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商品会議の見える化プロモーション
モノが生まれる瞬間、その場に居合わせることのできる人間はごく僅かだ。それは、個人の頭の中、人と人との雑談の中、そして会議の中――そうした場所で生まれたアイデアは、作り手によりカタチを持ち、店頭やオンラインに並んだとき初めて人々に認知され、エンドユーザーの生活の中に広がっていく。
では、もしモノが生まれるその瞬間、エンドユーザーが立ち会うことができたなら、どのような化学反応が生まれるのだろう。例えば商品会議にエンドユーザーが立ち会うことができたなら、どのような効果が生まれるのか。
今回MMD TIMESは、実際に行われている商品会議の様子を動画配信するという面白い試みを始めたブランド「JOURNAL STANDARD (ジャーナルスタンダード) 」を取材した。
話を伺ったのはメンズラインのディレクターを務める松尾 忠尚 (マツオ タダナオ) 氏。本企画はブランド内の新レーベル「STANDARD JOURNAL (スタンダードジャーナル) 」での取り組みとのこと。
来年25周年を迎えるJOURNAL STANDARDが打ち出す斬新な企画とその裏に隠れた狙いとは何か。時代の移り変わりにより、変化が求められるアパレル業界で新たなカタチに挑戦するレーベルSTANDARD JOURNALを探る。
JOURNAL STANDARD (ジャーナルスタンダード) https://journal-standard.jp/ オリジナルと国内外から集められた商品による、ベーシックでスタンダードなアイテムと旬のブランドをミックスした独自のセレクトブランド。カテゴリーに囚われないグローバルな商品と情報を常に提案している。
JOURNAL STANDARDが再構築するスタンダード
新レーベルSTANDARD JOURNALについて教えてください
− 松尾氏コメント:来年25周年を迎えるJOURNAL STANDARD <以下:JS>が、改めて自らのスタンダードを再定義するために立ち上げたレーベルです。
簡単に言うと「原点回帰」なのですが、そのまま昔と同じことをしても面白くないですよね。そうではなくて、我々がこれまでスタンダードと定義してきたカタチを今のやり方で発信する、今この時代にJSの中で不足している要素を補う、そういう役割を持ったレーベルとして始動しました。
STANDARD JOURNAL (スタンダードジャーナル) https://www.instagram.com/standardjournal_/ https://youtu.be/SIqaWKV7ceM JOURNAL STANDARDが毎月ゲストのデザイナーやクリエイターと共に商品を製作するプロジェクトレーベル。もともとあるJSの定番アイテムのコンセプトを掘り下げ、そのアイテムの本質を再定義し、新たな商品として発信している。2021年1月、第1弾ローンチ。
入れ替えられたネーミングも面白いですね
− 松尾氏コメント:レーベルのテーマであるスタンダードをとにかく発信 (=JOURNAL) していこうということで、JOURNAL STANDARDの単語を入れ替えたSTANDARD JOURNALというレーベル名になりました。ちょっとメディアっぽいですよね。
スタンダードって僕らが常に追い求めてきたことで、その基準をどこに置くのかが難しいんですけど、“JSとして”いいよねと、「我々が大切にしていること」に照準を合わせて発信をしていきたいと思っています。
JOURNAL STANDARDらしい編集力と発信力
JSが大切にしていることとは?
− 松尾氏コメント:編集力と発信力です。JSは、創業時セレクトショップとして後発でしたので、競合他社に負けないような編集や発信する力が必要だと考えてやってきました。
ここでいう編集力というのは、ショップに並べる商品のセレクトのことです。例えば、海外のセレクトショップのようにハイブランドだけ、ファストファッションだけで構成されているショップもあれば、ピンからキリまで様々なブランドや商品を扱っているショップもあります。
日本はどちらかというと後者のようなスタイルのショップが多く、それを当たり前としない海外のショップからしたら日本のセレクトショップは珍しい品揃えだと思うんですよね、2000円のTシャツに10万円の靴を合わせるスタイルが店のトルソーでもできちゃうみたいな。
僕はそれを面白い文化だと思っていて、JSもそういった、他にはない驚きや、あれ? と思わせる発見があるショップにしたいと思っています。格好をつけるだけでなく、ユニークさがあることでシナジーを生みたいんです。実際のお客様からもそこを期待してもらえている手応えはありますね。
最近の変わった取り組みだと、渋谷にある中華料理屋「兆楽」とコラボレーションアイテムを作りました。飲食業界とアパレル業界、お互いにコロナショックの影響で辛い時期ですが、一つ面白いことをして業界を盛り上げていこうと企画した取り組みです。
− 松尾氏コメント:この施策は先ほどの編集力、JSらしさの認知があるからこそ進められたものだと思いますし、さらにはJSの発信力を信じていただけているから成立した企画だと思っています。
第三者から見たJOURNAL STANDARD
今回のプロジェクト自体もユニークな企画ですよね、具体的な内容を教えてください
− 松尾氏コメント:JSの他に外部からデザイナーやクリエイターを招き、毎月お題となるアイテムを据えて一緒に商品開発をしています。商品は2021年1月から毎月のペースでリリースしていて、ゲストは都度変えています。
社内だと、どうしても保守的な意見に偏ってしまって、新しいことを挑戦しようと思っても「必要ないんじゃない?」となりがちなんですよね。それもあって、我々を俯瞰して見てくれる方たちの発想が欲しかったんです。
外にいる方、もしかしたら普段はお客様に当たる方、彼らがJSに抱いているイメージを共有してもらいながら、これから欲しい、ワクワクするスタンダードについて考え再定義する、そういうプロジェクトになりました。
商品会議の様子を動画配信している試みが斬新ですね
− 松尾氏コメント:モノができあがるまでのプロセス、その商品の裏側に眠るストーリーや想いの部分ってエンドユーザーに対してどうしても伝わりにくいんですよね。でも、もっと知りたいというエンドユーザーは年々増えている。そういう時代だからこそ、時代に合った発信の仕方で伝えていこうと考えました。
動画はYouTubeで公開していて、僕らディレクターを含め、MD、企画、生産管理担当者とゲストデザイナーとの「はじめまして」から商品の完成に至るまで全てを記録しています。
− 松尾氏コメント:今でこそ慣れてきましたが、初めは本当に探り探りでした。商品の納期はもちろん、撮影・配信のスケジュールも加味しながら進めていく必要があるので常にバタバタしています。それでもブランドとして、伝える・発信することを大切にしたいと思っているので、そういった非生産的な労力も厭わず、動画配信も注力しています。
それでもモノづくりの透明性を高めたり、工程を届けたりすることで、エンドユーザーの期待値を高めることができれば嬉しいですし、開発以外の労力をかけてでも、こういったストーリーを伝えることは意味があると考えています。
希少性の高いスタンダードアイテム
商品について教えてください
− 松尾氏コメント:第1弾でお題とされたアイテムは、ミリタリーシャツ、コットンシャツ、スウェットです。お題には、10年後も残っているであろうJSとして考えるスタンダードなアイテムを選定しています。これらを4人のゲストクリエイターとそれぞれが商品開発を行いました。
スタンダードなモノって必ず“うんちく”があるんですよね、生き残っている理由というか。その理由、本質の部分を深堀して「だったら今はこうした方がいいよね」というカタチに落とし込んでいます。
− 松尾氏コメント:各アイテムに共通する特徴としては、シーズンレスではなく、ロングライフなアイテムとして長期的に愛用いただける点です。基本的には全て再生産ありきで製作しています。
購入したらずっと持っていられる1着になるように、「今風だけど合わせやすい」を意識して作っていて、着なくなる時期があっても、持っていたらまた着たくなるタイミングが訪れる、その時も遜色のないデザインです。
STANDARD JOURNALは、JSの中でもスタンダード、いわゆる「定番商品」をレーベル化して打ち出したいという想いが強く立ち上げに至ったので、ここは今後のお題選定時もブレることはありません。
これまでリリースしてきたアイテムも定番中の定番なんですが、実際にこれまでのJSでそれらがショップの中心にいつもあるかといったら、そうではなく、トレンドのアイテムを優先する必要があったり、店舗の規模の都合で埋もれてしまったりと、定番商品って中々思うように扱うことができない難しい存在だったんです。
今回のSTANDARD JOURNALで、定番をレーベルとして打ち出すことは、我々のスタンダードをより広めていくための突破口となって、JSに新たな風を吹き込んでくれると思っています。
新しいレーベルとして、JSの中でこれからどのように成長させたいですか
− 松尾氏コメント:まずは取り扱い店舗の増加でしょうか。第1弾リリース当初はJOURNAL STANDARD3店舗とECサイトでの販売のみで始めました。
これはあえて制限を設けてみたんです。スタンダードなモノって簡単に手に入ってほしいし、そういうモノだと思われていますが、その常識を逆手に取って希少性を高める方針を採りました。通常であれば機会ロスとして捉えられるシチュエーションですが、STANDARD JOURNALでは売り切れるのを良しとしたんです。
そういった販売戦略も功を成して、ありがたいことにエンドユーザーからの反響を多くいただき、再販や新商品のリリースのタイミングで徐々に取り扱い店舗を増やしているところです。ゆくゆくは全国のJOURNAL STANDARDで展開、さらにはSTANDARD JOURNALという店舗を構えることができるといいなと思っています。
インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。
「現代のモノづくり」を伝える
時代の流れがサステナブルへと変換する中で、アパレル業界に課題は多く残る。これまでを生きてきたブランドは、これからを生き抜くためにも時代に合わせたモノづくりが必須といえる。
今回の取材を通して、商品の企画から製作、そしてその先のスタイル提案、この一連のストーリーを作ることまでが「現代のモノづくり」なのだと感じた。また、それら一連のストーリーをエンドユーザーにどのように理解してもらうのか、発信される情報、その方法に注目が集まることは間違いない。
今回紹介したJOURNAL STANDARDの取り組みは、エンドユーザーへ新たなエモーションを与えるのと同時に、ブランドへのより強い信頼関係を作ることができるきっかけとなるだろう。
「ACME Furnitureのプロダクトデザイン」や「新たな需要とファンを育てる、アパレル×インテリアの相互作用」など、MMD TIMESではこれまでにも同社が展開するブランドを取材してきた。どのブランドも業界の抱える課題や現状に屈することなく、前向きに取り組む姿勢が目立つ。留まることを考えるのではなく、前進しようと新たなことに挑戦するその様子を、メディアとして今後も追い続けていきたい。