2021.05.18.tue

廃棄問題解決のためのモノづくり

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アパレル業界の課題と解決

今、世界の名立たるファッションブランドのほとんどが環境問題と向き合っている。なぜなら、アパレル産業は石油に次ぐ世界で2番目の環境汚染産業とされ、過剰生産・過剰廃棄によって引き起こされるCO2の排出、水資源の消費、そして水質汚染が深刻な環境負荷を与えているからである。

セレクトショップやブランドは、この課題にどう向き合っていくべきなのか。その姿勢は多くの企業が掲げるSDGs (持続可能な開発目標) 達成への取り組みなどに見られ、各社そのための仕組みづくりや技術革新に努めている。

今回は、そんなアパレル業界が産業として抱える課題を解決すべく、サステナブルなモノづくりを行っている企業を紹介する。アパレル業界関係者のみならず、全ての人々に世界の抱える問題解決として、他社の取り組みから自社へと活かせるヒントを得てほしい。

服から服をつくる技術

業界の大きな課題のひとつに「廃棄衣料問題」が挙げられる。毎年ファッション業界から廃棄される繊維は9200万トン。そのうちの3R (リユース、リサイクル、リデュース) 率は約26%。残りの7割以上は埋め立てや焼却処分されている現状だ。

購入に至らず廃棄されたり、使用されたのち廃棄されたりして“ゴミ”となってしまうことを防ぐために、3R促進、生産量の調整、さらにはできるだけ長く使用してもらえるような商品開発に努めることも手であろう。各企業がそれぞれにできることを見つけて積極的に取り組むことが求められる。

解決策は多く考えられるが、実際にいち企業が遂行していくにはコストの捻出やフローの確立、協業者の参画など課題も多い。

そんな中、日本環境設計株式会社は、衣類を廃棄せずに再製品化して循環させるための独自のケミカルリサイクル技術BRING Technology™️ (ブリングテクノロジー) を開発した。

ケミカルリサイクル (化学的再生法) は、原料に化学的処理を施し分子構造を解いて不純物を取り除く方法で、メカニカルリサイクル (物理的再生法) と比較するとリサイクル対象物の異物や汚れの除去という点に置いて優れている。

同社はこの開発により、衣類に使用されるポリエステル繊維をサステナブルな原料に変え、「服から服をつくる」水平リサイクルに成功し、「BRING™ (ブリング) 」というアパレルブランドを立ち上げた。単純に製品化するのでなく、機能性にも配慮したアップサイクルなモノづくりも特徴だ。

着なくなった商品は、再度同社で回収をし何度でもリサイクルできるというから驚きだ。現在、ポリエステルは繊維生産量の約6割 (5,200万トン) を占めているため、今後、同社の製品が業界全体に伝わることで、さらに大きな廃棄量削減が期待できるだろう。

裁断ゴミを0にするデザイン

廃棄される“ゴミ”は衣類そのものを指すこともあれば、生産過程で発生する生地や繊維を指すこともある。実際、繊維・アパレル業界では商品を作るのに約15%の裁断ゴミが発生する。

バッグメーカ―の株式会社スパンギャルドは裁断ゴミを一切出さないで制作されるバッグブランド「WWW (World Without Waste) BAG」を展開した。

従来のバッグの製造方法に捉われず、袋物の製造方法を見直すことで、裁断ゴミ0を実現。さらには1枚の布を使用しながらも縫代が一切見えない仕様とすることで、本来必要となってくる縫代を隠すためのテープなどの副資材を使うことなく製造を可能としている。

3way eco bag。従来の製法で発生する約13.6%の裁断ゴミ削減に成功

本製法の開発により、ゴミの削減だけでなく縫製工賃の削減にも繋がり、適正価格での販売が行えているという。

サステナブルなモノづくりとは、原料や素材などの技術開発だけでなく、職人・デザイナーの技術によってイノベーションを起こすことも可能である。つまり、ひとつの商品が作られるまでの全工程に課題解決への糸口があるのではないか。

商品の企画から製造、そしてエンドユーザーの元に渡った後までのプロセスをサステナブルに設計する力が求められる時代が来ているに違いない。

工業製品からアクセサリーを

思いもよらぬモノがカタチを変え新しい魅力を放つ時もある。「阪口竜也氏が考えるSDGsビジネス」や「香りで馨る日本の職人と伝統」でも紹介してきたように、これまで廃棄されてきたモノに価値を見出し新たな製品を作り出すことは可能であり、SDGsビジネスへのチャンスでもある。

株式会社ツクリは、水族館の水槽や百貨店のディスプレイなど内装デザイン・施工を手掛ける企業。同社が内装事業の傍らスタートさせたアクセサリーブランドが「SHITSURAE (シツラエ) 」だ。

建築物の内装デザイン・施工を行う中で、廃棄されていく美しい端材や廃材を何かに活用できないかと考え、生み出された同ブランド。全ての商品が端材や廃材のみを利用したモチーフとなっている。

アクリル を中心とした素材の数々には、あえて着色などはせず、素材の持つ本来の色味や質感、偶然できる重なりを活かしアクセサリーとしてアップサイクルしている。これらの製作過程からもわかるように、全てのアイテムが二つとない一点ものだ。

例えゴミとして廃棄されてしまっているモノであっても、そのモノの特徴を捉え、使用環境や用途など見方を変えることで新たな価値が生まれ消費者の元に届き残っていく。SHITSURAEは、工業製品とアクセサリーから「美しさを魅せる」という共通項を導き、アップサイクルを成功させている事例である。身近にある廃棄物を客観視してみると新しい価値に気づけるかもしれない。

サステナブルファッションを考える

年間10億ユーロ (約1,180億円) 相当の商品が廃棄されているフランスでは、2020年、衣類の在庫や売れ残り品の廃棄を禁止する法律が成立した。これを皮切りに世界各国でサステナブルファッションへの動きが加速することは間違いない。

安価にオシャレを楽しむため、高級感漂う上質さを追求するため、環境や生物たちの犠牲の上に成り立っていた産業が今大きな過渡期を迎えている。

とはいえ、日本のサステナブルへの意識は、欧米諸国と比較するとまだまだ低い。新型コロナウイルス感染症の影響を受け、国民の生活様式や価値観が変わったことで、企業だけでなくエンドユーザーの購買条件に“サステナブル”という感覚が徐々に浸透してきている段階である。

そうした国勢の中でアパレル業界は、環境へ悪影響を与えてしまっている業界であるのと同時に、最も容易にエンドユーザーへサステナブルを伝えることのできる業界でもあるのではないか。

衣食住、我々の生活に欠かせない要素のひとつを担うアパレル業界が変化することで、エンドユーザーの意識の変化に拍車をかけて欲しい。

掲載ブランド紹介

BRING™ (ブリング)

日本環境設計株式会社が展開するアパレルブランド。服から服をつくるサーキュラー・エコノミーを実現している。2020年グッドデザイン賞金賞受賞。

取り扱いアイテム:洋服、アンダーウェア、バッグ

公式ホームページはこちら
https://bring.org/


WWW BAG

“MADE IN NIIGATA JAPAN”を打ち出し、新潟市の自社工場でバッグの製造、卸を行う株式会社スパンギャルドからリリースされたブランド。ゴミを出さない「WWW BAG製法」は特許申請中。

取り扱いアイテム:バッグ、リュック

公式ホームページはこちら
http://wwwbag.jp/


SHITSURAE (シツラエ)

サステナブルな社会をデザインで楽しむアップサイクルブランド。「第91回東京インターナショナル・ギフト・ショー春2021」LIFE×DESIGNアワードにて「ベストサスティナビリティ賞」を受賞。

取り扱いアイテム:ピアス、イヤリング、ネックレス、蝶ネクタイ等

公式ホームページはこちら
https://shitsurae.tokyo/

Instagramはこちら
https://www.instagram.com/shitsurae_official/

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