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DESIGNART TOKYO 2020に懸ける想い

2017年に始動した日本最大級のデザインとアートの祭典〔DESIGNART TOKYO (デザイナート・トーキョー) 〕が今年も開催されている。世界屈指のミックスカルチャー都市である東京を舞台に、世界中からインテリア、アート、ファッションやフードなど、さまざまなジャンルのモノやコトが集結し、都内を回遊して展示を楽しめるイベントだ。MMD TIMESでは昨年の「DESIGNART TOKYO 2019 Vol.01」「DESIGNART TOKYO 2019 Vol.02」に引き続き2年目の取材となる。

30年後まで見据えて始動したというこのイベントは今年で4年目を迎え、2019年の来場者は約22万人だったという。そして2020年、誰もが予期しなかった“with コロナ時代”の中でイベントの在るべき姿とは。DESIGNART TOKYO の発起人であり、代表を務める青木昭夫 (アオキ アキオ) 氏に、今年のイベントに懸ける想いや見どころを伺った。

DESIGNART TOKYO 2020
http://designart.jp/designarttokyo2020/
2020年10月23日(金)~11月3日(火・祝)
会場:表参道・外苑前 / 原宿・明治神宮前 / 渋谷 / 代官山 / 六本木 / 新宿 / 銀座
DESIGNART 発起人:青木昭夫 (MIRU DESIGN) / 川上シュン (artless Inc.) / 小池博史 (NON-GRID/IMG SRC) / 永田宙郷 (TIMELESS) / アストリッド・クライン (Klein Dytham architecture) / マーク・ダイサム (Klein Dytham architecture)

現在のデザイン&アート市場

今のデザイン・アートの市場とはどんな状況なのでしょうか

− 青木氏コメント:2020年3月以降、新型コロナウイルスの影響でイベントやアートフェアが次々と中止になり、外出自粛や消費意欲の低下から市場も打撃を受けました。一方で「暮らしを省みる」という良い機会もあって、アートや植物など、家の中に気持ちの良いモノを置きたいという需要や、身体を守る・リラックスするという意味でのインテリアへの注目、家具の需要は高騰しているでしょう。

人々の注目するモノが変わったことで、消費者がこれまで触れてきたモノにも新たな価値が生まれ始めています。お金を掛けてこなかったモノにお金を掛けたり、いらなかったモノが欲しくなったりしました。

供給側の変化といえば「技術革新」ですね。今なお圧倒的なスピードで進化して消費者とのタッチポイントを増やしています。SNSはもとより、オンラインミーティングなどにも各社積極的です。こうしたコミュニケーションはエンドユーザーにも確実に浸透しているので、店舗だけで勝負をしている企業はいよいよ厳しい時代に突入したと感じているのではないでしょうか。

視点を変えて文化を再起動する

そんなコロナ禍に開催されるDESIGNART TOKYO 2020のテーマは?

− 青木氏コメント:「POWER TO THE CREATIVES」です。ジョン・レノンの曲のタイトル「POWER TO THE PEOPLE」からインスパイアされました (笑) 。一人ひとりが力を持つことで世の中をもっとよくできる、確実に変えていけるんだ、というメッセージが込められています。

ネガティブとポジティブは常に表裏一体なので、逆境の中でも視点を変えて創意工夫していくことで、デザインとアートの文化を”再起動”していきたいと思っています。

− 青木氏コメント:再起動のために進めていきたいことは大きく2つあって、ひとつめは”原点回帰”です。コロナ禍で「地方創生」が急速に進んだように、以前に増して人々が自然豊かな場所や気持ちがいい環境での生活や仕事を求めるようになりました。こうしたニーズにアートやデザインの力で応えることで、より新しい生活、新しい文化への促進ができるのではないかと考えています。

もうひとつは「審美眼を磨くこと」。現代は情報に溺れている人が多くいると感じています。ありすぎる程の情報や選択肢に対して、人の意見を受けて選ぶのではなく、自分で考えて選ぶことのできる人を増やしたいんです。そのためにも、パブリックアートやデザインミュージアムを創り、人々がモノづくりに触れる機会を増やしたいと思っています。

ジャンルレスなエキシビジョン

今回のポイントを教えてください

− 青木氏コメント:全体を通していうと「ジャンルレス」ということです。デザイン・アート・インテリア・映像など全てのジャンルが一緒に展示されていて、70ある会場がまるでひとつの美術館のようです。中でもオフィシャルコンテンツの3つは、この時代を象徴するインスタレーションを楽しめます。

時代を反映した3つのオフィシャルコンテンツ

3つのオフィシャルコンテンツとは?

− 青木氏コメント:ひとつは「REBOOT at JASMAC AOYAMA」です。イタリアの建築デザイナー・アルドロッシ氏が設計したジャスマック青山の別世界のような空間で合同展示会を行います。

今年は世界最大の家具の祭典「ミラノ・サローネ (ミラノデザインウィーク) 」が中止になり、例年、ミラノ発信でスタートしていたトレンドやビジネスがストップしてしまいました。

そこで、ミラノ・サローネへのオマージュも込め、デザインとアートの文化を日本からイタリア・ミラノ、そして世界に発信、REBOOT (再起動) すべく展示会を行っています。

建築デザイナー・アルドロッシ氏が設計したジャスマック青山の外観

− 青木氏コメント:もう一つは同様にコロナの影響を受けて企画した「NEW HOME OFFICE 展」です。世界的に有名な家具ブランド6社が一堂に集まった新しいホームオフィスアイテムの展示もぜひ注目していただきたいですね。

会場はワールド北青山で、空間構成は建築家の神谷修平氏です。展示物はその場で購入も可能ですが、会場構成自体も見どころなので、見てまわるだけでも大きな刺激になると思います。

世界的に有名な家具ブランドが一堂に集まる「NEW HOME OFFICE 展」

− 青木氏コメント:最後のひとつ、表参道ヒルズで開催されている「DESIGNART GALLERY」は、「風穴を開ける」という言葉がキーワードです。

UNDER 30を含む国内外の新進気鋭のデザイナーやアーティストたちによる革新的な作品の展示を行っていて、まさにデザインとアートの境界線に風穴を開けています。

若手支援プログラム「UNDER 30」 による作品にも期待

− 青木氏コメント:18世紀より前は棲み分ける概念自体なかったデザインとアートですが、産業革命を機に資本主義の中でどんどんカテゴライズされ、今や別のモノとして認識されています。

現代のデザインとアートはそれぞれ定義は違えど、本来クリエイティブとしてひとつに繋がっているものなので、原点回帰してそれぞれの境界線を越える企画を設けました。

新たなオンラインの取り組み

昨年までにはない新たな取り組みはありますか?

− 青木氏コメント:マーターポート (3Dスキャンカメラ) を使ったオンラインエキシビジョンです。Googleストリートビューのような感じで会場内を見ることができるので、実際に来られない人もまるで会場にいるかのように楽しめる展示になっています。また、販売中のものに関しては、そのままECサイトに遷移して購入できる商品もあります。

各社が会期前からYouTubeでPR動画を公開するなど、出展企業の皆さんもオンラインでの取り組みには積極的で、どの内容も面白いものばかりです。会期以外でも情報発信やコミュニケーションが取れるという基盤が整っているのは、今回のコロナショックを受けてのポジティブな一面だといえますね。

チャンスをインプットする場所

セレクトショップに携わる人たちにメッセージをお願いします

− 青木氏コメント:この場所で何か”チャンス”を掴んでもらいたいですね。そのチャンスをどこに感じるか、それは皆さんそれぞれだと思いますが、会場にはディスプレイや新しいモノの見方、価値創造などたくさんのヒントが溢れています。それこそ境界線に風穴を開けて、いろいろなモノやコトをインプットできる場として活用してもらえたらいいですね。

IT技術の進化で、プロモーションから販売、接客や展示会までもがオンライン化していく中で、リアルな店舗をどう工夫するか、リアルだからこその情景や劇場空間としての気付きを是非このイベントでキャッチして、活かしてください。

そして、インプットしたコトが実際にセレクトショップをはじめとするライフスタイル業界でアウトプットされた時に、境界線を越えた「POWER TO THE CREATIVES」としてデザインとアートの力を感じることができれば嬉しいです。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

デザインとアートが持っている力

DESIGNART TOKYO 2020の今年の会期は11月3日(火・祝)まで。「このようなコロナ禍で出展を決めてくれた100以上のアーティストや企業の方々は熱量も高く、展示の内容も面白いです」と青木氏はYouTubeに上げられているPR動画を見ながら紹介してくれた。

会場は全部で70箇所あるので、デジタルガイドブックやオンラインエキシビジョンから事前に情報収集した上で、ゆったりと日数を取って計画的に見てまわるのがおすすめだ。どの業界も今が「挑戦の時代」。自分の中にある境界線に風穴が開いた時、セレクトショップの新たな文化が見つかるかもしれない。そのチャンスが今回のDESIGNART TOKYO 2020にあるはずだ。

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