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顧客体験をアップデートするための仕組み作り

FREAK’S STOREの+PLUS MIRRORを使用する女性

DXとはデジタルトランスフォーメーション (Digital Transformation) の略であり、デジタル技術によって人々の生活やこれまでのモノのあり方が変化することをいう。近年では、ファッションやインテリアを扱うライフスタイル業界にも浸透してきている言葉の一つだろう。

しかし言葉は耳にするものの、実際にビジネスへ落とし込むのはなかなかハードルが高いようだ。なぜならDXとは単純に情報や技術をIT化するのではなく、モノとインターネットを繋げるIoT化でもなく、その先の“変革”までを含んでいるからである。デジタルデータや技術を使って“変革”を起こしてこそDXといえるのだ。

ライフスタイル業界全体を見渡しても目立ったチャレンジはまだまだ少なく、どの企業やブランドも手探りであることが窺える。そんななか、世界初のオリジナルインタラクティブミラーを開発・導入したセレクトショップが現れた。株式会社デイトナ・インターナショナルが展開する「FREAK’S STORE (フリークス ストア)」だ。

2022年3月、名古屋パルコ店での導入を皮切りに、新宿にあるFREAK’S STORE MEN’S + ANDY FREAK’S STOREと船橋にあるFREAK’S STOREららぽーとTOKYO-BAY店のリニューアルオープンに合わせて3台が始動。75インチ4Kモニター内蔵の高さ約2メートルにもなるミラーは店舗の入り口に設置され、デジタルサイネージとしても活躍している。

FREAK’S STORE 新宿店 FREAK'S STORE MEN'Sの店頭

店舗に訪れた顧客は、そのミラーを使って商品タグをスキャンすることでスタッフのスナップや在庫状況の確認をしたり、今着ているコーディネートを識別させ、おすすめの商品を提案してもらえたりする。さらにはAIによるさまざまな診断を受けることができ、自分に似合う服もわかるというから驚きだ。まさにオフラインとオンラインが融合する最新のOMO店舗といえるだろう。

今回は、そんな革新的な取り組みを行う同社のDX本部に所属する目黒希望 (メグロ ノゾミ) 氏に、前例のない取り組みにかけた想いを伺った。また、店舗DXを成功へと導くために追求したという“実店舗の価値”についても、興味深い話を聞くことができた。これから先の新たなセレクトショップの在り方を考えてみてはいかがだろう。

FREAK’S STORE ロゴ
FREAK’S STORE (フリークス ストア)
https://www.freaksstore.com/
積極的に楽しむ生活体験者=フリークとして、アメリカンライフスタイルの楽しみ方を提案するセレクトショップ。「アメリカの豊かさとワクワク・ドキドキを日本に伝えたい」という想いからスタートし、1986年の創業以来、洋服、雑貨、インテリアなど自分たちが本気でカッコ良いと思うものをセレクトしている。2022年10月現在、全国50店舗展開。名古屋パルコ店を皮切りにリニューアルショップにて、世界初のオリジナルインタラクティブミラー「+PLUS MIRROR (プラスミラー)」が体験できる。

OMOでシームレスな体験を作る

FREAK’S STORE_+PLUS MIRRORの説明をする目黒氏

目黒氏の業務内容を教えてください

− 目黒氏コメント:DX本部というデジタルにまつわる領域を統括する部署に所属しています。当社は昨年から経営方針にDXを掲げていて、本格的にECサイトの改修やOMO店舗を実現させるための取り組みを始めました。

そのなかで私の業務は、UIUXセクションで顧客体験をアップデートするための仕組みやサービスデザインを考えることです。ここ1年は、ECサイトのリニューアルプロジェクトなどWEBの仕事と並行して、新店や既存店舗のリニューアルオープンにデジタル担当としても加わり、UXの向上に努めています。

リニューアルオープンした新宿のFREAK'S STORE MEN'S + ANDY FREAK'S STOREの店頭
リニューアルオープンした東京・新宿にある「FREAK’S STORE MEN’S + ANDY FREAK’S STORE」

デジタル領域の方が実店舗の立ち上げメンバーに加わるんですね

− 目黒氏コメント:今はDXという言葉が実店舗に対しても関わってくるので必要なポジションです。買い物という行為自体に「店舗なのかデジタルなのか」という境がなくなってきていて、実際にほとんどのお客さまが意識をしていません。

FREAK’S STOREとしても、オフラインとオンラインのどちらか一方にこだわるのではなく、行き来しやすい環境を整え、お客さまにとって、その時々のシーンに合わせて便利なチャネルで情報に触れてもらい商品を購入してほしいと思っています。そういったシームレスな体験を作るのがOMOとして大事なんです。

株式会社デイトナ・インターナショナルのDX本部に所属する目黒希望 (メグロ ノゾミ) 氏

仕事をする上で大切にしていることはありますか?

− 目黒氏コメント:「本当にそれを客観的に想像できているか」ということを常に考えています。自分の見解が独りよがりじゃないかということを確かめるために、職場の人、家族、友人など、なるべくリテラシーが異なる人たちからそれぞれの話を聞いて、自分なりの正解を見つけるようにしていますね。

UIUXについては、アートなどの自由で正解がないものとは違って、正解があるものだと思っているんです。ユーザーが直感的に理解をして操作できるかどうか、その操作をできる人がどのくらい多いかが重要で、そういった“わかりやすさ”という前提があったうえで、ちょっとしたワクワク感や遊び心といった新しいエッセンスがあると面白いですよね。

いまECサイトのフルリニューアルに向けても稼働しているので、そこでもたくさんの人の意見や行動を見聞きして、より多くの人が直感的に使いやすくてストレスのないサイトに改修していきたいと思っています。

実店舗の価値を上げる「+PLUS MIRROR」

+PLUS MIRRORのイメージ画像

リニューアルオープンした新宿店の特徴は?

− 目黒氏コメント:店長の言葉を借りると、「いまのデイトナ・インターナショナルを体現するショップ」です。オープンする直前の朝礼ミーティングで聞いて、とてもしっくりきた言葉でした。今回導入した「+PLUS MIRROR (プラスミラー)」だけが目立つ店舗ではなく、アナログでもデジタルでも、いまFREAK’S STOREがかっこいいと思うモノを集めて、それらがお互いを殺し合うことなく、いい塩梅でモノの良さを体現できるようなアイコンショップを目指します。

また今回のリニューアルに合わせて、これまで同ビルの6階にあったメンズ店舗をレディースと同階の地下に下ろしてきました。最近は女性でもメンズを着たり、その逆もあったりするので、メンズとレディースとの距離を縮めることでジェンダーを超えた買い物ができるようにしています。

新宿にあるFREAK’S STORE MEN’S + ANDY FREAK’S STOREの店内の様子
「FREAK’S STORE MEN’S + ANDY FREAK’S STORE」

「+PLUS MIRROR」について教えてください

− 目黒氏コメント:「本当の“似合う”が見つかる!」をコンセプトとしたオリジナルインタラクティブミラーで、AIカメラによる商品のレコメンドはもちろん、フェイス・パーソナルカラー診断、ファッションタイプ診断など大きく分けて主に5つの機能を搭載しています。

このミラーの実装までに、本当にたくさんの議論を重ねました。ミラーというモノありきではなく、「店舗での新しい発見」や「ワクワクする体験は何か」ということに対して、いろいろなアイデアのなかから最終的なアウトプットとして+PLUS MIRRORができあがったんです。そして、+PLUS MIRRORのお陰で実店舗の価値を改めて考えることにもなりました。

+PLUS MIRRORで表示される商品の在庫状況やレコメンドアイテムの画面
在庫情報の確認や着用アイテムをAIカメラで判定し、おすすめアイテムの提案を受けられる
+PLUS MIRRORで表示される星座診断の画面
星座と直感的なモチーフの選択を掛け合わせた診断結果からコーディネートも提案される
+PLUS MIRRORでできるフェイス・パーソナルカラーの診断結果を印刷した紙
フェイス・パーソナルカラー診断の結果はオフラインである紙でも持ち帰れる

実店舗の価値とは?

− 目黒氏コメント:「そこでしかできない体験ができること」だと考えます。今の時代、ECで買い物をする方が便利で合理的なシーンはたくさんあると思いますが、人はわざわざ店舗に来て試着をし、スタッフとコミュニケーションをとりながら買い物しますよね。その時間こそが価値では無いでしょうか。

私は社会人になってIT業界を経て現職に就いたのですが、アパレルショップの実店舗で働いた経験は大学生時代のアルバイトのみでした。それでも経験がないわけではなかったので、店舗の現状もわかったつもりでいたんですよね。

でも、+PLUS MIRRORを初めて導入した名古屋パルコ店のオープンに立ち会ったとき、それが本当に“つもり”であって、全く現実を想像できていなかったなと感じました。

当日は激しい雨が降っていた平日だったんですけれど、オープンから何人ものお客さまが足を運んでくれていたんです。それだけでも驚いたのに、なかにはスタッフに花束を持ってきてくれたり、泣きながら喜んでいたりするお客さまの姿もあって、そこでお客さまとスタッフの関係性を本当の意味で理解しました。その光景を目の当たりにして、「モノの良さももちろんあるけど、人なんだな」と思ったんです。「こんなに強い関係をデジタルが超えられるのか、勝てないな」とも思いました。

その経験があって、自分が企画するものがどういうモノであるべきか改めて指針が持てたんです。実店舗の価値がずっと消えないような、ショップスタッフとお客さま、またはお客さま同士が強く繋がるきっかけ、コミュニティを作る手助けになるモノを作っていきたいと思うようになりました。

+PLUS MIRRORについて説明する目黒希望 (メグロ ノゾミ) 氏

消費者へ期待することはありますか?

− 目黒氏コメント:とにかくお店に来て楽しんでほしいです。+PLUS MIRRORもその動機の一つになってくれたら嬉しいですね。「楽しいからFREAK’S STOREに行きたい、長い時間いたい」と思ってもらえることは、今の時代、商品に興味を持ってもらうことと同じように価値があると考えます。ぜひ気軽にお店に来て、その楽しかった気持ちや体験を持ち帰ってほしいですね。+PLUS MIRRORの導入でモノを買うだけじゃない、「自分を知るため」という新しい来店動機ができたことは、ショップにとっても大きなメリットになっています。

主語を見直す必要性

新宿にあるFREAK’S STORE MEN’S + ANDY FREAK’S STORE店内で展開される、新熱海土産物店ニューアタミのSOUVENIR STORE

ファッション業界について思うことはありますか?

− 目黒氏コメント:業界全体として見ると業績は落ち込んでいて、そんななかでどの企業も「何をやらないといけないのかわからないけど、何かやらなきゃいけない」という状態だと思います。でも、その“何か”が必ずしもデジタルである必要はありません。

DXという言葉を多く耳にするようになり、私もDX本部に所属はしていますが、私たちが本当に考えなければいけないことはDXについてではなく、お客さまのニーズです。お客さまは何が一番楽しいのか、ワクワクするのか、そういう視点で考えることが大切で、その議論なしに「何かしなきゃ」というのは主語が“お客さま”ではなく“自分”にすり替わってしまっていると考えます。

そうはいいながらも、ファッション業界は改善すべき古いアナログな体質が残っていることも事実です。そこを私たちが+PLUS MIRRORをはじめとする新しいデジタルの技術を取り入れながら、価値を継承しつつ今のあり方を変えていきます。

実際にFREAK’S STOREで実証実験して得た成果を一つの成功事例として、スキームを含めて他企業やブランドに提供していくことも業界全体を盛り上げることに繋がるのではないでしょうか。そのためにも、今回のリニューアルオープンは店舗DXとして成功だといえるよう、改善を重ねてお客さまへより良い体験を提供していきたいです。

FREAK'S STORE新宿店の看板の前に立つ目黒希望 (メグロ ノゾミ) 氏

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

新しいセレクトショップのあり方を見つける

FREAK’S STORE MEN’S + ANDY FREAK’S STOREの店内の様子

取材当日、ミラーを前に我々取材班は確かにワクワクしていた。そして、初めて目にする最新技術を前にアパレルショップの確かな変革を感じたのだ。今後、このようなOMO店舗は確実に増えていくに違いない。

セレクトショップのDX化を考えた時、そのカタチは決して一つではないだろう。今回取材を行ったFREAK’S STOREの「実店舗の価値を高めるためのデジタル技術の活用」という考えも答えの一つ。その他にも未開拓なことがまだ多いのが、このデジタル領域である。

今回の取材を参考に、消費者のニーズについて改めて考えてみてはいかがだろう。「やらなきゃいけないことは、DXではなく顧客のニーズの先にある」そう語る目黒氏の本質を捉える姿に感銘を覚えた。消費者や顧客をとことん見つめなおしたとき、探していた適当な手段が自ずと現れるのかもしれない。

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