2020.09.29.tue

オンライン接客で変わるセレクトショップ

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オンライン接客への挑戦

新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の影響により倒産した企業は500 社を超え、今後も増加する見込みだ。GDPは戦後最悪にまで下落し、多くの企業にとって未曾有の危機と言える。もちろんそれはセレクトショップも例外ではない。

MMDではこれまで、アパレル業界の在庫問題について度々触れてきたが、主にアパレルをはじめとするセレクトショップは、コロナショック以前から需要と供給のバランスを崩しはじめていた。そこに訪れたコロナショックにより、さらに追い詰められることとなった今、ニューノーマルで生き残るためにこれまでの戦略を見直し変えていく必要に迫られている。

その変化のひとつがITの活用だ。「ECの概念を変える『ひなたライフ』の戦略」でも取り上げたように、ライフスタイル業界のEC市場はまだまだ伸びしろがあり、今も売上を落とすことなく伸び続けている。また、EC同様に企業のSNS活用が目立っており、コロナ以降、より一層積極的な参入の様子が窺える。

その中でも今回MMD TIMESが注目したいのは「オンライン接客」。対面ではなくネットを介したコミュニケーションと動画を使い、商品を紹介・販売できるこの手法は、新たな接客のカタチを確立しつつあり、“巣ごもり消費”による売上を狙う企業にとって、新たなチャネルとして注目を集めている。果たしてオンライン接客は景気回復の救いの手となるのか、今後の可能性を探る。

オンライン接客が可能とすること

オンライン接客とは、ライブ配信でスタッフが消費者とコミュニケーションをとりながら商品紹介を行う接客スタイルである。店頭に行かずに商品の特徴を知ることができ、購入 (ECサイト) までの導線が用意されている点では、従来のテレビショッピングに近い感覚だ。では、そのテレビショッピングが“オンライン上”で行われることで、可能となったことは何か。

まず、テレビや雑誌などの媒体を介さずに自ら情報発信ができることだ。これによって、ブランディングが強化され、情報密度やその信頼度から顧客のファン化が以前よりも容易になった。これはオウンドメディアの発達やSNS、ECサイトの普及からも見られる傾向でもあり、オンライン接客に限ったことではないが、チャネルが増えたことで更なる強化が期待できる。

次に、消費者と互いにリアルタイムでコミュニケーションが取れるようになったこと。従来のECサイトやテレビショッピングでは、企業が一方的に商品の性能や特徴を発信するだけだったのに対し、オンライン接客では配信中に消費者からの質問に答えたり、ユーザーからの感想をキャッチできたり、双方でのコミュニケーションがライブで行える。

例えばアパレルショップでは、バッグや財布など小物の中身を見せるほか、ホームページやECサイト上ではわかりにくい洋服の着心地や合わせるアイテム、身長や体格別での見え方など細かに受け答えしている姿勢が見られる。インテリアショップでも、チェストの引き出しの滑らかさやソファのスプリングの固さなど、本来は商品に触れないとわからないことも紹介できている。

このように実際に店舗に足を運んだかのような深いコミュニケーションを取ることで、消費者の不安を解消し“試すこと”ができないオンライン上でも販売促進を可能にしてくれる。これは遠方に在住していて店舗来店ができない顧客にとっても嬉しいコンテンツであろう。

働き方へのイノベーション

オンライン接客の台頭により、スタッフにも新たなスキルが求められている。実際に商品を手に取ることのできない消費者が何を不安に思い何を知りたいと思っているのか、消費者目線での情報発信が重要だ。

また、これまではスタッフと顧客1対1のクローズドな状態で行なっていた接客をオープンにすることが可能となり、企業、ブランド、あるいは個人の接客スタイルが広く伝えられるようなったことも新鮮である。

近年SNSの普及によりショップスタッフの個の力が強くなってきており、その影響力は勤めるショップの売上にも大きく貢献している。オンライン接客では、そういった人気スタッフの接客を新人スタッフが見て学べる機会が増えたり、消費者からの反応がよい施策の絞り込みができたりとスキルやノウハウを企業全体の財産として蓄積していきやすくなった。

さらに働き方についても離職率が高かったこの業界に歯止めがかかるかもしれない。オンライン接客は在宅での配信が可能なため、育児などで店頭に立つことが難しくなったスタッフの持ち場が開拓されたと言える。これまで出産育児などで勤務の継続を諦めていた能力の高いスタッフの活躍の場にもなりそうだ。

日本のライブコマース市場

オンライン接客は、IT先進国とされる中国では「ライブコマース」として既に日常的なものとして浸透しており、売上を上げる販売チャネルとして活発に利用されている。

対する日本のライブコマース市場は、コロナ禍で少し動きを見せた。セレクトショップではアパレルを筆頭に「Zoom」やinstagramの「IGTV」を活用した配信が目立つが、売上を上げるコンテンツ以前のオンライン接客に留まっているのが現状だ。

その遅れの原因は、現金主義からくるモバイル決済の浸透率の低さとIT化により蓄積されるデータベースの活用遅れにありそうだ。

中国での市場規模を受け、また、昨今唱えられるニューノーマルに備えてライブコマースに注目している企業は少なくない。これからの需要増加に向けて、ミーティングアプリやSNSに限らずオンライン接客に特化したツールを販売する企業も現れており、国内におけるライブコマース市場の見通しは明るい。遅かれ早かれ日本でもライブコマースでの買い物が当たり前に行われる未来が訪れるであろう。

ライブコマース参入への壁

ではライブコマースが普及した時に課題となるのは何か。それは先ほど触れたようにライブコマースは、“まだ”試すことができないコンテンツということだ。実際に見て触れる「五感」が購入時の判断材料として多くを占めている業界にとって、また、試着・試食・試乗などの行為で購入を促す業界にとっては、ここが大きなハードルになると考えられる。

一方で、そのハードルを越えるITの進化も目まぐるしい。例えば、オンライン上で“試着の壁”があるアパレル業界。数年前、自分の身体のサイズを測定し、自分に合わせた洋服をオーダーできる「ZOZOスーツ」が話題となったが、同様の3D技術を使った「バーチャルフィッティング」に今後期待が持てる。

バーチャルフィッティングとは、洋服や小物アクセサリーなど実際には試着をせず、鏡やスマートフォン越しに試着シミュレーションが行えるサービスだ。こういったサービスを自宅にいながら受けることができるようになれば、オンライン接客との相乗効果は高いと言える。また、店頭での試着を面倒に思う人や時間がない人にとっても嬉しいサービスであろう。

オンラインとオフラインの垣根をなくす

中国ではこうしたオンラインとオフラインを融合させた考え方「OMO (Online Merges (with) Offline) 」が一般的となりつつあり、オンライン施策で実店舗 (オフライン) への集客を図っていたO2O (Online to Offline) より先に進んだ概念のもとマーケティングが行われている。

この先、OMOの浸透で消費者側の情報収集や商品購入の簡易化が進み、今以上に顧客体験が最適化されていくであろう。売り手側は、それに伴って、顧客行動データの活用のスキルを高める必要がありそうだ。

今後のニューノーマルに向けて、オンライン接客やライブコマースをひとつのチャネルとして持つ企業が増えていくに違いない。各業界、課題解決のための新たな施策やサービス、関連商品も出てくるであろう。セレクトショップにとっては今が大きな転換期でないか。MMD TIMESでは今後もオンライン接客と日本のライブコマース市場に注目していく。

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