Contents

DESIGNART TOKYO 2021

今年もDESIGNART TOKYO (デザイナート トーキョー) の季節がやってきた。MMD TIMESではこの時期に本イベントの取材を行うことが恒例となりつつある。今年も「DESIGNART TOKYO 2019 Vol.01」、「DESIGNART TOKYO 2020」に続き、DESIGNART TOKYO 2021についてお届けする。

DESIGNART TOKYO (デザイナート トーキョー) 
https://designart.jp/
世界屈指のミックスカルチャー都市・東京を舞台に、世界中から集まったアート、デザイン、インテリア、ファッションなどが多彩なプレゼンテーションを開催し、各展示を回遊することで街歩きを楽しめる日本最大級のデザイン&アートフェスティバル。
※2021年の開催は終了しました

DESIGNART TOKYO 2021では、主催・株式会社デザイナートの山嵜陽子 (ヤマザキ ヨウコ) 氏と、出展者であるMULTISTANDARD (マルチスタンダード) のメンバーとの対談の様子を取材した。

MULTISTANDARDとは、東京を拠点に活動を行う5人のクリエイターから成るチーム。本イベントへの出展は今年で2度目となる。

MULTISTANDARD (マルチスタンダード)
https://www.multistandarddesign.com/
秋山亮太 (アキヤマ リョウタ) 氏、古舘壮真 (フルタテ ソウマ) 氏、松下陽亮 (マツシタ ヨウスケ) 氏、シン スダンリー氏、田渡大貴 (タド ダイキ) 氏の5人で結成されるチーム。様々な素材の持つ特性を新たな視点で解釈し、これまでになかった価値や魅力を生み出す。アイデアをカタチにするためのスタイルとして、“実験”を繰り返すという点が魅力の一つである。

MULTISTANDARD は、本会期にあたって渋谷にある廃墟ビル一棟に手を加え、「1-15-22 Apartment」という企画を始動しており、今回はその取り組みに注目しつつ対談を進めたい。

[対談メンバー] ※写真左から
山嵜 陽子 (ヤマザキ ヨウコ) 氏:株式会社デザイナートのクリエイティブコーディネーター。クリエイターと場所を繋げるマッチングや各種活動の企画コンセプトの立案を行う。

秋山 亮太 (アキヤマ リョウタ) 氏:素材の成り立ちや時代背景のリサーチを基にする制作を得意とする。制作領域を固定せず、現代的な要素をフィルターにすることで価値観を更新。新しい関係性や機能を生み出す過程そのものをアートワークと考える。

シン スダンリー氏:台湾出身のデザイナー。2018年、東京にて「SDANLEY DESIGN WORKS」を立ち上げる。また、オフィス兼ショップ「MOONBASE」を設立し、グラフィックや家具、インテリアデザインなど多岐にわたって活動を行う。

田渡 大貴 (タド ダイキ) 氏:既存プロダクトの新たな意味や機能の掘り起こしを目的とした制作を得意とする。ものや素材を取り巻く状態・環境を多角的に観察し、実験応用することで新しいかたちを生み出すことを制作の主眼とする。

クリエイターから見るDESIGNARTの魅力

MULTISTANDARDの出展経緯は?

− 山嵜氏:去年に引き続き彼らからエントリーを受けました。DESIGNART TOKYOでは基本的に、どの出展者もエントリーがあった中から選出する方式を取っています。

エントリーの段階では大体、企画コンセプトやプロトタイプを見て判断することになります。選定基準は「作品性が強い」ということはもちろん、我々が純粋な目で見て「面白い」と思えるか、また「多くの人に知ってもらいたい」と思えるか、が重要となってきますね。

そういった観点でMULTISTANDARDは、DESIGNARTとして推していきたい若手クリエイターなんです。今回の「1-15-22 Apartment」も、とても魅力的な企画だと思っています。

− 田渡氏:ありがとうございます。それでいうと我々も出展するイベントは選んでいるよね。国内には様々なデザイン・アートのイベントがありますが、私たちにとってDESIGNART TOKYOは、業界の中では“最も元気なイベントの一つ”という認識があります。そういうわけで今年も勿論エントリーしました。

− スダンリー氏:それに、我々クリエイターは作った作品を見せる機会が欲しいですからね。一般の方に見てもらえるイベントは日本ではDESIGNART TOKYOが代表的かなと思います。

− 秋山氏:そうだね。DESIGNART TOKYOは東京の街中に展示会場が溶け込んでいるので、普段デザインやアートに触れていない方を含めて、僕らの作品を見てもらえるのも特徴だよね。

今回の「1-15-22 Apartment」は渋谷の明治通り沿いという立地に会場を置いたこともあって、買い物ついでにふらっと入ってくれる人も結構いるんですよ。そういった方からのフィードバックは刺激になるし、こういったコミュニケーションが取れるのはDESIGNART TOKYOならではの魅力ですね。

DESIGNART TOKYO 2021の見どころ

今回の見どころを教えてください

− 山嵜氏:DESIGNART TOKYO 2021は、現代のクリエイターの特徴がよく出ている回になったと思っています。近年、「ある特定の素材を何年もかけて実験し、自分のものにした上で作品を完成させる」というアプローチが若い世代に増えていて、MULTISTANDARDもその色がよく現れているクリエイターだと思うので、そういった観点でも作品を見てほしいですね。

田渡氏:そうですね、それは自分たちも感じているところで、今年は実験的にいろいろな方向から考えている出展が多いですね。“出展者だから”とかではなく、純粋に“見る側”としてもワクワクする実感があります。

− 山嵜氏:あとは概念的なことになりますけど、DESIGNARTとしては“クリエイターのパーソナリティ”を見どころとして押さえてほしい気持ちがあります。

アートやデザインの業界では、市場で起用されるクリエイターが偏っていることが課題の一つです。なので、来場者にはDESIGNART TOKYO 2021で見つけた好きな作品を通して、世の中にはたくさんの魅力的なクリエイターがいることを知ってもらいたいと思っています。

最終的には、同イベントに出展したクリエイターたちが市場で起用されるなど、この先の道を開拓できるきっかけを掴んでもらえると嬉しいです。

− スダンリー氏:この方針は私たちクリエイターにとって、とてもありがたいことです。単純に「会期中だけ展示の場を提供する」ということではなく、DESIGNART TOKYOはしっかり作り手を市場にプッシュしてくれるんですよ。単純なイベント規模だけではなく、そこに他とは違った魅力を感じています。

作品購入というデザインシーンの創造

クリエイターのパーソナリティがよくわかる展示とは?

山嵜氏:例えば、ワールド北青山ビルにて行われた展示「KURADASHI (クラダシ) 」では、参加クリエイターがプロトタイプの作品を展示・販売するという試みを行いました。“蔵出し”というその名の通り、様々な理由で市場に出ることなく眠っている秘蔵の作品を集めています。

通常、クリエイターのアイデアが“商品”として企業を通して市場に出る場合、クリエイターがゼロイチで生み出したプロトタイプに様々な人の意見や商業的な理由が加えられ世の中に出ていきますよね。勿論それは必要な工程なのですが、そのプロセスを介する前の素の状態は、よりそのクリエイターのキャラクターやカラーが露わになります。

来場者には、ぜひKURADASHIで様々なプロトタイプを見てもらって、自分の好きな作品やクリエイターを見つけ、作品の購入をしたり、新たな作品の依頼をしたりしてほしいですね。

KURADASHI 出展作品 (写真左「CRACK AND SHRINK_VOLCA」 右「BTF」 / 秋山 亮太)

展示されている作品を購入できるのですか?

− 秋山氏:そうなんです、出展作品は基本的に購入が可能です。僕らの企画内でも既に何点かバイヤーやコーディネーターの方が購入されました。

日本は同じアジアの韓国や中国と比べても遥かに「デザイナーやアーティストの作品を購入する概念」がない国なので、販売を前提として出展させてもらえるアートイベント自体貴重なんですよ。

田渡氏:それでいてイベント自体は商業的じゃないのがまたいいよね。純粋にモノづくりの多様性を押し出している感じがイベント全体を通して伝わります。

最近でこそ同様のイベントを見かけるようになったけど、DESIGNART TOKYOが始まるまでは同じようなイベントが大規模で行われることはなかったので、新しい日本のデザインシーンを創造しているなと頼もしく感じています。

MULTISTANDARD at DESIGNART TOKYO

「1-15-22 Apartment」の見どころは?

− 山嵜氏:前回はギャラリーを借りて展示をしていた彼らですが、今回は廃墟ビルで行っているところが見どころの一つではないでしょうか。会場の空間づくりから全員で行ったんだよね?

− 田渡氏:床・壁・天井、全てこの会期に向けて整えました。見どころといえば、会場の他にも昨年と大きく違うことがあって、今年はキュレーションという形で出展を行っていることが特徴です。

4階建のビルをアパートメントと見立てて、僕ら以外のクリエイターの作品も、この共同住宅に“入居”させるというコンセプトのもとで企画を進めました。

2階「the NEIGHBOR」にて、佐藤伸昭氏による作品
4階「LOOK INTO YHE CURVE」にて、山口ひかり氏による作品

− 山嵜氏:彼らの今回の取り組みのように、自主的に他のクリエイターを巻き込んでくれることは主催側としても嬉しいことですね。

新しい価値観に触れられる場所

このキュレーションに共通項はあるのですか?

− 田渡氏:先ほど山嵜さんが仰っていた「素材に着目した実験的な作品」というのが共通項ですかね。僕らと同じような作風のクリエイターに声を掛けて展示をしています。

− 秋山氏:素材をテーマにした作品は、直感的にわかりやすい作品なので、見てもらえたら興味を持ってもらえると思います。

直感的にわかりやすいとは?

− 田渡氏:もともと自身の中にある素材の概念を崩すような新しい概念や価値を与える作品を作っているので、そのモノの素材を知った上で見るとさらに興味を持ってもらえるんじゃないかと思います。

− 秋山氏:例えば、僕らが展示している「chopping (チョッピン) 」は、国産材・ヒノキを薪割りの手法で割り、背合わせにして作ったスツールです。割れた部分がプロダクトの外形を作っているのですが、ヒノキでなければこの様な風合いは出ません。

製材された木材を割ることにより生まれるフォルムは木の性格に委ねられる

− 田渡氏:杉やヒノキを代表する日本に多く分布する針葉樹は、柔らかく傷が入りやすい性質から、家具に適しているとはあまり言えません。まっすぐに成長する性質を持つので、建材にはとても向いているのですが、それも多くを外材に頼っているのが現状で、日本は森林大国でありながら、実は国産材の使用が主流ではない国なんです。

一時、間伐材利用を通して、杉やヒノキなどの国産材利用を活性化するプロジェクトが沸きましたが、それも一過性のブームとして過ぎ去った印象を持っていました。そういったことを踏まえ、それならまったく別の視点からヒノキの性質をプラスに捉え最大限に活かしたプロダクトを作ってみるのもいいかもと思ったんです。

− 田渡氏:また、今回展示しているもう一つの作品「oozing (ウージン) 」は、通常見せるモノではない接着剤をあえて装飾として露出し、“存在としての格上げ”を行った作品です。

国産材も接着剤もそれぞれ現状の価値が低かったり、素材としてネガティブに捉えられたりと、皆が「こうだ!」と思っている固定観念は必ずあります。その概念を良い意味で僕らの作品で壊して、素材の持つ可能性を面白く思ったり、刺激を受けたり、何かしら感じてもらえると嬉しいですね。

接着剤をデザインの一部として露出させたスツール「oozing」

時流と作風が合致する未来

業界に対しての課題や今後の期待はありますか?

− スダンリー氏:やはり日本はまだまだ生活とアートが切り離されている印象がありますね。特に建築との関係性を深めていく必要があると思っています。

− 山嵜氏:そうだね。住空間はアート・デザイン作品にとってかなり重要な要素だと思っています。日本の住宅は賃貸も多く、内装などのほとんどがいじれないので、そもそもの不動産の条件がアートに適していないんですよね。もっと世の中でクリエイティブへの理解が深まって、少しでも条件の緩和ができれば、アート作品やインテリアを楽しめる住空間が増えていくと思います。

− スダンリー氏:逆に私たちも狭小住宅に合うような作品や、かっこよくて社会性のあるような作品の模索も必要になってくるのかな。でも、売れるモノや有名なモノが良いとされる風潮をなくしていきたいと思っているので“合わせる”というのは違うよね。

− 秋山氏:“合わせていく”というニュアンスより、僕らのスタイルと世の中のフォーマットが合う作品が作れたら良いなとは思うよね。僕らの活動が自然に世の中にハマれば良いなって。

− スダンリー氏:それでいうと、我々の作品は誰もが共感して一般ウケするようなモノではないから、どう伝えれば魅力的だと感じてもらえるか、“伝え方”が大きな課題なのかもしれないね。

− 田渡氏:うん、そうだね。必ず共通項はあるはずなので、それを探っていきたいと思います。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

新たな価値観とパワーを感じられるDESIGNART TOKYO 2021

「所有する喜びを感じられるクオリティの高さがDESIGNART TOKYOにはあります」と言い切る山嵜氏。それを判断するのに“客観的目線”は不要だと言う。周囲が良いと言っている、世の中で流行っている、そういった他人任せな基準でなく、「自分が良いと思った」それだけで良いのだ。むしろ、自分にとって“主観”以上の価値はないのだと言う。

この観点はセレクトショップの発展にも同様のことが言える。トレンドを追うことも勿論欠かせないが、一方でショップならではの主観も非常に大事なのである。それが独自の“パーソナリティ”となっていき、そのパーソナリティ (=スタイル) を以て世の中、あるいはエンドユーザーとの共通項を探ることも一つの手段であろう。

大事なことは今回紹介したMULTISTANDARDから感じられたような、自分の目やスタイルを信じる気持ちと、それに驕らず己の感性や腕を磨き続ける努力ではないか。そういった新しい気づきとクリエイティブの力を感じられるイベントとしてDESIGNART TOKYOをお勧めしたい。

また、今回の取材を経て、市場には伸び代が充分にあることがわかったのではないか。今後も日本のアートやデザインシーンで活躍するクリエイターの台頭が楽しみだ。併せて、世の中のアートへの理解も一層深まっていくに違いない。その時、ライフスタイルに関わる者として、どんな暮らしの提案ができるのか、暮らしとアート、暮らしとデザインが生み出す作用とは何なのか。MMD TIMESはそれらを追求し、発信していくことで市場の活性化を期待する。

Recommend