Contents

時代に合わせたカタチで復活

1975年に日本で初めてのセレクトショップがオープンしてから現在に至るまで、ショップの数はもちろん、各ブランドの認知や扱うアイテムの幅・カテゴリなどあらゆる方面へ変化や進化が見られる。そして、店舗の売上に大きく関わる「出店場所」も変化が見られる要素の一つだ。

かつては買い物客で賑わう商業施設や、路面に行かなければ出合えない“街中にしかない存在”だったセレクトショップも、駅ナカや空港などあらゆる環境に違和感なく溶け込み、さらにはオンライン上にしか存在しないショップもある。

このような変化はエンドユーザーにとって、セレクトショップがより身近な存在として受け入れられていることの表れだろう。ライフスタイルの変化に伴うニーズの多様化、そこに併せてタッチポイントやチャネルの開拓がなされるのは必然的といえる。

今回は“実店舗を持たない”カタチで再始動をした「Vulture JOURNAL STANDARD (ヴァルチャー ジャーナル スタンダード) <以下:Vulture>」を取材した。VultureはJOURNAL STANDARD (ジャーナル スタンダード) のコンセプトレーベルとして2009年にリリースされており、8年の時を経て新たに再スタートを切った。

再始動するにあたって注目したいポイントはその形態だ。Vultureは独立店舗運営から一新、常設販売を止めて、場所を変えながらPOPUPで商品を販売するという新しい試みを取っている。その形態の特徴を「Vulture号」と称したクルマをモチーフに表現する捻りのあるアイデアも面白い。

MMD TIMES 取材班は、VultureのMDであり再始動の仕掛け人でもある鈴木敦史 (スズキアツシ) 氏に、再開までのストーリーとレーベルへの想いを伺った。

JOURNAL STANDARD (ジャーナル スタンダード) 
https://journal-standard.jp/
オリジナルと国内外から集められた商品による、ベーシックでスタンダードなアイテムと旬のブランドをミックスした独自のセレクトブランド。カテゴリーに囚われないグローバルな商品と情報を常に提案している。

クルマで移動販売するショップ構想

8年越しの再開のきっかけを教えてください

− 鈴木氏コメント:実は、4〜5年前にもVultureの再始動とは全く関係ないところで、クルマを使った移動販売の企画を会社に提出していたんです。

その時は実現することなく終わった企画だったんですけど、当時のアイデアが偶然、今のウィズコロナのニーズと重なって、企画を覚えていてくれた上司が、「クルマでの移動をキーワードにVultureを再開したい」って声を掛けてくれたんですよね。そこから改めて企画を詰めて、Vultureの再始動というカタチで実現しました。

Vulture JOURNAL STANDARD (ヴァルチャー ジャーナル スタンダード) 
https://baycrews.jp/feature/detail/3645
JOURNAL STANDARDのコンセプトレーベル。SKATE / SURF / OUTDOOR / MUSIC / ARTなどのアメリカンカルチャーに根差した商品を厳選し展開する。常設販売は行わず、スクールバスを連想するようなクルマ「Vulture号」で各地を移動しPOPUPでの販売を行う。

当時はどんな想いでクルマでの店舗展開を企画したのでしょう?

− 鈴木氏コメント:単純に「面白そうだな」と思ったんです。強いて言えば、自分のキャラクターを仕事に活かしたいと思って企画しました。

自分自身はクルマが好きで、またサーフィンが趣味ということもあって、でかいバンにずっと乗っているんですけど、そのクルマの評判が結構いいんですよね。駐車場で話し掛けられたり、SNSを通じて取材の依頼があったり、自分が好きなモノで、かつ世の中からも支持があるものを仕事に活かせたら楽しそうだなと、立案当時はそんな気持ちでした。

実際カタチになった「Vulture号」の役割を教えてください

− 鈴木氏コメント:再始動したVultureは、店舗を持って常設販売をしない形態のため、分かりやすい実体がないんですよね。そこで「Vulture号」というクルマのモチーフをVultureの実体、いわゆるアイコンとして置きました。移動手段というクルマの役割と、POPUP販売という業態との親和性もあってうまくハマったと思います。

店舗がないからできるコト

常設販売をしないと決めた理由は?

− 鈴木氏コメント:厳選した良いモノ、常に「その時フォーカスしたいモノだけ」を紹介したいという思いからこの形態にこだわりました。

店舗をオープンするとなると、一通り棚を埋めるためのモノを揃えないと成立しないですよね? それに、その一つひとつが思い入れのあるモノでも、同時にたくさんの商品が入ってきて、かつPRする人数も限られているとなると、全部紹介したいけど物理的に難しい……。

ちゃんとPRに力を入れれば売れるはずの良いモノが、埋もれて売れずに残ってしまうということがどうしても発生するんですよね。Vultureではそういったことがないように、無理なく継続できる形態を目指すようにしました。

今だからこそそれが受け入れられるというか、“今っぽい”ですよね

− 鈴木氏コメント:たしかにコロナ禍の今だからこそ受け入れられるようになったと思うんですけど、「毎日営業しなくてもいいな」ということを原案当時から考えていました。

毎日営業しなければ、その分店舗に人が立つ必要がないので、通常であれば店舗に立っている時間を使って違う業務ができますよね。店頭で販売をする日もあればMD業務をする日もあったりして、一人ひとりが色んな業務を兼任して店舗を回すという考え方です。そうなるとスタッフの人数も多くを必要としないので、無駄もないし、効率がいいと思いませんか?

− 鈴木氏コメント:また、店を閉めているからといって売上が立たないなんてことはなくて、その時間を使ってプロモーション制作をしたり、SNSで情報発信したりすることで、エンドユーザーへ働き掛けることは可能ですよね。

近年は急速なEC市場の拡大もあって、その考えがより必要で現実的な時代になったと思います。一つの商品を売ろうと思った時に、プロモーションにかける時間が必要なんですよね。

自分がJOURNAL STANDARD のMDになりたての頃、ちょうど8年前にVultureが渋谷にオープンした当時は、「セレクトショップのオリジナル商品」自体がエンドユーザーからの評価が高く、極端にいえばPRできなくてもお店に来て購入してもらえるモノでした。

ただ、ここ数年はそんなことなくて、来店せずとも様々な情報をエンドユーザーが能動的に取りにいく時代に変わりました。ブランドとしては商品やその良さを常に発信していないと、店舗にすら来てもらえないという課題が生まれ、さらにいうと、こちらがどれだけ商品の価値を伝えようとしても「伝わらないモノは売れない時代」になっていますよね。

そこでVultureでは商品展開を限定していることと、常設店舗がないことを強みに、商品一つひとつのプロモーションに力を入れています。この業態のお陰で、お店をやっていない間は動画コンテンツの制作やSNS運用など、別の領域に労力を費やすことができているんです。

万人にウケなくていいという発想

レーベルのコンセプトや商品の特徴を教えてください

− 鈴木氏コメント:レーベルのコンセプトは昔も今も変わっていなくて、スケートやサーフィンなどをキーワードに、アメリカのライフスタイルを着飾ることなく体現しています。

「お洒落しました!」というようなガチガチのザ・ファッションではなく、日常で使っているアイテムをファッションと捉えて紹介している自由な発想のレーベルです。

“お洒落が好きな日本人”のイメージだと意外に思われるかもしれませんが、日本にも“飾り気のないアメリカンカルチャー”に共感を寄せる人は一定数いるので、その人たちにフォーカスして発信をしている感じですかね。ただ、一つひとつのアイテムに対して、「こういう人に刺さるはず」という狙いはあっても、Vulture全体としてのターゲット層やペルソナは設定していません。万人にウケるセレクト基準じゃないところがVultureの特徴かもしれませんね。

プロモーションありきの商品企画

オススメの商品を教えてください

− 鈴木氏コメント:ここまでお話ししたことを踏まえると、「全部!」というのが正解です (笑)。ただ、中でもプロモーションを含めて反響が大きかったモノとしては、アウトドアクリエイターとして活躍中のYURIEさんとのパートナーシップで開発したオリジナルバッグですね。

プロダクトとインフルエンサーとの親和性は大前提としてあったのですが、モノづくりの背景やこだわりを事細かに見せていくプロモーションも後押しして、売上に繋がったのではないかと思っています。

【YURIE×Vulture】for STARKE-R メッシュLONGバッグ

プロモーション内容はどのように生まれるのでしょうか

− 鈴木氏コメント:通常は商品がある程度のカタチになってから考えると思うのですが、Vultureではプロモーションありきで商品開発を行っていることがほとんどです。アウトプットをどのようにするのかが見えない企画は通らない傾向にありますね。

7月のローンチから最初の1ヶ月にPOPUPを行ったのは2回で、他期間はオンラインでの販売です。そう考えるとPOPUPを行っていない間は、プロモーションからの流入で販売に繋げるしかありませんよね。Vultureにとってプロモーション活動は要で、プロモーションが浮かんでこないと売上を作るのは難しいと思っています。

Vultureの常識に捉われないスタイル

コンテンツ制作において大切にしていることは?

− 鈴木氏コメント:“Vultureらしさ”を表現したいと思っています。Short pants every dayとタッグを組んで生まれた「ユーティリティ-シリーズ」の紹介動画は、レーベルの持つ雰囲気がよく伝わっているんじゃないかと思っています。

各動画はYouTubeチャンネルから視聴可能

Vultureらしさとは?今後の展望もお聞かせください。

− 鈴木氏コメント:商品選定もそうですが、店舗の形態に関しても、全てのことがこれまでの常識やルールなどに捉われていないスタイルをとっています。特にこれといったこだわりを持たないようにしている点も、Vultureらしさを作っている要素かもしれません。

まだまだ再始動してから月日は浅いですが、私を含め関わっている人の楽しんでいる様子や、楽しそうな雰囲気がエンドユーザーにも伝わって、実際に「楽しい!」と思ってもらえるようなレーベルに育てていきたいです。Vultureの商品がユーザーのライフスタイルにハマってくれたらとても嬉しいですね。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

アイデアをカタチにする“時”

今回のVultureの業態を“新しい”と捉え取材した矢先、そのアイデアが実は何年も前から鈴木氏の中にあったものだと知り驚いた。時代が進み、求められる新しいセレクトショップの業態として、当時のアイデアがようやくカタチになったのだ。

駅ナカや空港にセレクトショップができるなんて想像もしていなかった70年代にも、誰かの頭の中では“必要なコト”として構想されていたに違いない。

また、店舗を不定期営業とすることで、人員をプロモーションに充てるという思い切った選択も、現代という時代の理にかなう決断だ。現代において、店舗を開店させることだけが、売上に繋がる道ではないということを体現している形態といえる。

Vulture のような形態のレーベルが誕生したことは、ライフスタイル業界にとっても新しい刺激になるのではないか。一見マイナスに捉えてしまうような、現代の条件や制約をプラスに捉えられる新しい発想が、セレクトショップの発展とイノベーションに繋がるはずだ。

JOURNAL STANDARDは「JOURNAL STANDARD が再定義するスタンダード」で紹介したブランド:STANDARD JOURNAL (スタンダードジャーナル) でのYouTube企画も記憶に新しく、抱えるブランド全体からプロモーション活動に積極的な姿勢が窺える。今後も同社の取り組みと業界全体の活性化に目を向けていきたい。

Recommend