2022.10.04.tue

ショップスタッフが活躍できるDX

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ショップスタッフをDX化「STAFF START」

“個”が重視されつつある時代のなかで、社員やスタッフに対する評価は複雑化している。例えばショップスタッフの場合、接客をしたものの会計にまで至らなかったということもあるだろう。しかし顧客は、帰宅後にオンラインで商品を購入したかもしれない。逆も然り、店舗で何のコミュニケーションもなく商品が売れたかと思えば、実はスタッフが SNSで発信したスタイリングをきっかけに、店舗へ足を運んだのかもしれない。

OMO (Online Merges with Offline) が進むなか、こういった事象が発生しているのが昨今の買い物の特徴だ。では、その売上は誰の評価に繋がるのか。企業にとって、現代ならではの新たな課題といえるだろう。

昨今のインテリアやアパレルを含むライフスタイル業界は、ショップスタッフの入れ替わりが比較的激しいことで知られている。原因は、ライフステージに合わせた労働環境の提供が追いついていなかったり、パフォーマンスに対する待遇が見合わなかったりとさまざまで、入れ替わりどころか人材不足に陥る大きな課題である。

個人の評価を明確にすることは、この課題も解決へと導いてくれるのではないか。自分の働きが正しく評価されることで、スタッフ一人ひとりのモチベーションは上がる。つまり「個の評価」を明確にすることは、「働き続ける理由」を与えることに繋がるのだ。

今回は、人材評価という現代に必要不可欠なテーマと向き合いたい。取材を行ったのは、ショップスタッフをDX (Digital Transformation) 化させる“スタッフテック”サービス「STAFF START (スタッフスタート)」を提供する株式会社バニッシュ・スタンダード。

同サービスは、2016年のローンチから現在までアパレルを中心に、インテリア、コスメ、食品、家電といった小売から、 結婚式場などのサービス業まで、さまざまな形態・業種の企業で「個の評価」をテックの力で「見える化」している。

今回話を伺ったのは、同社取締役CXO である大貫 BOB 隆之 (オオヌキ ボブ タカユキ) 氏。現職に至るまで、同サービスの立ち上げ当初から UI / UX設計から開発までを行ってきた人物だ。「常識を革める」ことを社名 に掲げる同社の革新的なサービス「STAFF START(スタッフスタート)」に迫る。

株式会社バニッシュ・スタンダード
https://www.v-standard.com/
VANISH STANDARD (=消す・常識) という社名にも表現されるように、「つまらない常識を革め、おもしろく生きる人を世界中に」というパーパスのもとサービスを展開する企業。2016年に「STAFF START (スタッフスタート)」をローンチ。2021年12月現在、導入ブランドは1700にのぼる。

好きなことを続けられない“つまらない”常識を革める

サービス内容について教えてください

− 大貫氏コメント:STAFF START は、ショップスタッフのDX化 (=デジタル技術を用いて、既存の在り方から変革すること) を図るサービスです。まず、 ショップスタッフの皆さんには「STAFF START」というアプリケーションを使用してもらいます。そのアプリを介してECサイトやSNSに投稿をすることで、消費者の購入経路の追跡を可能とし、ショップスタッフ個人と売上を紐付けできるようにしているんです。ある投稿を通してEC購入があった場合、企業はどこの店舗の誰の投稿を通して、いつ何が売れたというデータを受け取ることができます。

こういったショップスタッフと顧客とを結ぶ機能をE2C (Employee to Consumer) と呼び、具体的にはスタッフのコーディネート写真に商品情報を紐付けて投稿する「コーディネート投稿」、動画で実際に商品を手に取った時の使用感や肌触りなどを伝えられる「PLAY」、写真や動画、テキストなどで記事作成ができる「まとめ 」、自社の商品レビューをスタッフが投稿する「スタッフレビュー 」など、用途やアウトプットの形に応じて使い分けていただけるように実装しました。

これら機能により、アウトプットされたコーディネート投稿や動画、レビューなどを通してショップスタッフが顧客に接客を行い、企業はその売上や貢献度を可視化することで、個人や店舗の評価に繋げます。

STAFF START (スタッフスタート)
https://www.staff-start.com/
ショップスタッフをDX (Digital Transformation) 化させる“スタッフテック”サービス。ショップスタッフと顧客との良い関係をオンライン上でも構築していくE2C (Employee to Consumer) 機能を提供している。オンライン上の売上がスタッフに還元されないという従来の常識を覆す、ECと実店舗を融合させた新しい試み。

立ち上げのきっかけは?

− 大貫氏コメント:代表である小野里寧晃 (オノザト ヤスアキ) が、ショップスタッフに注目したのがきっかけです。今はインフルエンサーという人たちがいて、ブランドや商品のPRをしていると思うのですが、ショップスタッフ個人の力もインフルエンサーに負けないくらい凄いとずっと考えていました。

ショップスタッフは自分の所属するブランド愛が本当に強いので、より誠実な情報発信や集客、接客ができると思うんです。しかし一方で、労働環境や待遇の悪さが原因で辞める方が多いのも事実で、小野里の周りにもそういう友人がいました。

実際に、個人の評価が明確にならず、給料が変わらないために辞めていくという話は珍しくありませんよね。店舗単位で売上が評価されるので、個人の給与などに反映されないというショップはまだ存在します。たくさん売る人とそうでない人の待遇があまり変わらない、というのもよくある話です。そこに不満を抱くのは店舗で頑張っている優秀な人材ですから、優れた人材からどんどん辞めていってしまう=売上が落ちるという悪循環が生まれます。

さらに昨今では、ECサイトでの買い物が当たり前になり、オンライン上での売上が誰の影響なのか分かりづらく、評価基準もより曖昧で複雑になりました。ECの黎明期でさえ、「ECのせいで仕事がなくなった」とショップスタッフ から声が挙がるほどでしたからね。ECに加えSNSや動画配信サービスなど、チャネルもアウトプットの方法も多様化した現代で、昔と同じ評価制度を進めていくのは、いよいよショップスタッフにとっても企業にとっても厳しいのではないでしょうか。

STAFF STARTは、そういった革めるべき常識、「ショップスタッフが好きな仕事を続けられない“つまらない”常識をぶち壊していこう」という想いからできました。頑張っている人が然るべき評価を受け、モチベーション高く好きな仕事を続ける。それは結局、目先の人員不足解消だけでなく売上にも繋がりますし、企業にとってもメリットでしかないと思うんです。

すべてはショップスタッフのEXを高めるため

事業を進めるうえで大切にしていることはありますか?

− 大貫氏コメント:「使ってくれているショップスタッフの方々にどれだけの価値を与えられているか」ということは、個人的にも会社としても常に考えていることです。使う人が便利だと思ってくれるだけでなく、ちゃんと評価されて幸せになってくれるといいなと思っていますね。ただ作るだけではなくて、作ったあとに価値が出せているかに重きを置いています。

例えば、STAFF START もローンチして終わりではなく、LINE株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:出澤 剛)が提供する個人・法人向けアカウントサービス「LINE公式アカウント」とかけ合わせた新サービス「LINE STAFF START」をリリースしたり、接客技術で日本一のショップスタッフを決めるコンテスト「STAFF OF THE YEAR (スタッフ オブ ザ イヤー)」を開催したりしています。

LINE STAFF STARTでは顧客とのやり取りが企業側で可視化できる

− 大貫氏コメント:このようにスタッフのEX (Employee Experience) を高めるために、働く環境や接客の仕方を変えていく提案、輝ける場所の提供をこれからも進めていきたいです。ショップスタッフ中心の考え方というのは、当社ならではじゃないかなと思います。オンライン接客やオンラインでの投稿を通した売上の可視化や、売上のランキングを見られるようにすることで、ショップスタッフという職業に新たな文化を作っていきたいです。

個の力「スタッフの発信」のポテンシャル

クライアントに期待することは?

− 大貫氏コメント:ぜひショップスタッフの力を信じて取り入れてほしいと思っています。現状、企業の発信は「ブランドの発信」と「スタッフの発信」の大きく2つに分かれますが、どの業界もまだまだブランド発信に頼っていることが多いですね。ブランドの発信はかっこいいしイメージしやすい一方、スタッフの発信は、そのブランドの想いを体現するとともに、より顧客に寄り添った発信をしていると思うんです。それを見てファンになる消費者って絶対数います。

実際に我々のデータでは、スタッフの投稿を経由した方がオーガニックよりもCVRが高いという結果が出ています。また、ファンを多く持つスタッフがヘルプで別店舗に立った際に、その店舗のレコードが出ることもあり、ショップスタッフが持つポテンシャルは、まだまだあると思っています。

一部企業では、販売の仕事を軽視する人や、ショップスタッフに代わりがいると思っている人がいるのかなと感じることもありますが、その価値観を変えていきたいですね。スタッフの職場環境は、改善されたとは未だ言い難い状況です。スタッフのEXを高めることは、企業の売上や利益の向上に繋がる重要なことだと信じているので、もっとたくさんの企業やスタッフの方々にSTAFF START を広め、体験を通して実感してほしいですね。今後も、ショップスタッフのニーズを汲んだ新しいサービスをどんどん実装していきたいと思っているので、楽しみにしていてください。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

企業にとっての個人という戦力

MMD TIMESでは、これまでも「ZOZOが繋げるDtoC」や「BEAMSのメディアコマース『B印MARKET』」などで、“個”の力について注目してきた。これからの時代、これまで以上に企業は自身で抱える人材を一つひとつの“戦力”として強く認識していかなければならない。一人が持つその力は1なのではなく、10にも100にも広がる可能性を秘めているのだ。

接客業という業種を業界の枠組みを超えて見ると、そのあり方は個人の活躍の他にAIの活用にも拡がってきている。飲食業界ではタッチパネルで注文をし、ロボットが給仕するというシステムで営業している店舗もあるほどだ。一方で、嗜好品を売っていくライフスタイル業界での接客は、今もこれからも“人の力”が必要ではないだろうか。スタイリングや使用シーンの提案、消費者一人ひとりの悩みや相談に合わせた細かなコミュニケーション、それらが人に取って代わってAIロボットにとは、まだまだならないはずだ。

そこで同じデジタルの力を使って、ロボットに接客させるのではなく、人の力をより磨けるように、力のある人の環境改善を図ったのが、今回取材をしたSTAFF START ではないか。新たな評価が業界の新たな文化を創る。――取材を通してバニッシュ・スタンダードの掲げる「常識を革める」という言葉の本質、そして価値を知ることができた。

「誰かが不利益になるものは絶対に流行らないと思っているんですよ」と語る大貫氏。例えショップスタッフのためになっても、企業や消費者にメリットがないサービスでは意味がないという、導入企業にとっては頼もしい味方である。勢いのある同社が今後リリースしていく取り組みが楽しみだ。

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