2022.11.22.tue

ゴルフをブームで終わらせないパーリーゲイツの戦略

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ゴルフウェアブランド「パーリーゲイツ」の強み

今、空前のゴルフブームが到来している。経済産業省の特定サービス産業動態統計調査によると、2021年のゴルフ場年間利用者数は1,025万人。コロナショック前である2019年の929万人と比べて100万人近く増加している。これらゴルフ市場を盛り上げる要因は、コロナ禍で活況となった屋外レジャーの一つとして認知が広まったこと、またプロゴルファーの活躍も記憶に新しく、新規プレイヤーやブランクのあるプレイヤーがゴルフを始める後押しとなったに違いない。

市場規模拡大に伴い、続々と誕生しているゴルフウェアブランド。それもスポーツウェアブランドではないデザイナーズブランドや、セレクトショップなどのアパレル企業までもが次々にゴルフウェア市場へと参入しているのだ。比較的高価格帯で流通するゴルフ関連商品は、アパレル企業にとっても見逃せないビジネスチャンスなのであろう。

そんな状況を既存ブランドはどのように捉えているのだろうか。我々はTSIホールディングスが展開するブランド「PEARLY GATES (パーリーゲイツ)」を取材した。パーリーゲイツといえば「89」のロゴで親しまれている1989年誕生のゴルフウェアブランド。ミニスカートやゴルフ用ダウンなどゴルフウェアの常識を覆す提案を重ね、プロアマ問わずコアなファンを獲得し、愛され続けている。矢野経済研究所の調べによると、2021年のゴルフウェア売上高はメーカー出荷ベースで約910億円。そのうちの約10%をパーリーゲイツが占めるという、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで成長し続けているブランドだ。

PEARLY GATES (パーリーゲイツ)
https://www.pearlygates.net/
「もっと気軽にもっと楽しくゴルフをしよう」というコンセプトのもと、あらゆる枠組みを超えた新しいゴルフウェアとゴルフ本来の素晴らしさを伝え続けている。

今回の取材は対象者7名と、ブランド関係者総出で行われた。企画から営業、販売、ディレクション、販促・PR、人材育成まで、それぞれの視点から今のゴルフブームと、そのなかで顧客に愛され続けるパーリーゲイツの強みについて思い思いに語ってもらった。

[取材対象者]※写真左から
角佳昭 (カク ヨシアキ) / 加藤祐介 (カトウ ユウスケ) / 米 竜也 (ヨネ タツヤ) / 酒井昭征 (サカイ アキユキ) / 岡田浩治 (オカダ コウジ) / 椎﨑絵里香 (シイザキ エリカ) / 加来美佐生 (カク ミサオ)

業界の異端児として生まれ33年

パーリーゲイツについて教えてください

岡田氏 (セクション長)コメント:今年で33年目を迎えるゴルフウェアブランドです。毎シーズン、コレクションを設定し、さまざまな商品展開や施策を行っているので、通常のゴルフブランドのなかでは異端児的に思われることも少なくありません。

角氏 (MD)コメント:僕はこのメンバーのなかで一番長くブランドに携わっているのですが、常識を覆す商品展開は昔からですね。その斬新な商品展開に魅力を感じて、20年以上前に入社しました。例えば90年代当時、パンツの主流だったスラックスを綿パンに変えたり、トレーナーやブルゾンを作ったり、色も他ブランドにはないカラフルな展開だったりと、その頃から「他のブランドとは違うな」という認識はありましたね。

加来氏 (PR)コメント:もともと立ち上げのきっかけは、当時のサンエー・インターナショナルのメンズ事業部スタッフから「自分たちが着たいゴルフウェアがないよね、ないなら作ろう」という発想で生まれたブランドなので、常識破りの新しいゴルフウェアを作るブランドとしては理にかなっているのかもしれません。

パーリーゲイツが顧客から愛されるワケ

パーリーゲイツの強みは?

岡田氏 (セクション長)コメント:直営店戦略を引いているからこその「お客さまとの繋がりの強さ」じゃないでしょうか。今でこそアパレル派生で誕生しているブランドはたくさんありますが、我々はスポーツブランドから誕生したのではなく、サンエー・インターナショナルという一般アパレル主体の会社から誕生したので、ビジネスモデルが通常のゴルフウェアブランドとは少し異なります。我々は百貨店と路面店を中心とした直営店に最も力を入れて運営している点が特徴で、ブランドの販売員が直接お客さまへ接客して商品の価値を伝えられるところが他社との差別化を図るうえで大きな強みの一つです。

椎﨑氏 (販売促進)コメント:お客さまとの絆は、年間通じて開催されるブランド主催のコンペの一つ、毎年秋に開催している「パーリーゲイツカップ (PGカップ)」でもより一層強化されます。PGカップとは、1994年から始まったブランド主催のゴルフコンペで、今年で28年目を迎えました。日頃から来店してくださっている顧客さまへ感謝の気持ちを込めて店舗スタッフがお声がけして参加者を募っている大会です。

米氏 (営業)コメント:最初は1大会の開催だったのですが、徐々に参加者も増えていき、今年は全国で10大会が行われ、延べ1300人のお客さまが参加されます。パーリーゲイツはデザインの奇抜さからよく「ファッションだけで攻めている」と思われがちですが、お客さまを大切にし続けているからこそ愛され続け、このような大規模大会を開催できるブランドとして成長できました。

さまざまなコンペが開催されていますが、PGカップは改めてブランドが多くのお客さまに心から愛されているのだと実感できる機会でもあります。

米氏

加藤氏 (販売)コメント:PGカップではさまざまな賞を設けていて、受賞者には景品をお渡ししています。なかにはコーディネイト賞獲得のために、お客さま同士でユニフォームを合わせて賞を取りにくるチームもあったりするくらいです。そのくらい皆さん気合を入れて楽しんで参加していただいています。

ショップスタッフとお客さま、お客さま同士が一緒になってプライベートの交流を図ることってなかなかないと思うのですが、PGカップではそれが可能です。やはり店舗でのコミュニケーションとは違う場所、違う雰囲気で交流することで、お客さまとの関係性も深まっているような気がしますね。

椎﨑氏 (販売促進)コメント:「PGカップで繋がった方同士でゴルフに行った」というお声を耳にすると、とても嬉しく感じます。PGカップは、ブランドとお客さま、お客さま同士を繋げるコミュニティであってほしいですね。

PGカップの様子

ゴルフウェアならではの機能性の追求

商品に対するこだわりを教えてください

酒井氏 (デザイナー)コメント:機能性の追求は、スポーツウェアブランドにおいては当たり前のこととして常にこだわっています。そのうえでクオリティを担保し、デザインに落とし込むようにしているんです。

ゴルフってあまり過酷なスポーツに見えないかもしれないんですけど、18ホールで直線距離でも5キロくらい歩くのでウェアが軽いことは必須で、オールシーズンどんな天気にも対応する必要があるんですよね。ここまではアウトドアブランドのウェアも同じ条件かなと思うのですが、さらにゴルフだとスイングする動作のために伸縮性が必要で、かつ音がすると集中力を欠くため、なるべく音が出ないような素材である必要があるんです。

結構ハードな機能を求められるのに洋服自体はすごく繊細である必要があって、チェックすべき項目がたくさんあります。

岡田氏 (セクション長)コメント:パーリーゲイツの商品は、難しい仕様、複雑な作りなので本当に工場さん泣かせだと思います(笑) 一見、意匠的なパフォーマンスに見えがちなのですが、実はプレイヤーのために考えられた細かいこだわりだったりするんですよね。

左から酒井氏、岡田氏、椎﨑氏

酒井氏 (デザイナー)コメント:例えば、定番商品の「レインウェア」は切り替えの多さが特徴です。通常のレインコートは雨が入り込まないように縫い目が少ない方が良しとされているんですけど、そのまま作ると体の動きに対応しづらいんですよね。そのためパーリーゲイツでは、よりスイングしやすい立体的な切り替えを採用しています。

岡田氏 (セクション長)コメント:裏側を見るとわかるのですが、切り替えの裏に防水のためのシーリングテープを貼っていて、これがまた、作業の手間がかかるんですよね。ただ、機能面に関してはゴルフという競技のためのウェアである以上、契約プロの方々をはじめ、お客さまもかなりシビアにチェックされているので、例え労力がかかっても、その時に出せる最高のスペックを追求して展開しています。

酒井氏 (デザイナー)コメント:あとは撥水性や通気性はもちろん、ガサガサ言わないサイレント性やストレッチのある生地を追求するために生地屋さんと糸の段階から研究し、ゴルフのためのレインウェアを完成させています。そのうえで楽しくプレーしていただけるようデザインにもこだわっていて、フラットな面に対してドビー織の千鳥柄を表現したり、裏地にもオリジナルの柄を入れたりと、「加工が難しいといわれる合成繊維でここまでやるのか」と思われるような工夫を施しました。また、今年のリニューアルから環境配慮素材を可能な限り採用しています。

レインウェア裏地
撥水性はもちろん抜群

椎﨑氏 (販売促進)コメント:販売するうえでは、やはりデザインも大事な要素です。過去に私が店頭に立っていたときも、「ゴルフはメンタルのスポーツなので、自分の気分が上がるウェアを選びましょう」と伝えて接客していました。一般的に右利きの方が大半ですので、フォームを構えたときの映りを考慮して左の肩にロゴが配置されていたり、後ろから見られることが多いスポーツなので背中に目立つロゴがあったりと、プレイヤーのテンションを上げるためにデザインにもとても配慮しています。

角氏 (MD)コメント:パーリーゲイツのウェアはカラフルな色展開も特徴です。ゴルフは自然のなかのスポーツなので店頭で見ると派手に見えても、ゴルフ場ではそんなことなかったりします。実際には自然の色の方が勝っちゃうくらいなんですよ。ゴルフはスポーツのなかでは珍しくユニフォームではなく、それぞれがファッションを楽しむことができます。だからこそ、自然のなかという非現実なシチュエーションで、ウェアも普段とは異なるものにチャレンジして楽しんでみてほしいですね。

業界を牽引するブランドであるために

今、パーリーゲイツの役割はどんなことだと考えますか?

岡田氏 (セクション長)コメント:ゴルフブームも相まって、さまざまなブランドや商品が誕生しているかと思いますが、パーリーゲイツは業界を牽引していく存在でありたいです。ブランドが増えるということは、トラディショナルなモノからストリート、モードなモノまで、スタイルも多様化していて今以上にゴルフのカルチャーがミックスされていきます。

僕らはそれらを否定するのではなく、多様性を受け入れたうえで自分たちらしさでもあるトラディショナルなスタイルを貫きながら、ゴルフの楽しみ方、ウェアの価値など、今も昔も変わらない本質的なゴルフの良さを啓蒙していきたいです。

酒井氏 (デザイナー)コメント:ゆくゆくは日本産まれのブランドとして日本を代表するブランドになりたいですね。多くの日本人がパーリーゲイツというブランドに誇りを持って、「こんな“良い”ブランド」というイメージを持ってもらうことが目標です。そのためには、まずゴルフ自体に良い印象を持ってもらわないと成り立ちません。

日本でのゴルフに対するイメージって、政治やビジネス、いわゆるおじさんっぽいイメージがありませんか? でもゴルフは本来とても清いスポーツで文化度も高く、歴史もあります。緑のなかに立つ気持ちよさとか、季節を感じる楽しみをもっとたくさんの人たちに伝えて、日本人のゴルフに対する偏ったイメージを払拭したいですね。

(左)酒井氏 (右)岡田氏

お客さまに期待することはありますか?

加来氏 (PR)コメント:パーリーゲイツには3ヶ月に1度の頻度で発刊しているカタログがあり、そこで毎シーズン・毎月のテーマを表現しています。このカタログ1冊にその時パーリーゲイツが伝えたいことやブランドならではの世界観が詰まっているので、是非とも店頭やWEBサイトで見ていただきたいですね。

酒井氏 (デザイナー)コメント:「どうして今これをオススメしているのか」など、パーリーゲイツの全てが詰まっているので読んでもらえたら嬉しいです。僕は企画をする立場上、店舗に立ってお客さまと直接触れる機会が少ないのですが、SNSなどでこのカタログのキャッチコピーを使用して、同じポージングで発信している投稿を見たときはとても感動しました。お客さまがブランドのことを細かく知ってくれて、当たり前にそれを発信してくれていることに驚いたし、嬉しかったですね。

カタログ。左は発刊初期のもの。

加藤氏 (販売)コメント:今、紙媒体が少なくなるなかで、このカタログの効力はすごく大きいんですよ。掲載されているそのままのスタイリングで一式購入されるお客さまもいらっしゃいます。

米氏 (営業)コメント:普通に「5番目のキャンセル待ち」とかがありえますからね(笑) 僕は店頭で販売員一人ひとりが「客注ファイル」をお客さま毎に持っているのに驚いたんですが、そのくらいお客さまがこのブランドに熱狂しているんですよ。

角氏 (MD)コメント:熱狂ぶりには僕たちパーリーゲイツスタッフも驚かされますし、売る側もお客さまのために必死で在庫を探します。僕も店舗で販売していたときは、お客さまと一緒にカタログを見ながら来季の商品を選んでいました。このカタログはお客さまの購買意欲を高める存在であり、かつ大事なコミュニケーションツールでもあります。

角氏

酒井氏 (デザイナー)コメント:今、世の中的にもゴルフブームで、業界の動向を異業種の方々も含めて注目していると思っています。我々はこのブームをブームで終わらせないためにも、注目を浴びている今こそゴルフの持つ奥深さや歴史、エレガントな良いイメージを、そして「ゴルフって楽しい!」を、ブランドを通してしっかり伝えて定着させていきたいです。各ポジションの人たち全員が常にパーリーゲイツのこと、ゴルフのことを考えているので、これから先も長く愛され続けられるよう、真剣に向き合っていきたいと思います。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

顧客のチカラがブランドのチカラとなる時

ブームをブームで終わらせないために、業界ができることは何なのか。それはユーザーに楽しんでもらうこと、つまり「続けたい」と思える環境作りが必要だ。ことゴルフに関しては、ゴルフ場、ギア、そしてウェアなどがそれら環境作りに関係する要素となるだろう。着目すべきは、「ゴルフはレジャーではなく、競技である」ということだ。

競技を楽しむということには、勝ち負け (もしくはスコア) という結果も当然ついて回る。モチベーションを上げるためのウェアは、同時に“勝てるウェア”である必要があるのだ。ブームだからと安易に市場参入を図っても、ここがクリアできないブランドは存続が危ぶまれるだろう。

今回取材を行ったパーリーゲイツは見た目の華やかさや斬新さだけでなく、プレイするうえでの快適性を追求した、まさに“勝つためのウェア”を作っているという点で、やはり業界を牽引すべきブランドの一つといえる。事実として、このゴルフブームのなかでもその人気は抜きん出ている。

今、ゴルフ場にはゴルフを始めたばかりのビギナーが溢れていることだろう。ゴルフを愛してやまないプレイヤーが身に付ける「89」ロゴのウェアが、彼らの目にどのように映るのか。そのロゴの価値を上げるのは、ブランド愛用者である顧客にほかならない。店舗での接客やPGカップを通して顧客との絆を強めてきたパーリーゲイツの揺るぎない力が、このゴルフブームで明らかになるに違いない。

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