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国内生産への再注目

「MADE IN JAPAN」――最終製造国が日本であることを示すこの言葉は、1900年代後半から製造における技術力、使用時の品質や安全性の高さが評価され、「非常に良質なもの」「信頼に値する製品」であることを表す代名詞として使われるようになっていった。消費者にとって「MADE IN JAPANである」ことは、モノを選択する理由として十分に意味を成していたのである。

一方、国内生産比率に注目してみると、品質への評価とは裏腹に低下の一途を辿っているのが現状だ。ことアパレル業界においては、20年前には約40%だった国内生産比率が2020年には約2%にまで落ち込んでしまっている。そこにはさまざまな要因が存在するが、一つには同程度またはより高い品質で安価な海外製品にシェアを奪われたことが挙げられる。

日本製の品質は依然として低下していないにもかかわらず、外国製品の台頭が遠因で国内製造業そのものの衰退、縮小を招いてしまった。市場から遠のいたことで認知度は低下していき、結果として私たちの暮らしとMADE IN JAPANとの距離を大きく隔ててしまったといえよう。

そのなかでも「INDICEが継承するメイドインジャパン」のように、その製品の品質や技術力の高さから需要を生み続けているブランドは確かに存在する。また、折しも2022年から急激な円安に見舞われ、国内生産への注目が集まるきっかけとなった。さらには国内への生産回帰を推進して生産率の向上を目指す大手アパレル企業までも現れてきた。

その流れに乗り、これまで守られ続けてきた「精細な作り」「高い品質」「技術や伝統の継承」といった価値はそのままに、時代に適応したデザインや製造過程を取り入れプラスとなる価値創造をした国内製造業の再興が期待される。「新たなMADE IN JAPAN」を作り上げていくには、今がうってつけのタイミングであるといえる。

今回は流通量が少ない現状を打破し、アパレル業界における国内産業の衰退に歯止めをかけるべく、日本製の伝統や製造技術を受け継いでいこうと模索し、事業を行うブランドを紹介していく。セレクトショップでの取り扱いが増えることで、消費者の認知度や産業そのものへの需要が高まり、事業継続に繋がる可能性も高まるだろう。他社との差別化を図るためにも、売場を構成する商品選定の参考にしてみてほしい。

古い織機を見直し、進化した織りの技術

今から18年前、2005年に愛媛県今治市で立ち上げられたのが株式会社工房織座。元々は今治のタオルメーカーで工場長を務めていた同社代表が、織物の各産地で壊れたまま織機が眠っている姿を目にし、それらを利用して現代の織機では表現できない新しい織物をつくりたいと思ったのがきっかけだったという。

かつて反物を作り服へと加工していた豊田式織機を修理し、現代の織りの技術や素材、新しいアイデアを加え、今のライフスタイルに合わせたモノづくりに活用しながら展開されるのが同社のブランドの一つである「kobo oriza (コウボウオリザ)」。マフラー、ショール、スヌード、アームウォーマーやキャップなど幅広いモノづくりを行っている。

今回注目したのは「8WAY COTTON CAP (コットンキャップ)」。その名の通り帽子としては勿論、ネックウォーマーやミニマフラーなど8WAYで着用できるのが特徴だ。

8WAY COTTON CAP (コットンキャップ)
着用方法を変えれば帽子にもネックウォーマーにも

2枚の織物を同時に織りながら両サイドを一重で織ることで筒状を作り、その中央のよこ糸のない部分を2回ねじって、形を整えればキャップになる。筒状のまま首・頭に通せばネックウォーマーやターバンにと、多彩なアレンジができる優れものである。綿の織物は伸縮性がないのが通常であるが、撚りを強くかけたよこ糸 (強撚糸) を使うことで伸縮性を出している。

コットン100 %で汗も吸い蒸れにくいうえ、強撚糸の締め付けないフィット感がいい。リバーシブル使いや多様な形にアレンジできるため、冬はもちろん強い日差しよけの夏場でも年中活躍させられそうだ。

隠していたものを見せて楽しむ

新潟県五泉市で60年にわたってニットの生産を行う「有限会社サイフク」からは、包み込むことに特化したブランドを紹介する。同社は地域産業である「五泉ニット」の知名度向上を掲げ、積雪の多い新潟で昔からなじみのある蓑 (ミノ) から着想したニットポンチョを作り続けながら、ニットの可能性はまだあると考え、そこから更に日常生活のなかに落とし込んだモノづくりのために「226 (ツツム)」を立ち上げた。

「おなかをつつむ / 見せるハラマキ オーガニックコットン」は、冷えが大敵となる女性には嬉しいお腹や腰回りを包んでくれる腹巻き。衣服で隠さず敢えて見せたまま着用できるこだわりは、お腹部分は1本のニット糸でハイゲージ編み、裾部分は5本のニット糸でローゲージのリブ編みと、糸の本数を変えた編み方にある。こうすることでおなか部分はストレッチが効きよく伸び、裾部分は締め付けのないしっかりとあたたかい着心地となっている。

重ね着のように、敢えて見せて着用

冷え対策で腹巻きを使用するとき、着ぶくれしてしまうことがネックになり、オーバーサイズのものやウエスト部分を隠せるようなものなど、着られる洋服が限られてしまうこともあるだろう。「見せるハラマキ」であれば、着ぶくれを気にせず好きな洋服を着られて、且つフェイクレイヤードでオシャレに着こなすことができ、隠さずとも腹巻きをもっと楽しめる。

屋外の気温に合わせて服を着こむと屋内では暑かったり、しっかり防寒はしたいけどすっきりとしたファッションを楽しみたいと思ったり、季節の変わり目は洋服の選び方にも悩みがつきまとう。そんな時、この腹巻きを一つ持っているだけで解決できる。着用イメージや使用感を伝えられる見せ方を行っていくといいだろう。

日常に溶け込む「優れたモノ」づくり

「NISHIGUCHI KUTSUSHITA (ニシグチクツシタ)」は「はくひとおもい」をキャッチコピーに靴下を作り続けているブランドである。戦後間もない頃、1台の手廻し編み機から事業を興し、現在では130台もの機械が稼働する靴下の製造メーカーである株式会社ニット・ウィンを母体とするのがNISHIGUCHI KUTSUSHITA。創業当時から靴下作りにかける思いを受け継いだ三代目が2017年に立ち上げた。

洋服と同じように毎年デザインを変えたファッションアクセサリとして展開していることの多い靴下を、普段から糸や素材にこだわって靴下作りに携わってきた職人の観点から、「これが絶対のベストである」と自信を持っていえる定番となるモノづくりをしていきたいという。使用する素材は天然素材に絞り、原料の良さを引き出す編み方を追求し、時代にとらわれないデザインを作り続けているのが特徴。これら全てを揃えた良質な靴下を、小売店へ直接卸すファクトリーブランドならではの手に取りやすい価格で提供しているのが強みとなる。

リスぺクトコットンリブソックス

通常、靴下は液体に原糸を付けて染めるが、染料のカプセルを糸にまぶし、蒸気を当てることでカプセルを弾けさせてランダムに染め付けるスペック染めにすることで、ムラ感を出してよりヴィンテージ感を高めている。履けば履くほど風合いや色味が変化し、毎日履く楽しさを提供できるだろう。

全ての靴下に一つ一つ理由があって作られているという同ブランドの商品を取り扱うなら、どのような人に向けて、何にこだわって作られているのかをしっかり伝えていくのがマストといえる。春先でも足元の冷えが気になる人は多い。おうち時間やアウトドア、レジャーでの過ごし方など、それぞれの用途に合わせて履く人の想いに寄り添える見せ方を考えてみてはいかがだろうか。

足元から生まれるライフスタイル

革靴の作り方をスニーカーに転用しているのが「TOUN (トウン)」。奈良県大和郡山市で革靴づくりを行う「オリエンタルシューズ株式会社」、さまざまなクリエイティブを手掛ける「合同会社オフィスキャンプ」、グラフィックデザイナーである山野英之 (ヤマノ ヒデユキ) 氏の三者が協働して生まれたブランドだ。

「New nostalgic (ニューノスタルジック)」をコンセプトに、歴史と技術と機能を掛け合わせた視点でデザインされたスニーカーを作っている。ナショナルブランドのスニーカーが履き心地の良さや柔らかさを重視しているものが多いなか、強度や表面の丈夫さであることを大事にしている革靴の特徴を取り入れ、スニーカーらしい柔らかい履き心地と革靴の作り方を合わせたのがTOUNの売りとなる。

例えば、スニーカーのソールを底付けする際にミシンで縫い上げていることに注目したい。一つひとつ丁寧に職人が縫い上げているソールは、革靴らしい丈夫さを担保されており、圧着で底付けされている通常のスニーカーと異なり、屈曲部分から剝がれていきやすいということが無い。逆にソールが摩耗した場合には糸をほどけば交換も行えるため、履きつぶしてしまったとしても、リペアすればまた長く履き続けることができる。長く履ける革靴と、履き心地の良いスニーカーの利点が詰め込まれているといえる。

ソールをミシンで底付けすることで、革靴の強度とスニーカーの履きやすさを合わせつつソールのリペアも可能に

同ブランドは産地工芸を盛り上げるための地域発信にはとどまらず、TOUNを新たなカルチャーとしてモノづくりを行っていきたいという。売場では靴だけを並べるのではなく、洋服とのコーディネートや、着こなしを踏まえたライフスタイルがイメージできるように、トータルに提案していくのが面白いのではないだろうか。

共に育むMADE IN JAPAN

今回紹介してきたブランドは、いずれも革新的なモノづくりに挑戦しながらも、その根底を支えるのは長く続いてきた伝統であることが分かった。ゼロから新しいものを生み出すのではなく、積み重ねられてきた歴史を大切にしながら今のライフスタイルに合わせて作り変え、消費者と伝統の橋渡しを行っているといえる。

伝統工芸とは長年にわたり受け継がれる技術や技を用いて作られたモノを指すが、その言葉を調べてみると、特徴として「日常生活で使われている」ことが挙げられている。あくまで人々の生活のなかで使われてこそ、その真価を発揮できる。つまり、消費者が手にとってこそ伝統が守られることに繋がっていくと考えられるのである。

「MADE IN JAPAN」という伝統が衰退しているといわれる主な要因は、“日常”から離れすぎてしまったことだと感じた。消費者が認知し、モノを使い、その作り手に対する信頼や愛着を持つことができれば、再び日常へ浸透していくだろう。作り手からの発信に限らず、セレクトショップがこうしたモノを取り扱い、消費者に対してその背景となる物語やこだわりを発信をしていくことは他社との差別化を図れるだけでなく、認知拡大から需要を高め、産業そのものへの貢献にも繋がっていく。

売場で展開する商品としての視点のみで見ず、売り手も伝統継承の一端を担う者として新しいMADE IN JAPANを支えること、ひいては産業継続に繋がるきっかけを増やすことになる。そのムーブメントの起点となるのは、作り手と使い手を繋ぐ「売り手冥利」に尽きるのではないだろうか。

掲載企業一覧

kobo oriza (コウボウオリザ)

「今日をまとう、遊びごころ」をコンセプトに、株式会社工房織座が展開する織物への探求心を体現したファクトリーブランド。季節や天候、一緒に過ごす人――移り変わる物事のなかで、日々の組み合わせを愉しんでほしいという思いのもとモノづくりを行う。

取り扱い商品:マフラー、ショール、キャップなどの服飾雑貨 (別ブランドで今治製タオルやキッチンファブリック、ウェアなども展開)

公式ホームページはこちら
https://oriza.jp/


226 (ツツム)

ニット専業メーカーである有限会社サイフクが展開するブランド。使用する糸や編み方にこだわり、ヒトと暮らしをニットでつつみ、心地よくユーモアあふれる毎日へ導くことをコンセプトに掲げる。

取り扱い商品:ハラマキ、ボトムス、スプレーカバー、カップホルダーなど

公式ホームページはこちら
https://shop.saifuku-knit.jp


NISHIGUCHI KUTSUSHITA (ニシグチクツシタ)

株式会社ニット・ウィンが展開するファクトリー発ソックスブランド。履く人のことを真面目に考えて「はくひとおもい」を掲げ、上質な素材で丁寧に、履けば前向きな気分になって一日の行動を変えてくれるような靴下を作る。

取り扱い商品:靴下、アームウォーマー、レッグウォーマーなど

公式ホームページはこちら
https://11-11.jp/


TOUN (トウン)

古くから革靴の産地であった奈良県中部エリアで生まれたブランド。時の流れから学び、新しいものを生み出す「New nostalgic (ニューノスタルジック)」をコンセプトに歴史×技術×機能 といった視点からデザインされる。

取り扱い商品:スリッポン、スニーカー

公式ホームページはこちら
https://toun-nara.jp/

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