2023.02.14.tue

BOTANYがセレクトするグリーンの基準

  • DULTON / BOTANY

Contents

DULTONのガーデンレーベル「BOTANY」

一口に植物といっても、その種類はたくさんある。庭先のシンボルツリーとして植樹されるものもあれば、インテリアとして親しまれている品種もある。ライフスタイルショップでは、“インテリアグリーン”という名目で観葉植物が扱われることが多いだろう。しかし、その観葉植物と呼ばれるものにもさまざまな属性・品種が存在しており、それらが違えば形も色彩も育て方までもが異なり、もちろん空間に与える印象も違う。

1990年代から2000年前後にかけて起こったガーデニングブームから20年。花や緑との生活は庭 (ガーデニング) から家の中 (インテリア) にまで取り入れられ、昨今のイエナカ需要を経て「グリーンとの暮らし」は更なる盛り上がりを見せている。

その過程で観葉植物を扱うライフスタイルショップは年々増加しており、今では園芸店や花屋でなくても購入できるうえ、グリーンを求めてライフスタイルショップに足を運ぶ消費者もいるくらい取り扱いカテゴリとして定着しているのだ。

これだけ普及してくると、他社との差別化が課題に挙がる。品揃えや商品数が豊富な専門店との差別化、同じ観葉植物を扱うライフスタイルショップとの差別化。その答えを握る一つの鍵が「セレクト」だと考える。

セレクトショップであるからこそ、店舗商品との親和性や相性を考慮した“グリーンのセレクト”が重要だ。「人気だから」「育てやすいから」という理由だけで植物を導入する段階は既に終わりが近く、「ブランドの世界観に合わせたグリーンとの空間提案」が求められてきている。そうしたニーズに答えられているブランドは少数に感じるなか、株式会社ダルトンの展開するガーデンレーベル「BOTANY (ボタニー)」が復活したニュースが飛び込んだ。

同レーベルは前述した90年代からのグリーンブームを牽引してきたブランドの一つであるが、惜しまれながらも2017年に閉業。それから5年の年月が経ち、復活を遂げてから約1年が経つ今日、同レーベルのセレクトに注目したい。

BOTANY (ボタニー)
株式会社ダルトンから展開されているガーデンツールレーベル。理想のガーデンを作り上げるための「植物」と「道具」を展開している。サボテン・アガベ・ユーフォルビアなどの多肉植物や樹形にこだわったユッカ・フィカスなどの観葉植物まで、以前よりタフでDULTONのスタイルにあった植物をセレクトし販売している。

取材をしたのは株式会社ダルトンの原野晋輔 (ハラノ シンスケ) 氏。直営5店舗で販売するグリーンのセレクトから売場作り、管理まで全てを一人で担っている。今回はBOTANYが復活に至った経緯や、グリーンのセレクトで大切にしていること、まだまだ課題が多いライフスタイル業界のグリーン導入について話を伺った。

DULTONのコア「BOTANY」

復活までの背景を教えてください

− 原野氏コメント:「BOTANY」のはじまりは、DULTONの直営店として1996年にオープンした「PANCOW / BOTANY (パンコウ/ボタニー)」です。東京の駒沢通りに面した温室のような建物で、1階では雑貨や家具を取り扱うショップ「PANCOW」、2階ではサボテンや多肉植物、熱帯植物などを販売するショップ「BOTANY」を運営していました。

当社の創業者が植物好きだったこともあって、当時から園芸関連アイテムを自社商品として持っていたんです。それらの販売と同時に植物も販売していて、1階のPANCOWでも雑貨や家具のなかに植物を取り込みながら、売場作りや空間提案を行っていたのがお店の特徴でもありました。

園芸業界関係者や植物好きの間では知名度こそあったのですが、会社の経営方針を決めていくなかで泣く泣く閉店が決まったんです。そして、惜しまれながら2017年11月にBOTANYはクローズしました。

「PANCOW / BOTANY」
「PANCOW / BOTANY」店内

復活に至ったきっかけは?

− 原野氏コメント:2021年9月から1ヶ月間、「BACK TO CORE (バックトゥコア)」というブランドキャンペーンを行いました。このキャンペーンは以前「DULTONが育み続ける個性」で取り上げてもらったように、DULTONの根源にある価値観「CORE=原点」に立ち戻ってスタイルを提案しようという企画で、我々の代名詞でもある「METAL PRODUCT (メタルプロダクト)」を中心に、創業時から伝えてきたカタチを振り返るキャンペーンです。

そのとき、原点に立ち戻ってみて気づいたのが、植物の存在の大きさでした。DULTONが提案するライフスタイルにとって、BOTANYがいかに重要で欠かせないかということを再認識し、昨年3月に復活に至ったのです。

タフで無骨なグリーンセレクト

新しくなった点はあるのでしょうか?

− 原野氏コメント:プロダクト数は徐々に増やしつつありますが、わかりやすいものでいうとロゴの変更です。新たなBOTANYの決意の表れとして、書体を変えてリニューアルしました。流れるような字体だったものをタフで無骨なイメージへと変えています。

旧ロゴ

− 原野氏コメント:それから植物のセレクトもより慎重に行い、テーマ性を持たせていて、DULTONの世界観に馴染むシャープで無骨な佇まいの植物が中心です。具体的には、ユッカ属の「ロストラータ」と「エレファンティペス」がおすすめですね。コーディネートとしては、庭に植えて石を置き、ゴツゴツとした印象を演出するとかっこよさが引き立ちます。

さらにこだわりをいうと、植物個体のボリューム感も意識しているんです。サイズ感は売場の印象を左右する重要な要素の一つで、同じロストラータでも大きさで見る人に与えるインパクトが全然違うんですよ。BOTANYでは植物の無骨な印象がより強調されて、DULTONの売場をよりユニークに演出してくれるダイナミックで大きなサイズも扱っています。このサイズでのセレクトも、うちならではの特徴です。植物に詳しいお客さまやスタッフでも、「このサイズ感は見たことない」と驚いていますね。

一部「フィカス」などのライフスタイルショップでよく目にする品種も取り扱っていますが、なかでも他にない面白い樹形のものを選んで、見る人へのインパクトを追求しています。

(左) ロストラータ (右) エレファンティペス

商品であり生き物だからこそ管理が大事

このような個性的な植物はどこから仕入れているのですか?

− 原野氏コメント:仕入れは結構大変で、普段見ない形やサイズの個性的な植物って市場でもなかなか出てこないんですよ。そこからは自分で探し当てるしかなくて、人に聞いたりネットで探したり、良い生産者さんを探して繋がったりと、地道に開拓しています。

商品としての品質を保つのに気をつけていることは?

− 原野氏コメント:第一に枯らさないことです。そのうえで綺麗に保つこと。売り物でもあり生き物でもあるので、お世話は必ず必要です。幹の状態や葉っぱの顔を見て回り、植物一つひとつが元気で魅力的になるように管理しています。剪定が必要であれば、バランスを見て切るのも僕の仕事です。

剪定も原野さんが行っているんですね!

− 原野氏コメント:直営5店舗を順々に回って水やりや状態の観察、剪定を行っています。BOTANYで扱っている植物の多くは砂漠や乾燥地帯にいる植物で、比較的成長がゆっくりで水やりも頻繁に行う必要がないので、今は僕一人で植え替えなども含め、メンテナンスを行なっている状態です。それに各店舗に植物担当が最低でも一人はいるので、必要な日々のお世話と、お客さまへの接客は店舗の植物担当者がしっかりと行っています。

飾る楽しさ、育てる楽しさ

おすすめのプロダクトを教えてください

− 原野氏コメント:「GALVANIZED TANK (ガルバナイズドタンク)」をはじめとするオリジナルの鉢カバーや、「REPOT SHEET (リポットシート)」などのメンテナンスツールがおすすめです。

ガーデンレーベルとしてのBOTANYは、どの商品もBOTANYで販売している植物やDULTONの雑貨との相性を考えて作っているので、店内を見てまわってトータルコーディネートするのも楽しんでいただけます。一般的な園芸店だと植物単体で販売されていることが多いですが、BOTANYでは植物に合う鉢やカバーが揃っているので、初心者の方もコーディネートのイメージが湧きやすいはずです。徐々に自分の好みや楽しみ方を見つけてオリジナルコーディネートを楽しんでもらいたいですね。

メンテナンスツールも、植物との暮らしを楽しむためには欠かせません。先ほど店舗での手入れの話をしましたが、植物は買って飾って終わりではなく、家に持ち帰ってからも必ずお世話が必要になります。日頃の水やりはもちろん、植え替えや剪定などのメンテナンスの時間も楽しめるように、気分が上がるツールを使いながら、植物と暮らすことの充実感を味わってもらえたら嬉しいですね。

ドラム缶をイメージした鉢カバー「GALVANIZED TANK」
「REPOT SHEET」。ポットサイズのプリントに同社の遊び心が見える

楽しみ方の多様化とその提案

復活して1年ということで今後の目標を教えてください

− 原野氏コメント:我々は家具や雑貨などインテリアを中心とした事業からグリーン事業へと派生しているので、植物を扱うとインテリアグリーンの印象を持たれる方も多いと思いますが、今日紹介した植物は外に植えるのに適した性質を持っています。同じようにインテリアグリーンから植物に興味を持ったお客さまに対して、家の中だけでなく外構として、アメリカンフェンスなどを合わせて庭に植えたり、バルコニーに置くといった「新しいグリーンの楽しみ方」を伝えていけたらいいなと思いますね。

そのためにも引き続き良い生産者さんを探していきたいです。コロナショックの影響もあって、植物自体の需要の伸びや生産者の増加も感じています。植物は一部の流通制限のある植物や肥料などの薬品関連商品を除けば、販売に細かなルールがない業界なので、個人の趣味家さんが子株を育てて販売をしていたりもするんですよ。

ブームによる個人生産者の増加や、ネットの普及による販売経路の拡大、それから植物に適した環境を作る技術・育てる技術の向上という背景もあり、最近だと、これまでの日本の環境下では育てることが難しかった植物が流通しだしたり、希少だった品種が量産可能になって手頃な価格で手に入ったりと、業界自体の動きも活発だと感じます。この業界の盛り上がりに負けないように、我々も盛り上がっていきたいですね。僕らのブランドカラーに合う植物のセレクトや、それらを取り込んだ空間提案、ツールを使って植物を愛でる楽しさを伝えていきたいと思っています。

一方で仕入れという観点からみると、限られた支払い方法や受発注のシステムなどに、まだまだ懐古的な側面を感じる業界です。このあたりのDX化が図れると、より流通がしやすく業界の活性化にも繋がる気がしています。

真面目に堅苦しいことをつらつらとお伝えしましたが、「一人の人として植物が好き」、全てはこの言葉に尽きますね。時にはビジネス視点で横文字だらけの複雑なことを考えることもありますが、これからもめくるめくガーデンライフを全力で満喫していきます。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

グリーン一つひとつを理解する

5年のクローズ期間があったとはいえ、20年近くライフスタイル業界でグリーンを販売してきた先駆者ともいえるBOTANY。レッドオーシャンとなりつつあるこのタイミングで“復活”を遂げるだけあって、セレクトする植物の一貫性、プロダクトに見える使い手への配慮のあるアイデアには感服する。

商品一つひとつにセレクトの理由があるように、グリーン一つひとつにもセレクトする明確な理由が必要になってきている。グリーンをグリーンとして一括りにするのではなく、1脚1脚のチェアにそれぞれの性能とバランスの良いコーディネートがあるように、植物それぞれの性質や手入れ、フィットするコーディネートや環境などを理解したうえで、導入や提案ができるようなスキルが求められるのではないか。

ブームにより消費者の知識レベルも高くなりつつある昨今、そのスキルの有無がライフスタイル業界のグリーン市場で勝つための分岐点となるかもしれない。

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