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真のMADE IN JAPANデニム
現在の衣料の国内生産量をご存知だろうか。その割合、わずか2%。今や販売されているほとんどの衣料が海外からの輸入品なのだ。
80年代半ばは国内生産が輸入を上回っていたものの、90年代後半から日本のファッション産業全体で海外生産が増え、低価格帯の量販店に限らず、百貨店やセレクトショップなどでも輸入製品が増えていった。
MADE IN JAPAN――この言葉は今もなお“信頼”の印として世界で機能し続けているのだろうか。我々は日本ならではの技術とこだわりで国内外に多くのファンを持つ日本製ブランド「KURO (クロ) 」に話を伺った。
KUROが日本のみならず海外からも評価される理由は、技術の高さだけではない。2010年、イタリアでのブランド立ち上げ当時からアパレル業界が直面している環境汚染への課題に取り組み続け、日本を代表する世界標準のブランドとして成立している。
今回は、立ち上げ当初からデザイナーとしてブランドを牽引してきた八橋佑輔 (ヤツハシ ユウスケ) 氏に話を伺った。KUROの考える“MADE IN JAPAN”の魅力と、これからの業界のあり方とは何か。世界のアパレル業界から見た日本について考える。
KURO (クロ) https://kurodenim.com/ 有限会社ブルースが運営するブランド。日本人の瞳や髪の色である「黒」をブランド名の由来とし、黒紫、漆黒、墨色、黒鳶などの言葉に内包された日本語の「黒」が持つ繊細さをブランドコンセプトにコレクションを展開。GINZA SIX店をはじめとする国内直営3店舗及び100以上の国内外セレクトショップにおいて販売されている。
職人の顔が見えるアパレルブランド
KUROについて教えてください
−八橋氏コメント:「本物を着る。文化を着る。妥協なき現代の日常着。」をコンセプトにデニムをはじめとする様々なコレクションを展開しているブランドです。
我々は日本の職人の熟練した技術によるモノづくりを大切にしていて、生地の開発から縫製までを日本国内で行っています。
意外とそういうところって少ないんですよね。日本製として市場に出ている商品の中には、生地生産や縫製を海外工場に委託しているブランドが意外と多いんです。
KUROでは、生地・縫製・加工と各工程がどの工場で行われているのかをトレーサビリティ (追跡可能な) タグを付けて明記しています。
−八橋氏コメント:通常であれば知られることのない工場名が商品に刻まれ、エンドユーザーの元まで届くということは、職人や工場のモチベーションの向上、さらには品質の維持向上にも繋がると思うんです。
もちろん、エンドユーザーに対しても、職人の顔が見える信頼ある商品として認知してもらう目的もありますが、長年お世話になっている職人さんや工場自体のブランド価値を上げたいという想いもこもっていますね。
モダナイズされたブランドの世界観
ブランドデビューはイタリアからなんですね
− 八橋氏コメント:イタリアのフィレンツェで行われている世界最大級のメンズファッションの展示会「PITTI UOMO (ビッティウォモ) 」でデビューしました。
日本のデニムブランドとして発表し、世界各国のバイヤーの反応を見ることができました。ヨーロッパの方々はとにかく褒めてくれますし、ウケはよかったですね。
その3年後、原宿に初の直営店をオープンしました。現在、直営店は東京2店舗と大阪に1店舗の計3店舗です。直営店はKUROの世界観を最大限に表現できる場、いわゆるショールームとしても活用しています。
− 八橋氏コメント:建物や内装、什器にもこだわりを持っていて、すっきりしたシンプルでミニマルなデザインを意識したところが特徴です。
デニムブランドというと、無骨で味のある素材を使うイメージがあるかもしれませんが、KUROの店舗はモダンで洗練された空間づくりをしていて、デニムブランドらしくない新しい見せ方にこだわっています。
世界に認められる技術の高さ
KUROの商品が愛される理由は何だと思われますか?
− 八橋氏コメント:やはり日本人ならではの熟練の技術ですね。デニムは昔からコアなファンが多く、細かなこだわりを持った方がたくさんいらっしゃいます。
デニムという細部まで見られるアイテムだからこそ、細やかな日本の技術が力を発揮し、そこに魅せられ購入していく方が多い印象です。
例えば、KUROのデニムはポケットのステッチひとつ取って見ても縫製技術の高さがわかります。海外のデニム工場だと中々こんなに均一で丁寧な手仕事ができないんですよ。
− 八橋氏コメント:今季発表したアップサイクルコレクションにもそれが現れています。
アーカイブを繋ぎ合わせてひとつの新しいアイテムをつくっているのですが、作家さんがリメイク商品として1本だけつくることはあっても、これをブランドが商品として流通させるとなると大変な労力と技術力が必要です。
簡単に真似できるものではないので、海外からの問い合わせも多いですね。
− 八橋氏コメント:もともとデニムはあえてラフなつくりにすることでいい味わいを表現できるものでもあるのですが、この緻密なデザインと均一さがKUROの表現する日本製デニムの特徴で人気の理由だと思っています。
また、縫製だけでなく、生地や加工についても同様に高度な技術が詰め込まれています。生地で言えば、定番アイテムの「モンスターストレッチ」が特徴的で、驚異的なストレッチ性を持ちながらもデニムに求められるビンテージ感のある見た目を維持することに成功しました。
− 八橋氏コメント:「着心地の良さと見た目の良さを両立したデニムをつくりたい!」と思い、約2年の歳月をかけ、広島のデニム工場と糸の開発から製品化までを行いました。
− 八橋氏コメント:従来のストレッチデニムが伸張率130%、伸長回復率60%と言われているのに対し、このモンスターストレッチデニムは、伸長率160%、伸長回復率90%もあるんです。これは今までのデニムの概念を覆す数値で、試着すると一発でその違いと着心地の良さがわかります。
世界から見た日本ブランド
業界が抱える環境汚染の問題について思うことはありますか?
− 八橋氏コメント:ブランドとしては「サステナブル」と言う言葉が広がる前から力を入れていた点ではありますが、世界的な視点で見ると日本の意識はまだまだ遅れがあるように思います。
海外では環境配慮をした商品でないと購入しないと謳っている企業があるほどで、サステナブルであることが標準化してきているんです。これからどんどんその流れが日本にも浸透していくことは間違いありません。
− 八橋氏コメント:この世界的な流れから、日本の企業がサステナブルな商品やサービスを展開するのと同時にエンドユーザーの意識も変わっていくでしょうね。
無駄なモノを買わなくなったり、その分長く使えるモノを選んで買い換える頻度を落したり、コロナショックの影響も助長して、エンドユーザーの意識はより加速して変化していくと思います。
KUROはこの変化に対応できるブランドとして、長く着てもらえる質の良い商品を提供し続けることが使命だと感じます。
− 八橋氏コメント:近年では環境問題だけでなく、ジェンダーの問題もシビアになりつつあります。実際に我々のブランドはユニセックスな展開をしていることもあって、ジェンダーレスなアイテムを求めた問い合わせや購入も増えてきているんですよ。
日本のアパレル企業は世界的に見ても膨大で、良く言えば活気がある、悪く言えば飽和状態なんですよね。ですが、それも今まさに淘汰されてきています。
サステナブルやジェンダーなど、世界の環境・社会問題に対して、真摯に向き合い対応できる企業が残っていくのではないかと考えます。
日本のデニムを発信し継承する
今後の展望を教えてください。
− 八橋氏コメント:日本のブランドとしてワールドワイドに事業を継続することです。海外に出て仕事をしていると、日本の独自性の強さをつくづく感じます。
日本は島国ということもあって、海外との文化の違いはもちろん、ファッションのトレンドの違いもあるように思います。展示会に行くと日本のブランドはどこか落ち着いているというか、いい意味で浮いているんですよ。
その日本の独自性をKUROというブランドで追求し、日本の職人の技術を持って発信していきたいと思います。
また、ブランドとしては、世代の入れ替えに貢献したいと思っています。僕はまさにデニムブームの中で生きてきましたが、今の若い世代はその時代を知りません。
若い人へデニムの魅力を伝えていけるよう、今の世代にあったデザインやコミュニケーションを駆使して、デニムや技術の継承を牽引するブランドを目指しています。
インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。
日本のモノはどう評価されていくのか
今回取材したKUROは、日本の職人の技術の高さ、技術を活かした独自のデザインや機能だけでなく、環境問題まで考慮したモノづくりを行っている。その全ての要素がクリアされた商品こそがKUROの生み出す“MADE IN JAPAN”の価値を持ち、世界に発信されるべき日本製の信頼の印なのだろう。
MMD TIMESではこれまでに環境問題やSDGsへの取り組みに積極的な企業やブランドを取り上げてきた。従来、つくり手がイノベーションを起こし技術の発展を続けてきた流れが今、ユーザー主体に変わろうとしている。使い手の意識の変化、世の中の課題によってビジネスや商品にイノベーションが起こりはじめているのだ。
これらの課題に取り組むことは、いち企業・ブランドの取り組みというだけでなく、今後すべてのものづくりのベースとなり、さらには世界に対して発信する“日本の対応”となるに違いない。
コスメやファニチャー、アパレルなど、業界や商材によって抱える課題や解決方法は異なるだろう。MMD TIMESは業界を跨ぎ気付きを与えるメディアとして、企業やブランドの課題解決の鍵となる情報を発信していきたい。