2021.03.23.tue

ACME Furnitureのプロダクトデザイン

Contents

古きよきモノを現代に合うカタチに

「ヴィンテージ (Vintage)」とは、もともとワインに対して使われてきた言葉である。ブドウを収穫して瓶詰めされるまでの製造工程やその収穫年をヴィンテージと指し、中でも良質な収穫年が表記された上質ワインのことをヴィンテージワインという。

年月を経ているだけでなく品質の高さを兼ね備えていることが、本来ヴィンテージを名乗る上での条件なのだ。

その言葉は今やさまざまなモノを形容するようになり、ライフスタイル業界でもよく耳にする。古きを愛する人々や、経年変化を愉しむ人々に好まれる様式として一定数のファンをつくり、他にはない独自のスタイルを確立している。

今回MMD TIMESは、そんなヴィンテージ家具を長く扱う「ACME Furniture (アクメ ファニチャー)」を取材した。「ミッドセンチュリー (1940-60年代の家具やインテリア)」という言葉が普及する前から、1950-60年代のアメリカ家具を提供しており、現在ではオリジナル家具も幅広く展開する。

話を伺ったのは、企画・デザインを担当する樋口裕也 (ヒグチ ユウヤ) 氏。社歴15年、長きに渡り米国への買い付けや商品開発を担当するACME Furnitureにとって欠かせない存在だ。

トレンドに影響を受けやすいライフスタイル業界の中で“ヴィンテージ”という古きよきモノと向き合う樋口氏の感性、そこから生み出されるオリジナル家具とそこに込められた想いとは何か。ACME Furnitureのプロダクトデザインの起点を探っていく。

ACME Furniture (アクメ ファニチャー)
https://acme.co.jp/
オリジナルとヴィンテージ、双方の個性と魅力をミックスさせた独自の世界観を提案する家具・インテリアブランド。1983年創業当初から1950~60年代のアメリカで使われていたミッドセンチュリー家具を取り扱う。また、それらヴィンテージアイテムからインスピレーションを得て制作されたオリジナルプロダクトも幅広く展開。

アメリカンヴィンテージ家具の魅力

樋口さんの経歴を教えてください

− 樋口氏コメント:ACME Furniture<以下ACME>に入社する前は家具職人をしていました。どちらかというと和家具をメインにつくることが多かったですね。

ACMEとは目黒通りの家具屋を見てまわっている中で一顧客として出合いました。自分がつくっているモノとは正反対のアメリカ家具、それにヴィンテージというモノに惹かれ店に通っていたところ、当時の社長に声をかけられ入社が決まったんです。

入社した頃のACMEはヴィンテージ家具だけを扱っていたので業務の中心は買い付けで、定期的にロサンゼルスに行っていました。

今のデザイナー職には、オリジナルの商品開発を開始するタイミングで就きました。引き続きデザイナーになった今でも買い付けには行っています。

ACME Furnitureの特徴は?

− 樋口氏コメント:いいモノをつくろうとするクラフトマンシップを大切にしているブランドです。戦後のアメリカ黄金期を彩った家具から得たインスピレーションをベースに、つくり手の想いとこだわりを丁寧に表現しています。

1940~60年代のミッドセンチュリーといわれる時代のアメリカ家具は、量産品にも関わらず質のいい素材でできていて、適切なメンテナンスを行えば新品同様、長く使い続けることができます。

なぜ量産品かつ高品質が成立していたのでしょう?

− 樋口氏コメント:当時、アメリカ中流階級の中で“ファクトリーブランド”の家具が流行りました。これは家具工場が外部のデザイナーを招き入れて開発を行い製作される家具のことで、工場主体で開発から生産まで行っていますから、質の良い材料をふんだんに取り入れて量産ができたんです。

それから、そのデザイナーたちが施したデザインの端々に見られるチャレンジ精神、ちょっとした遊び心も当時のアメリカ家具ならではの魅力です。

歴史が長く洗練されたヨーロッパ家具と比較して、アメリカ家具はどこか不器用だけれども、ちょっとした遊び心が僕の心を掴んで離さないんです。

ACMEの家具はそんな「古きよきアメリカ家具」を表現するようにしていて、オリジナル家具をつくる際もヴィンテージ家具との相性は常に意識しています。

暮らしの変化に寄り添うデザイン

トレンドも意識されますか?

− 樋口氏コメント:トレンドはそれほど気にしていません。一過性のトレンドよりも、ライフスタイルの変化に合う家具を追求しています。

特に家電との組み合わせやそのサイズ感は考えますね。例えばテレビなんかは顕著で、ブラウン管から薄型に切り替わるタイミングはすごく考えました。

テレビが年々薄くなって大型化されていく中で、レコーダーやゲーム機などの周辺機器は小型化されていく。こうした家電の変化、つまり暮らしの変化に家具も合わせて変わっていかなきゃいけない。

最近であれば、デスクでしょうか。コロナ禍で在宅ワークやおうち時間が推奨され、世の中全体で需要が高まりましたよね。それを受けてACMEでも新作ワークデスクが販売されています。

定番商品「TRESTLES TV BOARD LOW (トラッセル テレビボード ロー) 」
「BROOKS DESK (ブルックスデスク) 」

− 樋口氏コメント:ワークデスクを企画したとき、個人的な需要も重なっていたんですよね。ちょうど娘が小学校入学を控えていて、子ども用とはいえ金額が張るモノですし、デスクのあり方についても深く考えました。

子どもが使わなくなってから大人が使えるようなモノとか、オフィスではなく“住宅”に合うデザイン、そしてACMEらしい遊び心のあるディテールとは何か。

僕はヴィンテージ家具オンリーの時代のACMEを経験していたので、ヴィンテージ感を出すことばかりを考えていた時期もあったのですが、こうした商品開発のプロセスを経て、ヴィンテージへのリスペクトの中にも「その時代の暮らしに合う家具とはどんなものか」と考えるようになりました。

ACME Furnitureの家具ができるまでとこれから

デザインする上で大切にしていることは?

− 樋口氏コメント:二つあって、ひとつは「遊び心のあるデザイン」です。商品でいうと「TRESTLES TV BOARD」の脚のデザインや「BROOKS SIDE BOARD」の引出しの取手など、一見見過ごしてしまうような部分にデザインのこだわりを散りばめています。

これは先ほどお伝えしたアメリカ家具の“遊び心”にも通ずる点で、使っている人だけが気づくギミックをデザインのアクセントにしたいという想いからです。

「TRESTLES TV BOARD W1800 (トラッセル テレビ ボード) 」
「BROOKS SIDE BOARD (ブルックス サイドボード) 」

− 樋口氏コメント:例えば、店舗で家具を見るときって多くの人は立った状態が多いですよね。でも実際の生活では座った視点で家具を目にする機会の方が多い。

「座った状態でどのように見えるのか」ということを考えてつくっているので、立った状態では見えない細部もしっかりデザインしています。

店舗では気づかなかったディテールが、家に置いてはじめて気づくなんてこともあるのがACMEの家具の魅力でもありますね。そういうのって感動しませんか?

僕自身がアメリカ家具のそういった遊び心に何にも変えがたい魅力を感じていますし、衝撃を受けた部分でもあるので、説明してわかってもらうのでなく、使う中で気づいてそこに愛着を持って欲しいという期待もあります。

インプットで集めるデザインのピース

あとひとつは何でしょう?

− 樋口氏コメント:「周りの意見に耳を傾けること」です。デザイナーってどうしても独りよがりになってしまうこともあるので、店舗スタッフや同業他社の意見にも耳を傾けてプロダクトに落とすよう心掛けています。

例えば「SIERRA CHAIR」は、僕が手掛けた初期のプロダクトなのですが、当初のデザインは全く売れなかったんですよ。もう廃盤にしよう! というところまできた時に周りの意見を取り入れてみたんです。

具体的にはサイズや座り心地ですね。アドバイスを元にブラッシュアップをしたところ売行きがよくなり、今では一番売れている定番チェアとなりました。

「SIERRA CHAIR (シエラチェア)」

デザインはいつ考えていますか?

− 樋口氏コメント:基本的に朝起きてから寝る瞬間までいつもデザインのことばかり考えています。インプットという点で言うと、人の声を聞く以外にSNSをチェックしたりですね。

それから、事務所の本棚にアメリカのヴィンテージ家具の雑誌や書籍が置いてあるんですけど、それをひたすら見ています。昔のデザインを現代に合わせて解釈するとどういったカタチになるのかなどを考えていますね。

参考にしている1900年代前半の古書

− 樋口氏コメント:僕の中でデザインすることは、そうしたインプットから頭の中に広がったパズルのピースを一つひとつ組み立てていくような感覚が近いかもしれません。

消耗品ではない、受け継ぐモノ

今後ライフスタイル業界への期待することは?

− 樋口氏コメント:家具への意識の変化ですね。日本人は欧米と比較して新品が好きな傾向があるので、「家具は“消耗品”」と思っている方も多いと思います。

一方欧米では、インテリアを含めて住宅までも「消費するモノ」ではなく「受け継ぐモノ」としての認識が強くあります。

そして私たちACMEも同様に、インテリアは受け継ぐことができるモノだと信じています。

− 樋口氏コメント:最近になって“サステナブル”という言葉をよく耳にしますね。僕は、“消費”から“継承”に変わっていくことこそサステナブルだと考えます。

今、新型コロナウイルス感染症の影響で消費者の考え方が大きく変わり、我々がずっと掲げていた「オシャレは家の中から」「住環境の充実は心の充実」というフレーズが賛同される世の中に変化してきています。

この先も世の中の意識を変える一翼を担うデザイナーとして、「“消費”で終わるモノ」ではなく「受け継ぎたい・受け継いでほしい」と思ってもらえるプロダクトの開発を続けていきたいと思います。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

ヴィンテージと呼ばれるまで

時を経てもなお愛されるモノとはどんなものだろうか。経年とともに味わいを増す素材感、時の流れに耐えうる品質。そして、使う者の心を揺さぶるデザイン。

黄金期のアメリカ家具に見る「後世へ受け継ぎたくなるいいモノづくり」を継承したうえで、ディテールに施した遊び心や時代に合ったカタチを提供しているのがACME Furnitureの魅力であろう。

また、ファッション業界同様、トレンドのキャッチが欠かせないライフスタイル業界にて、流行りに左右されず独自のスタイルを貫き愛され続けているブランドも珍しい。

アメリカンヴィンテージというブレない軸を持ちつつ、一過性の嗜好ではない「今のライフスタイル」という必然的な暮らしのカタチに寄り添ったプロダクトデザインがあるからこその功績であろう。

ライフスタイル業界はコロナ禍のいま、変化の渦中にいる。「“継承”が当たり前」というニューノーマルを日本のライフスタイルとして創っていけるチャンスがまさに今なのだ。

さまざまな家具メーカー・ブランドが日進月歩でプロダクト開発をしている。今回紹介したACME Furnitureのように「時を経てもなお愛され、継承したくなる家具」が、この時代に多く生まれ後世に残り、日本家具の歴史に刻まれることを期待したい。

Recommend