2023.02.21.tue

A°CTS SHOPが提供する“安心”

  • A°CTS SHOP

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“笑顔”と”安心”を想像し創造するA°CTS SHOP

中目黒の目黒川沿いに佇む赤い木枠の扉が印象的なアパレルショップ「A°CTS SHOP (アクツショップ)」は、店内にどこかホッとする温かさが漂う。

その安心感を求めてか、このお店へショッピングに訪れる客は後をたたず、店内ではスタッフとの会話をゆっくりと楽しむ姿が見られる。

「安心感があるお店」とショッピングという消費行動にはなにか関連性があるようだ。

令和3年に消費者庁が行った調査 (出展:令和3年度消費者意識基本調査) の結果報告によれば、「消費者が商品やサービスの購入を検討する際に重視しているもの」の多くは、これだけECが普及しているにもかかわらず、「店頭・店員」がトップの38.3%に及ぶ。

さらに、「買う前に機能・品質・価格等を十分に調べる」「多少高くても品質の良いものを選ぶ」「実際に商品の現物を確認してから買う」という消費行動が多くみられるという結果が出ている。

つまり消費者は、商品を自分の目と耳で確かめ、安心してから購入したいということだ。こうした消費者の“安心”というニーズに対して、アパレル業界においても、これまで以上に寄り添っていく必要性を感じる。

では、 “安心”はどのようにして消費者に提供できるのだろうか。

今回の取材では、A°CTS SHOPを運営する有限会社アクツ オブ フェイスで、代表取締役を務める高野博次 (タカノ ヒロツグ) 氏に、ショップでの消費者に対する想いと取り組みを伺い、その模範から「“安心”を提供する」方法を紹介したいと思う。

A°CTS SHOP (アクツショップ)
https://www.instagram.com/acts97/
東京の中目黒、桜並木で人気の目黒川沿いに店舗を構える。オリジナルブランド「A°CTS (アクツ)」や「BIB (ビブ)」、そして全て手作業でハンドル刺繍を施す「Broder (ブロダー)」を展開。アイテムはユーモアのあるデザイン性に加え、機能性が備わっているのが特長。オリジナルブランド以外にも、セレクトされた遊び心のあるバッグや小物などのアイテムも豊富に取り揃えている。 

消費者とデザイナーの想いを繋ぐデモンストレーション

ショップを立ち上げたきっかけを教えてください

− 高野氏コメント:「アパレル業界でデザインをしたい!」という昔から抱いていた夢を叶えたく、今から26年前に東京の中目黒で事務所兼ショールームをスタートしました。

当時はクライアントからご依頼を受けて主に洋服の制作をしていたのですが、ある日、個人的にデザインしていたサンプル品を目にした通りがかりの方から、「ぜひそれを譲ってほしい」と言われたんです。

その出来事が自分のデザインの自信に繋がり、ショップを立ち上げる後押しとなったんです。それから自分でデザインしたブランドを販売する今の A°CTS SHOPを中目黒にオープンしました。

26年前の中目黒はどんな街だったんですか?

− 高野氏コメント:中目黒は今でこそおしゃれなお店が立ち並び、お花見の時期にも人気スポットですが、当時はアパレルや飲食のショップは数店舗しかなく、桜の木も繰り返す川の氾濫被害で、幅を広くする工事によって植え替えられたばかりの若木でした。今のように話題に上るような場所ではなかったんですよ。

ですが、既にファッションの街として確立されていた、恵比寿や代官山に程近い中目黒を直感的に選びました。

開店当時は、ここまで今のようなビジネスチャンスが広がる土地に成長するとは想像できませんでしたが、なぜか自分が笑顔でここに立っている姿が目に浮かんだんですよね。

やがて年月を経て、若木だった桜の木もだんだんと大木へと成長し、飲食店やアパレルショップも増えて、口コミにより現在のにぎやかな姿となりました。

こうした移り変わりをずっと見続けてきたので、このショップは街や桜の木とともに成長したともいえますね。

赤い木枠の扉が印象的なエントランス

ショップの特徴はなんでしょうか?

− 高野氏コメント:「デザイナーが身近に感じられる距離感」です。

“街の手打ちそば屋さん”みたいなイメージといったらいいでしょうか。

そもそも私たちは「アクツに関わる全ての人の“笑顔”のために、デザインで利益追求しながら技術向上に努める」ということを理念に掲げています。お客さまの笑顔が見られるよう、意見が聴けるよう、距離感を縮められるような環境を大切にしているんです。

具体的にはどんな環境でしょうか?

− 高野氏コメント:作り手の顔が見えるように、お客さまとコミュニケーションを取りながら実際に「ハンドル刺繍」が見られる場所を店内に設けています。

ハンドル刺繍とは、“手ハンドル”と呼ばれるミシンを手作業で操作していくアナログの刺繍のことです。現代ではコンピューター刺繍が主流で、既にハンドルミシンの生産自体が終了していて、扱える人も少なくなってしまいました。

ショップではそのような数少ない100年前のミシンを使って、チェーンステッチによる文字や絵を刺繍しているんですよ。

ミシン台の下に付くハンドルを手で操作し描いていく「ハンドル刺繍」

− 高野氏コメント:作業は私一人で行っているので、1日に完成できるアイテムは2~3着となり、どうしてもお客さまに仕上がりまでお待ちいただくケースが起こります。

ECサイトなどでオーダーすれば商品がすぐ手元に届くという今の時代ですが、あえて「スピード」ではなく、手作業で丁寧に作り込まれていく「待つ楽しみ」を味わっていただけると嬉しいですね。

私自身もお客さまが手に取るときの笑顔を想像しながら、じっくり最高のモノを作り上げています。

遊び心から生まれる商品展開

どういった商品がありますか?

− 高野氏コメント:オシャレというのが大前提として、思わずクスっと笑ってしまうような遊び心のあるデザインやコンセプトの商品を扱っています。また、デザイン性だけでなく機能性を持たせることも重視していますね。

たとえばオリジナルブランド「Broder (ブロダー)」の商品には、オーダーでハンドル刺繍を施せるのですが、そのデザインをお客さまと決めていく会話のなかで、「胸のポケットにペンホルダーがあると便利だね」というご意見がありました。

そこで私は胸ポケットに刺繍で仕切りをつくり、さりげなくペンホルダーを作ってみたんです。その仕上がりのデザイン性と機能性が想像以上に良かったとお客さまからも好評でした。

ハンドル刺繍によって作られた胸ポケットのペンホルダー

− 高野氏コメント:また、もう一つのオリジナルブランド「BIB (ビブ)」の代表アイテムの一つであるワークエプロンは、電車にも乗れるワンマイルウェアとして着ていただけるデザインですが、ポケットを多く配置したり、肩が凝らないようにベルトを太くしたりといった機能性にも優れています。

ワークウェアとしても、カフェの店員さんや家具屋さん、ガーデニングショップさんなど、さまざまな職種のプロの方たちから喜んでいただけてますね。この服を着用することで、仕事モードへ切り替えるスイッチとなっているようです。

肩部分のベルトを太めにデザインしたワークエプロン

高野さんが全てデザインしているのですか?

− 高野氏コメント:BIBはデザイナーの“リチャード”が担当しています。彼はアメリカに移住したイギリス人の仕立て職人で趣味は登山です。基本的には地図や行動食を入れられるようなポケット付きのデザインを考案していますね。そのほかにも座った時にお尻の部分が汚れないよう、後ろの身頃を長めにとったデザインなども特徴です。

このような背景で商品展開をしているのですが、実はリチャードは架空の人物です。私が全てデザインしています。すみません (笑)

リチャードは私の商品作りへの想いを投影したキャラクターで、多くの人がこのブランドに親しみを持ってくれたらいいなと思いストーリー設定をしました。遊び心、デザイン性、機能性、全部ひっくるめて私たちのアイテムがお客さまを笑顔にすることができたら嬉しいですね。

中央:デザイナー「リチャード」

おすすめ商品をご紹介ください

− 高野氏コメント:BIBの「シカゴ1」は、お客さまの使用後の状態やご意見を参考にして、9年間改良を重ねながら展開してきたロングセラーです。

これは「リチャードがシカゴを通ったときにインスパイアされた服」というのがテーマとなり、使用していくほど、色落ち具合や素材の柔らかさなど、味が出てカッコよくなっていきます。

ワンマイルウェアとしても着れるBIBのワークエプロン「シカゴ1」

− 高野氏コメント:それからBroder の「エンジニアコート」も人気商品です。定番のエンジニアコートなんですが、私が一つひとつ手作業で刺繍を施すので、全く同じに仕上がることはありませんから、世界に一つだけのモノとして楽しんでいただけます。

また、カスタマイズする刺繍デザインによって、さまざまなメッセージ性が生まれるところも、この商品の面白いところですね。

ハンドル刺繍でオリジナリティが出るBroderの「エンジニアコート」

商品の入れ替えタイミングはいつですか?

− 高野氏コメント:私は人気のあるデザインはどれも入れ替えることなく、定番として残していきたいと思っています。

通常、アパレル業界ではSSやAWで商品を入れ替えることが多いですよね。でも、このショップに関しては新作も作りますが、時代の流れに合わせてブラッシュアップしつつも、定番化することで、お客さまがまた同じデザインを手にすることができるようにしています。

ユニフォームとして実際に使用されていたワークエプロン

− 高野氏コメント:有料でリペアサービスも行っており、気に入ったデザインのモノが汚れたり壊れたりしても、リペアや、ショップでまた同じデザインのアイテムが手に入ると思えば、お客さまも安心して購入できるのではないでしょうか。

コミュニティで拡げるA°CTS SHOPの世界

社会におけるショップの役割とはなんでしょうか?

− 高野氏コメント:2011年の東日本大震災直後、当然ですがどのショップも閉めていたので、街は静まり返り夜は真っ暗でした。そんな状況のなかでも、もしかしたら私たちのアイテムを求めている方々がいるかもしれないと思い、少しでも街の人の役に立てるならばと、私たちはショップを開け続けることを決めたんです。

その結果、不安を抱えていた街の多くの方々は、私たちのショップを見て「暗い街のなかに明るい街灯が灯ったかのようでホッとした」と、のちに話してくれました。

その言葉を聞いて、私たちが「平常でいること」がこの街を安心させられるんだと気づいたんです。

ショップの役割とは、商品のみならず、こうやって街や人に安心感を提供し、元気にすることなのではないでしょうか。

これからもずっとこの街を元気にしていきたいので、日頃から街の人たちへの挨拶はもちろん、通りがかる皆さんへ積極的にお声がけするようにしています。

ショップが育ったこの街で、皆さんに笑顔と安心を提供しながら、一緒に成長していけることが何よりですね。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

”笑顔”と”安心”を提供するショップのつくり方

消費者がショッピングに求める“安心”とは、生産背景を知る安心、つくり手とコミュニケーションが取れる安心、いつもと変わらない環境にいられる安心などさまざまである。

高野氏が運営する同ショップには、そうした安心を求める人たちに対して、心に寄り添うデモンストレーションやコミュニケーションの場といった大きな器が用意されていた。

そして同氏は安心を提供することをベースに、常にみんなの笑顔を想像し、笑顔を創造するためにはどうするべきかを考え邁進している。

同ショップのように、「街と一緒に育つ」ということを大切にしているからこそ、街の人の不安をとりのぞき、笑顔を提供できるショップとなれるのではないだろうか。

これからも街と一緒に育っていくショップが、予測不能な社会において“安心”という一つの灯りであり続けるにちがいない。

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