造る人、そしてモノを使う人をつなぐ、デザインのプラットホーム」をコンセプトとして展開するデザインプロダクトショップ。2012年のオープンから店舗を増やし、現在は都内5つのエリアを中心に展開。国内だけに留まらず、海外進出にも積極的で、マレーシアに実店舗、オーストラリアにWeb shopを出店している。アッシュコンセプトが手掛けるオリジナルプロダクトを中心に、生活をより豊かにするアイテムが揃う。

駒形、渋谷、六本木、丸の内、ミズマチーー同じ東京といえど、街の雰囲気も違えば顧客層も大きく異なるこの5つのエリア。その5店舗を統括するのは、今回話を伺った寺内 大空 (テラウチ オオゾラ) 氏。現在はリテール部門のリーダーとして全体のマネジメントを行っているが、約10年前のオープン当初からの売場経験者でもある。

「出店条件として『文化度のある街』ということは考えています」と語る寺内氏。街の人々に愛され地元に根づく地域密着のショップを目指すKONCENT。その想いと戦略を探る。

つくり手と使い手を繋げる場所

KONCENTについて教えてください

− 寺内氏コメント:2012年に代表の地元・台東区蔵前にオープンしたデザインプロダクトショップです。生活用品を製造するメーカーとして商品開発を行うなかで、「もっとダイレクトに消費者へつくり手の想いを届けたい」、「モノづくりを発信する場を持ち、その街を盛り上げたい」という想いが募り店舗を立ち上げに至りました。

つくり手であるメーカーが運営する店舗として目指すのは、“つくり手”と“使い手”を繋げるプラットホームとなることです。KONCENT (コンセント) という店名も電気を使う時にお馴染みの“コンセント”から取っていて、使う人と直接つながる場所、エネルギーが集まってくる場所にしたいという思いから付けました。

建物の老朽化により、現在は蔵前から駒形へと場所を移して運営

− 寺内氏コメント:取り扱っているのは、自社ブランド「+d (プラスディー) 」、「h tag (アッシュタグ) 」をはじめ、当社がデザインコンサルティングを行っているパートナーブランド商品で、一部セレクト商品の取り扱いもあります。

アッシュコンセプト
https://h-concept.jp/
デザインを通して世の中を元気にする会社として2002年設立。オリジナルブランド「+d (プラスディー) 」をはじめとする生活用品の企画製造、及び販売や、全国の企業・産地のデザインコンサルティング等を行う。

街に根差した店作り

このショップならではの特徴は?

− 寺内氏コメント:やはり立ち上げ当初からの想いである「街を元気にする」ことではないでしょうか。KONCENTが取り扱う商品の魅力がしっかり伝わり、店舗を構えることでその街が盛り上がる・応援できる、その確信が持てる場所に店舗をオープンさせています。

具体的には、“文化度がある”場所に出店することです。文化度があるとは、デザインやモノに対してこだわりがある方や感度の高い方が集まる街、モノづくりに積極的な街を指します。渋谷のBunkamuraや六本木の東京ミッドタウン、墨田の東京ミズマチなど、最寄りに美術館やギャラリー、職人の工房が多く存在する場所が望ましいですね。

また、店舗ごとにセレクトしている商品を変えているのも特徴です。例えば、東京ミズマチの店舗では、非常食の取り扱いがあります。これは墨田区内の多くの地域が海面より土地が低く、水害への意識が強いエリアであることから、スタッフの意見を受けて採用しました。

KONCENT 東京ミズマチでは防災商品を展開

− 寺内氏コメント:一方、ミュージアムや劇場を併設する渋谷・Bunkamuraの店舗には、アート好きな方が多く集まるため、刺繍のアクセサリーを置くなどの工夫があります。“文化度がある”と一言で言っても、その街の持つ“文化”というのは地域ごとに異なるので、そこは現場にいるスタッフの声に耳を傾けて、商品のセレクトに一定の自由を持たせていますね。

KONCENT Bunkamura渋谷

− 寺内氏コメント:以前は全店舗一緒のモノを仕入れていたのですが、KONCENTが目指す「街を元気にする」ことと違うんじゃないかと立ち止まり、店舗ごとにその街に合ったセレクトを行う方針へと変更しました。地域に根付いた店だということがラインナップにも現れ、さらにはショップスタッフのモチベーション向上にも繋がっているので、我々にとって必然的な判断だったように思います。

ファンを作るための戦略

メーカーとして考える店舗の役割は?

− 寺内氏コメント:ファンを作る場所です。今の世の中はインターネットが普及しているので、欲しいモノはオンラインで探して購入までできてしまいますよね。そんななか、店舗だからできることの一つは、お客様への”共感“と”提案“ではないでしょうか。店舗に来れば、たとえ具体的なモノの見当がなくても、今の生活をより良くするための提案を受けることができます。

その買い手と売り手のコミュニケーションのなかに信頼を作ることでファンが生まれる、それができる場所こそが店舗です。広告を流して何か一つの商品訴求をするより、店舗に来たお客さまにファンになってもらえるように働き掛ける方が長くて深い信頼関係を築くことができ、リピートにも繋がります。

壁を作らないコミュニケーションの取り方

ファンを作るための工夫はありますか?

− 寺内氏コメント:お客さまとの対話はとても大事にしていますね。“対話”というのが重要で、一方通行の声掛けではなく、お客さまに話していただく工夫をしています。

例えば、いきなりどんなモノが欲しいのかを尋ねるのではなく、そのお客さまがどういった住まいで今どのような暮らしをされているのか、生活で困っていることはないか、どんなモノが好きなのかなどをヒアリングし、そこから見えてくるニーズを拾い提案に活かします。一方的に売りたいモノを押し付けるのではなく、お客さまの現状を把握した上で最適な商品を紹介したいんです。

でも、初対面のショップスタッフにパーソナルなことを打ち明けるのが苦手な方もいらっしゃいますよね。そういった方にも極力警戒されず壁を作られないために、KONCENTでは「いらっしゃいませ」と「レジにこもること」を禁止しています。

常にスタッフが売場を整えている

− 寺内氏コメント:まず、来店があった際の第一声は「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは」とすること。「いらっしゃいませ」だと一方通行ですが、「こんにちは」だと会釈や返事をしちゃいませんか? それから、常連さんの顔や名前は積極的に覚えるようにしています。何も買わなくても遊びに来てもらえるような、気軽に入れるショップにしたいんですよね。

また、スタッフには会計時以外は売場に出るように伝えています。レジにいるとお客さまがいらした時、コミュニケーションにどうしても遅れが出てしまいますよね。来店されたらすぐに挨拶をして接点を持つことが大切だと考えているので、お客さまをすぐにお迎えできるように、必ず売場にスタッフがいる状態にしているんです。

商品一つひとつに合う接客

売場作りにこだわりはありますか?

− 寺内氏コメント:雑貨屋っぽくない、すっきりさせた陳列にはこだわっています。例えるなら、美術館のようなイメージですかね。商品と商品の間隔をある程度取って、一つひとつに焦点が当たるように意識しています。

坪単価が悪いのでは?という質問が飛んできそうですが、基本的には密な接客をすることを前提としているので、品数が多くて接客がない店舗と変わらない印象ですね。

KONCENT 東京ミッドタウン

その接客でのこだわりを教えてください

− 寺内氏コメント:商品ごとに接客方法を変えてお客さまへアプローチしています。KONCENTでは扱っているものの半数以上が自社商品で、これらは同時に他のセレクトショップなどにも卸しているのですが、取引先との差別化を図るのは正に接客です。

どういった伝え方をすると商品の魅力やつくり手の想いが届くのか、お客さまへ響くのか、これは商品の企画段階からいつも考えていますね。

例えば「h tag」のバスタオル、これはスタッフみんなに配って実際に使ってもらい、自分が感じた使用感を武器に接客をしてもらいました。「今、どんなバスタオルをお使いですか?」からヒアリングを始めて、このタオルを使った時のベネフィットをお客さまの現状に合わせて伝えられるようにしたんです。

ハンガーに干せて、腰や頭に巻くにも程よい40cm×120cmサイズ

− 寺内氏コメント:スタッフは、タオルによってもたらす変化を体験しているので、リアルな生活の変化や商品価値を自分の言葉で表現できるようになるんですよね。人は自分が満たされると他者との共感を得るために情報共有をしたくなるので、スタッフからお客さま、お客さまからその周囲へと口コミで販売促進に繋がっていきます。誰しもが毎日使用するタオルであれば、まずは自分が使うのが一番と考えました。

− 寺内氏コメント:また、協業しているデザイナーや職人との距離が近いこともメーカーならではの利点で、商品が生まれた背景や想い、裏話などを伝えることが可能です。モノの個性が伝わることで魅力を感じてもらえて、そのモノ自体がうまれた土地に因んでいれば、産地にも店舗にも愛着を持っていただけます。

このような接客を通じて、お客さまには友達に会いにくるような感覚で店舗に遊びに来てほしいですね。それが最終的に「街を元気にする店舗」なんじゃないかと考えます。

最大のコンテンツは人

最後に今後の目標を教えてください

− 寺内氏コメント:「創り手と造り手、そして使い手のプラットホームとなり、その街を元気にする」、このコンセプトの追求に限ります。それを突き詰めるためには、人の力なくして成り立たないと思っているので、やはりKONCENTとしては人に注力していきたいです。

まずは、お客さまにスタッフを好きになってもらって、スタッフに会いにきてもらうことを目指しています。そこから生まれる対話を通じて、プロの意見を参考に暮らしを良くする知恵をどんどん持って帰ってほしいし、そのなかに我々の提供する商品があることが理想ですね。

そのためには、スタッフ一人ひとりのキャラクターを尊重し、併せて接客やコミュニケーションスキルを磨く必要があります。話すための知識の蓄えも必要です。

もっとつくり手であるデザイナーや職人、モノに込められた想いを知って商品に愛着を持つこと。同時に、自分達が店を構えているその街、そこにいる人々にも同様の関心や愛着を持つことを求めます。なぜなら、それがその街の人々を元気にし、愛されるショップである方法だと考えているからです。KONCENTの最大のコンテンツはスタッフだと、そう胸を張って言えるように一歩ずつ進んでいきたいと思っています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

顧客を味方に付ける

取材後、駒形の店内を見て回り調理アイテムの前で足を止めていると「お料理されるんですか?」と声を掛けられた。

とても自然に始まったその会話に「なるほど。寺内氏の言っていたことはこういうことか」と納得した。通常であれば「これ、とっても便利なんですよ」から始まったり「プレゼントですか?」なんて聞かれたり、時には心のシャッターが閉まってしまうフレーズもあったりする。まるで嫌らしさを感じさせない“対話”という名の接客を身に付けることは正に武器だと感じた。

また、店舗展開を進めるにあたって「街を元気にする」というコンセプトを初志貫徹していることにも驚いた。なぜなら、冒頭で述べたように“街”というのは、その街によって人も文化も嗜好も全く異なってくるからだ。

これを可能とするところにKONCENTの自社プロダクトのデザイン力、それから街に合わせた独自のセレクト力の高さを感じることができる。

「地域密着」が一つの手段として強いと分かっていても、なかなか簡単に取り組めることではない。“密着”には絶対的な時間や労力、信頼関係の構築が必要になってくるからだ。しかし、そのハードルを乗り越えて得た「街からの信頼」は大きなエネルギーになることは言うまでもない。いざという時、「助けたい」「力になりたい」そう思えるのは、身近にある信頼のおけるショップに対してではないだろうか。コロナ禍で地元の顧客の恩恵を感じている小売店、飲食店も多いはずだ。

顧客を味方に付けること。「広告を出すより店舗に来た一人をファンにする方が強い」、そう語った寺内氏の真意はそこにある。つくり手と使い手、それぞれのエネルギーを集めるKONCENTが今後、より大きなパワーを持って街を明るく照らす存在となることに期待したい。

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