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「地球と社会に優しい」というブレない想い

エシカル (倫理的) という言葉を日常的に耳にするようになった今、自分だけのためでなく、社会や環境にも良い商品を購入しようという「エシカル消費」に働きかける企業が増えている。しかし、実際には消費者の消費行動にはまだそこまで反映されていないという現状があるようだ。

消費者庁による全国の16歳~65歳の一般消費者を対象にした調査 (出典:エシカル商品に関する消費者意識調査) の報告書によれば、エシカル消費に繋がる商品やサービスに対して、購入の意向がある人は全体の81.2%にまでのぼるものの、購入経験者は39.7%に留まっている。

実際の消費の場面では、消費者がエシカル商品を手に取らないのは、価格が高いことや種類の少なさなどさまざまな要因はあるだろう。それに加え「エシカル」という言葉そのものの認知度は8.8%と決して高くない数字である。一つには、含む意味合いが茫漠としているため、認識が広がらないものと推測できる。

エシカルの例を挙げると、消費では流通経路の短い居住地の食品を消費する地産地消に加え、復興支援や障がい者の方が作った商品の購入もエシカル消費に含まれる。さらには過剰包装問題などに対するエコバック持参など、SDGsにつながる行動もエシカルといえる。個々の問題意識の差がこの言葉の浸透を阻害していると考えられるのだ。

では、どのようにすればエシカル商品が認知度だけでなく、実際に消費者の身近なモノとして届くのだろうか。それには、企業が「エシカル」という言葉を販売戦略的に打ち出すよりも、商品自体にもっと自然に組み込ませていくことが必要なのかもしれない。

例えば、本来捨てられていた素材を再利用してアップサイクルされた商品であったり、商品の原料仕入れ先は発展途上国で、その現地の人々の生活を支える取り組みがなされていたりといったようなエシカル商品の展開である。

つまり、商品そのもののデザインやクオリティは高いまま、気付かない間に消費者がエシカル商品を手に取る流れの創出を指す。そのようなモノづくりの取り組みでライフスタイル業界ができることはなんだろうか。

「エシカルは結果論なんですよ」。天然のアーティフィシャルフラワー&ポプリとして人気のシリーズ「ソラフラワー」を主力商品として展開している、有限会社三和トレーディングで代表取締役兼CEOを務める猪股観自 (イノマタ カンジ) 氏はそう話す。企業はこれから「エシカル」にどう取り組むべきなのか、そのヒントを見つけるため話を伺った。

有限会社三和トレーディング (サンワトレーディング)
http://www.sanwatradinginc.co.jp/
「日本人のライフスタイルを心地よく、豊かにしたい」という思いで“アロマ&フレグランス”、“ボディケア”、“バスコスメティックス”を中心に商品の企画、卸、販売までを行う。オーストラリア、ニュージーランド、タイ、イタリア、ポーランド、イギリスなど、世界中から選び出した「心、躰、地球に優しい」商品を通じて、お客さまに喜びと感動を与え、また社会貢献できる企業であることを目標としてさまざまな商品を展開している。

関わる全ての人が幸せになるエシカルな社風

事業において大切にしていることはなんですか?

− 猪股氏コメント:「心、躰、地球に優しい商品」を企業理念としています。会社を立ち上げたのは2004年ですが、キャリアとしては前職から合わせると33年になり、その時から「日本人のライフスタイルを心地よく、豊かにしたい」という想いをずっと持ち続けてきました。それは、お客さまに喜びと感動を与え、満足に繋げていくことが、我々にとっての喜びであり使命であると感じているからです。

また、全てのステークホルダーが幸せであることも大事にしていることの一つですね。人が会社を創り育てるわけですから、クライアント、従業員、地域社会、行政、消費者など、我々の商品に関わる全ての人たちが幸せな気持ちでいられるのが理想だと思います。

− 猪股氏コメント:商品開発に関していえばギフト用の新商品を考えるとき、贈られる人よりもまず贈る人が満足することを想像するんです。我々の商品は主にギフトとして購入していただくことが多いので、贈られる人だけでなく贈る人も幸せな気分でいてほしいですからね。

贈る人の気持ちを考えて贈り手のセンスが光るデザイン、気軽なギフトとして贈りやすい価格を設定しています。加えて、贈られる人の気持ちを汲んだ「消えモノ」のアイテムであることも開発にあたって重視していることです。贈られる側からすると、部屋の模様替えや引越しなど、環境の変化によってモノを整理するときには、消耗品のほうがありがたいっていうこともありますよね。

では、社員が幸せになる取り組みとはどのようなものでしょうか?

− 猪股氏コメント:普段は思い切ってできないようなことにもチャレンジしてもらえるように、社員それぞれの誕生日には私からプレゼントを渡すほか、バースデー特別手当を支給しています。それを社員のみんなには好きなように使ってもらうんです。

ある人は特別手当を使って親子でハーバリウムづくりの体験に参加されていました。そうした体験談を社内で共有することで、コミュニケーションの場も増え、楽しく業務が行えているようですよ。

エシカルなソラフラワー

商品について教えてください 

− 猪股氏コメント:我々の主力の商品シリーズとして「ソラフラワー」があります。これは、セスバニア (ソラの木) というマメ科の木を乾燥させ、皮を薄く剥いてシート状にし、それをお花の形に仕立てたものです。

インテリア業界ではディスプレイとして、香りの業界ではポプリやディフューザーとして、またフラワー業界ではブーケとしてなど、幅広い用途があり国内外で人気のある商品です。

もともとソラはイネと一緒に自生して生育を妨げるものでしたから、コメ農家の人から見れば、ただの“雑草”でした。食用としても美味しいものではないですし、燃料としても軽くて使えないため、刈り取ってその場に放置しておく以外の方法はなかったんですよ。

しかし放置されたソラは異臭やガスを発生するので、環境にも悪影響がありました。そこで現地の人が何とか資源としてうまく使う方法はないかと試行錯誤した結果、編み出されたのがソラフラワーなんです。

資源を無駄なく美しく変化させた、まさにサステナブルでアップサイクルなモノですよね。それをデザイン性や香りなどをアレンジして発展させ、当社のソラフラワーが生まれました。

乾燥しているソラの木
アップサイクルされて生まれるソラフラワー

エシカルな取り組みをするきっかけは?

− 猪股氏コメント:何か大きなきっかけがあったというより、関わる人みんなが幸せになることに焦点を当てていたら、結果的にエシカルな事業になっていた、というのが正しい答えかもしれません。ソラの仕入先である発展途上国の田舎は、農業がメインの産業であり、農作業ができない農閑期には、現地でできる仕事はないため、男性が都心に出稼ぎに行かなくてはならないんです。

そこでソラフラワーの事業を確立すれば、農作業がない時期も、地元でソラフラワー商品に携われることで、男性は出稼ぎに行かなくても済みます。女性も地元でできる仕事で収入が得られますしね。こうした地元での安定した仕事の供給を実現すれば、家族が一緒に過ごす時間をもっと増やせるだろうなと思いました。

もちろん商品を流通に乗せるのは簡単なことではありませんでしたね。外国の労働者の教育などは奮闘しましたが、そうした苦労の末、商品に関わる人たちが幸せになる循環を生み出せたので、この事業は我々にとっても大きな喜びとなり、エシカルな取り組みとなりました。

広がるソラフラワー

人気商品はなんでしょうか?

− 猪股氏コメント:定番のおすすめ商品は、“飾れるポプリ”として人気の「ソラフラワーリース」と「グラスボウル」です。これに香りを後から付け足す「リフレッシャーミスト」がギフトとして特に人気があります。

人気の理由としては、お花の漂白していない天然の白さが、エレガントな空間、カントリー風な空間、アジアンテイストな空間など、どんなシチュエーションにも合う点です。ライフスタイルショップやフラワーショップなどで多くお取り扱いいただいています。

ドアノブやフックにかけられるタイプの「ソラフラワーリース」
写真中央「リフレッシャーミスト」 写真右「グラスボウル」

ソラフラワーを通じて消費者に期待することは?

− 猪股氏コメント:まずはとにかくソラフラワーを楽しんで癒されてほしいです。そこから商品に興味を持って、エシカルな背景を知っていただけたら嬉しいですね。また、より多くの方にソラフラワーを知っていただくために、当社では三つの取り組みをしています。

一つは展示会への出展です。ここでは主に企業さま向けに実際に商品を手に取っていただける機会を作っています。

二つ目はデモンストレーションとワークショップの開催です。これは消費者の方々との触れ合いが目的となります。ソラフラワークリエイターによる実技で、どのようにして制作しているのかを知ってもらったり、ワークショップでソラフラワーを一緒に作って楽しんでもらったりするために体験の場を設けています。

− 猪股氏コメント:最後に、指導者育成のための教室の開催です。講習を受講してもらい、次世代に繋ぐソラフラワーの技術者や指導者を育成する目的で行っています。

ソラフラワーの歴史は、まだわずか60年で伝統工芸としては若い芸術品です。しかし、地球環境や雇用というエシカルな観点からしても、途絶えさせてはいけないモノだと思っています。こうした技術者育成の場を通して、これからも知識や技術を次世代に継承し続けたいですね。

将来の夢を教えてください

− 猪股氏コメント:「山椒のような存在」になりたいです。それは万人ウケする業界のトップを走る企業ではなく、どこかひとクセあるような、印象に残る企業でありたいということです。そのためには、今行っている展示会、デモンストレーションとワークショップ、指導者育成の三つの取り組みをさらに強化し、オンリーワンとして注目してもらえるような面白い取り組みにもどんどんチャレンジしていこうと思っています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

楽しくさりげないエシカル商品

現代の地球環境を考えたとき、この先も私たちが心地よいライフスタイルを送るためには、エシカルな取り組みは一過性ではなく、サステナブルでなくてはならないだろう。猪股氏は関わる全ての人が幸せになることを軸に、ソラフラワーという商品を通して地球の資源を大切に扱い、雇用を生み出して社会を豊かにしてきた。

また同社では、そうしたエシカル商品の情報を消費者に届けるために、デモンストレーションやワークショップ、技術者育成教室など、消費者がエシカル商品をより身近に感じられるための取り組みを積極的に行っている。こうした取り組みは、決して消費者にエシカル商品を押し付けるものではなく、消費者が商品に親しんだ後、結果的にエシカルであることに気づかせてくれるのだ。

このように「豊かな経験」が自然と「エシカル消費」になるのであれば、消費者にとって最も満足できる消費行動になるのかもしれない。

つまり企業は消費者にさりげなくエシカル商品を提供すれば、「エシカル消費」を単なるトレンドとしてではなく、継続させる手助けができるのだろう。

同社においては、これからもエシカル消費を継続させるべく、エシカル商品に工夫を加え、楽しい見せ方で消費者の身近なモノとして届けてくれるに違いない。

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