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合同展示会“大日本市”

年間を通してさまざまな展示会が開催されるなか、ここ数年の社会情勢で雑貨やインテリア業界の展示会も大きく変化してきた。コロナショックを機に地方からの来場が減ったこともあり、展示会をオンライン化したり、展示会自体のコストを最小限に抑えてEC運営や広告運用などの別の予算に回したりと、各社が考え動くこともさまざまであった。

アフターコロナで社会情勢は、少しずつ以前の状況に戻りつつあるといわれているが、不安がすべて払拭されているわけでもなく、引き続き出展社集めに苦戦する合同展示会もあるようだ。

そのようななか、過去最多の出展社数で開催された合同展示会“大日本市”。今、多くの業界関係者から注目を集めている合同展示会の全体を統括するのは、株式会社中川政七商店 産地支援事業部 大日本市ディレクター 高倉泰 (タカクラ タイラ) 氏である。同氏は、同社のビジョンを“大日本市”を通して広め、工芸の未来を明るくすることに注力しているという。今回、我々取材班は高倉氏に話を伺い、大日本市という展示会を紐解くと同時に、工芸の未来について考えてみた。

株式会社中川政七商店
https://nakagawa-masashichi.jp/company/
奈良で高級麻織物(奈良晒)の卸問屋として1716年に創業。現在は「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、全国に構えた約60店舗のショップ運営と、工芸のある暮らしに特化した唯一の商談型合同展示会の運営、業界特化型のコンサルティング、教育事業など多岐にわたって展開し、2016年には300周年を迎えた。
第10回 合同展示会 「大日本市」
開催期間:2023年2月15日 (水) 〜2月17日 (金) 
会場 : イベントスペースEBiS 303 3階
https://www.dainipponichi.jp/shop/ 
※第10回 合同展示会 大日本市の会期は既に終了しています。

見本市ではなく目指すものは商談会

大日本市について教えてください

高倉氏コメント大日本市は、“日本のいいものと、いい伝え手を繋げる”をミッションに掲げ、大きく分けて合同展示会事業と工芸問屋事業という二つの事業を軸に展開しています。

合同展示会事業として開催している大日本市は、全国の工芸メーカーと小売店のバイヤーが集まる場として2011年にスタートしました。そこで気をつけているのはプロモーション要素が強い見本市で終わるのではなく、あくまで商談会として、工芸メーカーとバイヤーがマッチングでき、その後の長期的ビジネスにしっかり繋がることを目的として開催していることです。

どのようにして生まれたのでしょうか

− 高倉氏コメント:きっかけは「日本の工芸を元気にする!」という中川政七商店のビジョンを実践するにあたって、2009年から業界特化型のコンサルティングを始めたことです。

「新しいブランドを始めたけど工芸に特化した展示会がないから、工芸を求めているバイヤーとなかなか巡り会う機会がない」という工芸メーカーからの悩みを多く聞きました。それを解決するために、自分たちで工芸メーカーを集めた展示会を開催しようと考えたのが始まりなんです。

また、小規模な工芸メーカーは営業や物流にまで力を入れられないというケースも多くみられたので、それならサポートしようということで問屋事業もスタートしました。

大日本市ならではの施策

ディレクターとして特に力を入れていることなどはありますか?

− 高倉氏コメント:出展社には主催者である大日本市と共に、スキルやノウハウを一緒に考えながら学んでもらい、成長の機会にしてもらえたらと思っています。そのため、事前に出展社向けの説明会を開催したり、接客勉強会や懇親会を行ったりして、出展社同士の商品やブランド情報、経営についてなどもシェアし合えるような時間を作ることに注力しています。

出展社のなかには小さい規模の工芸メーカーも多いので、きめ細やかにサポートをすることで、アウトプットの仕方を明確にし、不安を解消して展示会当日に臨んでもらうようにしました。

実際に、新ブランドを立ち上げた5社を対象に、ブランドや新商品の説明方法などを学んでいただく個別勉強会を行ったことがあります。その結果、大日本市会場で開催している人気投票の1位と2位を、勉強会に参加したブランドが獲得したんですよ。

大日本市 人気投票
出展社勉強会の様子

では、来場者にとってはどのような展示会でありたいですか

高倉氏コメント:まず、展示会の価値として商材が見つけやすいかという視点は大切です。地域の工芸やモノづくりに特化して、しっかりとキュレーションされた工芸メーカーが集まっているのは、魅力の一つだと自負しております。

出展社には我々がコンサルティングしているメーカーや、接客勉強会でコミュニケーション力を練り上げているブランドも多いので、話していくなかで価値や良さも見つけやすいはずです。

来場者の方々には積極的にコミュニケーションをとっていただき、個性ある出展社たちの魅力や背景、モノづくりへのこだわりを聞いて、それを売場で活かしてもらえると嬉しいです。

産地や作り手への想い

どのようなことを大切にされていますか

− 高倉氏コメント:出展社に対しては“学びと成長のプラットフォーム”とお伝えしているのですが、展示会での商談1回だけでは限界があると思うので、企業として成長してもらえる機会を作ることを大切にしています。

ただ展示会へ出展して終えるのではなく、大日本市をきっかけにビジネススキルや接客などのノウハウも身につけてもらい、ここでできた関係性を活かして今後の工芸の発展に繋げていってほしいです。

展示会に出ることがゴールじゃないということですね

− 高倉氏コメント:はい、学びというところには個性を出していきたいと思っています。当社は製造小売がメインではあるものの、もう一つの軸としてビジネスデザイン事業というものがあって、そこでコンサルティングや教育事業を行っています。今回も大分県で教育事業を請けた5社に出展してもらって、そこで得られたバイヤーからの反応を、お客さまへの接客や商品開発に活かすようなテストマーケティングの場にもしてもらいました。

企業の発展が地域や工芸の発展に繋がる種になるので、積極的に大日本市を利用してもらいたいと考えているんです。

大日本市が考える新しいモノづくり

今回の展示会テーマについて教えてください

− 高倉氏コメント:今回は“新しいものづくりが集まる場所”というテーマを掲げました。僕らが考える“新しいものづくり”というのは、革新的なものという意味にとどまりません。例えば、歴史や風土に根付く工芸が現代的な視点や作り手の独自の想いが込められているなど、今までと違う切り口で生まれたものを“新しいものづくり”と定義しています。

商品単体だけではなく背景も含めたモノづくりが面白いということを、来場者にご提案するためにテーマを考えました。

最近は出展社側の意欲も高まっていて、ただモノづくりをして発表するだけではなく、切り口や想い、社会課題の解決、地域を盛り上げたいというCSV (Creating Shared Value=共通価値の創造) 視点で運営する方々も増えてきたので、そういったところまで感じてほしいと思っています。

新たな切り口で想いを込める出展ブランドたち

出展に関しての条件などはありますか?

− 高倉氏コメント:出展社を選定する際は五つの視点で判断しています。一つめは伝統的な工法なのか、工程に手作業があるのかなどの“工芸度”です。二つめは“地域性”で、地域に根付いたモノづくりなのか。三つめは大衆に受け入れられるモノづくり、もしくはニッチだけど面白さや新しさがある“商品力”。四つめは多くの生活雑貨店のバイヤーに響く世界観かどうかという“大日本市”らしさ。最後は、大量生産でも少量生産でもなく、より多くの方に魅力を発信できるのかという“雑貨店向けの販路が可能か”などを細かく見ています。

今回過去最多の出展ブランド数となった要因はありますか?

− 高倉氏コメント:元々OEMで他社商品を作っていたメーカーが、売上拡大等を目的に自社製品を作って発信することが増えているという点や、ここ何年かで積み重ねてきた大日本市に対する信頼もあるかと思います。ありがたいことに、出展社同士の情報交換で口コミ的に広がっているとも聞いていますし、横の繋がりができたことで、新しいイベントが生まれることもあるんです。新ブランドのローンチを、大日本市に合わせて考えるメーカーや大日本市に出たいと言ってくださる方々も増えています。

工芸の未来を見つめる

工芸業界の現状を教えてください

− 高倉氏コメント:今も変わらず業界全体で右肩下がりが続いていると言われています。現代的な視点をもった工芸メーカーが、産地のなかで活躍して地域を盛り上げているところも確かにあるのですが、全体でいうとそうしたメーカーは少なく、まだまだ課題は多いんです。

元々、工芸業界は伝統産業を守っていくという気持ちが強く、時代の変化に合わせて変わっていくことに足踏みをしてしまう産地も多かったので、衰退してしまったところも多いです。今は企業数や生産額が顕著に減り始めた約30年前と逆に、情報が簡単に手に入ることもあり、売れるものを作るためには変化を惜しまず同じような手法で似たモノづくりをするところも増えてしまい、その土地の良さなどや、背景を伝えることが考えられていないなどの問題も起きています。

地域との関わり方が重要なんですね

− 高倉氏コメント:はい、我々が工芸を救いたいと思って事業を始めたきっかけもそうなんですが、工芸は分業制であるため、1社だけじゃモノづくりはできないので、地域との繋がりや関わり方が重要だと思っています。

例えば一緒に取り組みをしていた有限会社マルヒロも、型屋や釉薬屋など街にいる他の人たちの協力や連携があってのモノづくりです。こうして街全体で盛り上がって産業が豊かになることで若者も興味をもち、後継者問題などのさまざまな解決にも繋がっていきます。

有限会社マルヒロはあくまで一例ですが、このように大日本市での出展を経て、各産地を盛り上げる存在として我々と共に成長してもらえたら理想ですね。

コンサルティング第一弾 波佐見焼の「有限会社マルヒロ」
有限会社マルヒロが2022年にプロデュースし開園した公園「HIROPPA (ヒロッパ) 」
波佐見焼を通じて出会ったアーティストや職人たちと一緒に作り上げられた。

大日本市が思い描く未来はありますか?

− 高倉氏コメント:我々は「産地の一番星を作る」ということもビジョンにしています。工芸メーカーには大日本市に出展したことを経て、我々から巣立ってもらい、最終的には産地の一番星として各地域を盛り上げてもらいたいんです。

その結果、マッチングビジネスとしての展示会がなくても、企業として自立した各工芸メーカーが直接バイヤーやお客さまとやり取りするようになり、いつか大日本市がなくなる未来というのも一つの理想だなと思っています。そのために展示会でのバイヤーとのマッチング以外の支援を増やしていくことで、メーカーが自立するきっかけを増やしていきたいですね。

展示会に頼らずに広がっていけたら理想的ですね

− 高倉氏コメント:はい、展示会はあくまで一つの施策にすぎないと考えています。昨年は大日本市とは別に副業マッチングという施策を行い、工芸に興味があってデジタルに強いマーケティング会社の方を産地に紹介して、半年間メーカーのECサイトをテコ入れしてもらいました。

デジタルに弱い企業が外部の支援をもとにノウハウを作り上げることで、メーカーが展示会というプラットフォームに頼らずともお客さまに直接商品を届けられる仕組みができあがるんです。

今後も大日本市としては、展示会だけにとどまらず各産地や企業のその先まで考えて並走し、工芸の発展に繋げていきたいと思っています。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

展示会の存在意義とその先

ふと考えてみた。件数としては増加傾向の展示会の本来の目的はなんなのだろうか。新商品をお披露目するため、市場調査のため、取引先を増やすため。各社それぞれの目的があり展示会出展を決めていると思うが、そこには「集客が多い」や「規模が大きい」ということで出展を考えるメーカーも少なくないはずだ。

「世界はほしいモノにあふれてる」というTV番組もあるが、まさに日本だけでなく世界中に良い“モノ”が溢れていて、そんなこの世界で大切なモノを見つけるのはなかなか難しい。たくさんのなかから良いモノと出会うには、作り手はそのモノの良さを背景や想いも含めて伝えていくことが大切だと今回の取材を通して感じた。

大日本市は先を見ている。ただ合同展示会を開催するだけでなく、産地やその土地に根付く工芸など、モノづくりの良さを絶やさないよう、自分たちの合同展示会をうまく利用してもらい、その先にあるビジョンを見据えて共に成長してもらうことを目的としているのだ。

その結果、出展社は自立して活躍し産地も盛り上がる。出展社が自立していくことで、新たな産地のメーカーや企業と大日本市が協業していく循環も生まれ、展示会自体の鮮度も上がり、バイヤーや消費者も素晴らしい新しいモノと出会えるのだ。なんて良い循環だろう。

いつか合同展示会としての大日本市がなくなる未来がきたら、日本のモノづくりとその地域の産業はより素晴らしいものとなっているはずだ。

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